23.最高のメッセージ!?
田舎暮らしを始めて27日目。
今日からまた異世界スローライフが始まる。
布団から出て、思いっきり伸びをしてから……
いつも通り雨戸を開けた。
今日も天気がいいな……空気も美味しい!!
などと思いながらそのまま目線を上から下にさげた。
「ん…………?」
「………………」
「……………」
中庭にかなり大きな者が2つ鎮座ましていました。
(何このデジャブ感……)
巨大白蛇と小ぶりの白蛇の2匹が蜷局をまいたまま……
鎌首をもたげて凛桜をみつめていた。
「おはようございます?」
何故か疑問形になってしまったが挨拶をしてみた。
(何度見ても一発目は心臓に悪い……)
「ようやく戻ったか……。
息災であったか?
随分と長い里帰りだったな。
肉食獣がえらく心配して、森を駆けずりまわっておったわ」
巨大白蛇さんは、その様子を思い出しているのだろうか
目を細めながら楽し気に口角をあげた。
(こ……この方知っていて、楽しんで見ておられたのか
クロノスさんもエライ人から目をつけられちゃったな)
驚きと戸惑いの表情で白蛇達を見上げていたが
我に返った凛桜は、ぎこちない笑顔で微笑んだ。
「元の世界に帰ったことをご存じでしたか……」
「あぁ、お前の気配がある時から全くなくなったからな」
何を当たり前の事を聞いているのだというように
尻尾を左右に揺らした。
「そ……そうですか」
そこにまた一回り大きくなった白蛇ちゃんが
待ちきれないように、凛桜に優しくだが体当たりしてきた。
「凛桜……あいたかった……」
そういうと軽く体に巻き付きながら、顔を頬に摺り寄せてきた。
「白蛇ちゃん、また大きくなったね」
「凛桜……」
傍からみたら襲われているようにしかみえない状況だが
二人は再会を喜んでいた。
今日の朝ご飯は、卵料理づくしだ。
巨大白蛇さんは今回も凛桜に気を使って……
いやご飯が食べやすいからだろうか、人型になってくれている。
白蛇ちゃんはこの前は、三歳児くらいの見た目だったのに
今は可愛らしい少年の姿になっていた。
推定年齢10歳くらいだろうか……。
さすが異世界の蛇さんだ、成長が早いな。
こうしてみると本当にこの二人は親子だ。
目元とか……ふと笑った時の表情とか似ている……。
美形親子!!
嬉しそうに卵料理を頬張っている姿をみながら
凛桜はしみじみそう思っていた。
因みに今日のメニューは……
白米、卵焼き、肉巻き半熟卵に卵とトマトの中華風炒めに
レンジで簡単茶碗蒸し、デザートに蒸しカステラだ。
白蛇ちゃんには、オムライスを作ってあげた。
出来上がると凛桜はケチャップを片手に悩んでいた。
最後の仕上げのアレを描くか悩んでいたのだ。
「どうかしたのか?」
巨大白蛇さんは、凛桜のその様子に首を傾げていた。
「いや、なんて描こうかなって思いまして」
凛桜の世界で、オムライスの上に文字を描いて出す文化が
一部あることを説明した。
中には兵がいて、素晴らしい絵を描いたりするほど
かなり色々な事が出来る事などを語った。
「ほう……それは興味深いな……。
なんでも描いていいのだな……」
巨大白蛇さんはニヤリと笑った。
「白蛇ちゃんは何か書いて欲しい事はある?」
それを聞いた白蛇ちゃんは真剣に悩んでいた。
が、やがて凛桜の顔をみて恥じらう様に頬を染めて
上目づかいで言った。
「恋人同士はどんな事をかくの?」
「ん……?えっ?」
まさかの白蛇ちゃんの問いに凛桜は一瞬言葉につまった。
「そ……そうね……恋人同士ならば
ハートという記号や好きな気持ちを書いたりもするけれど
基本的には何を書いてもいいのよ」
凛桜までつられて赤くなり、なんだかしどろもどろの説明に
なってしまった。
「じゃぁ……“凛桜大好き”って書いて」
自分でそう言った本人の癖に白蛇ちゃんは……
耳元まで真っ赤にそまっていた。
元々透けるように肌が白いために
頭のてっぺんからつま先まで赤くなっているようだった。
「…………」
凛桜は目が点になった。
「ハハハハハッ……
我が息子はなかなかやりよるわ」
1人巨大白蛇さんだけが豪快に笑っていた。
「だめ?」
心配そうに凛桜の顔を覗き込んできた。
「ううん……いいよ。
嬉しい、私も白蛇ちゃんのこと大好きよ」
そう言って凛桜は優しく白蛇ちゃんを抱きしめた。
「僕も大好きだよ」
そう言って凛桜の背中に手を回した白蛇ちゃんの顔が
ニヤリと悪い顔で笑っていたのは気のせいではないはず。
その瞬間を見てしまった黒豆達はビクついたとかいないとか……。
(今はまだ弟のように思ってくれていてもいいよ。
でも僕は諦めないよ……。
ましては肉食獣には負けないから……)
そう思いながらも、凛桜の胸に顔を埋めて今は
甘えまくる白蛇なのであった。
一方そんな腹黒小悪魔な白蛇ちゃんの気持ちなどつゆ知らず
ただただ可愛いなとキュンときていた凛桜。
そのあと嬉々としてオムライスに“凛桜大好き”と
描いていたのであった。
そのオムレツを嬉しそうに食べている白蛇ちゃんを
見ながら凛桜はふと疑問に思っている事を聞いた。
「そう言えば……。
まだ白蛇ちゃんの名前を聞いていませんでしたね」
すると二人は目を見開いて食べる手を止めた。
「ふぉぉっぉぉおおお!!」
白蛇ちゃんは何故か感動したように目をキラキラさせて
巨大白蛇さんを見上げた。
しかし巨大白蛇さんは厳しい顔をして首を横に振った。
(え……なにこの流れ……)
「ふぅ…………」
巨大白蛇さんはお茶を一口飲んでから深く息を吐いた。
「凛桜殿……。
すまない……私たちの風習で本名は家族になる者にしか
教えられないのだ……」
そう言ってすまなそうに眉尻を下げた。
「えっ?そうなのですか」
「なので、異性の名前をきくという事は……
告白とでもいうのだろうか……
好意を伝えているようなものだ。
そこで相手が本名を伝えてしまうと婚姻が結ばれてしまうのだ」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!!」
(あぶなっ!
思わず白蛇ちゃんにプロポーズしちゃうところだったよぉぉ!!)
凛桜が目を白黒させていると、揶揄う様に巨大白蛇さんはいった。
「そなたを息子の嫁に貰うのは吝かではないのだがな。
まだお前たちは若い……時期尚早だろう」
「あーえーその……」
凛桜は答えに困り半笑いを返すしかなかった。
「ハハハハハ……冗談だ。
種族が違うのだ、何か意図があって言ったのではない事くらい
わかっておるわ、心配せんでもよいぞ」
「はぁ……」
凛桜はすこしほっとしたような……
と、同時に申し訳なさそうな顔をした。
そんな微妙な表情の凛桜を見たからだろうか
「僕は凛桜が大好きだよ。
僕が大人になったら婚姻を結ぶことを考えてくれる?」
白蛇ちゃんは精一杯大人びた表情でそう伝えてきた。
「白蛇ちゃん……」
なんだろ、この幼稚園の先生あるあるみたいな状況。
“僕が大人になったら先生と結婚する!”みたいなあのノリ。
可愛いなぁ……。
君が大人になったら私はもうかなりの歳だよ……。
そういえば……友人も言っていたな。
毎年園児の数人からプロポーズされるって。
でも現実の適正年齢の男子からのプロポーズは皆無なのよね。
と、遠い目をしていたことを思い出した。
「フフフ……。
その時までに白蛇ちゃんの気持ちが変わらなかったら
考えようかな……」
そう言ってデレデレの顔をしながら凛桜は再び
白蛇ちゃんを抱きしめた。
(よし!)
この時二匹の白蛇達は、密かに心の中でガッツポーズを決めた。
どうやらガッツリと言質を取られたみたいです……。
その後二人は、卵料理のお土産をたくさん持って
庭の奥に帰っていきました。