52.マッチョ大会!?
田舎暮らしを始めて54日目の更なる続き。
騎士団Vs近衛騎士団の餅つき比べ。
ついにシリル団長が参戦することになってしまった。
その相方に選ばれたキリン獣人の青年。
何故か青年は、徐に制服を脱いで上半身裸になった。
(なんの準備なの?)
キリン獣人の青年は……
ボディービルダーも真っ青になるくらいの
ゴリゴリマッチョな上半身を披露してくれていた……。
「凄いマッチョ……」
思わずそう呟いた凛桜がいた。
騎士団の面々は、それをみて若干引いているようだ。
「なんだあいつ……」
そんな周りのざわつきなんか歯牙にもかけずに
キリン獣人の青年は杵を持った。
このままポーズを決めそうな勢いなんだけど
もしかしてナルシスト!?
「相変わらずいい身体していますね」
「ありがとうございます」
キリン獣人の青年は優雅にお辞儀をした。
「それではいきますよ」
シリルさん達は、餅つきを始めた……。
途中2人はつき手と合いの手を交換しながら
かなりいいペースで餅をつき続けた。
結果、かなりいい餅が仕上がった。
マッチョは伊達じゃないらしい……。
「美味い……」
クロノスさん達も納得せざるを得ない出来だった。
「フフフフ……。
これで1勝1敗ですねぇ」
シリルさんは、満足したのかにんまりと笑った。
「ふっ……次も俺達が勝つぜ。
よし、頼んだぞ」
「はい!」
第2回目の騎士団の選抜者が前に躍り出た。
しかしそこには、何故か……
上半身裸のゴリゴリマッチョのライオン獣人の青年と
サイ獣人の青年がスタンバイしていた。
「ザイオン!!
いいぞ!! 腹筋キレてるぞ」
「上腕二頭筋もいい感じだな!
流石、筋トレの鬼!!」
などと訳のわからない賛辞が騎士団側からとんでいた。
しかも言われた本人たちもまんざらではなさそうだった。
(何これ……
いつの間にかマッチョ大会になっていないか?)
前にテレビで見たことあるな……。
“腹筋板チョコ”とか
“肩にちっちゃいジープ乗せてるのかいっ”
とか言っちゃう感じなのかしら。
異世界でもマッチョ賛辞はあるのねぇ……。
そんな凛桜の耳元にノアムがそっと呟いた。
「団長もあいつらと同じくらい
かなりいい身体してるっスよ」
「えっ?なに言って……」
その言葉に思わず上から下までクロノスの身体を
見てしまい……思わず赤面する凛桜。
「想像しちゃったっスか?
ニシシシシ……」
「もう……ノアムさん」
凛桜は赤面するばかりだった。
そこにクロノスさんの鉄拳がさく裂した。
「ギャ……ニャァン!!」
「変なことを凛桜さんの耳にいれるな、ったく」
鬼のような形相のクロノスさんがいた。
「いいじゃないっスか。
本当の事なんっスから……」
涙目になりながら、ノアムは膨れて抗議した。
その目の前では、先ほどよりも高速で餅をつく
騎士団のペアがいた。
「おぉ……すげぇ……」
「速くて見えないぜ……」
(えっ?臼と杵大丈夫かしら)
違う意味でハラハラしてしまった凛桜だった。
が、結果、かなりプルンプルンの餅が仕上がった。
「ん、こしがあって美味ですな」
グラディオンさんは、海苔を巻いて磯辺焼きにして
頬張っていた。
「確かに弾力が違いますね」
シリルさんは、大根おろしに絡めて食していた。
結果、2回とも美味しい餅を作った
騎士団の勝利となった。
「やりぃぃぃぃ!!」
ノアムさんを筆頭に、騎士団のメンバーは
喜びの舞を舞っていた。
興奮したのが、騎士団のメンバーが次々に
上半身裸になってポーズを決めていた。
「いえーい」
(なんなのこのマッチョ祭り!!)
そんな様子に近衛騎士団はドン引きしていた。
「なんて下品な……」
(いや、一番初めに脱ぎだしたのは
あなた側サイドのキリン獣人さんですからね)
いいのだろうか、このマッチョ祭り。
ある意味ご褒美なのかしら。
イケメンたちの裸祭り……。
そうお目にかかることはないよねぇ。
獣耳と尻尾がピコピコ揺れて可愛いカッコいい?
と思いながら凛桜は遠い目になっていた。
それにいち早く気がついたクロノスの一喝が
辺りに響き渡った。
「凛桜さんの前だぞ、お前ら服を着ろ!!」
一瞬あたりが静まり返った。
「はっ!大変失礼いたしました」
騎士団の団員達は、我に返り慌てて服を羽織った。
「凛桜さんすまない、なにぶん若いやつらなので」
「アハハハハ……大丈夫。
いいもの見せて貰ったよって事で」
凛桜はそう言ってニッと笑った。
「そうか……」
クロノスは複雑そうな表情を浮かべたが
そこには安堵の感情も含まれているようだった。
騒ぎも収まったところで、シリルがきりだした。
「今回はこちらの負けのようですね。
悔しいですが、約束は約束です。
私たちはこの辺でお暇いたします」
近衛騎士団の団員達もそのまま敬礼して
踵を返そうとしていた。
散々な目にあい、近衛騎士団のメンバーはまだ
ここにきて一切れも餅を食べていなかった。
料理番の2人も残念そうに肩を落としながら
近衛騎士団の後に続いた。
(このまま返すのは、しのびなさすぎる)
「ねぇ、クロノスさん。
確かに勝負には負けちゃったけれども
頑張ったでしょうという事で、近衛騎士団の皆さんにも
餅を振舞ってもいい?」
必死に懇願する凛桜の目力にやられたのだろうか……。
クロノスは深くため息をついた後に
仕方なさそうに言った。
「凛桜さんがいうなら……」
降参だというように渋々手をあげた。
「…………!!」
「情けをかけるというのですか?」
シリルは表情を曇らせた。
「お前の為じゃない、頑張った団員達への労いだ。
それに、凛桜さんの作る料理は美味い。
これを食べないで帰るなんてありえない」
クロノスはそうきっぱりと言った。
(クロノスさん……)
凛桜は頬が火照るのを押さえられなかった。
その後は、両方の騎士団が入りまじり餅の宴が始まった。
最初はぎこちなかったが、年代が近いせいもあり
すぐに打ち解けたようだった。
「餅ピザうまっ!」
猫獣人の青年は、瞳を輝かせていた。
「お前、雑煮食べすぎだろう!何杯目だよ。
10杯だと?ありえねぇ」
「お前!俺の焼いていた餅を食べたな!!」
そんな団員達の様子をみながら、クロノスは
離れたところに座りビールを飲んでいた。
「ん…………」
そこにシリルがやってきて料理を差しだした。
「これは?」
「お餅の豚バラ巻きというらしい。
お前に食べて欲しいそうだ」
凛桜に頼まれて、料理を持ってきたらしい。
食べて欲しいというのは口実だ、きっと。
二人で話す機会を作ってくれたのだろう。
シリルもそれをわかっているのか、そのまま横に座った
しばらく2人で祭りの様子を眺めながら無言の時間が
過ぎていっていた。
そんな中、シリルの方から口火を切った。
「クロノス……変わりましたね。
昔なら勝負どころか、あのまま追い返していたでしょうに」
「フ……そうだな」
「あの人の影響ですか?」
餅ピザを何枚も焼いている凛桜の方へ視線を投げた。
「かもな……」
愛おしそうな瞳で凛桜を見つめると……
クロノスはビールを一気に飲み干した。
シリルはそんなクロノスの様子に信じられないものを
見るかのように、目を丸くして心底驚いていた。
(こんな感情があったのですね、あなたにも。
あのクロノスがねぇ……)
凛桜は楽しそうに、せっせと皆の為に料理を並べていた。
今並べているのは、大盛りの唐揚げのようだ。
「不思議な人なんだ。
凛桜さんの料理は、食べると心が温かくなる」
クロノスは照れくさそうにそう言った。
「あぁ……そうだな」
何故かその言葉が素直に胸にストンとおちたシリルだった。
でもライバルは多そうだな。
お前のお手並みを拝見といこうか。
心の中でそう呟くとシリルは席を立った。
「今回は借り1つという事で納めておく。
では、また……」
「おうよ、でっかく返してくれ」
クロノスもニヤリと笑った。
そのまま、思う存分餅を堪能した近衛騎士団は
ぐずるグラディオンさんを宥めながら帰っていった。
「凛桜殿、餅ピザの作り方を……
後生ですから餅ピザの作り方を!!」
と最後まで叫んでいた。
もちろんお土産なんてものはありません。
勝負に負けたのですから。
騎士団の皆様には、角餅に成形して200個程
お土産に持ちかえってもらいました。
あとは餅ピザ30枚と餡子ときなこを2キロずつ。
海苔も20枚入りを5袋ほど渡した。
これくらいあれば、こられなかった団員の
皆様にいきわたるんじゃないかな。
皆さんがたくさんお餅をついてくれたからね。
かなりストックはできた感じかな。
冷凍保存すると半年ほど持ちますよといったら
カロスさんが驚いていた。
「携帯食になるな……」
クロノスさんが何やら本気で思案しているようだった。