48.武器なのかな!?
田舎暮らしを始めて52日目。
今日はじいちゃんの秘密の倉庫を散策したいと思います。
まぁ倉庫というか……蔵だな。
普段……頻繁に使っている倉庫は家の横にある
100人乗っても大丈夫らしい現代的な倉庫だ。
しかし庭の奥にあるのは、本気の蔵だ。
一度は中身をみておかないとなぁ……
と思っていたが、今日まで放置してしまったわ。
今その前に立っております。
なんかいいよね、蔵って。
古民家カフェとかやったら流行りそう。
しないけれどね。
ほら……うちはあくまで民家ですから!!
お宝とかがねむっていたらどうしよう
などと思ったけれど、案外普通だったよ。
昔の電化製品とか農機具とか家族の思い出の品とか
骨董品もあったけれども、価値はわからないな。
でも面白いものを見つけちゃったんだよね。
1度やってみたいと思っていたあの行事!!
テレビなどでは見たことあるけれど
実際は体験したことないからすごく興味がある。
何故なら……
体験はしたことはないが、毎年その時期になると
それが家に届いていたからだ。
それは買うよりはるかに、味が美味しいのだ。
じいちゃんも言っていたわ
“出来立てが最高なんじゃ!!”ってね。
まぁ、ヘタレの私の力だけではできないので
今度クロノスさん達がきたら、頼んでみようかな。
その前に材料があったかしら?
そんなことを思いながら、その日は倉庫の掃除で終わった。
田舎暮らしを始めて53日目。
今日は来たるイベントの日の為に、前準備の真最中です!
缶詰なども売っているけれども、材料があるから
手作りしたいと思います。
何故かきなこと黒豆Withシュナッピーが縁側に
奇麗に一列に並んでこちらを見ています。
君たち……出来立てを頂こうという魂胆かね。
まぁ、いいか、出来たらあげますよ。
よし、まずは小豆をザルに入れて、ボウルを重ねて
流水でさっと2回ほど洗います。
優しくさっと洗うだけでいいらしい。
ちょっと形状からゴリゴリいきたくなるけれど我慢。
次は……大事な渋きりと言う作業だ。
この加減が難しくてよく失敗しちゃうのよね。
この渋味を除くという作業が大事で……
これがあんこの味を大きく左右するのだ。
「鍋に小豆を入れて、水をたっぷり入れて中火で
10~15分くらいかな」
これは下茹でじゃなくて、ただゆで汁をこぼす作業だから
ぐつぐつと煮てしまいます。
ふと視線を感じたので顔をあげると……
黒豆達がさっきより、更に一歩こちらに近づいてきている。
でも料理中は、台所には入っちゃいけない!
お約束をきちんと守っている所が可愛いし……いじらしい。
3匹とも瞳がキラッキラしてるよ。
期待に満ち溢れているのね。
そうこうしているうちに10分ほど経っていた。
「どれどれ……
見極め方は煮汁の色が濃いワイン色になればいいんだよね。
なってます!!」
小豆をザルにあげて水気をきります。
それから水を入れ替えて、再び小豆をやわらかくなるまで
30分ほど茹でる。
「ここが第2関門なのよね。
水加減が難しい!
少ないとすぐに蒸発して焦げちゃうし
多いと旨味が水に出ちゃうから……」
よし、煮立ったから弱めの中火にして、あとは灰汁をとりながら
30分ほど煮ればいいかな。
これ、鍋につきっきりの作業だから、今誰かが訪ねてきたら
阿鼻叫喚なんだけれども。
なんか来そうな気がしてならない。
自分でフラグを立てちゃっているようだが……。
と、やはり予感的中とはこの事。
ピンポーン。
何故かチャイムがなった。
「チャイムだと!?」
なんの作用かわからないが、何回かに1回くらい来訪者が
玄関から来るのよね。
異世界と家がどう繋がっているのかはわからないけれど
何故か玄関訪問がある。
1番最初は、どこの誰かもわからなかったから
怖かったし、礼儀的な問題というか……。
玄関のチャイムを鳴らしてから入ってこい!!
と、クロノスさんに言ったことはあるけれども
もしかしてそれが申し送りされている感じ?
おそらくそれに当たると来訪者は、1度は必ずチャイムを押す。
中庭から来るときは、スルーで縁側まで上がるくせに。
チャイムが珍しいのだろうか?
ピンポーン! ピンポーン!!
「いらっしゃらないのですかね?」
「んにゃ、いい匂いがするから絶対いるっス」
「なにか手が離せない物を作っているんじゃないか?」
「カレーっスか?カレーっスかね!!」
クロノスさん達……会話全部聞こえているからね!!
「俺、庭の方へ回って、みて来るっス」
そんな声が聞こえたがすぐ……
シュナッピーの瞳がグンと鋭くなり攻撃の体制をとった。
そんなことは露知らず、ノアムさんはのほほーんと
獣耳と尻尾をピコピコ揺らしながらご機嫌で庭に入ってきた。
「凛桜さん……こんにち……おわっ!!」
一瞬ノアムさんと目があったが、急に視界から消えた。
どうやら、そのままジャンプして木の上に着地したようだ。
「お前いい加減にしろよ!!」
シャァァァァァ!!
と言わんばかり、全身の毛を逆立ててノアムさんは
木の上からシュナッピーと睨みあっていた。
「ギョロロロ……」
シュナッピーも負けじと幹と葉っぱをゆらゆらして威嚇体制だ。
1分以上は睨みあっている……。
埒があかないので、鶴の一言を放ってみた。
「喧嘩した人は、今日のお昼ぬきですよ」
それはそれはいい笑顔で言ってやった。
「えっ?」
「ギョロ!?」
ノアムさんとシュナッピーはその言葉を聞いて
衝撃をうけたような顔になり、にわかに信じられない様子で固まった。
騒動を聞きつけたのだろう、凄く悪い顔をしたクロノスさんと
呆れ顔のカロスさんもやってきた。
「ククククク……。
残念だったなノアム、お前飯抜きなんだってな」
クロノスの表情が益々人を揶揄う顔になっていた。
「団長ひどいっス、俺は被害者っス。
副団長からも何か言ってください」
華麗に木から飛び降りると、ノアムは一直線に
カロスの元に行き懇願した。
急に自分に話をふられたカロスは、思案するように顎に
手をかけながら、ノアムとシュナッピーを交互にみた。
(どうして、この2人はこんなにも相性が悪いのだろう?)
「ん?」
「ギョ?」
そんなカロスの様子に、シュナッピーとノアムは
同時に声を発し……
全く同じ方向、同じ角度で不思議そうに首をひねった。
「…………」
「プッ……」
「フフフ……」
あまりにもそっくりな行動を取る二人にクロノスをはじめ
凛桜までつられて笑ってしまった。
「二人はライバルなのね……」
「そうですね、本当はお互いを認めあっているのかも
知れませんね」
カロスも楽しそうにそう言った。
「冗談じゃないっス」
「ギョロロロ!!」
またしても同じように膨れて怒っている。
ある意味微笑ましい光景だった。
そんな様子を灰汁をとりながら見ていた凛桜だったが
ふとカロスの背中に背負っている物が気になった。
(何あれ……武器か何かかしら?)
黒くて硬そうな大きなものだ。
そんな凛桜の視線に気が付いたのだろう。
クロノスがカロスに目で合図を送った。
「凛桜さん、お酒で体調を崩されたとお聞きしたので
お見舞いにこれ持ってきました。
俺の故郷で採れるものです」
そう言って、カロスは背中に背負っていたものを下した。
それは、どこからどう見ても巨大な貝だった……。
野球のホームベースくらいはあるだろうか。
色は真っ黒なものと縞模様のものが2つ。
全部で3つもあった。
「えっと……これはなんですか?」
「ビヴァルヴだ」
(貝だよね?きっと……)
「海のものですか?
これで通常の大きさなんでしょうか?」
凛桜はどう受け止めていいかわからず困惑した。
「そうだ、通常の大きさだな。
ビヴァルヴは、特定の海岸で採れるものだ。
今朝、若手達に訓練になるから掘らせてきた」
こんな巨大な貝が、海岸に埋まってるの?
怖い、怖すぎる……。
それに騎士団の皆様……
巻き込んで、なんだかすみません。
そんな表情をしていたのだろう。
「気にすることないっス。
こいつら、意外にすばしっこいし戦闘力高いから
ちょうどいい訓練になるっス」
ノアムさんが親指をビシッとたてていい笑顔でそう言った。
(戦闘力の高い貝って何!?)
凛桜は半笑いを返すしかなかった。
「これを大鍋で煮てその汁を飲むと1発で二日酔いに効く。
でも今の様子からみると、無事に復活したようだな」
「その節は本当にもうしわけありませんでした。
その時の記憶がほとんどなくって……」
凛桜は恥ずかしさと罪悪感で自嘲するように顔をゆがめた。
そんな凛桜の様子にクロノスは……
一瞬複雑そうな表情を浮かべたがすぐに笑顔になった。
「いや、凛桜さんが元気ならそれでいい」
「クロノスさん……」
「俺にとっては至福の時間だった」
凛桜とクロノスはお互いに頬を染めながら見つめあっていた。
その後ろでは……
カロス達を筆頭に戸惑いが隠し切れなかった。
俺達はいったい何をみせられてるんだ?
甘い……甘すぎる……。
と全員が軽く気恥ずかしい思いをしていたことを
二人は知らない。