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25.打ち明けてみた

田舎暮らしを始めて28日目の午後。



クロノスは干し柿を美味しそうに頬張っていた。


「うまいな……。

カーキモーネがこんなにしっとり甘くなるのだな」


そう言いながら5つめに手を伸ばしていた。


「フフフ……よかった。

とても美味しくできたからクロノスさんと一緒に

食べたかったの」


そう言って凛桜も隣で美味しそうに干し柿を齧った。


その言葉が嬉しかったのだろう。

クロノスは溶けるような眼差しで凛桜を見つめながら


「俺も凛桜さんと一緒に食べたかった」


そう言って二人で微笑みあって笑い合った。




「演習にも持っていけそうですね」


カロスさんは干し柿をまじまじと観察していた。


「…………うまっ……」


その横で黙々と食べているノアムさんがいた。


二人は少し遅れてやってきた。

どうやら一仕事片付けてきたようだ。


どうせ真実を話すのなら、三人に話そうと思い

クロノスさんを通じて二人にも同席してもらった。


「どこから話したらいいのかな……」


凛桜は緊張の為、冷や汗をかいた手を握りこんだ。


「凛桜さんの話せる範囲でかまわない」


そう言ってクロノスは労わる様に凛桜の手を握った。


「ありがとう……」


そんな二人の甘酸っぱいやり取りに、後の二人は

目のやり場に困りながらも次の言葉を待っていた。


凛桜は息を大きく吐いて呼吸を整えてから

意を決して話始めた。


「驚かないで聞いてね。

実は……私は()()()()()()()()()()の……」


それから凛桜はできるだけ簡潔に自分の状況を語った。


祖父の代から家ごと別の世界からこの世界に転移する事。


その現象はいつ起こるかわからず、期限も決まっていない事。

そして時間の流れも若干違う事を告げた。


自分の住んでいる世界には、魔法もないし魔獣もいない

ましてや獣人や魔族もいない事を告げた。


だからこの前も何の前触れもなく……

急に元の世界に帰ってしまったのだと説明をした。


「………………」


三人は面食らって唖然としていた。


まぁそうだろう……。

逆の立場だったら私だってそう思う。


カロスとノアムに至っては終始ぽかんとしていた。

驚きの許容範囲を超えてしまったのだろう……。


そんな中、難しい顔をして何かを考え込んでいる

クロノスは、しばらく無言だった。


「信じてくれるかな?」


「……ああ、まぁまだ心の整理はついてないが

凛桜さんがそんな突拍子もない嘘をつく人では

ないことぐらいはわかる」


大丈夫だ信じているとクロノスの瞳がそう言っていた。


「そんなおとぎ話みたいな事があるのですね」


「凛桜さんは異世界人だったんスね」


カロス達も同意するようにそう言ってくれた。


凛桜は思っていたよりも3人があっさりと話を

信じてくれたことに戸惑いながらもどこかほっとしていた。


「という事は、またいつ何時……

凛桜さんは忽然と消えてしまう事があるのだな?」


クロノスはなんとか動揺を収めようとしていた。


「そうなの……。

もしかしたらこの後すぐにまた帰ってしまうかもしれないし

はたまた5年後かもしれないし、それはわからないの」


凛桜は困ったように微笑んだ。


「だからこの家と私が消えても心配しないで……」


「それはできない!

凛桜さんのいない世界なんて……」


クロノスが泣きそうな顔で言葉を遮った。


「クロノスさん……」


「凛桜さん……」


焦がれるような熱を孕んだ琥珀色の瞳に真剣に見つめられ

凛桜は柄にもなく心の底からときめいた。


「団長……」


カロス達も痛ましそうにクロノスと凛桜を交互にみた。


あんなにも真剣に私の事を探してくれていたっていうし

こんなにも情熱的に言葉にしてくれるなんて……。


クロノスさんもしかして……。

軽く停止状態だった凛桜の恋心に火が灯りそうになった。


しかし次の瞬間……


「俺は……俺は……

()()()()()()()()()()()()()()……だから……

この場所がなくなったら困る……」


「んっ?へっ?ご飯……」


凛桜はその言葉に目を剥いた。


「はい?」


カロスは信じられないと言う様に目を丸くしていた。


「マジか?」


ノアムは、何を言い出すのだこの人は……

という呆れた視線を投げかけながら軽くドン引きしていた。


(そうじゃないだろ!この流れは……。

凛桜さん凄い顔になっているし……。

この人本当に恋愛に関してだけはダメダメだな……)


部下の二人は内心頭を抱えていた。

上司じゃなかったらどつきまわしていた事だろう。


「どうした?」


全くわかっていないクロノスは首を傾げていた。


凛桜は体の奥からふつふつと怒りが湧き上がって

くるのを感じていた。


少しでもときめいた私がばかだった。

ご飯が目的かよ!!


冷めた目でぐっとクロノスを睨んだ。


「だから……

うちは定食屋じゃないと言っているでしょう!!」


凛桜のキュンバロメーターは一気にゼロに下がった。

いや……むしろマイナス100にだだ下がりになった……。


「えっ?

なんでそんなに怒っているんだ?」


クロノスは驚いたように目を見開いた。


そんなクロノスの様子に埒があかないと思ったのだろう。


「本当に申し訳ございません。

どうも団長は言葉が足りないようで」


何故か冷や汗をかきながらカロスさんが

心底申し訳なさそうに謝ってきた。


「団長……あれはないっス……

流石の俺でもフォローできない案件っス」


ノアムも眉根をよせて肩をすくめた。


「一体どういうことだ?」


クロノスはあからさまに目を泳がせていた。


「これ以上、状況を悪化させないでください。

今日のところはお暇しますよ!」


カロスが腕を掴んで引きずる様に立ち上がらせ

そのまま玄関へとむかった。


「凛桜さんの事情はわかりました。

言いにくい話をして下さりありがとうございました」


そう言ってカロスは再び頭をさげた。


「凛桜さん、何かあったら遠慮なく言って欲しいっス」


ノアムも尻尾をゆらしながら悪戯っぽい笑顔で微笑んだ。


「ありがとうございます」


「なんでお前らが俺を差し置いてそんな事を」


クロノスは二人に対してムッと頬を膨らませて抗議をした。


「いいから、帰りますよ」


カロスは有無を言わさずそのまま玄関の外へ押しやった。


「また、来るからな」


クロノスはなんとか振り返りそう叫んだ。


「…………」


そんなクロノスを凛桜はジト目でみつめていた。




その帰り道……。


「団長なんであんな事言ったんスか……」


「あんな事ってなんだ?」


「あれじゃあ、凛桜さんのご飯だけが

目当てのようにきこえましたよ。

言葉が足りなすぎます!!」


呆れて物も言えないと言わんばかりの表情で

カロスがツッコんだ。


「それとも本当にご飯だけが目当てなんスか?

それなら俺が凛桜さんにアタックしてもいいっスよね?

凛桜さんは綺麗なうえに飯もうまい。

他の仲間たちにもかなりファンが多いっス」


冗談めかして軽くノアムがそう言うと……

信じられないくらいの炎気が辺りを包んだ。


「あぁ?」


牙を剥きだしながら全身から威嚇する魔力を発する

クロノスがそこにはいた。


その圧に思わず息を飲む二人だった。


(そんなに怒るくらい誰にも渡したくないのなら

なんでそれを言葉にできないかなこの人……)


「ご飯だけが目当てな訳がないだろう……。

凛桜さんは俺の…………」


そう途中まで言うと今度は、急に真っ赤になって狼狽えた。


「…………」


部下二人の冷ややかな表情を目の当たりにして

初めて自分の状況を悟った。


「俺……やっちまったか……」


クロノスは頭を抱えて情けない声をあげた。


「がっつりとやっちまってるっス」


「…………」


カロスは気まずそうな顔で頷いた。


それから数日……

今度は違う意味でやつれている団長がいたとか……。




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