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220/223

220.出るんです……

田舎暮らしを始めて188日目。




家を借りるときって悩むよね。


まず第一に考えるべき項目は家賃よね!


うん、これは本当に大事。


憧れている街に住みたいとかお洒落マンションに入居したい

など色々希望はあるが………。


やはり自分の身の丈にあった家賃でなければ後で

確実に詰むことになる。


そこで一般的に言われている家賃の相場は

手取りの25%~30%の範囲らしい。


ざっくり3割くらいなら暮らしていけるよ

という事なんだろうけど……

それでも地域によってはかなり厳しいのではないか?


生活するには他にも色々お金がかかるからね。


食費とか光熱費とか趣味にお金を使う人もいるだろう。


その他に考える事と言えば駅からの距離とか

近くにスーパーやコンビニがあるかな?とかかな……。


あっ!病院も近くにあると嬉しい。


あと勿論安全性の面にも配慮したいよね。

治安がいい街に住みたい。


まあ、希望を言えばキリがないんだけれども!


悩ましい事この上ないのに……

今回はその上に客足の事も考えないといけない訳で。


店舗なんか借りた事がないのでさっぱりわからないんですけどぉ。


そもそも王都の家賃相場っていくらなのよぉ。


と、ただいま王都の路地裏で私は項垂れております、はい。



今日は前からルナルドさんに探してもらっていた案件で

王都に開店予定のポップコーン屋さんの店舗に使えそうな

物件候補の下見に来ております。


昨日クロノスさん達が帰った後にまた再度カードが届いたのよね。


そろそろ本気で店舗を見に来てや~って。


そうよね……

人気ある店舗は早くしないとすぐ借り手がついちゃうよね。


それに従業員さん達のマンションも一棟借り上げたいのよ。


しかも店舗から徒歩10分圏内にして欲しい。

なんて結構無理難題な条件を言っちゃっていたからな。


ルナルドさんも大変だったに違いない。


と、いう訳で朝早くからルナルドさん達と物件を

幾つか見て回っているという次第です。


そうそう何故か私の右肩には今日もコウモリさんが

降臨しております。


もう定位置化してしまっているのは気のせいだろうか。


「キューキューワキュワキュワ」


「そうやな、そう言う面ではこの物件は危ないな」


「…………」


よくわからないけれどもすんなりとルナルドさんとも

物件談義をかわしちゃっているし。


疑問はなかったのかい?

ルナルドさんよ……。


肩に魔族のコウモリがとまっているんだぜ?


あなたの実力ならばだたのコウモリじゃないことくらい

気がついていますよねぇ?


それともなにか?

この人の事だから既に魔王様共々じいちゃんを通して

知り合いだったのかもしれないな。


2人?1人と一匹で目の前のビルを前にして

喧々諤々と議論を戦わしております……。


「そやな……魔法攻撃には弱そうやな」


「キューワ」


「…………」


その談義いる?


お店が魔法攻撃を受ける事ってあるの?


「そこまで考えが及びませんでした。

私もまだまだ経験不足でお恥ずかしい」


と、ルナルドさんのおつきの虎獣人の青年も唸った。


えええっ!

あるあるの出来事なの?


王都って怖い。



そもそもなぜこうなったかと言いますと……。


今朝起きて雨戸を開けたら

軒先にコウモリさんがぶら下っていたよ。


あ、こういう所はやっぱりコウモリなのね。


なんてよくわからない感想が脳裏に過ったわ。


コウモリさんは私の顔を見ると嬉しそうに一言鳴いたわ。


「キューキューワ」


「あ……はい、おはようございます」


そして何事もなかったかのようにシュナッピー達と

遊び始めたのよね。


まあ、遊びにきたのかな~

くらいにしかその時はおもっていなかったんだけど。


身支度を整えて……

朝ご飯を作ってさあ食べようかなと思って中庭に

皆を呼びに行ったら魔王様まで降臨なさって。


普通にシレっと皆で朝ご飯を食べて

魔王様はまた“みなまでいうな、わかっている”


と、言わんばかりの謎の微笑を浮かべたまま

何も言わずにコウモリさんを置いて

魔王城へとお戻りになりました。


どういうこと?


えっ?まだコウモリさんは遊びたりない感じ?


頭の中ではてながいっぱいになっていた所に

ルナルドさんがお供の虎獣人の青年とやって来た。


そしてまた2度目の朝ご飯を用意して……。


軽い打ち合わせなどをしながら食して

そしていよいよ出かけようとしたら

スッとコウモリさんが当たり前のように右肩に乗って来た。


「…………」


「キュ!」


いや、そんな円らな瞳で可愛く鳴かれても。


「なんや凛桜さん……

いつのまにやらそんな頼もしいおつきができたん?」


「えぅ、いやコウモリさんは」


「キューキューワ」


「おう、ルナルドやよろしゅう頼みます」


「キュー、キューキューワ」


「そうか、かまへんで」


いやいやいやいやいや!


なんかわからないけれど本人抜きで話を進めないで。


ほら、ルナルドさんのおつきの虎獣人の青年の顔が

はげしく引きつっているじゃない。


普通そうなるよね。


王都に魔族を連れて行くのですか!?

と顔に書いてありますわよ。


これが正常な反応なのよ。


「自己紹介も無事に済んだことやし

ほな、行こか」


「「…………」」


私と虎獣人の青年が遠い目になったことは言うまでもない。


で、そのまま王都へ来たという訳です、はい。


ねぇ……本当にどこから情報を得ているの?


毎回来て頂けるのは大変うれしいのですが

その反面怖くなっているのも事実です。


そろそろ本当に誰の力も借りずに王都に行ける

ようにならないとヤバいな。


異世界の女神様……

そこのところなんとかなりませんかね?


私……聖女になりたいとか……

ファイヤートルネードを放ちたいとか

イケメンパラダイス(死語)なハーレムで無双したいとか

申しておりませんよね。


ささやかな願いだと思うのですが……。


なにとぞなにとぞお願い申し上げます。


「そうやな……。

どの物件も悪くはないんやけど……

帯に短し襷に長しやな」


「そうですね……」


立地がいいとめちゃくちゃ家賃が高いのよね。


ポップコーンはそれほど単価が高くないからな

こんなに高い家賃だと採算が取れないよ。


そこまで家賃が高いなら買い上げたいんだけど

オーナー的には売る気はないみたい。


それに隣が王都で超有名な洋菓子やさんだったり

ご飯屋さんだったりするのよ。


やはり食べ物系の競合店の隣はちょっとな……。


出来ればポップコーンは貴族から一般国民まで

幅広い層に買ってもらいたいのよ。


あまりにも敷居が高い地域にあったら

貴族の方しかこられなくなっちゃいそうで

それは私が目指しているのとは違う方向なのよね。


だからと言ってかなり下町に店を構えようとすると

今度は治安が悪くなるのよね。


かといって中間層の場所を狙おうとすると

そう考える層が多いのか空き店舗がない状態だ。


「はああああ……どうしよう」


「店舗っちゅうもんはけっこう難しい案件なんや」


「そうだよね」


「私の希望としては……

騎士団の巡回コースに入っている場所で

ちょっとこじゃれた隠れた地域にお店を

出したいんだけどな……ないかな?」


「そやな……

確かに今王都でも再開発が進んでおってな

少し中心街から外れんるんやけど……

若者に人気がある店がポツポツと出来ている

地域があるんや」


「ああ、ドミニオン地区ですね。

そう言えば騎士団の詰所もそこに新しく

できるとも言っていましたね」


虎獣人の青年も思い出したかのように賛同した。


「そうやったんか……

騎士団の詰所ができるんか。

ええやないか!

ハリス何かええ物件の当てがあるんか」


「そうですね……

あると言えばあるのですが」


虎獣人ことハリスさんは急に言葉を濁し始めた。


「なんや、歯切れ悪いな」


「いや、みて頂ければ納得いただけるかと」


「キューワ?」


どうやらハリスさんの口ぶりだと訳アリ物件のようだ。


やだ、なに事故物件!?


流石に立地が良くても物騒な事があったとかは勘弁よ。


一応本店ですし。


曰くつきの場所はちょっとなぁ……。


何とも言えない空気のままでとりあえず

現地まで見にいこうという事になった。



そして今……。


「あ~」


「そうやな……」


「ですね」


「キューワ……」


なんだろうこの感覚。


とても奇麗でおしゃれなビルなんだけれども

ゾワっとするというか……。


ビル全体が見えないどんよりとした空気に包まれているというか。


何故かあまりいい気が漂ってないんだよね。


そう言う事はよくわからない私でもそう思うのだから

相当ヤバイんじゃないのこのビル。


ビルは5階建て+地下1階らしい。


立地も最高よ。


中心外からは少し離れているけれども……

1ブロック先にはさっき言っていた騎士団の詰所があるし。


このビルの右側の土地は駐車場なのかな?


馬車を止める広いスペースになっている。


どこかの店舗の専用駐車場というよりか

この付近に買い物に来る方達の為の共同駐車場のようだ。


と、いう事はうちがここに店を出したらここも

利用できるって事よね。


左側の家は誰かのお屋敷なのかしら?


こじんまりとした邸宅が建っていた。


しかし門扉が固く閉ざされており……

長年空き家の感じが否めない。


何故だろう……。


この通りは決してさびれている訳じゃなく

程よくお洒落なお店や家が立ち並んでいるのに

この一画だけ異常な雰囲気が漂っていた。


「本当にこちらをご検討する感じですか?」


そう言いながら猫獣人のおじさまは顔を引きつらせながら

何度も額の汗を拭った。


この物件を管理する不動産屋さんだ。


このビルはそれこそ今まで何人もの買い手に渡っているらしい。


この立地と見かけだから直ぐに買い手がつくのだが

基本的にだいたいの人が1ヵ月もしないうちに

手放してしまうらしい。


早い人は3日で出て行ったとの事だった。


そしてとうとう買い手も借りてもつかない為に

やもなくこの猫獣人のおじさまの不動産屋さんが

管理しているとの事だった。


「あの……えっと……

一応確認なのですが……

このビルはその所謂……

過去に何かあった的な感じですか?」


凛桜が言い辛そうに話をきり出すと猫獣人の不動産屋さんは

一瞬ビクつきながら声を潜めてこう言った。


「出るんです」


「はい?」


その場にいた全員が首を傾げた。


「とにかく出るんです。

これ以上は私の口からは申し上げられません!」


そう言って猫獣人の不動産屋さんは真っ青になりながら

何かを振り払うかのように激しく頭を振った。


そして強引にそのビルの鍵を凛桜にぐいぐい押し付けながら

かなり早口で捲し立てた。


「と、とにかく……

お客様方だけで内覧をしてくださいませ。

鍵はあとでお店の方に返して頂ければかまいませんから」


そう言うと足早に逃げるように帰って行った。


「ちょ……ちょっと……

ああ~行っちゃったわ」


「嵐のような方やったな」


「…………」


「ハリス、どういう事や」


それはもうすこぶるいい笑顔を浮かべたルナルドさんが

ハリスさんに詰め寄った。


「あ……その……」


「ん?なんや」


あまりのルナルドさんの圧にハリスさんは降参した。



「なんやて!!

幽霊が夜な夜な出る物件やと!?」


「本気か……」


「キュ、キュ、キューワ」


「はい、実は()()()()として有名な物件でして」


ハリスさんはしどろもどろになりながら語りだした。


実際のところはわからのだが……

このビルには何者かが住み着いており。


夜中に天井を歩き回る音がしたり

食べ物がゴッゾリなくなったり……

いつのまにか物がなくなることが多発するビルだそうで。


それが噂を噂を呼び……

子供が彷徨っているのを見たとか

血だらけの夫人がベットの脇に立っているなど。


収拾がつかなくなるほど噂になる物件だそうだ。


お~い!!


ハリスさんそれってかなりヤバめの物件じゃないんかい。


思わず凛桜はハリスさんの事をジト目で見つめた。


「り……凛桜様、そんな目でみないでください」


「だって、流石に事故物件はやばいでしょ」


「いや、あくまでも噂ですし。

かなりお得な値段で売りに出ております。

こんな好条件のビルはございません」


「せやかて……」


「それにこの地域は必ず発展致します。

それこそ5年後には今の10倍の価値に上がる

地域になる事は必須です」


そう言ってハリスさんは鼻息荒く持論をてんかいした。


「こう見えてハリスは都市設計の専門家なんや。

わいもハリスのお陰で今まで確実に店舗を増やしてきた。

ちょっとあれなんやけど……

見る目は確かやで」


褒めているのか貶しているかわからない評価だけれども

確かにこの物件を諦めるのは惜しい。


「どうしよう~。

でも幽霊付き物件はなぁ……」


そういえばイギリスのロンドンでは逆に幽霊付き物件は

人気があるって言っていたな。


幽霊付きのパブに行けるツアーがあるとか。


幽霊付きのホテルも大人気だとか……

意味がわからん。


この際……目を瞑るか……。


いや、でもうちのポップコーン屋は夢を売るお店にしたい。


危険な事はやっぱり取り除かないと!


怖いけれどここは原因を探るしかないよね。


幸いルナルドさんもこう見えて色々場数は踏んでいるだろうし

コウモリさんは言わずもがな最強魔族だ。


ハリスさんは物件のプロ。


よし、ここは中に入って確認しよう。


「じゃあ、行きますか」


「えっ?なんやて」


「とりあえず現状を確認しませんか」


「はい?」


珍しくルナルドさんが狼狽えていた。


「もしかして幽霊的なやつは苦手ですか?」


「べ……べべ……べつに怖くなんかないんやけど」


そう言ったルナルドさんの獣耳は情けなく後ろに

ぺしょっと下がっていた。


「あ~じゃあここで待っていますか?」


「あかん、あかん!

そんな危険なところに凛桜さんを1人行かせたことが

あの方に知られたらわいの首が飛ぶ」


そう言っても言葉と身体が逆になっていますが……。


「時間的にもそろそろ日暮れですしね。

ちょうどいいかもしれませんね」


ハリスさんは反対にワクワクしている様子。


「キューキューワキュワッフ」


「そんな殺生な」


コウモリさんは夜行性種族なので俄然やる気だ。


「ここで1人で待つか我々と一緒に中に入るかの二択ですよ」


ちょっと強気なハリスさんの言葉に……。


「ええええええい、わかったわかった!

わいも男や、地獄の果てまでお供してやろうやないか」


そう言ったルナルドさんの目はバキバキにきまっていた……。


ちょっぴりルナルドさんが壊れた模様。


「では、行きますよ」


私はドアの鍵穴に鍵をさして回した。




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