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44.食文化

田舎暮らしを始めて48日目。




凛桜は餅ピザを焼きながら今までの事を振り返っていた。


ついに我が家には、皇帝様まで来てしまいましたか……。


本当に一体どういう仕組みなのよ?

それに人選もおかしすぎる……。


一般の獣人の方から魔王様まで……。

で、最終地点が皇帝様!?


謎すぎる……。


まぁ、異世界にきて何かを成し遂げる的な話では

ないみたいだから、それでもいいのかもしれないけれど。


しかもみんな何故か家で、ご飯は食べて行くけどね!


確実に現代の食文化の影響は、出ていると思う。


ホットケーキとハンバーグは

今後この世界にもっと浸透しちゃうからね。


何故なら、近いうちに開催される隣国との晩餐会に

出すんだって!!


小さな皇帝様が、朝ごはんに食べた

“ザ・和食”のメニューも聞かれたんだけれども

晩餐会には相応しくないので、軽くスルーしましたよ。


だって、白米に、焼き鮭。

わかめと豆腐と油揚げのお味噌汁、卵焼きに

ほうれん草のおひたし、味付け海苔とたくあんだよ。


無理無理無理……。


隣国の人……ぽかーんだよ、こんなメニューが出てきたら。


そもそもこの国では、鮭と海苔と米が手に入らないらしい。


なので、料理番が来るたびに“鮭 1パック(4切入り)”と

“味付け海苔 1袋”と“お米 2キロ”をお譲りするという

謎の協定が結ばれている。


初めてその事を提案された時の事を思い出して苦笑した。

それを誰が切り出して、凛桜に告げるのか揉めたのだろう。


帰り際、死刑宣告をされたような表情の新人料理番が

しどろもどろになりながら懇願してきた時には

どうしようかと思ったよ……。


それくらい別にいいけれども。


そんなことより、もう少し家に来る回数を減らしてくれませんかね。


定食屋ではないことはもちろんの事……

料理教室でもないので……。


それは、初回の時にも説明したはずなんだけどな。


偉いおっさん、いやおじさま獣人達にノート片手に

自分が料理を作っているところを

一挙手一投足見られてみなさいよ。

やりにくいことこの上ない。


なんど手が滑って、豆腐をシンクに流しちゃったか……。


しかもその後に、しっかりそれを完食していき

疑問点は、なにやら高級な紙にかかれて渡され

次回までに回答求って。


もう意味わからんし、めんどうくさい。


塩の加減?

パッパだよ、分量なんかしらん。


と、言いたいけれど……

そういうと捨てられた子犬のような目でみてくるから

うん、もう、きっちりとお答えすることにした。


それを申し訳ないと思っているのだろう。


毎回珍しい異世界の食材を持ってきてくれるのだが

見た目も怪しいし、調理の仕方もわからないので……

業務用冷蔵庫へそのまましまっているのは内緒だ。


恐らく高級食材であろうという事だけはわかる。

無駄にキラキラしたキノコとかがあるもん。


今度、クロノスさん達に聞いてみたいと思う。

そろそろ、消費しないと冷蔵庫に入らなくなってくる頃だ。



先ほど、料理番と皇帝様のおつきの鷹獣人のおじさまが

慌てた様子でやってきたのよ。


ホットケーキの作り方の最終確認をしたいって言うから

しれっと聞いてみたら、晩餐会に出すって言うじゃない。


大量のホットケーキミックスが王宮に渡ったよ。


ホットケーキミックス自体の作り方を教えて欲しい

と言われたけれども……

流石に再現するのは難しいかな。


噂によると……

薄力粉と砂糖、ベーキングパウダーと塩で作れるらしい。


今度試しにやってみようかな。


そのお礼なのか、宝箱いっぱいの宝石を頂きました。

ああいうのってお話の中の出来事だと思っていたよ。


お断りしたのよ、でもこの中から何か1つ選んで

貰ってくれないと、自分の首がとぶからって……

鷹獣人のおじさまに泣き落としされたら断れないって!


それしか選択肢なかったのよ。

だって、他は“空飛ぶ絨毯”とか“金の卵を産むとかげ”

“不死鳥の羽でできたドレス”とか……。


なんかもう、使い道が分からないものばかりだったから

正直ものすごく困ったわ。


平穏に暮らすには不必要な品じゃない?


だから、一番無難な宝石を頂いたよ。

宝石が無難って自体もうアウトな気がするけれどね。



「おっ、そろそろ餅ピザいい感じだな」


オーブントースターを覗いていると、背後が騒がしくなった。


「ん?」


振り返ると、きなこと黒豆とシュナッピーに懐かれる

クロノスさんがみえた。


「よお、大変だったようだな」


ニヤリと笑いながら縁側に腰かけた。


「こんにちは、クロノスさんもご存じなのですか?」


「あぁ、あの日は王宮が蜂の巣をつついたような騒ぎだったからな」


「クロノスさん達も駆り出されたのですか?」


「いや、俺たちとは管轄が違うからな。

それに近衛騎士団とうちは仲があまりよろしくない」


そう言って、困ったように頬をかいた。


なるほど、なんだかわかる気がする。

クロノスさん達は、たたき上げの実践部隊で実力主義。


一方近衛騎士団は、もろに家柄重視ですって感じだ。

仲がいいわけないよね……。


でもそう考えると、クロノスさんって侯爵だから

どちらかというと近衛騎士団よりのはずだけどな


きなこを優しく撫でるクロノスさんの横顔を見ながら

頭の中で色々とぐるぐる考えてしまった。


「凛桜さん、なんだか香ばしい香りがするんだが……」


「あっ!餅ピザ忘れてた。

もちろん食べて行かれますよね」


「おうよ」


凛桜は、目で上がるように促した。



「餅ピザというのか、美味いな……」


クロノスさんはもうすでに3枚目を平らげていた。


「やはりあの美少年は、この国の皇帝陛下なのですか?」


「あぁ、そうだ」


「あんなに若いのに凄いね」


凛桜は、クロノスにコーヒーを注ぎながら言った。


「ん?あぁ……」


クロノスさんがふっと目を細めて笑った。


「ん?」


凛桜はその微笑みの意味が分からなくて首を傾げた。


「いや、凛桜さんは何も悪くない。

あの方の外見は幼く見えるが、それは種族のせいもある。

ああみえて300歳は超えていらっしゃるぞ」


「えぇぇぇぇぇぇ!!」


凛桜は驚きのおたけびをあげた。


「つるつるのぴっかぴっかの美少年だったよ」


「ハハハハハハッ……だろうな。

確かにまだ若い方だ、しかし俺達なんかよりも遥かに

年上で知識も経験も豊富な賢王だ」


「因みになんの獣人なのですか?」


「龍だ」


「龍……」


ドラゴンか……

だから額に角のようなものがついていたのか!


「急にふらっと庭に現れたのよ。

最初はどこかいいところのおぼっちゃまが迷いこんだかと

思っていたんだけど、話しているうちになんかこの方は

もしかしたら、もしかしちゃうのかなって」


凛桜は思い出し笑いをしていた。


「ある意味、世間ずれしている方だからな。

しかしとても楽しかったみたいだぞ。

凛桜さんの着ていた服を今でも寝巻にされているぞ」


「えっ!あのTシャツを!?」


凛桜は食べかけの餅ピザを皿に落とした。


ノォォォォォ、本気か!!

あれって、某キャラクターのTシャツだよ!!


ボールでゲットする、黄色いネズミさんのTシャツだよ!!

ピカピカ言っているあのキャラだよ。


可愛らしい事この上ないあのキャラクターだから

思わず買ってしまったTシャツよ。


いいのか、この国を統べる方が着ていいものなのだろうか。


凛桜が赤くなったり青くなったりしているところに

クロノスが言いにくそうにきいてきた。


「凛桜さん……その……陛下とは……

一緒に……就寝されたのか?」


「へっ?うん、一緒に寝たよ。

えっ?何か問題でもあった?」


「グッ……、それは合意の上なのか?」


凛桜の肩を掴みながら詰め寄ってきた。


「う……うん?たぶん……」


凛桜はクロノスの剣幕に多少驚きながらも頷いた。


「そうか……ならいいのだが……」


かなりしょんぼりとしたクロノスがそこにはいた。


どういうこと?

お布団並べて一緒に寝るのってまずかった?


まさか白蛇ちゃんの時みたく、それで婚姻が結ばれるとかは

ないよね……。


全く別の意味でシュンとなっている凛桜とクロノスなのであった。




王宮の奥深くのとある部屋で……


「クロノス……

凛桜殿は素敵な女性だな」


「はぁ……」


「知らなんだとはいえ、そなたより先に一緒に

寝室をともにしてすまなかった」


「…………!!」


「お前があまたの華をそでにしてきた理由がわかったぞ」


「陛下……」


「あんずるがよい。

我が力を使って無理やりそなたから奪うようなまねはせん。

うるさい周りも黙らせるから安心しろ」


「いや、決してそんな仲ではありませんがゆえに」


「ククククク……

ならば本気になってもよいというのか

あのような物まで身に纏わせておきながら……

難儀な男よのう」


「いや……その…………それは……」


きっと凛桜が身に着けているピアスの事を示唆しているのだろう。


「ハハハハハ……

お前のそのような顔を見られただけでもよしとするか」


「陛下……勘弁してください……」


なんてやり取りが王宮深くで、ひっそりあったとか……。



魔王様といい皇帝陛下といい

人の恋路は、楽しい模様……。


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