28.もう一度言ってもらってもいいですか?
田舎暮らしを始めて32日目の午後。
カロスさん達に例の植物を見てもらった。
なにやら訳アリの植物らしい。
2人の困り顔がそう物語っている……。
「凛桜さん、これをどちらで手にいれました?
まさか自然発生とかはありませんよね?」
カロスは植物の葉を触りながら、蕾も確認していた。
「はい、どうやら祖父が商人さんに注文したようで」
「特別注文品っスか……それならまぁ」
またしても2人して意味深な目配せをして頷く。
凛桜はそんな様子に焦れて、カロスに詰め寄った。
「驚かないから、何か教えて。
このまま何も知らずに育つのがちょっと怖いの。
かといって放棄できないし……。
祖父が生前最後に注文した、思い入れのあるものなのよ」
カロスは凛桜の肩をやんわりと押さえると言った。
「落ち着いてください……。
大事なものだという事は承知しています。
断定はできませんがおそらくこれは……」
凛桜はごくりと息をのんだ。
「食中魔界植物かと……」
重々しいカロスの声音に、凛桜は再び息を飲んだ。
「食虫って……
植物だけれども“虫を食べる”というあれですか?」
茎や葉などが捕虫器官になっており、昆虫や動物プランクトンを
おびき寄せて捕らえ、消化する能力を持つ植物のことよね。
「いや……虫ではありません。
主に魔獣を食べる植物です」
「魔獣!?」
凛桜はあっけにとられていた。
「魔獣を食べると言っても、それだけを食べているのではなく
雑食だという証言もありますし……
そうかと言えば、グルメな種もいると聞きます」
じいちゃん……
なんでそんな物騒なもの買ったのさ……。
凛桜は若干苛立ちが込み上げてきたがぐっと飲み込んだ。
しかし次の瞬間、その感情を一瞬にして吹き飛ばすような
信じられないワードが耳に飛び込んできた。
「この様子からすると……
もぐもぐゴックンフラワーの一種っスかね?」
蕾の形状をまじまじとみながらノアムが呟いた。
「いや、この大きさからすると……
ぱくぱくパックンフラワーの可能性も捨てきれない」
カロスは無造作に蕾を掴んだ。
(はいっ?)
「どちらにしろ……
温室育ちというよりか、原種に近いようだな……。
これはかなり難しいぞ……」
「そうっスね、こんな大きな蕾は見た事ないっス」
二人は植物の前で、お互いの意見をだしあって思案していた。
(待って、その前に聞き捨てならないワードが聞こえたよ!)
「えっと……
あの……今なんとおっしゃいましたか?
もう一度言ってもらってもいいですか?」
「恐らく原種だと……」
カロスさんが至極まじめにそう答えた。
「いや、そうじゃなくて……?
この植物の名前……」
「あぁ、もぐもぐゴックンフラワーっスか?」
「そう!それ!
ツッコまずにいられないふざけた名前!!」
「何かおかしい所があったでしょうか?」
二人は凛桜のツッコミに首をかしげた。
(本気か……
浸透しすぎていて、誰もこの名前に疑問を持っていないだと!)
凛桜は目を剥いた。
「他にも……
ぱくぱくペロリンチョフラワーとかもいるっスよ」
ノアムは楽しそうにそう言って笑った。
「冗談ですよね?」
凛桜は縋る様にカロスを見つめたが……
カロスは真顔で首を振った。
「………………」
(本当にあるのかいっ!
もう何が来ても驚かないぞ!)
結果、これは“食中魔界植物”だという事は判明した。
種類は未定……。
おそらく原種……。
カロスさん達がいう事には……
主に魔獣から身を守るために植える植物との事だった。
じいちゃんも防衛の為に買ったのかしら?
いや、あの人の性格からいうと興味本位で購入だな。
実際に、王城や騎士団官舎や魔法学校の死角部分などに
植えられているらしい。
種類によるが、中型犬くらいの魔獣はもぐもぐできるとの事。
ちょうど黒豆達くらいか……。
大丈夫かしらあの子達、食べられちゃったりしないかしら。
ただし、かなり知能が高い植物らしく……
主と認めなければ枯れてしまうか、どこかに移動して
いなくなってしまうらしい。
だから、王城などには専任の担当者がいて……
日々お世話をしているとの事だった。
それもほとんどが原種を掛け合わせて作られた
温厚な性格の“ぱくぱくパックンフラワー”だそうだ。
それじゃあ原種はどうなの?
かなり暴れん坊的な感じなのかな……。
懐いてくれるかな……。
ってこの感情正解なの?
因みに……
“ぱくぱくパックンフラワー”は、オス株。
“もぐもぐゴックンフラワー”は、メス株。
1年に1回、婚期という時期があり
その中で受粉して、だいたい1~2個あたりの種をつける
かなり繊細な植物だと教えられた。
そう簡単には、受粉しないらしい……。
植物なのに好みとかあるのかなぁ。
ルナルドさん……手に入れるのが大変だっただろうな。
しかも原種ならなおさらだよね。
かなり熾烈な戦いを繰り広げて手にいれたのかしら。
それをお稲荷さんと〇ッキーとの交換でよかったの?
割にあわないと思うのは私だけ?
と、凛桜が1人脳内会議を開いていると……
「蕾が膨らんで、花が開くと角も見えてきますから
そうしたらどちらか判明しますよ」
またもやカロスさんが爆弾発言をぶっこんできた。
「角……」
「大きな角1本ならオス株っス。
小さい角が2本ならメス株って覚えていれば間違いないっス」
ノアムが獣耳をピコピコさせながらいい笑顔でそう言った。
「注意してみてみる……」
凛桜はその言葉に、葛藤しながらも頷いた。
もうすべて受け入れるしかなかった。
ひとまず何かはふんわりだけど判明した……。