33.判断基準は何?
田舎暮らしを始めて36日目。
昨日はかなり衝撃的な日だった。
朝起きて一番に、シュナッピーを見に行ったら
呑気に寝ていた……。
奇麗に土から生えている……。
「…………」
元気だということで、よしとしよう。
あの後、動揺しながらも
クリスマスパーティーに向けての作り置きは作った。
そのおかげで作業もだいぶ進んだけれども……
あとは、メインのチキンよね。
どうやって調達しようかしら。
そんなことを思いながら、クリスマスオーナメントにみたてた
アイシングクッキーを焼いている時だった。
「こんにちは」
「ちわっス」
カロスとノアムの二人が庭の奥から姿を現した。
「こんにちは」
「相変わらずいい香りがするっスね。
さてはこの香り……お菓子っスね」
ノアムは鼻をひくひくさせながら、しっぽを揺らした。
「正解です。クッキーを焼いています」
「クッキー!!」
ノアムは獣耳をピコピコ揺らして目を輝かせた。
「ところで、食中魔界植物が開花したそうですね」
カロスが少し興奮したように言った。
「そうなんですよ。
ぱくぱくパックンフラワーの原種だったようです」
「団長に様子を見て来いと言われたのですが
どこに植わっていますか?」
「ん?
カロスさん達がいらした方の隅にいませんでしたか?」
「えっ?」
二人は顔をみあわせて首をかしげた。
どうやらいなかったらしい……。
(まさか、また脱走したのか!?)
その時だった、ノアムめがけて何かが飛んできた。
「わっ!」
間一髪でその物体を避けた。
さすがにゃんこ、身体能力が高い!!
じゅっと音を立てて、花壇のレンガの一部が焼け焦げた。
「シュナッピー!?」
目がバキバキになり、葉っぱを鞭のようにしならせた
シュナッピーが、ノアム達をロックオンしていた。
いや……ノアムさんのみをロックオンしていた。
「ギョロロロロロ!!」
威嚇するように甲高く鳴くとさらに連続で“高濃度の酸爆弾”を
ノアムめがけて吐き出した。
「なんで俺だけなんっスか」
器用によけながら、中庭を逃げ回るノアム。
「シュナッピー、やめて!
ノアムさん達……いや、ノアムさんは敵じゃないから」
叫ぶように凛桜は言った。
「ギョローロ」
その言葉に一瞬動きを止めた。
そして改めてノアムをみつめると首を振った。
そして……また高濃度の酸爆弾を吐こうとした時だった。
ごうぅぅぅぅ……と
大きな火の玉がノアムとシュナッピーの間を通過した。
「相変わらずやんちゃしてるようだな?あぁ?」
かなり凶悪な笑顔をうかべたクロノスさんが登場した。
するとシュナッピーは先ほどの態度が嘘のように
しゅんとして大人しくなった。
「クロノスさん……よかった」
凛桜は胸を撫でおろした。
これ以上暴れられたら、庭が壊れる!!
「団長、なんでこいつ俺だけを敵視するんっスか……
カロス副団長には何もしないくせに」
その言葉にカロスは苦笑するしかなかった。
「…………」
不満げに頬を膨らましながらノアムはシュナッピーを睨んだ。
するとシュナッピーも威嚇するようにポーズを取った。
「おそらくだが、自分と同じレベルかちょっと下だと
お前思われているぞ」
その言葉に、カロスは口に手をあてて笑いをかみ殺していた。
「カロス副団長……ひどいっス」
ノアムは獣耳をぺたりと下げてしょげていた。
「ククク……すまん……。
いや、食中魔界植物は本能で相手の強さを見極めると
きいていたが、本当のようですね」
「だからと言って、ノアムが弱いということではないぞ。
このシュナッピーが規格外すぎるのだ。
こいつが本気になれば、小隊一個分は軽く屠れるだろうな」
「……えっ……」
そうだぞ、俺様すごいだろ?
くらいのドヤ顔をシュナッピーはきめていた。
それが気にくわなかったのだろう、また二人は睨みあった。
「ぜってぇ、お前より強くなるからな!」
シュナッピーはそんなノアムの言葉にニヤリと笑うと
そのままいつもの定位置に自ら戻っていった。
「あいつもう……
自由に動けるようになったんだな、早いな」
その様子を見守っていたクロノスが、感慨深げにつぶやいた。
なんなのその感想。
はじめて自分の子がハイハイしましたみたいな感じに
聞こえてしまうのは、気のせいだろうか。
「ひと段落ついたようなので、お茶にしませんか?」
凛桜は、三人にそう提案した。
ノアムさんが男をかけた一戦を交えたせいで
小腹が空いたというので……
肉まんとあんまんを出してみた。
「うまっ!
この皮がモッチモッチなのがたまらないっス」
そう言ってすでに5個めをたいらげていた。
「少しは遠慮というものが、ないのですか?」
呆れたようにいいながらも、カロスさんは再びあんまんに
手を伸ばしていた。
以外にカロスさんは甘党……。
「まだたくさんあるので、遠慮なく食べてください」
「っス!!」
満面の笑みを浮かべながら、しっぽを嬉しそうに揺らした。
そんな中、凛桜は思い切って聞いてみる事にした。
「クロノスさん、いきなりなんですけど……
食べられる鳥の魔獣っていますか?」
「ん?」
唐突な質問にジャスミン茶を飲む手が止まった。
「それは、凛桜さんが飼っているような通常形態の
あんな感じの大きさの鳥の事か?」
(あれ以外の形状の鳥がいるのかしら)
凛桜はちょっぴり怖くなった。
「えぇ……普通の鳥というか……。
こういうものを作りたいと思っていまして」
凛桜は、絵として見せた方がイメージが湧くと思い
レシピ本の“ローストチキン”のページを見せた。
「なるほど、鳥の丸焼きだな」
カロスとノアムも覗き込んで意外そうな表情をしていた。
「俺たちもよく野営の時に、小鳥の魔物を捕まえて
そのまま焼くが……
凛桜さん、わざわざそんな料理を作るのですか?」
そう言って不思議そうに首を傾げた。
「戦場めしっスよ、これ」
「まぁ、野性的な豪快料理といえばそうよね」
「これくらいの鳥の魔獣なら、すぐに用意できるが
なぜこのようなものが欲しいのだ?」
クロノスも不思議そうにしていた。