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51.混ぜるな危険!?

田舎暮らしを始めて54日目の続き。




どうしてこうなった?

もうカオスだよ……。



いきなり現れた近衛騎士団ご一行。

もちろん第一騎士団と絶賛睨みあい中です。


混ぜたら危険な組み合わせ!!

どうしよう……。


「凛桜さん、こいつらと何か約束が

あったりはするのか?」


クロノスが呆れたように肩をすくめながら凛桜に尋ねた。


「いえ、ありません。

私にも全く何がなんだかわからないのですが」


凛桜は困ったようにクロノスを見上げた。


「だとよ、今日は俺らと凛桜さんが楽しく時間を

過ごす事になっている……。

どうかお引き取り願えますでしょうか」


若干慇懃無礼にそう言って鋭い視線を飛ばした。


「グッ……」


鷹獣人のおじさまと料理番は怯んだ。


が、それに返すかのように……

近衛騎士団の中から小馬鹿にしたような

辛辣なセリフが聞こえてきた。


「相変わらず心の狭い男ですねぇ。

ここはあなたの家ではないでしょうに

それなのにその言い草、本当に無粋な男……」


それを発した男はすらりとした細身の男だった。

ひと目で分るほど仕立てのいい制服に身を包んでいた。


桃色の長い髪を緩く1本のみつあみで編んでおり

頭の左右に金色の渦巻状の角がみえた。


切長で一重の瞳の中に、紫水晶のような宝石が

嵌っており、その視線がクロノスを見据えていた。


どうやら羊獣人のようだった。


「シリル……」


「…………」


二人は静かに睨みあっていた。


「おわっ、シリル団長が来てるんっスか」


まさかの登場人物だったのだろう

ノアムが目を大きく見開いて口をあんぐりとあけている。


他の騎士団の青年達もざわついていた。


「カロスさん、あの方はどなたですか?」


凛桜がこっそりきくと、カロスは眉を顰めながら

こっそりと教えてくれた。


「近衛騎士団長の“シリル=オーガスト”侯爵閣下です。

団長の()()()()()()()と言ったところです。

普段はあまり表に顔を出すことはありません」


今までも何回も近衛騎士団の皆様は来ていたけれど

そういえば団長さんと会うのは初めてだな……。


「ライバルとはどういう意味でしょう?」


「言葉の通りですよ。

幼いころから、学業、魔法、剣技、役職……

もしかしたら女性人気も……。

その他諸々の事をいつも競ってきたらしいですよ。

学生時代からの因縁とでもいうのでしょうか」


そんな様子に気が付いたのだろう。

男はクロノスなんかお構いなしに凛桜の前までやってきた。


「初めまして凛桜様。

近衛騎士団長のシリル=オーガストです。

以後お見知りおきを……」


そう言って、凛桜の手をさっと取り

そのままためらいもなく……手の甲に軽く口づけた。


あまりにも優雅な動作だったので凛桜は

そのまま受け入れてしまった。


「なっ……!!」


数秒遅れてクロノスの怒りの圧がシリルにむかった。


カロス達もその行動にはピリついたが

その半面、さすがシリル閣下と納得せざるを得なかった。


そう、この男はそういう男だ。

根からの貴族だ。


クロノスと違って、社交界で生きている男だ。

女性への振る舞いは完璧だろう。


こんなことは朝飯前だ、きっと。


そして自分の団長には到底できない行動だと

いう事もわかっていた。


それくらい、クロノスとシリルは正反対な男だった。


「今日は突然お伺いをしてしまい

申し訳ございません。

しかし、何やら楽しい宴が開かれると小耳に挟んだものですから。

ついおしかけてしまった次第です。

ご迷惑だったでしょうか……」


少し伏し目がちで寂しそうに呟いた。


(えっ……急にしおらしくなった。

イケメンの懇願は卑怯だと思う……)


「凛桜殿、我らにも餅なるものを教えてくだされ」


鷹獣人のおじ様も同じように寂しそうな目で

懇願してくる始末……。


(おじさまの懇願……。

これはこれで違う意味で辛い……)


凛桜はどうしたものかと困ったようにクロノスをみた。


「ふう……」


クロノスもため息をつきながら目を伏せた。


流石のクロノスさんもグラディオンさんの懇願を

軽く無下にはできないようだ。

陛下の直属のおつきの方だもんね……。


その間もお互いの団員は睨みあっている。


ただこのまま受け入れるのもなんだか癪にさわる。


どうしたもんかとクロノスは思案していた。

と、ふと目の前に臼と杵がある……。


「いいぜ、ここはお互い騎士団らしく勝負と行こうぜ」


そう言って獰猛に笑った。



それから数分後……


何故か騎士団Vs近衛騎士団の精鋭による

餅つき合戦が行われることになった。


お互いに2回ずつ餅をついて、美味しく仕上げた方が勝ち

といシンプルルールだ。


これならば、力対決を行えると同時に餅というものも

知ることが出来ると考えたらしい。


因みに審査員は……

クロノスさん、シリルさん、私、グラディオンさん

カロスさんの5人で行うことに決まった。



公平にくじを引いて……

第一戦目は、騎士団から始まることになった。


どうやらトラ獣人と狼獣人青年のペアが餅をつくようだ。


「お前ら、わかってるな」


「はい」


二人は戦場に行く面持ちのような表情で

クロノスに敬礼した。


「では、はじめ!」


二人は息のあった掛け合いで見事に餅をつき始めた。


「わぁ……上手ですね」


その慣れた手つきに凛桜も感心していた。

一度見ただけなのに、かなり器用に餅つきをこなしていた。


「力の入れ方が絶妙だな」


「いいぞ!」


「さすが精鋭部隊一のペア!!」


騎士団サイドはかなり盛り上がって応援しているようだった。



一方……近衛騎士団サイドは固まっていた。


その表情は、俺達もあれをやるのか?

と悲壮な表情で目の前の情景をみていた。


(あ……獣耳と尻尾が下がっているよ

近衛騎士団って見るからに王子様集団だもんな。

汗臭い事とか不得意そう……)


凛桜も気の毒そうに青年達を見ていた。


シリルさんでさえ若干顔が引きつっているのは

気のせいじゃないと思う。


そして見事な餅が仕上がった。


凛桜がすばやく審査員たちに餅を配布する。


「すぐ召し上がってください。

つきたては本当に美味しいですよ」


シリルさんとグラディオンさんは

始めてみる謎の白い物体におそるおそる口をつけた。


「…………!!

もちもち触感が、美味しいです」


シリルさんは驚きの声をあげた。


「なんとも言えず……これは、なかなか。

このあんこときなこというものがいい仕事していますね。

これに絡めて食べるとまことに美味!!」


グラディオンさんも舌鼓を打っていた。


「美味いな、お前らよくやった」


クロノスさんも親指をたてながらいい笑顔で讃えた。


「美味い!」


カロスさんも大きく頷いていた。


「よし、次はそちらさんの番だ」


クロノスさんはシリルさんにむかって

挑発するように目を細めて言った。


美しい猫獣人の青年と毛並みのいいキツネ獣人の青年が

おずおずと進み出てきた。


(大丈夫かな……この2人……)


そこにいた全員がそう思っただろう。

しかし勝負は勝負、有無を言わさず餅つきが始まった……。


案の定、数分後にはべちゃべちゃの水っぽい餅が仕上がった。


「…………」


クロノスさんとカロスさんは無言で箸を置いた。


「ん…………」


シリルさんでさえ、それを一口食べたときに

眉をひそめたくらいだ。


「作り手によって、こんなにも違うものなのですな」


グラディオンさんも残念そうに箸を置いた。


「団長、申し訳ございません」


2人はこれでもかと獣耳を後ろにさげて泣きそうになっていた。


「いや、よくやってくれた」


労うように青年達の肩を優しくたたいた。

そしてすぐさま凛桜の方へと向き直ると


「凛桜さん、食材を無駄にして申し訳ない」


そう言って凛桜に深々と頭を下げた。


こうなったら食べられないと思ったのだろう。

確かにかなり酷い出来だった。


「いや、大丈夫ですよ。

確かにちょっと失敗しちゃたけれども……

これはお雑煮の中に入れて煮て食べましょう」


そう言うと近衛騎士団の面々はほっとした顔をした。


「もう勝負はついたんじゃないか?

2戦目もやるのか?」


クロノスがそう言うと

シリルは一瞬悔しげな表情を浮かべたが……

すぐに自信に満ちた表情に変えた。


「もちろんやりますよ。

勝ち逃げなんかさせませんよ」


「いうね」


クロノスはにやにやとした笑みを浮かべていた。


「次は私が餅をつきますよ。

ベガルタ、あなたが合いの手を入れなさい」


「はっ!」


そう呼ばれた男は、近衛騎士団らしくからぬ

マッチョなキリン獣人の青年だった。


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