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43.毎日はちょっと……

田舎暮らしを始めて44日目。




昨日は本当にびっくりしたな……。

もう少しで皇帝誘拐罪の罪に問われるところだったわ。


中庭から楽しそうな声がきこえるから、シュナッピーも

元気そうだ。


そんな声を背中に聞きながら、凛桜は割烹着を装着し

大きなまな板をだした。


今日は久しぶりに、副菜作りに精を出しちゃおうかな。


まだ、“キングヒューナフライシュ”も全く消費してないから

鶏料理フェアー開催を決定します。


まずは、大根と鶏むね肉の甘辛煮でしょう。

それから何がいいかな……。


棒棒鶏も外せないよね。


下準備を終えて、作り始めながらも他にも何か作れないかと

凛桜が冷蔵庫の中身を確認していると中庭が騒がしくなった。



「おわぁ……」


「ギャロロロロッロ!!」


「ひるむな!!」


なんか破壊音と叫び声がするのは気のせいじゃないはず。


もう何?誰よ?


凛桜は眉を顰めながら縁側から降りていくと

昨日のプチ再現が起きていた。


「えっ?」


「これは凛桜様、恐れ入りますがこやつを止めては

頂けないでしょうか?」


シュナッピーと近衛騎士団が睨みあっていた。

いや、数体倒されていた。


シュナッピー、あんたまた強くなったのね。

いや、倒したのはきなこか?


きなこがドヤ顔で……

倒れている近衛騎士団の顔に、肉球を押し付けていた。


「…………」


その後ろで、鷹獣人のおじさまとその他の獣人のおじさまが

困ったように固まっていた。


「…………」


凛桜は、何事もなかったようにくるりと背を向けた。


何も見てない、来てない。

よし、料理の続きをしようっと。


「凛桜殿ぉぉぉぉおおおおお!!」


鷹獣人のおじさまの悲痛な声が聞こえてきた。


「はぁ……」


ひとまず2匹と1体を宥めて、縁側へと誘導した。


どうやら、昨日のお詫びに来たらしい。


見たこともない食材がどっさり荷車的なものに

積まれている……。


しかもそれに付随してもうひとつお願いがあると……

“ホットケーキ”と“ハンバーグ”の作り方を教えて

欲しいとの事だった。


「めんどうくさい……」


あっ、思わず心の声が出ちゃったわ。


「っ…………」


いやいやいやいや……。


獣耳と尻尾をさげてシュンとしたおじさまの集団とか

見てられないからね!


「わかりました。

それでは、まずは“ホットケーキ”から作りましょう」


凛桜がそう言うと一同ほっとしたように胸を撫でおろした。





田舎暮らしを始めて45日目。



凛桜が、鶏ハムを作っていると……

また近衛騎士団と共に料理番達がやってきた。


毎日来るかね!?


「本日もよろしくお願いいたします」


そう言っておじさま獣人達は凛桜に頭を下げた。


こうなったら、早く習得して帰って頂こう。

凛桜はスパルタ式で教えることにした。




田舎暮らしを始めて46日目。




今日もお約束のように、うちの台所の前には

おじさま獣人達がひしめいております。


「お肉は基本何を使ってもいいですが

やはり“ビッグサングリア”系の魔獣肉が美味しいかと思います」


凛桜がそういうと、一斉にノートにメモ書きを始めた。


私は何をやっているのだろう……。

そう思いながら、ハンバーグの講義は続くのであった。


流石は料理人というべきか、皆さんすぐにコツを掴んで

次々に奇麗にハンバーグを仕上げていく。


よしよし、今日中に習得してくれぃ。



「凛桜殿、陛下から文が届いております」


「ありがとう」


唯一の楽しみは、陛下との文のやり取りだ。

鷹獣人のおじさまが毎回持ってきてくれている。


毎回、見たこもない奇麗な花がついた枝に結ばれている

皇帝陛下直筆の手紙だ。


内容はたわいもないことだ。

執務室の窓から見える木に、鳥が巣を作ったとか

近いうちに城下町でお祭りがあるので視察に行く予定だ等だ。


そのお返しに凛桜は、いつもちょっとしたお菓子を

手紙と共に渡している。


もちろん、そのお菓子は鷹獣人のおじさまが毒見したものだ。


気のせいだろうか、鷹獣人のおじさまの方がお菓子を

楽しみにしている気がしてならない……。


しかも料理番の方にはそれを食べさせない徹底ぶり!!

美味しいものはみんなで食べようよ、うん。


凛桜が、オーブンを覗き込んでいるとおじさまが

ニコニコ顔でやってきた。


「凛桜殿、昨日の“ふぃなんしぇ”は秀逸でした。

陛下も喜んで食べておられましたぞ。

で、今日の菓子は何になりますかな」


相変わらず表情は緩んだままだ、やはり楽しみらしい。


「今日は、“ジャムサンドクッキー”です。

これならば、手も汚れないし一口サイズなので

お仕事の合間にも食べられるかなと」


「おぉ、そこまで考えて頂けているとは……」


嬉しそうに一粒掴むと、躊躇せず口にポイっといれた。


「美味い!!

サクッとした中にいちごの甘さが広がりますな」


そう言いながら、そこにあったものをすべて食べてしまった。


これって毒見なのかしら?

苦笑しながらその様子を見ていた。




田舎暮らしを始めて47日目。




今日は、誰も来なかったので平和だった。


家って本当はこんなにも静かだったのね。


凛桜は空を見上げながら、縁側で紅茶を飲んでいた。


これよね、こういう何もしないでぼーっと平和に

過ごしたいからこの家に移り住んだはずなのに……。


なんだかな……。



こらこら、シュナッピーと黒豆!

大腿骨を争ってけんかしない。


シュナッピーあんた、骨とか食べないじゃない。


あっ、取られた。


流石のシュナッピーも4つ足の黒豆達には

追いつかないのね……。


凛桜に気が付いたのだろう、シュナッピーは急いで

やってきて、訴えるように鳴いた。


「きゅーん、きゅーん」


そんな、近所のガキ大将におもちゃとられました的な

感じで訴えられても……。


あんた、骨食べないんだからいいでしょう。


凛桜は、呆れながらもシュナッピーにお煎餅を1つあげた。


「もしゃもしゃ……」


喜んで食べているようだ。


って、もしゃもしゃだとぉ!?


あんた、チャーシューの時はゴリゴリいってたのに

煎餅は、もしゃもしゃだと!?


食中魔界植物の口ってどうなっているの?

謎は深まるばかりだった。



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