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40.精一杯の……

田舎暮らしを始めて41日目。




きっと元の世界では、新しい年が始まっているだろうなぁ……。


そう思いながら凛桜は布団の中にいた。

いや……正確には布団から出られなかった。


昨日の夜から、なんか寒気がすると思っていたんだよね。

これはもう、ガッツリと風邪をひいちゃったかな。


世界がぐるぐると回っております。

喉も痛いし、咳も止まらない……。


起きないの?

と言わんばかり黒豆ときなこが枕元でお座りをして

キラキラした目でじっと見つめてくるのが辛い。


とりあえず、気合で雨戸を開けて……

部屋の空気を入れ替えた。


それから、飲み物と着替えを枕元に用意するところまでは

なんとか気力で乗り切ったが、その後の記憶はない。



しばらくして、目が覚めると……。

心配そうな2匹と1体が、顔を覗き込んでいた。


思わずビクついてしまったわ。


寝起きにシュナッピーのドアップはよろしくない。


「きゅーん」


今年もきゅーん鳴きは健在か……。


心配する2匹と1体を撫でようと、頑張って布団から

右手を出すと何かがぶつかった感触がした。


どうやら枕元にいろいろおいてあるらしい。


これは、きなこのお気に入りのあひるちゃん人形……

噛むとピーピーなるおもちゃだ。


その横には、黒豆のお気に入りの靴下……。

もう毛だらけの物だ。


それらが自分を取り囲むように置いてある。


お供え物のような状況なんだけど。

おもわずその惨状に苦笑をしてしまった。


それでも犬たちの気持ちがありがたかった。

きっと精一杯の励ましなんだろう。


が、しかし……

それでも見過ごせないものが1点ある!!


シュナッピーが今まさに差し出してきているものだ。


えっと……それはいったいなんなんだい?

器用に葉っぱの手で掴んでいるようだけど……。


ビジュアルもなんだかやばい

というよりか謎?


見た目は紫の小さい大根みたいだ。

色はまだいい、新種の野菜かな?ですむからさ。


けれどもね……

そこに顔のようなものがついているのは、どうしてかな?


しかもその物体、なんか罵詈雑言言ってますけど。


「はなせ、コラッ、なめんとのか、ワレィ」


内容に反して、かなり甲高い声っていう所も

笑っていいのか悩むわ。


それを目の前に出されても、リアクションに困るわ。


誰か教えて、なによこれ。


シュナッピーさんや、どういう意図でこれをぐいぐい

押し付けてくるのかしら。


真剣な表情で渡してくる感じだから

心配からくるものだという事はわかるのだけれども

受け取るのに躊躇するわ。


「お前いいかげんにせぇよ!!」


そういって、シュナッピーの葉っぱに齧りついたそいつ。

その瞬間、そいつの顔面にシュナッピーの蔓がヒットした。


「…………!!」


瞬殺でした……。


そして、そのままお供えの輪の中にそっと置かれた。


(ヒィィィィ……。

白目剥いて、口から何か赤い液体が出ている紫大根

怖すぎる!!怖すぎるからぁ……)


そのまま、凛桜はまた眠りに落ちた。




それから、次に意識が浮上した時には、何か暖かいものが

自分の額の上にのった。


「ん……?」


「目が覚めたか?気分はどうだ?」


そこには心配そうな顔をしたクロノスさんがいた。


「クロ……ノス……さん、どうして……ここに?」


そのまま、クロノスさんに支えられながら上半身だけ

布団から起きた。


そこへ、カロスさんとノアムさんもやってきた。


「凛桜さん、大丈夫っスか?」


「まずは、水分を取ったほうがいいでしょう」


カロスさんが飲み物を渡してくれた。



凛桜が一息ついて、3人の顔を不思議そうにみると

頭をかきながらクロノスが切り出した。


「どうして俺たちがここにいるかだが……」


「いやー、もう凄かったんスよ」


ノアムさんが興奮したように語りだした。



いつものように、ノアムさんとカロスさんが

騎士団の本部で仕事をしていた時だった。


演習場の方から、叫び声やら争う音が聞こえたらしい。


まさか、こんな王都の騎士団に奇襲をかけるやつなんか

いるわけはないと思い、1回はスルーしたらしい。


しかし、数分後……

ボロボロになった団員の1人が部屋に飛び込んできた。


「大変です、ぱくぱくパックンフラワーの襲撃です……」


「へ?」


「はっ?」


最初は何かの冗談かと思ったが、その団員の鬼気迫る様子に

ただごとではないと悟った。


二人が急いで現場に駆け付けると、シュナッピーが

騎士団相手に大暴れしていたらしい。


「お前……なんでここに」


カロス達の姿をみるとすぐに駆け寄ってきた。


そして、何かしきりに葉っぱを揺らして

“きゅー-ん、きゅーん”鳴いたが……

さっぱりわからなかったらしい。


そこに誰かが呼びにいったのだろう、クロノスがやってきた。


「どうした?」


すると、一目散にシュナッピーはクロノスの元に

そして再び“きゅーん、きゅーん”鳴いた。


「よし、わかった」


クロノスは力強く頷いた。


「よく、ここまできたな。えらいぞ」


そう言って、シュナッピーの頭を優しく撫でた。



そして今に至るらしい。


「そうだったのですね……。

自分たちじゃどうにもできないと思い、クロノスさん達に

助けを求めにいってくれたのですね」


そのシュナッピーは、長旅と戦闘で疲れたのだろう

いつもの定位置でいびきをかいて寝ていた。


「フフフ……大物だわ」


「たいしたやつだよ」


「しかし、よくあいつの言ってる事が分かったっスね、団長」


感心したようにノアムが言うと、クロノスは至極まじめな顔で

こう言い放った。


「いや、さっぱりわからなかったぞ」


「えぇぇぇっ!!」


カロス達は目を剥いた。


「だが、こんなところまでやってくるということは

凛桜さんに何かあったからだからという事はすぐにわかったぞ」


「確かにそうっスね、それ以外には考えられませんね」


ノアムも大きく頷いた。


そこに、カロスがおじやだろうか?

何かいい匂いのする食べ物を持ってきてくれた。


「すみません。

勝手に台所と食材を使いました。

薬を飲むにしても、何か腹の中にいれませんと」


「ありがとございます」


凛桜は、それを受け取り一口食べた。


「美味しい、優しい味がしますね」


そう言って、食べ進めていると……

何か見たこともない野菜が入っていた。


ほんのり甘くてほくほくしている。


「これは……」


スプーンにすくってそれをしげしげと眺めていると


「あぁ、ちょうどいい事に()()()()()()()

“ラハディ”の最高級品がころがっていたからな。

風邪の時にはよくきく魔界植物だぞ」


「…………」


凛桜の頭の中に、先ほどの凶暴紫大根がよぎった。


「あれほどのものはなかなかみないですよ」


カロスも同意するように頷いた。


おそるおそる台所をみてみると……

先ほどの紫大根のなれの果ての残骸がみえた。


(やっぱりあいつかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)


たべちゃったよ!!

しかもかなり美味しかったよ!!


このあと、精神的にはショックだったけれども

身体的には頗る調子がよくなったのは言うまでもない。


シュナッピーお前はやっぱり凄いよ。


お礼に魔王様から貰った、魂の欠片を3粒あげた。


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