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217/223

217.言語って奥深い……

田舎暮らしを始めて187日目の続き。




お昼ご飯も無事?に終わったので!


私は皆の顔をチラリと盗み見しながら……

お茶と桜餅を出していた。


クロノスさん達は何とも言えない表情でそれを

黙って受け取るとごくりと緑茶を一口飲んだ。


まあ、そうなっちゃうよね~。


私も気まずいままクロノスさんの隣に座り……

口火を切ろうとした時だった。


「で、凛桜……。

これはなんの集まりだ?」


魔王様は抑揚のない声でそう尋ねて来た。


ですよね~。


全くの共通点がない男子4人……

いや、コウモリさんを頭数にいれたら5人だけど。


本気でなんの会合なんだって話よね。


むしろ獣人と魔族ってある意味敵同士だからね。


クロノスさんVS魔王様なんか……

もう言ってしまえば首脳会議ばりのメンツよね。


異種間交流会……もとい合コンですぅ

なんて冗談を言える雰囲気ではありません、はい。


「あ……はい……あのですね。

魔王様にちょっと個人的にお聞きしたいことがありまして」


凛桜がそう切り出すと……

魔王様は桜餅を黒文字で一口サイズに切り分けながら

ジッと凛桜の顔を見つめていた。


「…………」


時間にしたらほんの数秒だったかもしれないが

この時間がやけに長く感じたわ。


えっ?まさかのスルー?


そんな凛桜の発言に魔王様は答えるそぶりもなく

切った桜餅をポイっと口に入れると無言で

モグモグと味わっていた。


「…………」


えっっと?

その……どうなんでしょう。


この沈黙はYESなの?

それともNOなの?


妙な緊張感に誰かの喉がごくりとなる音が聞こえた。


そして……。


「我でわかる事なら何でも答えてしんぜよう」


はぁあああああああああああ。

緊張した。


よかった!

このまま無言で帰られたらどうしようかと思ったよ。


チラリと横目でクロノスさんを見ると……

やはり同じ気持ちだったらしく。


珍しくホッとした表情を浮かべていたよ。


「実は……」


と、凛桜が話し始めようとした時にそれをやんわりと

クロノスさんが目で制した。


「ここからは俺が話そう」


そう言ってクロノスさんはお父上のアルカード様に起こった

出来事を魔王様に話した。




「と、言うわけで……

もしレディーナーガの呪いについて

何か知っている事があったらご教授願えないかと」


「…………」


話を聞き終えた魔王様は相変わらず無言だった。


「もし我が知っていたとして……。

お前はその見返りに我に何を差し出せるのか?」


そう言った魔王様は凄く悪い顔をしていた。


そう言われたクロノスさんはハッとした表情を浮かべたが

直ぐに少し緊張した面持ちで答えた。


「できるだけ要望には応えたいとは思っております」


「ふむ……」


魔王様は思案するかのように斜め上の空中を見上げた。


えええええええええええっ!


魔王様の欲しいものって何さ!?


大丈夫クロノスさん!!


どえらいものを要求されたらどうするのさ!


まあ、でもよくよく考えてみたらそうだよね。


魔王様が穏健派だから私も軽く考えていたけれど

相手は魔族だったわ。


見返りもなく情報なんかくれるわけがないよね。


いや、魔族じゃなくてもそれは社会の暗黙の了解というか。


等値交換的な?


それにタダほど高いものはないもんね。


やってもうたか私……。


世間話の程度のノリで考えていたわ。


そう考えたら自分の浅はかな行動に対して冷汗が出て来た。


フッと何気なく下をみるとテーブルの下でぎゅっと両手を

握りしめているクロノスさんが見えた。


あのクロノスさんでも緊張する事があるのね。


なんとか心を落ち着かせて顔を上げると……

目の前では涼しい顔をしているカロスさんが見えたが

尋常じゃないくらい獣耳が上下にピルピルしているし。


ノアムさんに至っては顔の引きつりが止まらないらしい。


これはつんだか!?


と、魔王様はフッと口元を歪めるとこう切り出した。


「なら……お前の1番大事な者を頂こうか」


「はい?」


魔王様は楽しそうに凛桜に視線を落とした。


「…………!!」


そこで魔王が言わんとしている事を悟ったクロノスは

ガタっと大きな音をさせながら椅子から立ちがると

かばうようにぎゅっと凛桜を自分の腕の中に閉じ込めた。


「それだけはできない」


えええええええええええっ!


あまりにも突然の出来事だった。


そんな慌てた様子のクロノスをみて魔王様はなおも続けた。


「ほう……。

親よりも自分の番の方が大事とみえる……」


「ちょ……クロノスさん……」


そんな魔王様の挑発にクロノスさんはきっぱりと言い放った。


「どちらも大事で選ぶことはできません……。

しかし誰かを犠牲にした上の勝利など俺には意味がない。

それならば自分の力でなんとかするまでです」


ガルルルルルルルと威嚇声が聞こえそうなくらい

クロノスさんの怒りが伝わってきた。


「フ……世迷言を。

なんでも己の力で成し遂げることが出来ると思っているのか

よほど腕に自信があるとみえる……愚かな……」


そう言った魔王様はとても冷たい目をしていた。


「綺麗ごとだけでは世の中は渡っていけないぞ若造。

それとも我を凌駕できる力が己にあるとでも思っているのか?」


「………」


「全てを手に入れる事ができる者は少ない。

お前はそっち側の者だとでもいうのか?ん?」


こんなにも尊大で冷たい視線の魔王様は初めてだ。


「何があっても凛桜さんは渡しません」


「…………」


が、一方私は……

口にこそ出さなかったがスナチベ顔を

浮かべながらこう思っていた。


いや、なんで私は争われているの?


どっちのものにもなりませんし……。

本気で不毛な戦いなんですけど。


が、しかしそんな中でもクロノスさんも一歩も引かなかった。


すわ、一触即発かと思われたが……。


「キューキューワアアアア!キュ!キュ!」


コウモリさんが急に鳴いた。


「「「「………………」」」」


その声?もしくは発言に男子4人が一斉に固まった。


「いや……ククク……

反応が面白過ぎて辞め時がわからなくてな。

我もたまには魔王らしいことがしたいのだ」


「キューワワワワワ!!」


「ハア……。

やっぱりお前はこやつらの見方をするのだな」


魔王様はため息をつきながらぽつりと呟いた。


「キュ!キューワアアア」


「しかしだな」


「キューワキュキューワ」


「わかったわかった」


会話の内容はわからないが魔王様がコウモリさんに

軽く怒られている事だけはなんとなく伝わる。


「あの……」


どうしていいかわからず右往左往していると……。


その横で何故かカロスさんとノアムさんがコウモリさんにむかって

深々と礼をしているではないか。


「「本当にありがとうございます」」


「キューキューワ」


あっ!また熱い握手を交わす副官同志&ノアムさん。


それを何とも言えない表情で見ているクロノスさん&魔王様。


後々で聞いたところ……。


魔王様のいつもの悪い癖らしく……

どうもクロノスさんのような強くて真面目な者をみると

悪戯心が湧き上がり揶揄いたくなるらしい。


いやああああああ、やめたげて。


もう、そういうところは本当に魔王様いけずなんだから。


「ンンンン、で、なんの話だったか」


魔王様はわざとらしい咳をしながらそう言った。


「ですからレディーナーガの呪いをとく方法を」


「………」


魔王様はまたもや思案しながら遠くをみつめると。


「レディーナーガとはなんだ?」


そうのたまった。


「「「「えっ?」」」」


私達の目が点になったのは言うまでもない。


今までの一連の流れはなんだったの!?


「レディーナーガ……知らんな」


魔王様は本気でわからないらしく首を傾げていた。


そ、そんな事ある?


かなり長生きをしている有名な大魔獣だったと

聞き及んでおりますが……?


とでも言わんばかりクロノスさんのキョドリ顔が止まらない。


と、……


「キュ!キューキューワ!キューキューワ」


コウモリさんが何かを閃いたかのように鳴いた。


「おおおお!」


魔王様も何かを思い出しかのようにポンと手を叩いた。


()()()の事か……」


「ヨネコ……」


ん?ヨネコですって?


また随分と古風なお名前ですこと。

ご年配に多い感じ?


なんか思っていたのと違う。


あ、ここで全国の“ヨネコさん”にお詫び申し上げます。


決してディスっているわけではございません!!


そう、なんというか……

超絶美人な色っぽい魔獣だって言うから……。


そう、キャサリンとかヴィクトリアとか……

そういう名前を予想していたわ。


「ほう……ヨネコですか」


感心したようにクロノスさんがそう呟いた。


「えっ?どういうこと?」


「古来の魔族語で“ヨネコ”とは美の化身という意味だ」


本気ですか!?


やっぱり魔族語ってあるんだ!!


しかも美の化身という意味なんだ。

ヨネコ凄いな。


「まあ、かなり強烈な性格だったッスけど……

目の見張る様な美女だったのは確かっス」


対峙の時の事を思い出しているのだろう

あのノアムさんが苦笑を浮かべていた。


「相変わらずのようだな……フッ……」


何故か魔王様も珍しく渋い顔をしていた。


「お知合いですか?」


私がそう聞くと魔王様は苦笑しながら言った。


「あれはたしか200年前……

いや、もっと前の事だ」


ヨネコさん噂通り長生き魔獣だな……。


「キューキューワァァァァ!!

&%$‘‘‘@@@!!」


「…………」


なんかよくわからないがコウモリさんがブチギレて

放送禁止用語的な言葉を発している事だけはわかる。


その証拠に耐え切れずクロノスさん達が吹いているもの。


「まあ、落ち着け……」


めずらしく魔王様がコウモリさんを窘めているくらいだからな。


「で?」


「ああ、すまん、すまん。

そのヨネコが事もあろうか我の寝室まで侵入してな

我に夜をともにしろと迫ってきたのだ」


ふぁああああああ!!


はい、有罪です。


レディーナーガ改めヨネコさんヤバいな。


魔王様にそこまでグイグイいける精神力って何!?


「すぐにこやつに発見されて……

摘まみだされたのだ。

懐かしいな」


いやいや魔王様そんな……

のほほんと語る思い出じゃないっスよそれ。


恐怖体験だから。


「それで確か……

魔王城から半径500カラット圏内は出禁にされたのだったな」


カラットなんだろう……

私達のところでいうキロメートルの事かしら?


「キューキューワ」


「えっ?」


コウモリさんの発言に驚いたようにノアムさんが飛び上がった。


「半径50000カラットらしい」


ふううぁあああ!

本気の追放じゃん!!


「そう言えば最近見ないと思ったが……

お前達の下界にいたのだな」


私達が住んでいる所って魔族からみると下界なんだ……。


反省の色が全くないな、ヨネコさんよ。


追放先でやりたい放題じゃん!!


「お前の父上はよほどの色男だったとみえる。

ああみえてかなり好みがうるさいらしいからな」


「はあ……」


「キューキュッワ!!」


「魔王様にふられた腹いせだと言っているっス」


宗旨替えが激しくないか?

魔王様とアルカード様って別ベクトルのイケメンだよね。


「…………」


「で、いまわの際にかけられた呪いをとく方法だったな」


「はい……」


「んん……」


またもや魔王様は宙を見上げて考え込んだ。


「本人が死亡をしている場合は……

基本解けない事が多い……」


魔王様は少し言い辛そうにそう言った。


「存じております」


「そうだな……」


やっぱり魔王様を持っても難しい案件だったかな。


クロノスさん達に諦めムードが漂った時だった。


「キュ!キューキューワ!キュワッキュ!」


興奮したようにコウモリさんが鳴いた。


「そうだな……。

それにかけるしかないかもしれんが」


「本当ですか!!」


一気に場のムードが明るくなった。


なんでもコウモリさん&魔王様が言うには……

“シュタルク”という魔族に伝わる秘伝薬があるらしい。


それには3つの幻の材料がいるとの事だった。


「そんな秘密の魔法薬の作り方を教えてくれるの?

他の魔族からキレられたりしない?」


「フッ……我を心配してくれているのか?」


「だってあらゆる呪いをとけるかもしれない薬なんて

誰でも喉から手が出るくらい欲しいやつじゃない。

もしそんな奇跡的な薬が悪い人の手渡ったりしたら怖いし

秘密中の秘密じゃないそんな製法って」


クロノスさん達も神妙な顔で頷いた。


「フ……大丈夫だ、凛桜。

そもそも製法がわかっても

まず材料を手に入れることがかなり厳しいからな。

簡単には製作できるものがいないだろう」


えっ?


じゃあ……それなら私達も無理じゃない?


そんな不思議顔の凛桜を横目でみながら魔王様は話を続けた。


「まずは天・地・闇にある素材を手に入れなくてはならない」


ほう……。


「天とは名の通り天空にある素材。

地はお前たちがいる地上。

そして闇は地下に生息しているものだ」


うわあああああああ……

聞いただけでも大変そうだわ。


「まず1つ目の材料は天空にしか存在しない

“シャイモス”だ」


「シャイモスだと!!」


クロノスさんは目を見開きながら思わずそう叫んだ。


「あの幻の七色に光る苔ですか?

あれって物語の中の幻想植物じゃ……」


カロスさんも声を震わせていた。


七色に光る苔……。

目がチカチカしそうだな。


「そんな一品どこに生息しているんっスかね」


確かに……

そもそも天空ってどういう範囲の事?


魔王城以外にもラ〇ュタみたく空飛ぶ城や土地があるのかしら?


「シャイモスだが……

我の城の中庭にある城壁に生息している……」


はあああああああああ?


そんなにシレっと告白していいの?


「はい?」


クロノスさん達も驚きのあまり3人揃って可愛く首をかしげた。


「なのでこれは問題ないのだが」


いや、いや、いや……

問題大ありでしょう!!


普通だったら絶対と言っても過言じゃないくらい

手に入らない代物ですよ。


欲しかったら敵陣の本丸の中に飛び込む様なものだから!


「あとでこやつに届けさせよう」


「キュー!」


えええええええええっ!


あっさりとくれるじゃなぁい。


こんなものに対してどうやって対価を払えばいいのか

悩みすぎてクロノスさんのキョドリ具合がやばい。


「そして次がかなり難しい……。

地の材料だが“ガウァンサス”という実を知っているか?」


「「「………………!!」」」


3人の目がまたもや零れんばかり見開いた。


「あの300年に1度しか実をつけないという

幻の果実の事ですか?」


「しかも確かかなり高度が高く魔素の濃い森に生えている

大樹になる実の事っスよね!」


「それに1本の木に実も1つしかならないという

生育がかなり難しい木だと聞いております」


無理ゲーすぎないか?


またもやみんなが諦めかけた時に……。


「そうだ……。

たしか陛下の温室に1本あったような気がしますが」


カロスさんがそう言ったのでみんなの目が一瞬輝いたが。


「いや待てよ……

50年前に実をつけたと母上から聞いた気がする」


「えっ!!」


「じゃあ次に実がなるのは250年後かぁ……」


ないわ~そんなに待てないよ。


「他に心辺りはないのか?」


「ないですね……」


「今から木を探すのは砂漠で針を見つけるような事です」


事実上不可能に近いって事かぁ。


あああああああああああ!!


わかっているのに手に入れられないって

これほど悔しい事はないよね。


どうしよう~。


また一気にみんなのテンションが下がったわ。


そんなダダ下がりのなか急に魔王様が言った。


「凛桜……い〇の糸はあるか?」


はい?

藪から棒に急に何よ。


「い〇の糸ってなんだ?」


「あれじゃないっスか。

アラクネ種が作りだす繊維の」


「ああ……」


いや、いや、いや違うと思います。


「お前たちはよく夏に食すと聞いたのだが」


「えっ?人族はアラクネの糸を食すんですか!?」


カロスさんが絶句していた。


ちがう、ちがう、ちがう話がややこしくなるから!!


「♪フフフン、フッフフン~フフフフン~

と、いうのだろう」


魔王様!!


ちょっと黙れ!!


魅惑の低音ボイスで鼻歌を歌うのやめぃ。


なんであの有名なCMソングを知っているのさ。


じいちゃん!!

頼むから余計な知識を魔王様に与えないで


ぽかん顔のクロノスさん達がとまらないから。


「私達の食べ物に“素麺”という麺類があるのです。

その食べ物の作っている有名なお店がありまして。

その商標が魔王様が先ほどから言っている物なんです」


「そうだったのか。

焦ったぞ……。

まさかあのアラクネの糸を食べるなんて

狂気の沙汰だからな」


ようやく合点がいったのかクロノスさん達は笑っていた。


「で、なんで急に今それを?」


「いいから用意してくれ」


「…………」


よくわからないが魔王様の意思は固そうだ。


「わかりました。

湯がいてくるので少し待っていてください」


そう言って私は用意する為にキッチンへと向かった。


えっ?急にお腹空いた?


魔王様が謎過ぎる……。


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