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210/219

210.美しい男には毒がある!?

田舎暮らしを始めて182日目。




「ええっ……構いませんが。

きちんと契約書を交わして頂けるのでしょうか?」


イタチ少年はそう言って奇麗な顔で

不敵な笑みを浮かべていた。



昼下がりの孤児院の一室で私はカシムくんとお茶をしていた。


リュートくんと同じようにカシムくんをうちの商会に

引き入れる為に話をしにきたのだ。


もちろん事前に孤児院側にも話を通しておりますよ。

正式な訪問でございます。


因みに今日のお供はカロスさんとコウモリさんだ。

副官コンビだ!


私1人では家の外には出られないからね。


どうしようかと思っていたら今朝早く何故か魔王様達が

家に朝ご飯を食べに来たのよ、うん。


雨戸を開けたら急に目の前に佇んでいるんだもん

焦ったわよ。


しかも挨拶もそこそこに……。


「焼き鮭と甘めの卵焼きとほうれん草のおひたし

それにわかめと豆腐の味噌汁を所望する」


と、言い出して何事!?

って、思ったわ。


淀みなく仰るもんだから……

新たな呪文か何かのようだったわよ、うん。


「何をそんなに驚いている?

正しい日本の朝食とやらの献立ではないのか」


まあ、そうですけど……。


えっ?今……朝の6時30ですよ。


起床ほやほやの状態ですよ、私。


You Know?


きなこ達も驚きのあまり固まっていたわよ。


シュナッピーなんか見て見ぬふりをして爆睡をきめていたわ。


そんな様子に居た堪れなくなったのだろう

唯一の常識人のコウモリさんが……。


「キューキューワ……キュー」


“唐突すぎやしませんか?魔王様”

というツッコミを入れて頂いたと勝手に思っております。


まあ、そんなこんなで作りましたけれども。


で、無事に奇麗にすべて食事を平らげた後に

お茶を一口飲んでため息をほうっ~とついた直後。


何故か急に“こやつを貸してやろう”発言!


「はい?」


「みなまで言うな……」


そう言って魔王様は訳知り顔のまま……。


唐突にコウモリさんを1人食卓へ置いたまま

お土産のおにぎりセットを大事そうに抱えたかと思ったら

魔王城へとサクッとご帰還いたしました。


えっ?んんん?

どういうこと!?


私が今日孤児院を再び訪問する事をどこからか聞きつけました?


くらいの勢いなんですが!


置いていかれたコウモリさんは別段驚く様子もなく……。


シュナッピー達と美味しそうにデザートの桃を

食していらっしゃいます。


「…………」


確かにカロスさんはかなりの魔力保持者だとは

聞いておりますが!


カロスさん1人の付き添いで大丈夫かな?

と、ちらり思った事は否めません。


だからと言って偶然が過ぎやしませんか?


「あっ!」


まさか森の情報網から漏れて……!?


そう言えば昨日お風呂入っている時に思わず


「コウモリさん……また来てくれないかな」


と、呟いちゃったのが誰かに聞かれちゃっていた感じ?


もしそうなら……

相変わらずうちの家の情報に関してのセキュリティーだけは

ヤバいくらいガバガバだな。


敵からの物理攻撃に対しての守りは鉄壁なのにぃ……。


本気でなんなの?


なんでそこの部分だけは頑なにアップデートされないの?


ありがたいけれどちょっぴり恐怖さえ感じるわ!


独り言さえ迂闊に呟けないな!


話を戻しますが……。


本日チッタさんは任務があるらしく隣国に行っているらしい。


活躍されているようでなによりです。


よって今日のお供は副官コンビです、はい。


そしてもちろん皆へのお土産はフロランタンだ。


他の孤児達は声をあげて喜んでいたり

美味しい美味しいと口に出して賛辞してくれているが

目の前の少年は至って冷静だ。


しかし密かに獣耳と尻尾が嬉しそうにピルピル

前後に揺れているので喜んでいることが見て取れる。


可愛い~体は正直ねぇ~。

おかわりもいっぱいしてくれているしね!


そんな視線を私から感じたからだろうか……。


「なんですか?

そんなに穴が開くほど僕の顔を見つめてくるなんて

そんなに僕の事が欲しいですか?」


なんて生意気にも上目遣いで見つめてくるから

ちょっぴり仕返しをしたくてやってやったわ。


「そうね、欲しいわ。

フフフ……私のものになってくれるの?」


そう言って右手でくいっと顎をつかみながら

にっこりと微笑むと。


驚いたのだろう。

顔を真っ赤に染めながら椅子から転がり落ちたわ。


「バッ、やめろよなそういう冗談」


全身の毛を逆立てて顔を真っ赤になって唸っているし。


そんなに怒るならあなたの方こそやらなきゃいいじゃない。


大人を揶揄うからそういうめにあうのだよ、少年。


カシムくんはプリプリと怒りながら……

改めて目の前の椅子に座りなおしてそっぽを向いた。


その間のやり取りを“私達は何も見ていませんよ~”

くらいの勢いで素知らぬふりをしている

副官コンビがいたとかいないとか。


「でもカシムくんにうちに来て欲しいのは本当だから」


「ん……」


満更でもなさそうな顔で頷いているから好感触だろう。


兄と弟でこんなにも反応が違うかね?


カシムくんには主に商会の中枢の仕事を

手伝って貰おうと思っているの。


まあ見目麗しいのはもちろん……

このこ話術もうまいし頭の回転が速いのよね。


表だって活躍してもらいたいのは山々なんだけど……。


状況判断能力やいい意味での計算高さもあるし

それに加えて魅了耐性もちでしょ!


もういうことなしなのよ。


そしてあの一件のお陰である意味お貴族様との

伝手も既にできている訳で……。


だからルナルドさんの所で修行させて貰ったら

かなりのいい線いくんじゃないかなって。


本人もまっとうに稼いでお金持ちになりたいって

言っていたからさ。


渡りに船の話じゃないかな?

と、思っているのは私だけじゃないはず。


「ところで兄はこの件に対してどうすると言っていますか?」


カシムくんは拗ねながらもそう聞いてきた。


「ん、今のところ保留かな。

まだ実感がわかないみたいだね」


凛桜が半笑いのままそう答えるとその時の状況を

瞬時に察したのか……。


「でしょうね。あの人ああ見えて純粋だから。

僕みたく計算高くないですから時間がかかるでしょう」


そう言って苦笑していた。


自分でそう言う事言っちゃう?


「ギューワ」


「……………」


ほら、コウモリさんとカロスさんも軽く呆れているよ。


「それよりも凛桜様……

本当に僕を雇っていいの?」


「んん?なんで?

あなたのその度胸と処理能力をかっているからこそ

声をかけたんだけど?迷惑だった?」


凛桜がそういうとわかりやすく

ぱああああと嬉しそうに顔が綻んだ。


嬉しい……

俺の外見じゃなくて中身を見て評価してくれたんだ。


言葉にはしなかったが俺は心底嬉しく思っている

自分に少し驚いていた。


が、この万年平和ボケしたお貴族のお嬢さまには

そんな自分を見せたくないという気持ちもあった。


だから噛みついてやる……。


「僕は野心家ですからね。

そのうちに大成功して……

商会を乗っ取ってしまうかもしれませんよ」


そう言って不敵に笑ってやった。


それなのに凛桜様はちっとも驚いてなんかくれなくて……

反対に好戦的な顔をしてこんな事を言い出した。


「フフフフ……大きく出たわね。

いいわよ、それくらいの勢いでいってくれないと。

これからあなたが相手をする相手は

海千山千の猛者たちよ。

しかも“お貴族様”というやっかいなステータスの人も

たくさんいるでしょう」


「望むところですよ

胸が躍りますね……

俺、障害が高い程燃える質なんですよ」


そう言ったカシムくんはかなり悪い顔をしていた。


あなた本当に10代の少年ですか?

中身はかなりのおっさんクラスですよ。


「まずは見習いから入ってもらうけれどいいかな?

私の知り合いに大きな商会をやっている人がいてね。

その人の元で修行してもらう事になると思うわ」


大きな商会ねぇ……。

どこだ?


クレランス商会あたりか?

俺は国の中でそこそこ名の知れた中級クラスの商会の事を

思い浮かべていた。


「因みにその方のお名前を伺ってもよろしいですか」


「ええっと……。

ルナルドさんって……

なんという家名だったかな?」


はっ?


えっ?おいおいおいおい。


このお嬢様今……なんていった!?

ルナルドって……。


「あ~キツネ便だっけ?

あっ?えっ?」


一所懸命思い出そうと何か1人で唸っているが

もうその情報だけで思い当たる商会は1つだけだぜ。


まさかの名前に俺は体が震えた。


一方凛桜はほとほと困り果てていた。


ヤバいな……

ルナルドさんの家名を気にしたことなかったわ。


確か一度前にお手紙を頂いた時にチラッと見た気が……。


「うっ~」


どうしよう~。


私は助けを求めるようにカロスさんを見上げた。


「アルヴェーン様ですよ」


カロスさんが横から教えてくれた。


「あ、そうそう!

ルナルド=アルヴェーン様の商会だよ」


「っ…………」


本気かよ……。


俺は思わず息をのんだ。


王国一の大商会じゃねぇか。

しかもお貴族様ときたもんだ。


嘘だろ……。


ここの商会への就職なんて本来よほどの実力者じゃないと

箸にも棒にもかからない程の狭き門だぞ!


しかもルナルド様と言ったら……

貴族では珍しく一切家柄などで人を判断しない方だ。


商会への採用方法も他の商会と一線を画していて

実力や人柄で人を採用するという革新派だ。


この話が本当だったら喉から手が出るくらいの案件だけど。


「どうかな?」


目が本気だからこのお嬢様……。


「はあ……」


本気かよ……。

どうやら与太話じゃないようだな。


凛桜様って本当に何者なんだ!?


どこからそんな強力な後ろ盾を得てくるんだよ。


そもそもあのコウモリの使い魔じたい

奇跡的な事だからな。


あんな形をしているが奴は将軍クラス級の魔物だ。

もしかしたらそれ以上かもしれねぇ。


本来使い魔なんかになる魔物じゃない。


それだけでも規格外なのに……

本気でなんなんだよ、このお嬢様。


こうなったらあながちクロノス閣下の番の話も

真実味をおびてくるな。


この色気もへったくれもねぇ上に……。


毒気もなく平和ボケしたお嬢様が本当に

すべての女が憧れると言っても過言じゃない

騎士団長様の番候補なのか!?


「ん?」


カシムくんに穴が開くほど見つめられたので

凛桜は不思議そうににっこりと笑って首を傾げた。


「…………っ」


まあ、顔も声も笑顔も悪くねぇ……

馬鹿がつくほどお人好しの性格も嫌いじゃねぇ……。


いや、そうじゃねぇだろ俺……。


本当は魔族なんかじゃなくて……

表には出ない王族とかなのか……!?


確か皇帝陛下とも繋がりあるって言っていたよな。


それとももっと何か高次元な存在なのか?


俺が不思議そうに思案していたからだろうか。


「あっ?そういう配慮はいやだった?」


急に心配そうに俺の顔を覗き込んできた。


「いえ、それが妥当ですね。

僕も色々と吸収したいです。

今後の為にも色々とね……。

だからありがたいお話です」


そう言ったカシムくんの顔は先ほどとはうって変わって

既に大人の男の人の顔をしていた。


「そうだよね~

いっぱい勉強したいよね~」


ハッ……呑気かよ。


こういう所は……

本当に世間知らずのお嬢様なんだよな。


相変わらずなんにも気がついてないのな、あんた。


まあ、トドのつまりあんたが何者でもかまわねぇ。


いつまでもおれは子供じゃないからな。


本当は商会もあんたも手に入れたいけれど

今の俺じゃ役不足だ。


油断するなよ、クロノス閣下……リュート兄貴……

そして凛桜様……。


俺は野心家で狡猾なイタチだぜ。


欲しいものは俺の全てを使って必ず手に入れるぜ。


腹の中ではそんな事を思いながら

俺は物わかりのいい少年のふりをして

お茶を一気に飲み干した。



そんな様子を少し離れた場所で黙って見守っていた副官コンビ。


「ギュギューワ……ギュギューワ」


“大丈夫か本当にこいつを仲間に入れて?”


「まあ……

あれくらいの野心があるほうが成功するんじゃないですか?

それに団長があの少年に負けるとは思いませんし」


「ギューギュギュワ……」


“魔族でもここまでギラギラした男はそういないぞ”


「そうですね……

なかなか将来が末恐ろしい感じはしますが

今後の為にも1人でも多く凛桜様の味方がいた方が

いいかと思います故……」


「ギューキューワ」


“なかなかの劇薬だけどな……”


副官コンビは若干心配になった。



凛桜はちょっぴり危険で優秀な参謀を手に入れた!





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