表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

215/220

215.なんて人騒がせな!

田舎暮らしを始めて186日目の続き。




「本当に美味しいよ、凛桜さん……。

身体の芯まで染み入るようだ」


そう言ってクロノスさんのお父上ことアルカード様は

オニオングラタンスープを全部飲み干してくれた。


「お口にあったようでなによりです」


私がそう答えると何故か後ろから涙をすする音が聞こえた。


えっ?何事!?


驚きのあまり後ろをそっと振り返ると……

執事のダレスさんがありえないくらい号泣していた。


「旦那さまがあんなにお食事を……グス……

今日はなんという……よい日でしょう……

本日をアイオーン家の記念日に致しましょう!

といっても過言じゃありません!」


えっ?そんな感じですか!?

大袈裟すぎませんか?


まだスープの段階ですよ。

この後にまだ続々とメニューは続くのですが。


か、と思えばそんな感動シーンの横で……。


「ああ……本当に美味いな……

いや、美味しいですわ!

このプルプル食感がたまらないな」


そう言いながらクロノスさんのお母様ことカトレア様が

1人でババロアを豪快に食していた。


うん、確かにこのフルーツババロアは……

クロノスさんのお母様の為に作ったけれども!


いきなりデザートから食すのはどうなんでしょう。


しかもエンゼル型(大きいドーナツみたいな形)の

ババロアを1人抱えて食していらっしゃるのよ。


切り分けて皆さんで一緒にお茶を致しましょう的な感じで

作ってきたのですが。


それをお1人で食べますか……

ねえ……食べますか……?


「…………」


「本当に美しい菓子ですね。

しかも震えるほど美味しいですわ!」


「あ……ありがとうございます」


そんな少女のようなキラキラさせた瞳で言われたら

どうぞお食べくださいというしかないよねぇ。


「何個でもいける気がしますわ」


「…………」


うん、やっぱりクロノスさんはお母様似だね。

マイペースが過ぎるから!


そんなある意味無邪気な様子にクロノスさんが

若干呆れ顔で言った。


「母上……」


「なんですか、あげませんよ。

クロノスはいつでも食べられるでしょう」


「いえ、そう言う意味ではないのですが……」


クロノスさんは苦笑しながらも優しい視線でお母様をみていた。


きっとこれがこの家族の日常なのだろう。


と、不意に目の前のアルカード様が呟いた。


「ありがとう凛桜さん……。

こんなに美味しくて楽しい食事をしたのはいつぶりだろう」


「アルカード様……」


「それにあの息子があんなにも穏やかにレアと会話をしている。

家族とこんな幸せなにも時間を過ごせたから……

僕はもう思い残すことはないよ。

いつ旅立っても……悔いはないよ……」


そう言ってあまりにも儚げな笑顔を浮かべるものだから

つい大声を出してしまった。


「嫌です!!」


「「「「えっ?」」」」


あまりにも凛桜の強い拒絶の言葉に部屋の中が一瞬にして

静まり返った。


「そんな言葉は嘘でも言わないでください。

これからもアルカード様はたくさんこのような時間を

ご家族と過ごします!

いや、いっぱい過ごさないと駄目なんです!」


「凛桜さん?」


あまりの凛桜の剣幕に目を見開いたまま驚きの表情を

隠せないアルカード様がいた。


「必ずお身体を治す方法を見つけ出します。

だから最後の最後まであきらめないでください!」


「凛桜さん……」


「そうですよ、父上。

俺は最後まで諦めません!」


いつの間にクロノスさんが隣にきていて

私の肩をそっと抱いてくれていた。


と、その反対側にはカトレア様が。


「アル、この私を1人にするつもりか?

私は寂しがり屋だぞ……。

アルがいなくなったら寂しくて……。

他の男の元にいくかもしれないぞ。

いいのか?

この私が他の男と再婚しても?」


そう言ってカトレア様はかなり悪い顔で微笑んでいた。


なんか物騒な脅し文句をぶっこんできたぁああ!!


「…………」


そんな衝撃発言を聞いたアルカード様は……

急に背中の方からドス黒いオーラが立ち上がらせた。


「レアが他の男のものにぃ?

フフフ……

この世界が滅んでもありえないよね。

()()()()()()()()()()だよ……」


怖っ!!


目が本気だから!!


そう言って微笑んだアルカード様がヤバイくらい綺麗だった。


悪魔が悪魔が!降臨しちまったよ!


発言も完全にアウトだ。


だが、その言葉を聞いて満足そうに微笑んでいる

カトレア様が1番ヤバイかも。


「番う時に言ってくれただろう……

私より先に逝かない……

最後の1秒まで私の傍にいると……」


そう言って涙ぐみながらカトレア様はアルカード様の

両手をぎゅっと握った。


「そうだったね……。

ごめん……僕は少し弱気になっていたようだ。

愛してるよ……レア」


「私もだ!アル……愛してる」


そう言って2人は熱い抱擁をかわした。


あああああああああ~。


いや、美男美女のめっちゃいいシーンなんだけど!!


なんだろう、この複雑な気持ち。


親のラブシーンって耐えられないよね……

的な感じですわ。


いや、私の両親ではないのですが!


クロノスさんなんか思いっきり目を逸らしているしね。


獣耳と尻尾がゲンナリですわといっているかのように

だらんと後ろに下がっているからね。


まあ、そうよね。


ど、どうしよう。


席を外した方がいいのかしら。


あああああああ~


お互いの尻尾まで絡めあって熱く見つめだした。


うん、ここは一旦退散しよう。


クロノスさんも同意見だったらしくお互いに無言で

目くばせをして頷いた。


くるりと背中をむけて踵をかえして部屋から

2人して出ようとした瞬間だった。


「次の料理をお持ち致しました」


そう言ってダレスさんが“ビッグサングリア豆腐”を

ワゴンに乗せて運んできた。


えっ?今?


ぎょっとして恐る恐る後ろを振り返ると……。


何事もなかったかのように膝にカトレア様を乗せて

ベッドで微笑むアルカード様がいた。


「楽しみだな、レア」


「そうね、とてもいい香りがするわ」


「「………………」」


なんかよくわからんが凄い適応力!?


えっ?

先ほどのラブシーンの欠片が微塵も見えないんですが!


「次の料理は何かな?凛桜さん……」


めちゃくちゃ動揺している私などお構いなしに

アルカード様がニコニコ顔で聞いてくるじゃぁない?


ワクワク(死語)したユキヒョウ獣人夫婦が

そこにはいました、はい……。


今は2匹とも腹ペコタイガーです。


「あ……はい、これはですね……

肉豆腐といって……」


その後は終始?

和やかに一通り凛桜の作った料理を堪能したお2人だった。



その後アルカード様はお薬を飲んで少しお休みする

という事なので一旦お部屋を後にした。


そこで私は何故かカトレア様とお庭を散歩することになりました。


クロノスさんが急に騎士団本部に呼ばれたからだ。


「なんでだ?

俺じゃなきゃダメなのか?

今日と明日は休暇を取ると言っただろう」


と、怒り散らしていたがカロスさんが屋敷までやってきて

問答無用に連れ去っていった……。


とても大事件が起こった模様です。


「さ、私達も行きましょうか凛桜さん。

うちの家の果樹園はなかなかですわよ」


なんで果樹園?

そこはバラ園とかじゃないのか?


というツッコミはぐっと飲み込んだ。


着替えたのだろうかカトレア様は美しい赤いドレスを

身に纏っていた。


不思議だよね……

こうして改めてお姿をみるとどこからどうみても

とても美しい貴婦人なんだよね。


先程のアマゾネス感はどこに置いてきたの?


獣人さんって本当に年齢不詳だわ。

けっこういいお年だと思うんだよね。


カトレア様の横顔をそっと見上げながら庭の奥へと進んで行った。


綺麗に花が咲き誇る花壇を通り抜けると目の前に

急に巨大なガラスドームが現れた。


「ふぁあ~凄い大きいですね」


「ああ、皇宮にもひけをとらない温室なんですよ」


そう言いながらガラスの扉を開けてくれた。


温室が庭にあるなんて、珍しいよね。


中に入ると温室特有の生暖かい湿気でムワッとしたが……

嫌な空気感ではなかった。


道を挟んで左右対称に幾つもの花木が飢えられており

中には実をつけているのも多数あった。


そんな中を通り過ぎると中央にガゼボが見えてきた。


そこにはダレスさんがいて……

既にお茶の準備がされているようだった。


「さ、お座りになって」


カトレア様に促されるままふかふかのクッションが

置いてある藤の椅子に座った。


と、すぐにいい香りがする紅茶が注がれた。


お茶請けには凛桜が持ってきたポップコーンが

綺麗に並べられておいてあった。


「このポップコーンというお菓子。

とっても軽くて美味しいわね。

先程我慢ができなくてつい1つ頂いちゃったの」


そう言って可愛くペロッと舌をだしたカトレア様。


可愛すぎる!

こんなことして許されるのは美しいお姉さまだからだろうか。


「私はこのキャラメル味というのが好きだわ。

アルはカレー味というのかしら?

それが好きだそうよ」


そう言って嬉しそうに笑った。


「フフフ……。

やっぱり親子ですね。

クロノスさんもカレー味が大好きだそうですよ」


そういうとカトレア様は一瞬目を見開いたが

直ぐにちょっと切なそうに微笑んだ。


「そう……あのこもアルと同じ味が好きなのね」


「…………」


そう呟いたカトレア様が寂しそうだったから

返す言葉が見つからず黙って紅茶を一口飲んだ。


とても深く濃い紅茶の香りが口の中いっぱいに広がったかと思ったら

すぐその後に優しい甘い味がしたので思わず

“美味しい”と自然に言葉が口からこぼれてしまった。


「うれしい……。

この紅茶の茶葉はクロノスが生まれた事を記念して

植えた木から作った茶葉なのよ」


そう言ってカトレア様は懐かしそうに目を細めた。


「そうなんですか!

とっても素敵な由来がある茶葉から出来ているんですね。

クロノスさん印の紅茶だ……」


そんな由来を聞いちゃうと……

この紅茶の色がクロノスさんの瞳の色に見えてきたわ。


「気にいったのなら茶葉を持ち帰るといいわ」


「ありがとうございます」


そしてそのまま少しの間……

お互いに無言のままお茶の時間を楽しんだ。


それなのにこの沈黙が決して嫌じゃない。


なんかいいな……

こういうまったりとした時間が好きだわ。


よかった、本当はかなり緊張していたんだよね。


だって初対面でクロノスさんのお母様と2人っきりだよ。


本気で無理かもって最初は思ったわ。


ハードルが高すぎるって。


でも不思議な事に今は穏やかにのんびりと2人温室で

お茶なんかしちゃっているんだから。


人生って本当に何があるかわからないわよね。


と、不意にカトレア様がポツリと言った。


「この温室はね……アルの為に作ったの」


「…………?」


「アルが魔物と戦ってあのような身体になったことは

クロノスから聞いたわよね?」


「はい……。

街道を脅かす大魔物を退治なさったときに受けた

傷と呪いのせいだとお聞きしました」


「そうなのよ……」


急にカトレア様の眉間にグッと皺がよった。


「あのクソ女魔物のせいなのよぉおお!!」


そう言って手に持っていたカップを粉々に砕いた。


ええええええええええっ!?

本気で!?


素手だよ!?


大事な事だから2回いいますが……

素手だよ!!


あまりの出来事に凛桜が目をしろくろさせていると。


「あらいやだ……。

オホホホホ……私としたことが……」


するとどこからともなくダレスさんが現れて

さっと魔法で掃除を行い……

新しいカップに紅茶を注ぐと何事もなかったかのように消えた。


「あ!あの……手は大丈夫ですか?」


急に息を吹き返したかのように凛桜が慌てて聞くと

カトレア様は不思議そうに首を傾げた。


「えっ?あああ、大丈夫ですわ。

こんな事は日常茶飯事……」


「んん!!んんんん!!」


こんな狂気の沙汰の出来事が日常茶飯事って何!?


普通の女子は素手でカップを粉々になんかできないからね。


そこに言葉を遮るかのように凛桜が持ってきたモナコを

出しながらダレスさんがワザとらしく咳ばらいをしていた。


すこしバツが悪そうにカトレア様はダレスさんから

目を逸らしながらお皿からモナコを1つ取った。


「………………」


無言で軽くダレスさんから厳重注意を受けた模様。


「あの……」


凛桜が話の続きを促すと……。


「ああ、今思い出しても忌々しい」


そう言いながらモナコを大胆に齧りながら

カトレア様は事の顛末を話し出した。


カトレア様の話をまとめると……。


どうやら王都へと繋がる重要な街道に魔物が出て

行商人や旅行者が襲われるという事件が数年前から

発生するようになったらしい。


しかも不思議な事にその魔物に襲われるのは

“男性”のみというこれまた不思議な事件だった。


そこでクロノスさんの部下が数回にわたって街道に

見回りに行ったのだが……

何故かその魔物は1度も現れなかったらしい。


それなのに次の週に近衛騎士団の一行がその大魔物に遭遇した。


命からがら逃げかえった団員に聞き取り調査が行われると

衝撃的な事実が発覚した。


その大魔物はなんと美しい女の魔物だったらしい。


“レディーナーガ”という正体がオオトカゲの大魔物なんだって。


その大魔物は美しいか弱い女性の姿に擬態して

困ったふりをして男性に近づき……

一気に襲ってくるとの話だった。


しかもとびきりイケメンの男性のみをロックオンするらしく。


その時は猫獣人の儚げなイケメン騎士が死ぬほど

追いかけられたとの事だった。


なんとか命からがら逃げたのらしいけど

トラウマになってしまい彼は現在お家で静養中らしい。


因みにその他数人の近衛騎士団員は好みじゃなかったのか

はたまた目的の男性をゲットできなかった腹いせか。


その大魔物にボコボコにされて現在も病院で治療中との事だった。


「なんか……凄いですね。

何が目的なんですかね……」


凛桜がどん引きしているとカトレア様は苦笑しながら言った。


「いい男の種でも欲しいのではなくって……

まったく迷惑千万だわ」


うわあああああ怖い!!


本気でそれが目的だったら嫌すぎる。


それから何度も騎士団を派遣したのだけれども

あまりいい成果がでなかったので焦った他の部隊の騎士団は

クロノスさん達に泣きついたらしい。


そしてある日クロノスさん達が退治に向かったのだけれども。


なんとその大魔物……

出てきてはくれたのだが……。


クロノスさんの顔を見るやいやな……


「いや、惜しい、ちょっと違うのよね」と

真顔でいったらしい。


まさかの発言にクロノスさん達が唖然としていると

今度はカロスさんを見て即答で“却下”と言った。


どうやらゴリゴリのマッチョで男らしい方は

好みではないもよう。


挙句の果てにノアムさんに至っては

全身を舐め回すように上から下まで見たかと思ったら……


「う~ん、10年後に期待かな」


と、言い残して霧の中に消えて行ったらしい。



「……笑えないですね。

なんか物凄い理想の男性像があるみたいですね」


「そうなのよ!

まあ、百歩譲っていいわよ。

皆それぞれ好きな男性の好みがあると思うから

でもね、でもね、あの女……

よりによって私のアルに目をつけたのよ」


そう言ってカトレア様は手に持っていたクッションを

まっぷたつに引き裂いた。


ひぃぃいいいいいい~。


怒りのオーラがヤバすぎるぅうううう。


迫力美人の怒りの表情って……

こんなにも怖いものだったかしら。


凛桜が顔を引きつらせていると

またもやダレスさんがどこからともなくスッと現れて

無残な姿になったクッションを撤収していった。


「ご……ごめんなさい……。

つい思い出したら気持ちが荒ぶっちゃって」


「い……いえ……」


そう、そのレディーナーガはこともあろうに

アルカード様をロックオンしてしまったらしい。


これは血の雨が降ることは決定じゃなぁい!


しかもアルカード様は退治に出かけた訳でもなく

部下数人と地方での会議の帰り道で運悪く遭遇して

しまっただけとの事だった。


一目見たときからアルカード様に心奪われた大魔物は

番になれとアルカード様に執拗に迫ったそうだ。


もちろんきっぱりと断ったアルカード様だったんだけれども

どうしてもアルカード様をゲットしたい大魔物は

部下たちの命を盾にしてアルカード様を追い詰めたらしい。


どうにもならないと思ったアルカード様は

命をかけて禁断の大魔法を放ってなんとかレディーナーガを

倒したのだけれども……。


最後の最後で呪いの言葉を吐かれて呪われてしまったそうだ。


それほどレディーナーガにとってアルカード様は

めちゃくちゃタイプだったらしい……。


迷惑な話だよねぇ……。


そして今に至る訳だけど……。


そこでカトレア様はアルカード様の呪いをとく為に

あらゆる国の魔法樹や薬草や花を取り寄せて

この温室で育てて呪いをとく薬の研究しているんだって。


でもなかなか難しいらしい。


何故なら呪いをかけた本人が死んでしまっているからだ。


基本的には呪いというものはかけた本人しか

解けないものが多いらしい。


しかし稀にそれを打ち破る薬や薬草があるらしいが

ほとんど伝説級な代物になるとの事だった。


「頑張ってはいるのですが……。

やはり年々アルの身体が弱ってきてしまって……」


そう言ってカトレア様はそっと涙を拭った。


「今日は比較的に元気に見えたでしょう?

でも実はね3週間前には一時期危篤状態まで

陥ったのよ……」


「…………!!」


これはヤバイ!!


早く魔王様に聞いてみないと!


もしかしたら何か手がかりがつかめるかもしれない。


私は密かに心の中に迷惑なバカ大魔物の名前を刻んだわ。


なんとしてでも魔王様に呪いをとく方法を聞きださないと、うん!





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ