53.一体どこ情報なの!?
田舎暮らしを始めて55日目。
昨日は楽しかったな。
お陰で美味しい餅も食べられたし……。
今日はその餅を使ってあられを作ろうかな。
密かに好きなのよね。
凛桜は、お餅を1㎝角くらいに切る作業を始めた。
一心不乱に切っていると庭の奥が騒がしくなった。
黒豆達も吠えているし、シュナッピーの雄叫びも聞こえる。
(また、誰か来た?)
作業の手を止めて縁側を降りると
近衛騎士団の団長様と鷹獣人のおじさまがいらっしゃった。
その後ろに、数人の近衛騎士団の方と思われる
青年達がバタバタと庭に倒れていた……。
(今日も今日とてシュナッピー達にやられたのね)
しかしさすが団長というべきなのか
今日もシリルさんは、埃1つもついていないくらい
きちんと制服に身を包み立っていた。
「おはようございます」
爽やかな笑顔と共にあいさつがふってきた。
「お……おはようございます。えっと……」
何この感じ?どういう事?
昨日の今日で、もう来ちゃう感じ?
「凛桜殿……
ここでは何ですから上がってもよろしいですかな?」
「…………」
鷹獣人のおじさま、だんだん遠慮がなくなって
きていませんかね?
凛桜は2人を家の中に招き入れた。
残りの近衛騎士団の皆様は、縁側待機を命じられた模様。
あいかわらず団員には、厳しいおじさま……。
朝ごはんを食べてこなかったというので……
確信犯か?
ハムとチーズのホットサンドとイチゴジャムのホットサンド。
ミネストローネ、チキン南蛮。
フルーツたっぷり入りヨーグルトを2人にお出しした。
「美味いですな」
美味しいものを食べるとそうなるのか……
今日も鷹獣人のおじさまは、羽を開いたり閉じたりしていた。
「なんだかすみません。
噂通り、本当に簡単にこのような美味しいものを
作られるのですね」
優雅に紅茶を飲みながら、シリルさんは溶けるような
笑顔で絶賛してきた。
(うっ……ロイヤルスマイル。
クロノスさんとは違う、甘い甘い微笑み……)
凛桜は密かにヒットポイントを削られていた。
残りの近衛騎士団の方にも、ホットサンドと紅茶だけは
提供させてもらった。
3人は泣きながら、食べていた。
「うぅ……美味い」
「ぱくぱくパックンフラワーと地獄の番犬の先に
幸せが待っている……」
(うちのきなこ達……
地獄の番犬って呼ばれているの!?)
凛桜は、衝撃の事実に……
リンゴを剥きながら手を切りそうになった。
その2匹は今、縁側で日向ぼっこをして寛いでいた。
ご飯も食べ終わり、一息ついたところで
グラディオンさんがきりだした。
「今日来たのは他でもありません。
実は先日の事が陛下の耳に入りましてな。
是非お忍びで、“餅つき”をしたいと言い出しまして」
「えっ?」
本当にどこ情報なのよ?
うちの家、監視魔獣でもいるのかい?
おかしいな、クロノスさんの結界も張られている
はずなのになぁ。
「言い出したら聞かない方でしてな……。
それに、無理に反対などをしてこの前のような事を
しでかされても困りますし」
シリルさんも困ったように眉尻を下げた。
「私はかまいませんが……。
1つだけお願いしてもいいでしょうか?」
「なんでしょうか?」
「しいて言えば、本当にお忍びでやりたいです」
「といいますと?」
「陛下には、ここでは普通に寛いで欲しいのです。
不敬かもしれませんが、陛下ではなく
ただの人になって楽しんでもらいたいのです」
驚いたようにシリルさんとグラディオンさんは
目をあわせた。
それからいくつかの条件を凛桜は出した。
「ふう……わかりました検討してみましょう」
「それでは、また決まり次第連絡いたします」
帰り際に……
陛下には、カラメルリンゴケーキを5ホール。
レモンケーキを3本とバナナマフィンを10個。
シリルさんには、バナナマフィン5個と
チェックボックスクッキー5袋をお土産に渡した。
「おぉ!陛下が喜びます」
今日も鷹獣人のおじさまは、ほくほく顔だ。
きっと毒見とか言って、最初に食べるに違いない……。
「私にもこのようなものを頂きありがとうございます」
シリルさんもいつになく視線が優しい気がする。
やはりこの国の男子は甘いものが好きなんだな。
近衛騎士団の3人にも、クッキー詰め合わせの小袋を
こっそりと渡した。
嬉しいのか尻尾が千切れんばかり振られていたよ。
田舎暮らしを始めて56日目。
昨日盛大に切った、1㎝角の餅たちを大きなザルに並べています。
今日は天気がいいから干すのに最高だわ。
3日ほど天日に干したら完成するかな?
ひびが割れるくらいにカラカラにしないといけないからな。
明日以降の天気が気になるわ。
異世界では、天気予報がわからないからな。
そんな事を考えながら空を見上げていたら
横からもきゅもきゅ音がしてきた。
「ん?」
視線を落とすとシュナッピーが、干している餅を
隅の方から食べ始めていた。
「シュナッピー!!めっ!
駄目じゃない、食べたら!!
これは美味しくするために干しているの」
その声にビクついて動きを止めて目をカッと見開いていた。
「今日のおやつ抜きね」
「…………!!
きゅーん、きゅーん……」
懇願するように鳴いてますが、許してあげません。
凛桜の決意が固いと知って、萎れたように元の位置に戻っていった。
「なんや、怒られたんかいな」
そこに異世界での浪速のあきんどこと、ルナルドさんが現れた。
「きゅーん」
シュナッピーはルナルドさんにむかって
訴えるように鳴いた。
それに答えるように、慰めるように頭を撫でながら
諭すように言った。
「お前さんが悪さしたならしゃーないな。
今日一日は反省やな」
「きゅーん」
「つまみ食いの現行犯逮捕です」
凛桜はジト目でシュナッピーを見た。
「ハハハハハ!!
現行犯なら言い逃れできへんな。
そうそう、頼まれていた“魔法の土”持ってきたで」
そういえば、通販で頼んでいたの忘れていたわ。
以外に使うのよね魔法の土。
シュナッピーはもちろんの事、果樹園でも使ってみたら
果物の甘みが増したのよ。
恐るべし魔法の土。
原材料は何が使用されているのだろう……。
ちょっとこわくて聞けない。
なぜならば……
捲くときに骨の欠片っぽいものや干された木の実?
干からびた昆虫的なものがチラッと見えることがある。
知らない方が幸せな事もある、うん。
「ありがとうございます。
横の倉庫に入れてもらえますか?」
「はいよ」
10袋を軽々と倉庫へと収納して貰った。
そしてそのまま縁側でお茶タイムが始まった。
今日のおやつは、チーズ餅巾着の甘辛煮です。
昨日の晩に作り置きしていたものだ。
「美味い!!
これはあかん!!」
ルナルドさんはお気に召したようでパクパクと
一気に5つほど食べてしまった。
「中に入っているこの白いトロッとしたものはなんや?」
「これは餅という食べ物です」
「これがたまらなく美味い。
おかわりしてもええか?」
「はい、まだたくさんあるのでどうぞ」
その後もルナルドさんは5つほどぺろりと食べた。
「ふう……満足や、ありがとな」
「いいえ」
やっぱりキツネだからかな、相変わらずお揚げ料理が
大好きよね……。
あっ、そうだ!ルナルドさんに聞いてみよう。
何かいい物があるかもしれない。
「ルナルドさん、いきなりなんですが……
天気が予測できるものってこの世界にありますか?」
「それは明日の天気が知りたいっちゅう事か?」
「そうです。
私のいた世界では、天気予報というものがありまして
だいたい1週間先の天気が普通にわかるんです」
「ほう……」
「それによって予定を立てたりして……
生活には欠かせない情報だったのです。
この世界に来て、さして今までは気にしていなかったのですが
もし知ることができたら便利かなって」
「そやな……」
考えているのだろう、ルナルドさんは天を見上げていた。
数分が経過しただろうか……。
「いくつか思いつくのやけど、今在庫がなくてな」
困ったように頭を掻いた。
「わかりました。
もし入荷したら見せて頂けますか?」
「もちろんや」
そして魔法の土のお代と称して
“チーズ餅巾着の甘辛煮”をかなり大きめのタッパーに
たっぷりつめて持って帰っていった。
ついでに、角餅を20個ほど一緒に渡したら
それもとても喜んでいたみたい。
こうしてまた餅が異世界に浸透してしまうのかしら……。
そんな話をした数日後の事だった。
凛桜は衝撃的な事実を知る……。
偶然わかった事なのだが……。
夕方から夜半にかけて……
シュナッピーのバサバサでくるんとしたまつ毛に
大きな水滴がたくさんついていたら
次の日は、かなりの確率で雨が降ることを知った。
知った日から試しに統計を取ったら
かなりの確率で当たることが分かった。
(まさか身近に天気予測できるものがいたなんて)
ルナルドさんごめんなさい。
どうやら特別なものはいらないみたいです。
シュナッピー君はやっぱり凄いよ。