37.第1回目開催!
田舎暮らしを始めて38日目。
今日は朝から可愛らしいお客様がやってきた。
あのリスのモフモフ兄妹だ。
「凛桜さん、おはようございます」
「ます!」
「二人とも久しぶり!元気だった?」
思いっきり二人を抱きしめて、密かにモフモフを堪能した。
どうやら、またクルミがたくさんとれたので
持ってきてくれたらしい。
「ありがとう、凄く嬉しい」
「父と母からもよろしくと伝えてくれと言われました」
少し大人びた顔でお兄ちゃんがそう言った。
「フフフ……こちらこそよろしく伝えてね」
すると、お兄ちゃんが急にソワソワしだした。
何か聞きたいのか、いったん口を開きかけてまたつぐんだ。
「ん?」
凛桜が不思議そうに首をかしげると、意を決したのか
何か光る石のようなものを見せながら、恐る恐る凛桜に尋ねた。
「これ、貰ったんですが……
持って帰ってもいいですか?」
妹ちゃんも緊張した面持ちで一緒に頷いた。
「へっ?これ何?どういうこと?」
凛桜は二人の行動が全く分からなかった。
「これ、さっき庭に植わっていたぱくぱくパックンフラワーに
貰ったんです」
「ん?」
シュナッピーから貰った光る石だと?
ますますわからない凛桜。
そこに……
「それは“血晶石”やな。
かなり珍しいもんやで!」
「ルナルドさん!」
「凛桜さんが全く注文してくれへんから、わいの方から
勝手にきてしもた」
そう言って、異世界の浪速の商人のルナルドさんが
何やら大きな袋を2つ担いで立っていた。
「これは、特別配合された魔法土や。
1か月に1回でええからあげたって、元気になるから」
そういって、シュナッピーを見ながら
親指をぐっとたてた。
シュナッピーもそれが何かわかっているようで
また謎の喜びの舞を踊っていた。
ルナルドさんには攻撃しないところを見ると
見た目はチャラくて細いけれども、意外に戦闘能力は
高いのかもしれないな。
なんて失礼なことをちらっと考えたりしていた。
「魔法土、ありがとうございます。
それより、この石はどういうものなのですか?」
ルナルドさんの説明によると、ぱくぱくパックンフラワーが
成長過程で、自分の中にあるいらない魔力の塊を
外に排出する時に作り出す石らしい……。
通常自然界の中において、それを見つけることは
ほとんどないらしい。
特に原種の“血晶石”は、貴重らしい。
故にみつけると、幸運に恵まれると言われている。
当然それを売ると高値がついたりする。
しかし、人を選ぶのか悪いことに使用したりすると
翌日にはただの石ころになると言われている。
「ほぇ……そんなものがあるのですね」
「そうやで、それを直接もろうたなんて奇跡やで」
「何があったの?」
「僕たちがお庭に入ると、いきなりぱくぱくパックンフラワーが
前からやってきて、葉っぱを差し出しながら鳴いたんです」
まさか……あの鳴き声をだしたのかっ!
凛桜は数日前の出来事を思い出していた。
またお前“きゅーん”って鳴いたのか!!
「きっとお腹が空いているのだと思ったの。
だからクルミを数粒あげたの。
そうしたらこれをくれた」
目をキラキラさせながら妹ちゃんがそう答えた。
以外にも子供にはやさしいのね。
しかしお前、本当に食いしん坊だな……。
シュナッピーの新たな一面を見た気がした。
「シュナッピーがお礼にくれたのなら、その石は
あなたたちのものだよ」
凛桜が優しくそう言うと
二人は嬉しそうにみつめあって、尻尾を左右に揺らした。
せっかく3人が揃ったので!
第1回クリスマスパーティーを開催した。
リス獣人兄妹が、サイダーで作ったフルーツポンチに驚いていた。
あのシュワシュワが初体験だったらしい。
それでも美味しかったのか、2杯もおかわりをした。
ルナルドさんが、ヒューナフライシュの丸焼きを
ぺろりと2羽分を1人で食べてしまった……。
あの細い体の何処に入ったのか?
飲んで食べて、話して、楽しい時間を過ごした。
そして最後に、クリスマスプレゼントを渡した。
お兄ちゃんには、大きな画用紙と36色の色鉛筆セットだ。
絵を描くのが好きだと言っていたからだ。
妹ちゃんには、色とりどりのリボンセットだ。
毎回ここに来るたびに、違う色のリボンを尻尾に
結んでいる、おしゃれ女子なのだ。
二人とも凄く喜んでくれた。
そして大事そうにそれらをぎゅっと胸に抱いていた。
そこにご両親が迎えにきた。
リス獣人の一家は何度も凛桜にお礼を言いながら
嬉しそうに帰っていった。
今日のお土産は、ヒューナフライシュの丸焼きと
クリスマス仕様のアイシングクッキーだ。
ルナルドさんは、クリスマスツリーを見ていた。
「サパンやな。
言うてくれれば、用意したのに。
うちは、色とりどりのを取り揃えているで」
「…………」
サパン、通販できるんだ……。
需要はどこなの?
「ええと確かカタログの128ページあたりやったかな」
凛桜の浮かない顔をみて何を勘違いしたのか
ポンと手をたたいてルナルドは言った。
「あ、養殖やのうて!
とれとれぴちぴちの狩ってきたのがお好みか?」
違う違う、そういう事じゃない。
いや、もういいから。
サパンいらないから。
そのくだりは1回もうやったから!!
「いや、今年はもういらないデス」
凛桜は半笑いを浮かべるしかなかった。
「遠慮せんといつでも言ってや」
「アリガトウゴザイマス」
サパンの注文は何とか阻止できた。
そのあと2人でワインを飲みながら
生ハムやチーズの盛り合わせを食べながら話をした。
そしてそろそろいい時間になったので
帰る前に、クリスマスプレゼントを渡した。
ルナルドさんには、ご当地〇ッキーの詰め合わせだ。
「こんなに種類があるんか!!
最高やな……ええわ……ほんまにおおきに」
そう言って今日イチの笑顔を頂きました。
「ほな、わいからはこれや」
そう言って、リボンがかかった小さい箱をくれた。
「ありがとうございます。
今、開けてもいいですか?」
「あかん!
わいが帰った後にしたって」
食い気味にそう言われた。
き……気になる。
まさか種とかじゃないよね……。
ルナルドさんを見上げると、恥ずかしいのか
金色の髪をクシャっとかきあげて、頬をかいていた。
「ほな、そろそろ帰るわ」
そう言って、きなこ達を撫でて、シュナッピーの葉を掴んで
状態を見てから、颯爽と帰っていった。
もちろん、お土産はヒューナフライシュの丸焼きだ。
かなり好きだったらしく3つ持って帰っていた。
帰ってからも食べる気だろうか……。
以外に大食漢……。
こうして、第1回目クリスマスパーティーは幕を閉じた。
ちなみに、ルナルドさんからのプレゼントは
奇麗な細工が施されたペンダントだった。
しずく型をしたペンダントトップがついており
透明に近い地色の中に、虹色が浮かんでいるような
不思議な色をした宝石だった。
(これって、ルナルドさんが獣耳につけている
ピアスと同じ石だ……)
角度や光のあて具合で、様々な色に変化するのが奇麗で
その日はいつまでもそれを眺めていた。
それが、ウォーターオパールという貴重な石だと
いう事を後で知って驚いた。
着けるのが恐れ多いから、魔王様から貰ったピアスと共に
そっと飾っておくことにしよう。