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46.酒のつまみ選手権

田舎暮らしを始めて50日目。




今日は、なんだか一杯やりたい気分だわ。

まだ昼間だけれども関係ないもんね。


掃除も洗濯も畑の水やりも終わったし

今日は飲むぞ!!


カロスさんから貰った高級シャンパンもあるし。

元からあったお酒も飲もうかな。


確か日本酒とワインが何本か蔵にねむっていたはず。

よし、そうと決まれば酒のつまみをじゃんじゃん作るぞ。


まずは“アボカドと塩昆布あえ”

これは簡単なつまみだ。


アボカドを切って、塩昆布とごま油、ゴマと和えるだけ。

料理といっていいのかわからないが美味いやつなのだ。


2品目は“明太ポテトサラダ”。


これも簡単だ!

じゃがいもを耐熱ボールに入れて、ふわりとラップをかけます。

だいたい500Wの電子レンジで5分ほど加熱します。


それをフォークの背でつぶして、明太子とバターとマヨネーズを

あえて混ぜて出来上がり!

上に刻みのりとかを散らしても美味しいかも。


3品目は“豚肉となすのにんにくみそ炒め”


ここではその名の通り……

豚肉(ここではキングビッグサングリアの肉)と

なすときのこをにんにくと味噌でさっと炒めたものだ。


この際だから、陛下から頂いたやたらきらきら光る

キノコたちをどーんと入れて作っちゃおう。


「松茸みたいなものかな?

香りはいい香りなんだけど、ビジュアルがな……。

金粉みたいなものが塗されているんだよね」


炒めながらおそるおそる1切口に入れてみる。


「…………!!」


やだ、凄く美味しい。

この世のキノコというキノコをぎゅっと濃縮したみたいな味がする。


「美味しい!!

これはご飯が欲しくなっちゃうやつだな……。

まぁ……炒めた汁に金粉が浮いていますけどぉ」


凛桜は我慢できなくなり、白ワインを1本あけた。


料理しながら、飲んじゃうもんね。

そう言いながら、まずは1杯飲み干した。


4品目は“はんぺんのチーズフライ”


昔からこれ大好きなんだよね。

はんぺんの中にチーズを入れて揚げるだけという

シンプルな料理。


今日は中にカマンベールチーズ入れちゃおうかな。

ふだんは蕩けるチーズをいれて作ります。


そして、もう一方にはハムも入れちゃおうかしら。

なんだか楽しくなってきたぞ!


(揚げたてがとにかく最高!!)


揚げた端から食べてワインを飲んでいると……



「楽しそうだな……昼間っから晩酌か?」


自分の背後から心底楽しそうな声が聞こえた。


「ぐっ……」


まさかの人の登場で凛桜は一瞬喉を詰まらせそうになった。


大口を開けながら食べて、立ったまま台所で

ワインをガブ飲みしている姿を見られたのだ。


(なんでここに!?)


壊れたブリキのおもちゃか!?

というように、ギギギッと音が聞こえそうなくらいの勢いで

ぎこちなく首だけ後ろを振り返った。


「グッ……ケホッ……」


(器官の変なところにチーズはんぺんの欠片が入った!)


凛桜は目を白黒させながら、胸を叩いた。


「大丈夫か?驚かしてすまん」


その人は慌てて凛桜の元に駆け寄った。


「クロノスさん……」


急いで水を飲んで、なんとか事なきを得た。


「すまん、俺が急に話しかけたから」


「大丈夫……れす……」


凛桜は恥ずかしさのあまり両手で頬を押さえて目を逸らした。


「美味そうだな……」


そんな凛桜をみながら若干にやついたクロノスは

揚げたてのチーズはんぺんを1つ齧った。


「あちっ……でも美味いな」


そういって今度は満面の笑みで凛桜をみつめていた。


「呆れましたか?」


凛桜が恥ずかしそうにクロノスを見上げると

クロノスは目を大きく開けた後、吹き出すように笑い声をあげた。


「ハハハハハ……。

凛桜さんでもあんな豪快な齧り付き方するのな」


「えっ……いや……その」


恥じらう凛桜を楽しそうに見つめながら、クロノスは

尻尾を揺らしながら更に笑っていた。


「もう……」


クロノスを加えて、昼間からの晩酌が始まった。




「凛桜さんのつくる酒のつまみは何をたべても美味いな」


そう言いながら、どんどんクロノスの口の中に

料理が吸い込まれていく。


本当にいつみても豪快な食べっぷりだな……。


凛桜は新たに、エビとホタテのフライを揚げていた。

その間にも、二人してワインを2本もあけてしまった。


少しピッチが速いかな……

軽く酔ってきたかも、でもすごくいい気分。


凛桜は、ワインを飲みつつ揚げたてのエビフライを1つ

つまみ食いした。


縁側では、黒豆達とシュナッピーもお相伴にあずかり

キングビッグサングリアの照り焼きを豪快に骨ごと

齧り付いていた。


相変わらずシュナッピーは、ゴリゴリいって食べている。


そんな中、クロノスが突然ぽつりと言った。


「凛桜さん……

このアンペルーシャンピニオンはどうしたんだ!?」


あっ……やっぱり珍しいきのこなんだ。


そうだよね、黄金の粉をまき散らすキノコなんて

普通のキノコな訳がないよね。


クロノスはフォークの先の光るキノコをまじまじと

見つめて驚きの表情を浮かべていた。


「やっぱり珍しいものですか?」


「あぁ……皇帝陛下専用の温室で育てられている代物だ。

まず一般に出回るものじゃない。

ましてや普通の食卓に上る素材じゃないな」


そう言って苦笑していた。


「やっぱり……頂いた時からそんな予感がしていました」


「1つ食べると寿命が10年延びるとも言われているぞ。

幻の食材でな、もしこれ欲しさに盗みに入ったら即死罪だぞ」


思わぬことを言われて、少し息が詰まる。


「えぇえぇぇえええ!

どうしよう、籠にてんこ盛りで頂いたんだけど」


凛桜は困ったように眉尻を下げた。


「いいんじゃないか、陛下のご厚意なら遠慮なく頂いたらいい」


そう言ってニコリと微笑むと、キラキラ光るスープと共に

アンペルーシャンピニオンを1つ美味しそうに食べた。


「うん……。そうだね。

他にも見たことない食材がひそかにたくさんあるの。

調理法はもちろんの事、なんだかさえわからないの

後で一緒にみてくれる?」


「お……おう」


クロノスは少し顔を引きつらせながら神妙に頷いた。



その後も、凛桜はお酒にあうつまみを作り続けた。


“長ネギと蒸し鶏の和え物”

“つくねの照り焼き”


これらは、キングヒューナフライシュをミンチして

作った代物だ。


「美味いな……俺はこのつくねの照り焼きが好きだ」


そう言って、尻尾を揺らしながら20本近く食べてくれた。


中でも、つくねの上に乗っている梅肉とあわせて

食べるのがお好みのようだ。


「この酸っぱい味がたまらんな」


「これは私の故郷の食べ物で、梅干しというものから

できているのですよ」


「凛桜さんの故郷の味か……。

そういえばおにぎりにも入っていたな」



二人はソファーへ移動して、横並びに座りながら

チーズと生ハムの盛り合わせを肴に飲み続けていた。


気づけばもうかれこれワインを5本はあけているようだ。


「ふぅ……」


心地いい酔いに凛桜は息を吐いた。

お酒弱いほうじゃないけれど、今日は少し酔っているかも。


そう思いつつ、チラリとクロノスの横顔を盗み見た。

しかし、クロノスは全く酔っていない様子だった。


クロノスさんお酒強いな……。


「クロノスさん……」


「ん?」


「クロノスさんは、今日の酒のつまみで何が一番

美味しかったですか?」


何故自分でもこんな質問をしたのかわからなかったが

思わず口から出でしまった。


「そうだな……。

どれも美味しかったからな、難しい質問だな」


「そこを何とか決めて欲しいな。

クロノスさんの好きな味が知りたい……」


そう言って、凛桜はクロノスの肩に頬を寄せて

潤んだ瞳で見上げた。


「…………」


ピシッ……。


ほんのり頬を染めて自分を甘く見つめる凛桜の顔を

直視してしまったクロノスは固まった。


凛桜さんが酔って俺に甘えてきている!?

か……可愛い……。


肩に凛桜のぬくもりを感じつつも、落ち着つくために

前を向いてグイッとワインを飲み干した。


そして、ごくりと唾を飲み込んで……

ぎゅっと拳を握りこんで言った。


「料理はどれも美味しい……。選べないな……。

でもそれよりも凛桜さんと過ごすこの時間が俺にとって

何よりのごちそうなんだ……。

凛桜さん……俺……凛桜が…………だ」


「…………」


数秒の沈黙が流れた。


凛桜は全く何も答えてくれない。

しかし恥ずかしくて顔を見る事はできなそうだ。


「…………」


(それにしても無反応すぎやしないか?)


あれ?俺またやらかしたか?

ちょっと気障だったか?


クロノスは勇気を出して、自分に寄り添っている凛桜の顔を

おそるおそる覗き込んでみた。


「…………」


凛桜は()()()()()()()()……。

安心しきってクロノスの肩にもたれていた。


「フ…………」


俺の一世一代の告白も夢の中か……。


信頼されていると喜ぶべきか

それとも男として意識されていないと悲しむべきか。


クロノスは自嘲気味に笑うとそのまま凛桜を横抱きにして

寝室まで運んだ。


「おやすみ」


そう言って、布団をかけて部屋の扉を閉めた。



「俺は帰るが、後は頼むぞ」


きなこ達を優しく撫でると中庭の奥に消えていった。



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