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21.魔獣さんですか?再び……

田舎暮らしを始めて26日目。



異世界に無事にもどってきたらしい。

畑の野菜達も順調に育っているし、果樹園もしかりだ。


そうそう、忘れていたけれど……

干し柿もいい具合にできていました。


クロノスさんが来たら、食べさせてあげよう。

そう思いながら、ジップロックにしまった。


よし、それじゃあ梅酒をつけますか。


まず梅を水洗いしてザルにあげます。

そしてペーパーで水気をしっかり拭き取る。


梅の種類によっては、一晩水に漬けるといいのだが

それは既に母がやってくれていたようだ。


梅のヘタは竹串を使って、一粒ずつ取り除くのだけど

これが地味に辛い作業なのよ。


手が腱鞘炎になりそうだ。


黒豆達も興味深そうにクンクンと梅の匂いを嗅いでいる。


後は瓶を水洗いして、水気を拭き取る。


梅のエキスがよく出るように、更に竹串で

梅の実にたくさんの穴をあける。


梅と氷砂糖を交互に入れてホワイトリカーを注げば出来上がり。


時々揺らして冷暗所で保管すれば1年後には……

美味しい梅酒ができる。


まだ蔵には、年代物の梅酒があるのだけれど……

何故か毎年作りたくなっちゃうのよね。


よし、次は変わり種の梅酒を作るぞ。

ブランデー梅酒を作っちゃうもんね。


特に難しい事はない、ホワイトリカーの代わりに

ブランデーを使うだけだ。


他にもウイスキーやジンやウォッカでも美味しいのができる。



一通り作業が終わり、それを倉庫へと運ぼうと中庭に

降りた時にそいつは現れた……。


「………………」


薄汚れてボサボサの毛並み……

瘦せていて、軽くあばら骨が見えている。

尻尾や獣耳にはオナモミのような草がついていた。


そんなボロボロの割に、目だけはギラギラと飢えたように

鋭く光っていた。


牙がチラチラみえるし、低い唸り声もきこえる。


(魔獣さんかしら……。

どうしよう、かなり危険な香りがする……)


凛桜は引きつった表情のまま固まっていた。


(クロノスさんの結界がもしかしてきれた?)


こんな時に限って黒豆達の姿が見えない。

畑に行ってしまったのだろうか。


その魔獣は尻尾を揺らしながら、完全に凛桜を

ロックオンしていた。


梅酒の瓶をガッツリ両手で抱えているので

攻撃も守備もできない状態だ。


かといって、背中をみせて逃げたら後ろからばっさり

やられてしまうだろう……。


かなりピンチですわ……。


魔王様から貰った紫水晶のピアスを取りに行く猶予なんか

あるはずもないし……。


ジャリ……ジャリ……。


魔獣は一歩一歩確実に凛桜に近づいてきている。


(うわぁ……どうしよう……)


そして魔獣はついに凛桜めがけて飛びかかってきた。

自分の2倍はあろうか魔獣が覆いかぶさってくる!!


「…………!!」


私の人生ここまでだったか……。


覚悟を決めて目を瞑ったが……

痛みは襲ってこない……。


「あれっ?」


恐る恐る目を開けると、その魔獣が凛桜の首筋に顔を埋めて

グルグル言って甘えている。


「ふぁ……」


その重みと驚きのあまり尻もちをついてしまった。


前足で凛桜をがっちりとホールドしたまま

ふんふん言いながら凛桜の首筋に頭を擦りつけている。


「一体……これは……」


肉球の感触は気持ちがいいけど、軽く爪が背中に食い込んでます。


それにかなり獣臭い……。


どうしたもんかな……と遠い目になっていると

上から焦った声が降ってきた。


「間に合わなかったか……。

副団長早く来てくださいっ!」


凄くあせった声が聞こえてきた。

この声はノアムさんだな。


「団長!! 離れてください!!」


更にあせった声と形相でカロスさんが庭に飛び込んできた。


二人がかりでようやく団長=クロノスさんと思われる

獣体を凛桜から引き剝がした。


今なお暴れてカロスさんが抑え込んでいる。


「あれはクロノスさんなんですか?」


凛桜はあらためてその獣体をみた。

たしかによく見るとユキヒョウだ。


余りにも薄汚れた毛並みをしていたのでわからなかった。


でも琥珀色の瞳をしているし……

尻尾の斑点の柄がクロノスさんのものだった。


どうやらこの柄の配置は、1つたりとも同じものはないらしい。

だからこれで本人かどうか確認を取ることもあるとの事だった。


興奮しているのか、唸りながらなおも凛桜の元に行こうとしていた。


「なんとか落ち着かせますから……。

危ないので凛桜さんは家の中に入っていてください」


カロスはそう言うと、腰にぶら下がっている小さい豪華な箱から

何かアンプルのようなものを取り出した。


その間に黒豆ときなこは既にノアムさんが保護してくれている。


「それはなんですか?」


あまりよくなそうな色をしているアンプルに不安を覚えた。


「これは強制的に獣体をとかせる魔法薬です」


「大丈夫なのですか?」


「…………」


気まずそうにカロスさんは視線をそらした。

ノアムさんをみると、困ったように眉尻をさげた。


「かなり体と精神に負担がかかります。

本当に緊急な時以外は許可がでない代物です。

でも本格的に理性を失って暴れられたら……

団長を止められる実力のものはここにはいません」


苦渋に満ちた表情でカロスさんはそう呟いた。


「凛……桜……さ……ん……」


獣体は苦しそうにそう吼えた。


「それを使うのは、待ってください」


凛桜は急いでおにぎりを持ってきた。

お昼に自分が食べようと用意していたものだ。


クロノスさんが大好きだといったツナマヨおにぎりだ。

そしてそのままクロノスさんの元へ歩いて行った。


「凛桜さん危険です!」


悲鳴に近いような声でカロスは叫んだ。


「大丈夫です。

私……クロノスさんを信じていますから……。

だから、カロスさん……。

クロノスさんを放してください」


「でも……しかし……」


凛桜の言葉に一瞬腕の力が緩んだのだろう

クロノスはその隙に逃げ出し、凛桜の元へ駆けて行った。


カロスとノアムが息をのむ声が聞こえた。


凛桜は逃げもせずにそのままクロノスの獣体を抱きしめた。


「急にいなくなってごめんなさい。

まずは落ち着いて話しましょう。

もう、急にいなくなったりしないから……」


そう言っておにぎりを口元に持っていった。


「凛……ぉ……」


獣体は大粒の涙を流しながら、おにぎりをパクリと食べた。


するとそのまま、元の獣人姿のクロノスに戻った。


「凛桜さん……俺……会いた……かった……」


安心したようにふわっと優しい笑顔を浮かべながら

そのまま凛桜を抱きしめたまま気を失った。


「おわぁ……」


急に全体重をかけられた凛桜はそのまま倒れそうになったが

カロスとノアムに救出された。


焦った……。

本当は一か八かの賭けだった。

かなり内心ドキドキの凛桜だったのだ。


「こんな奇跡ってあるんっスね……」


ノアムが興奮したように叫んでガッツポーズを決めていた。


「あぁ……」


心なし強面クマさんであるカロスさんの瞳が潤んでいた。



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