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41.美味しいふかふか

田舎暮らしを始めて42日目。




皆のおかげで、風邪は完治いたしました!!

今思えば……インフルエンザみたいなものだったのかな。


この世界に風邪の病原菌があるかはわからいないけれど

1回プチ里帰りしたからな……

知らぬ間に貰ってきていたのかもしれない。


手洗いうがいは、こまめにしているつもりだったけれども

もっと気をつけないと……。



よし、という訳で快気祝いに今日は

“ホットケーキパーリィー”を開催したいと思います。


理由は特にありません。

私がホットケーキを思う存分食べたいだけです。


確かホットケーキミックスを大量に買った気が……。

凛桜は、上段の棚をあけて覗き込んだ。


おっ!あった、あった。


本当はホットプレートを出して焼いた方がいいのだけれど

私ときなこ達とシュナッピーの分だけだから

今日は、フライパンでちゃちゃっと焼いちゃいます。


卵と牛乳と……

あとちょい足し素材はどうしようかな。


色々な説があるよね。

どうやったらもっとふっくら焼けるか問題。


マヨネーズがいいとか炭酸水がいいとか……。


まだ試したことはないけれど“ヨーグルト”もお薦めだって。

今日は王道のマヨネーズにしておこうかな。


凛桜が作り始めると、庭で遊んでいた黒豆が

匂いに釣られたのだろう、急いで縁側までかけてきた。


もちろんシュナッピーも健在だ。


「待っててね、もうすぐ焼けるからね」


そう言いながら、ふと違和感に気が付いた。


「あれ?きなこはどうしたの?」


1番食いしん坊のきなこの姿が見えない。


「えっ?黒豆……きなこは?」


「ワフ……」


何故か困ったように鳴いた。


「ん?何かあったの?」


すると庭の奥から何か話し声が聞こえる。



「…………は、この……い……か?」


「きゅーん」


「…………では……ないか……」


「ワフ…………」



話の内容はよく聞こえないが、確実にきなこが

困っていることだけはわかる。


(少年のような声が聞こえるけど……)


すると庭の奥から、がっちりきなこを抱いた

10歳くらいの少年が現れた。


「…………」


「…………」


お互いにぎょっとして固まってしまう凛桜と少年。


(誰?)


恐らくあちらもそう思っているのだろう。

何とも言えない沈黙の時間が二人の間に流れた。


その少年は、不思議な格好をしていた。

昔の中国の皇帝が着るような漢服を纏っていた。


流れるような黄金の髪。

額には2本の角のようなものが生えていた。


肌も象牙のように白く、何故か背中から後光が

さしてくるような神々しさがあった。


瞳は翡翠をはめこんだような深緑。

一度みたら忘れられない位の美少年だった。


(美しいな……)


いかん、見惚れている場合じゃない。


「あの……どちらさまでしょうか?」


凛桜がそう言うと、少年は心底驚いたように目を見開いた。


「そなた……()()()()()()()()()?」


信じられないと言わんばかり、凛桜をまじまじとみつめた。


(えっ……。

何、もしかしてこの国のNO.1子役とかじゃないよね。

知らない人はいない位の国民的アイドル?)


「…………」


なんと答えていいのかわからず困惑していた。


「そうか……余の事を知らぬのか……」


何か思案するように眉間にぎゅっと皺をよせた。



と、すっかり忘れかけていたが……

ホットケーキがそろそろいい塩梅だった。


「ひとまず、ホットケーキが焼けたので食べませんか?」


凛桜は謎の美少年を家に招き入れた。



お皿に焼きたてのホットケーキを乗せて、その横に

バターと蜂蜜と数種類のジャムをスタンバイさせた。


「熱いうちに召し上がれ。

まずはバターを乗せて食べるのが美味しいですよ」


凛桜がそう言うと、少年は目をキラキラさせて

一旦、フォークとナイフに手をかけようとした。


が、ハッとして顔をひきしめて手を下げて言った。


「このようなもてなしをうけておいてすまない。

知らぬ者が作った物は食べてはいけないと言われている」


そう言って、悲しそうに目を伏せた。


(えっ?そなの?)


「今日は余の毒見役もおらん……。

だから……」


そう言って言葉を詰まらせた。


(ん?毒見役とな?

え……、この美少年もしかして、かなり高貴な方かしら)


ちょっと待って!!

このこ、自分の事、さっきから“()”って言ってるよね!!


私の世界でも自分の事を“余”って呼べる身分の人は

1人だけだよ!! たぶん……。


時代が時代なら、日本で1番偉い人……。

暴れて悪を成敗しちゃうあの方……。


凛桜の背中に冷たいものが走った。


(本気か……

このこ、確実にこの国の“皇帝”じゃん!!)


そんな凛桜の葛藤など露知らず……

必死にホットケーキの誘惑と戦っている皇帝様。


どうにか、食べさせてあげたい。

凛桜はその健気な姿に心を打たれた。


数分のうちに脳内会議をフル回転で開催して終わらせた。



「そうだ、それならば一緒に作りませんか?

そうすれば、安全だと思いませんか?

そして、焼き終わった後に、そのホットケーキを一切れ

きなこ達に食べてもらうのです」


「なんと、そなたは自分の家族を毒見役にするというのか?」


小さな皇帝は凛桜の提案に驚いていた。


「はい、私の本気を知って頂きたくて……。

家族の命がかかっていれば、私があなたに害をなすことを

することはないでしょう?」


「…………」


小さな皇帝は悩んでいた。


「これは、ホットケーキという、美味しいお菓子なんです。

食べると幸せな気分になるお菓子なんです。

だから、ぜひ食べていって欲しいのです」


凛桜の真剣な思いが伝わったのだろう。


「わかった、そなたを信じてみよう」


「ありがとうございます。

そうだ、自己紹介が遅くなりましたが

私は“蒼月凛桜”と申します」


「余は……」


困ったように目をしろくろさせていた。


「いいのですよ、無理におっしゃらなくて。

さぁ、作りましょう」


そう言って、凛桜は比較的小さいエプロンをつけてあげた。



それから、二人で何枚もホットケーキを焼いた。

多少しっぱいして焦がしても、シュナッピーが

ガツガツ食べてくれた。


やっぱりというか、美少年がシュナッピーの顔をみると

シュナッピーは、クロノスさんの時よりも更に深く

頭を下げて敬意を表した。


(これで確定したわね)


凛桜はその様子をもう黙って見守るしかなかった。


そして15枚ほど焼いただろうか……

美少年が自分自身で渾身のホットケーキが焼けたのだろう。


大事そうにその1枚をお皿に入れた。


凛桜も自分で焼いたホットケーキをお皿に入れた。


「とても奇麗に焼けましたね」


「あぁ……」


小さな皇帝は、それは嬉しそうに微笑んだ。


「それでは、頂きましょうか」


「凛桜殿」


「はい?」


「余の作ったほっとけーきーを食べてはくれぬか?」


顔を真っ赤にしながら、お皿を凛桜に差し出してきた。


「えっ?いいのですか?

こんなに上手に焼けたのに」


「だからだ、そなたに食して貰いたい。

その代わり、凛桜殿が作ったものを余に……」


いいのか?それアウトじゃないかと思ったけれど

本人がそう言いうのだ、わざわざ水を差すのも無粋だ。


「はい、それでは交換しましょう」


そして二人はお互いのホットケーキを心行くまで味わった。


「美味いな……。

こんなにも暖かくて美味しい菓子を食べたのは初めてだ」


そう言って目を細めた。


案外皇帝という立場は孤独なのかもしれない……。

叶う事ならば、ほかにも色々食べさせてあげたいな。


一所懸命にホットケーキを頬張る美少年を見ながら

凛桜は少し切ない気持ちになった。



そして、すべて食べ終わった頃だった。


「凛桜殿、そなた訳ありか?

ご両親とこんな森の中でひっそり飲食店を開いているのだろう。

何か余が力になれることはあるか?」


(はい、またこの流れ!!

この国の人の普通の民家の定義ってなんだろう。

今度一度じっくりクロノスさんにきかないとな)


「あの、大変申し上げにくいんですが……

ここは、ただの民家です。飲食店ではありません」


「なんと!!

こんな面妖な不思議な料理が出てくるのにか?」


もうこのくだり何回目だろう……。


「はい、それにきなこ達は両親ではありません。

私は“人族”です。

きなこ達は普通の“柴犬”という種類の犬です」


「…………」


もう言葉にもならないようだった。

凛桜ときなこ達の顔を何度も交互にみていた。


(獣耳ないだろうが!

逆につけられるんなら、つけたいくらいですがね)


と若干心のなかだけでキレたのは内緒だ。




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