34.お約束の……
異世界ではローストチキンは、キャンプ飯だった……。
凛桜は、3人にざっくりだが説明をした。
自分の世界には、“クリスマス”という行事があること。
美味しい料理を食べたり、プレゼント交換などをして
恋人や家族や親しい友人と楽しく過ごす日であること。
まぁ、私は仕事に追われて
終電間際に、コンビニ駆け込んでケーキとレジ横の
チキンを買って帰る日々だったけど。
そう言えば、素敵なクリスマスデートをしたのって
いつが最後だったけ……。
そんな事もすぐ思い出せないくらい
あの人とはすれ違っていたのだな。
そりゃ……振られるわな。
ちょっぴりセンチメンタルな気分に陥った。
だからだろうか……
楽しいクリスマスパーティーをこちらの世界でも
やりたくなったのかも。
そんな心のうちの事は、心の奥にしまって……。
クリスマスパーティーのメイン料理が
“ローストチキン”だという事を力説した。
「なるほど、そのような行事があるのだな。
わが国でも“カーニヴァル”があるぜ。
その日は、国民全員が踊って歌って食べて一日中大騒ぎだ」
「楽しそうですね」
「最高に楽しいっス!
屋台もたくさん出るし、イベントもたくさんあるっス。
凛桜さん、今度俺と一緒にいきま……」
ノアムがそう調子よく言いかけたが、信じられないほどの
熱い炎のプレッシャーが背後からせりあがってきたので
そのまま言葉を飲み込んだ。
「カーニヴァルか……いいわね」
凛桜に見えないように、カロスはノアムをうしろから
小突きながら囁いた。
「言葉には気をつけろ、団長に殺されたいのか」
「俺だって可愛い子とデートしたい」
「凛桜さんだけは駄目だ」
カロスの瞳に浮かぶ視線の鋭さに、本気のダメだしだと悟ったノアム。
「っス……」
顔を引きつらせながら、こくりと頷いた。
そんな二人をこっそり横目で見ながら、クロノスは話を続けた。
「で、そのクリスマスパーティーをやるために
鳥の魔獣を調達すればいいのか?」
「そうです。
もし可能ならば、お願いできないかと」
「いいぜ、とびきり美味いヒューナフライシュ
取ってくるぜ」
そう言ってクロノスは豪快に笑った。
ヒューナフライシュ……。
ちょっと怖いけど、お任せしよう。
どうかオーブンに入る大きさでありますように。
あと、普通の配色の生き物でありますように!!
凛桜は密かに祈った。
「でも……変な名前の行事っスね。
クルシミマスって……なんだか物騒っスね」
「…………」
凛桜は耳を疑った。
まさか異世界まで来て、こんなお約束なクリスマス
ダジャレを聞くことになるなんて。
オヨコドンといい、ノアムさんの聞き間違いは
ある種天才だな……。
「クリスマスだ、バカ猫!!」
カロスさんがちゃんとツッコんでくれた。
「ええっ!!」
「先ほどの事といい、本当にクルシメテやろうか?あ?」
からかう様にすごぶるいい笑顔を浮かべているが
若干……牙をチラつかせたクロノスにまで
突っ込まれるノアムだった。
「いや、遠慮させていただきます」
ノアムは、ヒッと顔をこわばらせてしっぽをさげた。
どうやら、チキンの調達は確保できそうです。
この後仕事があるという事で、三人は帰っていった。
今日のお弁当は、この前作っておいた
蟹クリームコロッケを挟んだパン。
ツナと卵を挟んだパンをそれぞれ2つずつ。
副菜に、豚バラレンコンとエビとブロッコリーのガーリック炒め。
デザートに、果樹園でとれたフルーツの盛り合わせをいれた。
それから、数枚だが焼きたてクッキーもつけた。
これはノアムさんたっての希望だ。
「いつもすまない」
そう言いながら、三人のしっぽは嬉しそうに左右に振られていた。
「ヒューナフライシュ。
たくさん狩ってくるから、安心していいからな」
クロノスはいい笑顔でそう言うと、庭の奥へと消えていった。
あまり大量にとってこられても困るけどな。
しかもまた、“キングヒューナフライシュ”とかも
きたらどうしよう……。
凛桜はそう思いながらも、いい笑顔で手をふりかえした。