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50.餅つき大会

田舎暮らしを始めて54日目。




約束通り、朝早くからクロノスさん達がきてくれた。


そしてこちらも恒例行事となりつつの件

シュナッピーVs騎士団の一戦も行われた。


今日は、ノアムさんだけじゃなく精鋭部隊が

最初に攻撃されていた……。


何人かは尻尾を軽く焦がされたりして苦戦したが

なんとか全員無事に、縁側までたどり着いた。


「あれって、この前うちの本部に来た

ぱくぱくパックンフラワーだろ。

この前よりも強くなってねぇか?」


トラ獣人の青年が顔を顰めていた。


「俺の自慢の尻尾が……」


狼獣人の青年がちょっぴり涙目になっていた。


「ギョロロロ!!」


勝った喜びの雄叫びなのか?

シュナッピーが空に向かって吼えていた。



「…………なんだかすみません」


ひたすら恐縮する凛桜に対して、クロノスは

獰猛な顔をして笑って言った。


「ククククク……いいんじゃねぇの。

選ばれし6人だからな、あそこで倒れるようじゃ

凛桜さんの飯を食う資格はない」


そう言った、クロノスさんを見上げると

それはそれは悪い顔で微笑んでいました。


クロノスさん、団員には容赦ないな……。



青年達は、凛桜の前にピシッと奇麗に一列にならんだ。


「今日はお招きありがとうございます。

なんでもやりますので、遠慮なく我らにお申し付けください」


リーダーなのだろうか?

トラ獣人の青年がそう言うと全員が胸に手を当てて

ピシッとお辞儀をした。


そして次に狼獣人の青年が一歩前に出ると

何やら可愛らしい箱を渡してきた。


「これは?」


「王都で人気のボンボンです。

今日のお礼に俺達から凛桜さんへの贈り物です」


思いがけないプレゼントに心が躍った。


(ボンボン……たぶん名前からして

キャンディーみたいなお菓子かな?)


「ありがとう、嬉しい。

後で開けさせてもらうね!

今日はたくさん食べて楽しんでいってね」


凛桜が嬉しそうに受け取り、胸に抱えながら

とびきりの笑顔で微笑むと……

その笑顔に全員が獣耳をへにゃっと下げて赤くなった。


が……カロスの鋭い視線が飛ぶと

全員がすぐにまじめなキリっとした表情へと戻った。


危ない……。

来る前に副団長からきつく言い聞かせられていたことを 

忘れるとこだった。



「いいですかお前たち。

今日の餅つき大会で大事な事は一点だけです。

“凛桜さんにデレデレしない”。

死にたくなければ、心に刻むように……いいですね」


そう言ったカロスはとても怖かったらしい……。



やはりというか、ほぼこの前カレーを食べに来た

精鋭部隊の獣人達だ。


「凛桜さん、まず何から始めればいいか?」


クロノスが腕を捲りながら聞いてきた。


「そうですね……。

餅は餅米というものを蒸したものを使うのですが

それがもうすぐ蒸しあがるので運んで貰ってもいいですか?」


「おう、お前ら行ってこい」


「はい」


サイ獣人とシカ獣人の青年が来てくれた。


「熱いし重いから気をつけて運んでね」


「はい」


その間に、臼と杵を使って軽く餅のつき方を説明した。


「要するに、その餅米というやつをこの窪みの中で

つけばいいのだな?」


今は臼を温めるために窪みにはお湯が張ってある。


「はい、そうです。

あっ、でもこの臼と杵は木製であまり強い力でつくと

割れてしまうので、それだけは注意してくだい」


「おう……わかった」


(皆さんの力加減が分からないからちょっと怖いよね)


「優しくか、難しいな」


クロノスさんはそうつぶやくと手を握ったり開いたりして

軽く手の運動をしていた。


「餅つきは熱々に蒸された餅米を熱いうちにつくという

時間との勝負でもあるのでよろしくお願いします」


「まかせとけ」


「まずは見本ということで私が合いの手をいれます。

誰かつき手をやってくれませんか?」


(凛桜さんとのペア!!)


一瞬……青年獣人達は色めき立ったがすぐに現実に戻った。


「もちろん、俺がやろう」


クロノスが有無を言わさず杵を握った。


(ですよねぇ……)


クロノス以外の騎士団サイドの全員が

心の中でツッコミをいれた。



「凛桜さん、餅米蒸しあがりました」


サイ獣人の青年が、蒸し布に包まれた熱々の

大量の餅米を持ってきてくれた。


「はーい、ではこの窪みに入れてください」


その他の者も、準備をしながらもその謎の白い物体に

興味津々のようだった。


「クロノスさん、まずは杵で体重をかけてぐいぐいと

潰してください」


「こうか?」


「そうです。

そして臼の周りを回りながら均一に潰してくださいね」


クロノスは凛桜の指示通り器用に餅米を潰していった。


「上手です!クロノスさん」


しばらく捏ねただろうか、餅全体が奇麗につぶされたので

いよいよ餅をつくことになった。


「では、クロノスさんお願いします」


「おう……」


若干緊張しているようだった、獣耳がピンと立っている。


(力を入れすぎず、振り上げた杵の重さを利用して

落とすようにつく!

凛桜さんの手をつかないように、最新の注意を払え!!)


クロノスは大きく深呼吸をした。


そして、杵を下した。


「はい」


ぺったん。


「はい」


ぺったん。


凛桜が声をかけながら、餅を外から中へと折り込むように

動かしていく。


それを十数回繰り返したところで、だんだんと餅の形に

なっていった。


「けっこう重労働だな……」


クロノスは杵を振りながら苦笑いをした。


「そうなんですよ、でもクロノスさんが上手だから

かなり早く餅の形になっていますよ」


「そうか?凛桜さんの教え方がうまいお陰だな

俺たちの息もぴったりだしな」


そう言って嬉しそうに獣耳と尻尾を揺らした。


そんな二人の無意識のイチャイチャを生暖かい目で

見守りながら、すべての者が餅つきのギャラリーと

化していた。


「それでは、仕上げにもう少しペースを速めて

お願いします」


「おう」


凛桜が、餅の上下をひっくり返したところから再開した。


そして……

餅米の粒感がなくなり、全体的になめらかな餅が完成した。


「餅できました」


周りからも歓声があがった。


「団長凄いっス」


「これが餅なのですね、美味しそうです」


団員達も拍手をして、クロノスと凛桜を讃えていた。


「みんな、お皿を持ってきて。

つきたてをすぐに食べましょう」


凛桜は、しっかりと濡らしたバッドに餅をいれてもらい

ぬるま湯で手をぬらすと、餅をひと口大ほどにちぎった。


「はい、準備できた人から来てください」


「まずは功労者の団長からどうぞ」


カロスがそう言って、クロノスを一番に行くように促した。


他の団員も頷いている。


「お前ら……」


(なんかいいな……すてきな騎士団だな本当に)


全員に餅がいきわたったのを確認すると

凛桜は、庭の中央に用意してもらった長テーブルへと

皆を案内した。


「では、ここに色々餅につけて食べる食材を

用意したので各自好きにとって食べてくださいね」


「おぉ……色々あるんっスね」


ノアムが目を輝かせて興奮していた。


「定番は、この餡子という甘いものかな」


大皿にどーんと餡子を積んでおいておきました。


「あとは……

白いだいこんおろしに醤油というものをかけたものか

この茶色い粉のきなこをかけて食べるのが定番です」


「あ、さっと炙った海苔を巻いて……

醤油をつけてたべる“磯部巻き”も美味しいですよ」


「おぉ……」


青年獣人達はごくりと喉をならした。


すべて各自が自由にとって食べられるように

ビュッフェスタイルにしてみました。


カロスさんの視線は餡子一択だった。


「ではお言葉に甘えて頂こう」


クロノスがそう言うと、全員が嬉しそうにテーブルの

周りに集まった。



「美味いな……。

この前の餅ピザも、すこぶる美味かったが

つき立ての餅は格別だな」


クロノスも感心しきりで、餅を頬張っていた。


カロスさんも大量の餡子と共に

美味しさに震えているようだった。


「だいこんおろしがけ……うま、うま」


シカ獣人の青年がそう呟きながら、一心不乱に

餅を食べていた。


「俺は、きなこと餡子の両方がけだ!」


ライオン獣人の青年がドヤ顔で、サイ獣人の青年に

お皿を見せていた。


「フフフ……みんな楽しそうでよかった」


シュナッピーもいつのまにか

カロスさんから餅を貰って美味しそうに食べている。


黒豆達がその様子を羨ましそうにみているので

カロスさんはちょっと困ったように眉尻を下げていた。


餅をあげて喉に詰まらせたら大変だから、黒豆達には

餅をあげないでくださいと皆に伝えてある。


「まめ~カロスさんを困らせないの。

ほら、唐揚げをあげるからこっちにおいで」



と、そこに庭の奥から急に大声が聞こえてきた。


「凛桜どのぉぉぉぉぉぉぉ!!

水くさいではないですか!

何故我らにもこの祭りの事を知らせて

くださらなかったのですか」


「………………!!」


陛下のおつきの鷹獣人のおじさまこと

グラディオンさんが、料理番と近衛騎士団を従えて

庭の奥に降臨していた。


(えぇぇえぇぇぇぇえ!!

どこから漏れたの!?

森の情報網か!?情報網なのか!?)


凛桜は引きつった笑顔で、固まるしかなかった。




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