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29.ご乱心ですか?

田舎暮らしを始めて33日目。



今日は朝から雨がしとしと降っていた。

野外活動ができないから、何か作り置きでもしようかな。


その前に、例のあの子の様子を見に行かないと。


凛桜は長靴を履いて、傘を差しながら現場へと向かった。


(特に1ミリも変化はなし……と)


あんなにも急激に成長したくせに、蕾をつけた時から

変化なしだと!?


苞も全くどこも開いてないし、大きさも変わらないな。


「…………」


このまま見守りますか。



雨の為に外に出られない黒豆達は、縁側から恨めしそうに

空を見上げていた。


犬って意外に水が嫌いよね。

肉球が濡れるのも極端に嫌がるし……。


かといって、犬用の雨合羽を着せようとしたけれど

二匹とも断固拒否だった……。


かと思えば急に水溜りにダイブして、泥んこだらけになって

はしゃいだりもしたりする。


まぁ……そんなところも可愛いのだけどね。


時間はたっぷりあるから、ちょっと凝った料理に

挑戦しようかしら。


蟹クリームコロッケとか作っちゃおうかしら。

確か蟹の缶詰があったはず!


さっと材料の確認をすると……

凛桜はさっそく割烹着を装着して調理を開始した。


「まずは、フライパンに油をいれて熱し、玉ねぎを炒める。

隠し味に砂糖を少々いれたりもする。

透き通ってきたら蟹をほぐしたものをさっと炒めてから

白ワインを加えて水分が飛ぶまでよく炒める」


んーこれだけでもいい香りがしてきた。

きなこ達も鼻をピクピクさせているのが可愛い。


次はホワイトソース作りだ。

これがまた以外に繊細な作業なのよね。


はじめの頃は焦がしたり、粉っぽくなったり

かなりうまく作れるようになるには失敗を重ねたわ。


「鍋にバターを入れて溶かしたら、一旦火を止めてから

強力粉を加えて、よく混ぜる」


再度火にかけてから、弱火で焦がさないようにゴムベラで

時々混ぜながら5分くらい加熱する感じかな。


「おっ……さらっと滑らかになってきた。

ここで牛乳を少しずつ投入。

ほんの気持ち生クリームを入れるのもありかな」


後は少し煮て塩、コショウで味を調えたら出来上がり。

ここに炒めた玉ねぎと蟹をいれて、

粗熱がとれたら冷蔵庫で2~3時間冷やす。


今日のランチは本格的な洋食屋さんメニューで行こう!


そう思いテーブルセッティングを始めていると……

中庭にその人は唐突に現れた。


「ん?」


何故か雨がその人を避けているかのように

この土砂降りの中、全く濡れないでその人は佇んでいた。


「魔王様……」


凛桜が驚いたように呟くと、魔王様はこちらに視線をなげた。


「久しぶりだな……元気だったか?」


少し疲れたような声で魔王様はそう言った。



凛桜はそのまま家の中に招いて

魔王様にホットワインを出した。


「温まるな……」


そう言いながら魔王様は一口飲むとほっと息をついて目を細めた。


こころなし顔色も悪い気がする。

目の下にうっすらとクマが浮いている……。


「お忙しいのですか?」


凛桜は心配そうな表情を浮かべながらも恐る恐る伺った。


「そうだな……。

最近()()()()()が煩い。

掃っても掃っても次から次へと湧いて出てくる。

実に忌々しい……」


(相変わらず魔獣達との戦いを繰り広げられていらっしゃるのね。

きっとコウモリさんの気苦労も絶えないのだろうな)


あれ?


そういえば、何故か肩にはいつものようにコウモリさんがいない。


「今日は、コウモリさんは一緒ではないのですか?」


「ん……。

雨の日はどうも調子がでないようでな……」


そう言えば、コウモリは雨に弱いって聞いた事がある。

羽が濡れると体力も倍以上消費する上に……

超音波の効き目が落ちるっていってたな。


というか、そもそも論だけれどもコウモリさん……

本当にただのコウモリなのだろうか?


魔王様の右腕のような存在のようだし。

実は本体は、コウモリの獣人だったりして……。


ま、これ以上本人が話さないのに

詳しく聞くのも野暮なので黙っておこう。


そんな事を考えていると、魔王様がジッと私を見ていた。

なんだろうと首を傾げると、魔王様は微かに微笑んだ。


「相変わらず料理を作っているようだな。

このような見事なテーブルセッティングまでおこなって……

本当にここは洋食屋ではないのか?」


「雨の日だったので、ちょっと凝った料理を作ろうと思いまして

そうしたら、なんだか本格的に店のようにやりたくなってしまい

このような状況になった次第で」


凛桜は恥ずかしそうに頬を掻いた。


「おしいな……。

ここが本当に店ならば毎日でも通うのに……。

そうすれば理由をつけなくても凛桜に会いに来られる」


そう言いながら魔王様は、何故か凛桜の横に座ってきた。


そしてそのまま軽く口角をあげて、クスっと笑うと

凛桜の頬の輪郭を確かめるように撫でた。


「ひゃ……っ」


(ひぃやぁぁぁぁ、大人の色気が凄い……

急に名前を呼び捨ての上に、頬なでられたぁぁぁぁ)


凛桜は赤面するしかなかった。


「いや……他のものに食べさせるのも勿体ない話だ。

いっそうの事……私だけのものにするというのも

また一興か……」


魔王様は、思案するように顎に手を当てながらも

たいそうあくどい表情でニヤリと笑いながら見つめてきた。


「ご……ご冗談を……」


凛桜は顔が引きつるのが止まらなかった。


今一瞬、本気の魔王が顔を出していたよ!!

ストッパーのコウモリさんがいない分、たちが悪いわ!!


「冗談かどうか確かめてみるか?ん?」


ますます悪い顔になり、凛桜の顎を優しく掴んだ。

美しい赤い瞳が怪しく光った気がした……。


「魔王様!!」


凛桜は、面食らってそのまま固まった。

どうしていいかわからず目をしろくろさせていた。


(一体どうしちゃったのだろう、魔王様がご乱心だわ)


「凛桜……」


たぐいまれなほど美しくて恐ろしい美貌の持ち主に

甘い声で名前を呼ばれて、いっそう凛桜は固まった。


(えっ?えぇぇぇぇ?ん??

どういう状況なのこれ……)


これはまずい……。


魔王様は凛桜の顎をつかんだまま、顔を近づけてきた。


「ひぃやぁっ!!」


何をされるのかを察した凛桜は奇声をあげた。


と、突如として魔王様は笑い出した。


「ククククク……相変わらず正直な人だ。

そんなに目を丸くして見開いたら、目玉が零れおちてしまうぞ。

ククククク……」


目尻に涙まで滲ませての大爆笑だった。


(そこ?笑う所?)


「すまない……冗談だ。

つい面白くなってしまってな……辞め時がわからなくなった。

ククククク」


ちっとも悪びれる様子もなくそう言い放った。


「あんまりじゃないですか。

質が悪すぎますよ!

出禁にしますよ……まったく……」


凛桜は盛大に顔を顰めて、魔王様に抗議をした。


「そう怒るな。

凛桜の料理を食べられなくなったら、私は死んでしまうぞ。

そうなると凛桜が勇者になって、今度は私の後の魔王から

命を狙われることになるぞ、それでもいいのか?ん?」


そう言うとにんまりと人の悪い笑みをうかべた。


(どういう脅しですか……全く……この人は)


「ところで、今日のランチメニューはなんだ?

そろそろ食べたいのだが……」


(この流れでご飯食べて行く気なのか、この人!!)


凛桜は思いっきり睨んだが、魔王様はどこを吹く風と言う表情で

肩をすくめていた。


駄目だ……もうご飯を食べて早く帰ってもらおう。

凛桜は腹を括った。


「蟹クリームコロッケです。

今から作りますから、座って待っていてください」


「うむ……」


魔王様は、頷くと席に着こうと立ち上がった。


「飲み物は白ワインの辛口でいいですか?」


そう言って凛桜が振り返ると……

魔王様は、かくんと急に腰がぬけてその場にへたりこんだ。


「…………魔王様!!」


凛桜はすぐに駆け寄ると支えようとしたが

魔王様はかなりの高身長な上にガタイのいい男だった。


なので支えられるはずもなく……

そのまま二人して床に倒れこんでしまった。


「……ったぁ……」


思いっきり下敷きにされている。

魔王様は、相変わらず動かないままだ。


なんとかして下から這い出て、そのまま魔王様を引きずって

隣の和室まで運んだ。


どうやら熱の為に倒れたらしい。


顔が真っ赤だし汗も凄い……。

悪寒がするのだろう、体も震えていた。


魔王様が変だったのは、もしかして熱のせいだったかもしれないな。

身体と思考が限界に来ていたのかも……。


凛桜は魔王様に、布団をかけてからおでこに冷えピタを貼ってあげた。


ひとまず熱が下がるまで様子をみますか。




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