38.以外に……
田舎暮らしを始めて39日目。
約束通り、クロノスさん達が来てくれた。
しかも今日はクリスマスパーティーという事で……
全員が騎士団の制服で来てくれた!!
かっこいい!!
みんなすごくカッコいいよ。
きっと舞踏会や晩餐会などでは、この正装で警備に
あたるんだろうな。
令嬢たちの視線をくぎづけにしているに違いない。
そういう私も心臓を打ち抜かれているよ!!
実は私も今日は、パーティー仕様だ。
腕と胸元がレースになっている黒のフォーマルドレスにした。
髪型は、清楚で華やかなアップスタイル。
ピアスとネックレスはパールだ。
「わんわん!!」
黒豆たちも少しおしゃれをして、首元にリボンをつけている。
「おっ、お前たちも正装しているのか」
クロノスさんは、優しく2匹を撫でた。
「いらっしゃい」
凛桜が3人を出迎えた。
「まずは、ウェルカムシャンパンをどうぞ」
そう言って、星形の角砂糖が入ったシャンパンを
クロノスに渡した時だった。
凛桜の姿を見た途端、クロノスは目をカッと見開いて
そのまま、獣耳と尻尾がピンとなったまま固まった。
「えっ?クロノスさん?」
いきなりの出来事に凛桜はオロオロした。
「ふぁ……凛桜さん、今日は最高に奇麗っス」
ノアムは喉をゴロゴロ鳴らしながら見惚れていた。
「今日は、お招きありがとうございました。
本当に美しいです。
どこかの侯爵令嬢かと思いましたよ」
そう言って、カロスは目を細めた。
「ありがとうございます……」
手放しに褒められて、凛桜は恥ずかしそうに頬を染めた。
「凛桜さんがあまりにもお奇麗なので、団長が固まって
おりますが、そのうち覚醒しますのでご心配なさらずに」
そう言って、カロスは固まったままのクロノスを置いて
凛桜の手をひいて部屋の中に入った。
えっ?放置していいの?
困惑気味の凛桜だったが、ノアムにも促されて
そのままソファーへと座らされてしまった。
カロスさんの言う通り、数分後にクロノスは覚醒した。
ハッと我に返り、あたりをきょろきょろと見まわしていた。
その時にはすでに、ノアム達は自分たちが持ってきた
プレゼントを凛桜に渡している最中だった。
「この日の為に、一番いいシャンパンを持ってきました」
「ありがとうございます。
後で一緒に飲みましょうね」
おしゃれなラベルがついたシャンパンだな。
なんだか凄い高級そうだ……。
「それから、これは私からです」
カロスは、少し照れながら豪華なリボンが掛かった
箱を手渡してきた。
「ありがとうございます!
私からもカロスさんにお渡ししたいものがあります」
凛桜も奇麗にラッピングされた箱を渡した。
「おい、カロス……。
俺を差し置いて、凛桜さんとプレゼント交換だと!」
牙をだし少し唸りながらクロノスがカロスの肩を
ガシッと掴んだ。
「団長が固まっているからですよ……。
本当に凛桜さんの事になるとダメダメですね……」
最後の方は聞こえないようにぼそっといった。
そんな空気を全く読まないで、ノアムがぐいぐい入ってきた。
「次は俺っす!
これは王都で1番のお店で買ってきたものっス」
そう言って、可愛らしい犬の柄の箱を差し出してきた。
「ありがとう」
嬉しそうに受け取ると、ノアムの目が獣耳が尻尾までもが
開けて!開けて!と訴えているので、すぐ開けてみた。
「うわぁ……可愛い!!
これは、黒豆ときなこね、ありがとうすごく嬉しい!!」
中身は色とりどりのクッキーだった。
その中心に、黒豆達と思われる柴犬のクッキーが2枚
ドーンと入っていた。
「へへ……」
ノアムは満足そうに尻尾を左右にぶんぶん揺らした。
凛桜もノアムにクリスマスプレゼントを渡した。
「やりぃ~」
嬉しそうに袋をぎゅっと抱きしめていた。
(可愛いなノアムさん、本当に行動がにゃんこだな)
そしておおとりとでもいうべきか、カロス達は
無言でクロノスを見つめた。
「…………」
その期待に満ちた視線に、バツの悪そうな顔をしたクロノス。
「俺は後でわたす……」
そう言ってシャンパンをぐいっと飲み干した。
そのあとは何事もなかったように、3人で楽しくご飯を食べた。
「ヒューナフライシュの丸焼き美味いっス!!」
「これは、ノアムさんが狩ってきてくれたやつですよ」
「だから特にうまかったんっスね」
「調子にのるな!」
カロスさんのいつものツッコミも健在のようだ。
3人は凛桜の作ったクリスマスメニューをすべて
食べつくしてくれた。
気合い入れて作った、ブッシュドノエルを食べながら
一息ついている時だった。
示し合わせたように、ノアムとカロスが目くばせをした。
「団長、俺たちこの後ヒューゴ達と約束があるので
お先に失礼いたします」
「へっ?」
いきなりおまえら何を言い出すんだと言わんばかり
クロノスは目を見開いた。
「凛桜さん、今日はありがとうございました。
とても美味しかったです」
カロスは改めて丁寧にお辞儀をした。
「やっぱり凛桜さんの料理が一番っス!!」
ノアムはほろ酔いなのか、凛桜の手をぎゅっと握りながら
目を輝かせながら見つめていた。
それを無言で、スッと凛桜から手を離させるとクロノスは
頭をかきながら言った。
「わかった、気を付けて帰れよ」
「はい」
「っス」
二人は、ヒューナフライシュの丸焼き6羽と
クリスマス仕様のアイシングクッキー6袋を持って帰った。
なんでも騎士団の皆さんとお疲れ会をやるらしい。
「気をつけてね!」
2人を見送る凛桜の背中越しにみえる、カロス達の
クロノスに向けたにやにやした微笑みをみながら
軽く唸った。
あいつら、よけいな気をまわしやがって……。
クロノスにはすべてお見通しだった。
急に二人っきりになってしまった。
いや、足元には黒豆たちが寝そべっているけれども。
凛桜とクロノスは、ソファーに横並びに座りながら
赤ワインを飲んでいた。
「あいつらがいなくなると、一気に静かになるな。
というよりか主にノアムか……」
「そうですね、本当にいつも明るいですよね
ノアムさん」
「あぁ、我が団にとっても士気を高めてくれる
重要な存在だ……。
それに、ああみえてとても頼りになる男だ」
(信頼しているのね)
嬉しそうに部下の事を語る、クロノスの横顔を見つめていた。
「カロスは、いうまでもなく俺の右腕だ。
あいつがいるから安心して背中を任せて戦える」
「素敵な関係なんですね」
「そうだな……。
まぁ、本人には気恥ずかしくて言えないが。
おかしいな、こんなことを言うなんて俺も酔っているのか」
クロノスは獣耳をへにょっと横にさげた。
しかしそれも一瞬で、今度は凛桜の方に向き直り
凛桜の手をとり、まじめな顔で言った。
「凛桜さん……」
「はい……」
「俺にとって凛桜さんも大事な人だ。
これからもよろしくな……」
「はい」
凛桜はとびきりの笑顔で頷いた。
そんな笑顔にどぎまぎしながらも、クロノスは
金色のリボンが掛かった、小さい箱をポンと
凛桜の手のひらに乗せた。
「よかったらつけて欲しい」
そう言われたので、箱を開けてみた。
中にはシルバーでできたピアスが入っていた。
何やら紋章のようなデザインが細工されたもので
その横に琥珀色をしたハート型の宝石がついていた。
「とても美しいピアスですね」
凛桜は、さっそくそのピアスをつけた。
「奇麗だ……。
とてもよく似合っている」
クロノスはそっと、凛桜の耳に触れた。
ここにカロス達がいたら間違いなくこう言っただろう。
「お前らもう、つきあっちゃえよ!!」
二人はそのまま、月を見ながら赤ワインを飲んでいた。
そして帰り際に……
「これは私からのプレゼントです。
すこし屈んでくれますか?」
凛桜は、クロノスの首にカシミアのマフラーをかけた。
「すごく暖かくて肌触りがいいな……」
クロノスは目を細めながら、マフラーにふれた。
「あと、これも……」
皮の手袋を差し出した。
「こんなに柔らかい皮があるのだな……
おぉ!ぴったりだ……」
クロノスさんは、手袋のサイズがジャストサイズだったのが
不思議なのか、驚いた顔をしていた。
既製品ではサイズがなくて、オーダーメイドで作ったものだ。
もちろん協力者はカロスさんだ。
こっそり、普段使っている魔獣捕獲用の手袋を借りた。
「ありがとう、とても気に入った。
大事に使う……」
そのまま二人で見つめあっていた。
名残惜しくてなかなか、きりだせなかったが……。
「じゃぁ……帰るわ、またな」
「はい……気をつけて」
二人は何度も振り返りながら、手を振りあった。
こうして第2回クリスマス会は終了した。
後日、凛桜のピアスをみたカロス達は……
(団長……えげつないっス。
俺のもの感、はんぱないっス……)
(以外に独占欲つよいんだな……
自分の家の紋章を入れた装飾品でなおかつ
自分の瞳の色の宝石付きときましたか……)
「ん?」
そんな二人の視線に凛桜は首をかしげた。
「なんでもないです……」
「……っス」
((団長やるときはやるのですね))
そんな生暖かい視線を一日中受けた凛桜であった。