表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/215

3.獣人の国

男は庭の真ん中で腰を角度90度に折り頭を下げていた。

頭にはコブ……顔には青痣が出来ていた……。


凛桜の攻撃をまともに喰らった成れの果てだった。


「本当にすまなかった。

お嬢さんの御父上と母上だったんだな。

それを食わせろなんて、失礼した」


「いや、違うから。

家族ってそういう意味じゃないから!!」


「えっ?」


男は目を見開いて固まった。


「どこをどう見たらそんな間違いをするのよ」


「犬獣人の一家じゃないのか?」


そう言って男は首を傾げた。


「違うから、私は人!!

きなこ達は、普通の柴犬だから!!」


「そうなのか、重ね重ねすまない」


男はあからさまに目を泳がせていた。


と、ぐぅぅぅぅぅぅ~

盛大な腹の虫が辺りに響き渡った。


「腹へったぁぁぁあ……」


男は情けない声と共にその場にへたり込んだ。





物凄い勢いで、男の口の中に巻き寿司が放りこまれる。

アサリの味噌汁にかんしては、もう5杯目だ。


「うまいな……この巻き寿司ってやつは。

初めて食べるものだが、とまらない。

この茶色いスープもうまい」


そう言いながら、いまは稲荷ずしを頬張っている。


あまりにもかわいそうになったので……

昨日の残りのご飯を急遽振舞ってみた。


「この魚介のフライもうまいな。

シュリンピオンだろ、これ。

よくこんな森の中で手に入れたな……」


そういいながら、天ぷらもほとんど食べつくしていた。


「エビの天ぷらが好きなんだ。

まだあるけど食べる?」


「いいのか?」


目をキラキラさせて尻尾を嬉しそうにふった。



3人分はあっただろうか、それを綺麗に平らげて

今は満足そうに麦茶を飲んでいる。


落ち着いたのだろう、改めてしげしげと凛桜をみた。


「しかしめずらしいな………

お嬢さんは純粋な人だろ。

どうしてこんな森に一人で住んでいるんだ?」


「…………」


その件に関しましては、私が一番聞きたいところです。


「うちの国は、人はほとんどいないはずなのだが……

いたとしても王都に数十人いるくらいだ」


男は不思議そうな顔をしていた。


「えっ?もしかして……」


(人が迫害とかされていたりする?)


凛桜の顔色を見て悟ったのだろう、男は慌てて訂正した。


「そういう事じゃない。

我が国は獣人の王国だ……。

まだあまり人の国との交流がない。

人の国は、はるか遠い所にあるんだ」


「そうなんだ」


「だからお嬢さんが人だという事に驚いたというか……

訳アリか?」


心配そうに凛桜の顔を覗き込んだ。


(訳アリといえば、訳アリですが……)


なんと答えていいか考えあぐねていた。

おそらくこの男は危険な男ではないのだろう、たぶん……。


きなこ達も今ではすっかり懐いている。

動物はそういう事に敏感だというから安心していいだろう。

なんせこの二匹は何度も、じいちゃんのピンチを救っている。


1回目は、家に侵入しようとしていたコソ泥を捕獲。

2回目は、野菜泥棒を捕獲。



かなりやりてなワンコたちだ。

それ以上に、じいちゃんの武勇伝はヤバいが多くは語りますまい。


凛桜が難しい顔で黙っていたからであろう……。


「まぁ、色々あるからな。

困った事があったらいつでも行ってくれ。

俺たちはこの森の管轄だからな」


そう言って頭をかきながら、照れた笑顔で微笑んだ。


「ありがとうございます」


「おう……」


そのまま二人で、縁側でどら焼きを食べながら過ごした。

しばらくして男は、腰をあげた。


「おかげで命拾いした、ありがとな。

一応……魔獣が入ってこないように家の周りに

簡易的だが結界を張っておいた。

また切れる頃にくるぜ」


(えっ?結界!?

それにまた来るんかい!)


凛桜は正直うんざりしたが、黙ってうなずいておいた。


静かに暮らしたいのですが……。

NO!魔獣 NO!異世界人!


「じゃあな、ちゃんと戸締りするんだぞ。

しらない男を家にあげるなよ」


お前がいうな、お前が!!


「ワン公、お嬢さんを頼むぞ」


きなこ達を優しく撫でながらそう言った。


「ワンワン!!」


きなこ達も嬉しそうに周りを飛び跳ねながら吠えている。


男が庭の奥へと帰ろうとしていたので凛桜は呼びとめた。


「あ、ちょっと待って」


「ん?」


「これ、すくないけどお弁当。

途中でお腹がすいたら食べて。

入れ物は竹という植物で編んだ入れ物だから

捨てても自然に帰るものだから、安心して」


そう言って、おにぎりを3つ(シーチキン・梅・おかか)に

卵焼き、から揚げ、鮭、プチトマトなど定番の具材をいれた

お弁当とデザートにどら焼き2つ。

そして麦茶をいれた水筒を渡した。


「いいのか!?」


男は目を輝かせて、嬉しそうに獣耳をピコピコさせた。


「うん、気を付けて帰ってね」


そう告げて手をふった。

と、何故か顔を真っ赤にして男は固まった。


「妻がいるということはこんな感じか……

これは部下たちが言う様にたまらんな……」


そうボソッと呟いていた。


「えっ?」


「あ、いや、なんでもねぇ。

本当にありがとうな」


そう言って男は慌てるように薮の中へと消えた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ