199.スパイ大作戦会議!?
田舎暮らしを始めて173日目。
「えっと……。
後は生地を休ませるだけかな」
おっと、その前にオーブンを170℃に温めておかないと。
はい、私はただいま絶賛“マドレーヌ”を作っている最中です。
今日は大量に作るので……
可愛らしいシェル型ではなくて昔ながらのカップにいれた
マドレーヌをガシガシ作っております。
マドレーヌって美味しいよね。
ケーキ屋さんのラインナップに並んでいたら
買わずにはいられない私です。
卵、薄力粉、ベーキングパウダー、砂糖、バターだけで
作れるというところも好きだわ。
よ~し、がんばるぞ~
と、意気込んだまではよかったのよ、うん。
でもね、今回もお約束のように……
きなこ・シュナッピー・黒豆・グリュック達が
今か今かと縁側で待ち構えております。
毎回思うのだけれども……
何故当然貰えると思っているのかい?君たちは
「…………」
「………………」
うん、そんな必死な瞳で訴えられてもできる時間はかわらないよ。
「ギチュ、チュ、チュ!?」
だから首を可愛く?傾げない!!
前から言っているけど君たちは1ミリも可愛くならないからね!
可愛さとか求めてないし、全く……。
あっ!話が逸れてしまったけれども!
何故私がこんな朝早くからマドレーヌを焼いているかというと。
明日の午後、ついにクロノスさんの領土にある
あの噂の孤児院へ潜入捜査にいく事になったからなんです。
陛下の誕生日WEEKも終わったことだし
本格的に捜査に乗り出そうという事になりました。
因みにイタチ獣人の少年ことリュートくんは
未だに騎士団の保護下にいます。
あれからもポツリポツリだけれども
色々な事を話してくれているみたいなのよ。
でもね、話だけじゃ立証できないじゃない。
それが例え真実でもさ。
法律国家という物はやっぱり証拠重視だからねぇ。
なんとかしてあげたいし、しなくちゃだけれども
こればかりはクロノスさんの力を持っても無理な話だからさ。
あ、もちろん陛下にもこの事件は報告済みよ。
「しっかりと捜査するのだぞ。
我にできることがあったら遠慮なく言うがよい」
って、おっしゃって頂いたし。
それに並行して……
私が今回各国の招待客の方に配るお土産プロデュースに
尽力したので何か褒美を与えたいともおっしゃってくれたのよ。
一瞬、“何もいりません!”と言おうかとも思ったんだけど……。
陛下のメンツもあるだろうし……。
他の貴族の皆様も遠慮なしにガシガシ頂いていたからね。
断ったら断ったで、またとんでもないもの貰ってもこまるし。
島とか領土とか地位とか本気でいらないしっ!
でもね、よくよく色々考えたのだけれども私……
欲しいご褒美が1つ見つかったのよ。
だからこの事件が解決したら陛下に申し出ようと思っているの。
クロノスさんにも話したらそれはいい考えだって言ってくれたし
きっと陛下もわかってくれるのではないかな。
だからこの事件はなんとしても解決したいの。
あっ!でもね、本気で島とかいらないから。
大事な事だから2回言いますけれども!
鷹のおじさま筆頭におつきの方達に深く心に刻んで欲しいわ。
そうじゃなくても……
陛下の誕生日プレゼントにあげた
“ポ〇モンのアイシングクッキー”を
エラく気に入ったらしく……。
「これは永久に我が家宝にしよう……」
と、仰って黄金の額に入れられて陛下の食卓の壁に
飾られていると鷹のおじさまから聞いた時は
倒れそうになったよ。
あ……うん、違う、違う、そうじゃない。
そういうものじゃないのよ。
食べて欲しいのよ、うん……。
確かに我ながらよくできた力作だったとは思うのよ。
でもね、クッキーなんだから食べてよ!
食べ物に時を止める魔法をかけないでくださいな……。
因みにピ〇チュウのアイシングクッキーは2つお渡ししたので
1個は泣く泣く召し上がられたらしい。
美味しかったとは言って頂いたが……
断腸の思いで食したらしい……。
確かに可愛い動物の形をしたお菓子って食べにくいけれども!
だけど、そういうことじゃない、うん……。
後、因みにだが……
先日クロノスさんが私の世界に来た時に陛下へのお土産として
買ってお渡した“ポ〇モンウェハースのおまけシール”に
関しての続報もあります。
なんと!
そのシール達は陛下の衣裳部屋の壁に飾られているそうです。
「NO.6とNO.12がないのが残念だ……」
と密かにこぼしていられたらしい。
しかし一番気にいっている“キャプテンピ〇チュウ”は
2枚被ったらしい。
キャプテンってなんやねん!?
というツッコミはおいておいて……。
ねぇ、それって一番のレアシールじゃないの?
さすが陛下、引きが強い……。
被った1枚は陛下の日誌の表紙に貼られているらしい……。
えっ?
小学生の国語ノートじゃないんだから……
いいのかいそれで?
従者さん達がそれをみて“ふぅわっ”とかなってないかしら。
なんかごめん……。
よくわからないけれど、謝らないといけない気がしました。
確かにすべてコンプリートしたいという陛下の気持ちは
よ~くわかりますよ、えぇ。
これは今度元の世界に戻った時にぜひともゲットしないと。
きっともうそのシリーズは店頭では売っていないだろうから
メ〇カリかヤ〇オクだな……。
そもそも何のキャラがゲットできなかったのかしら。
気になるところですが、またまた話を戻します。
まずは敵を知る所からという訳で……。
私がクロノスさんの遠縁の貴族という設定で寄付をしたいと
言う話をもって孤児院を訪れる事にしました。
他の人は面が割れているからね……。
いきなり行ったら警戒されてしまうかもしれないしね。
もちろんそうは言ってもいきなり私が訪ねてもおかしいから
事前にクロノスさんのお母様から孤児院にお話を通して頂いています。
クロノスさんのお母様は今……
遠い避暑地で静養なさっているお父様につきっきりらしい。
だから今回の騒動は全く知らなかったんだって。
なかなか領土に帰れないから……
孤児院の事は代理として親戚の方にまかせていたらしい。
大丈夫なの?その親戚のお貴族様……
その人ってめちゃくちゃ怪しくない?
クロノスさん曰く……
その話を聞いた時にお母様はかなりご立腹だったらしい。
“悪党をみつけたらとことんやっておしまいなさい。
私の目の黒いうちはそんな事は許さなくってよ!“
と、高笑いをなさっていたらしい。
なんか、おもっていたお母様像と違う。
かなり勝気で強い女性なんだって。
小さい頃から全く頭が上がらないらしい……。
ま、でもレオナさんを見ているとなんか想像できるかも。
ヒョウ属の女性って強いよね……。
そういう訳でお母様からもお墨付きを頂いたので
この際思いっきり悪党の掃除をしたいと思っております。
なので、潜入捜査開始よ~。
リュートくん情報によると……
今の子供たちのリーダーはおそらくリュートくんの弟だろうって。
だからまずはリュートくんの弟くんの信頼を勝ち取らないとね。
そっくりだから見たらすぐにわかるって言ってた。
名前は“カシム”くんだって。
リュートくんの弟くんは甘い物に目がないとの事だったので
甘い物を持っていって仲良くなろう作戦の為に
マドレーヌを作ったというのもあるけれど。
おそらく子供たちはあまりご飯もろくに与えられていないかも
しれない状況下なので……
大きなマドレーヌならば腹持ちもいいかなって。
本当に経営はどうなっているのよ!
そもそもそのヤギの院長先生はどうしたのさ?
リュートくんの話だとかなりいい先生の気がしたんだけどな。
そんな善人がいきなり悪人になるのかな?
何かどうしてもお金がいる状況に陥ったのか?
謎はいっぱいあるけれど、まずは中にはいらないとね。
クロノスさんも一緒に行きたがったんだけれども
いきなり大ボスが行ったらだめじゃない。
だから今回はお留守番です。
その代わり、なんとコウモリさんがついてきてくれます。
魔力補給の問題もあるしね~。
戦力的にも申し分ないとおもう……。
中身はあのゴリゴリのイケオジ魔族だしねぇ。
見た目も可愛いからきっと子供達にも大人気間違いなしよ。
昨日の夕方にふらっと魔王様が現れたのよ。
というか皆で真剣に作戦会議をしていたら……
シレっと参加なさっていたのよね。
「その受け答えだと逆に怪しまれないか?」
「キュッ!」
と、言われた時にその場で全員飛び上がったからね。
えっええええええええ!?
誰!?
いつからいらっしゃいました?
いるはずのないとことから声がするってかなり恐怖よ。
最初からいたが?何か?
的な顔をされましても……。
あのクロノスさんでさえ目が点になっていたからね。
驚きのあまり部下のリス獣人の青年が椅子から
転げ落ちたし……。
ノアムさんは驚いた時のにゃんこみたいな横跳びをしたし
カロスさんは目を見開いたまま固まっていたわよ。
その他の騎士団のみなさも石化していたわ……。
「話は全部聞いたみなまで言うな……。
こやつをかしてやろう」
魔王様はニヒルな笑いを浮かべながらそう言ったわ。
「キュ!」
コウモリさんも力強いお返事をありがとうございます。
クロノスさんは何か言いたそうに一回口を開いたが
直ぐに口を噤んで魔王様に軽く礼をしたわ。
そんなクロノスさんをみて部下の方達がハッと慌てて
魔王様に深く礼をするという
なんとも不思議な時間がながれました、ええ……。
「…………」
部下の方達があの人は一体誰なんだ!?
大物なのはわかるが……。
高位の貴族……いや……まさか……
な、ああ、でもこの感じ……魔族……!?
ま……魔族だと!?
だとしたらヤバくないか?
絶対に上位種だよな……。
あのオーラはヤバいって!
と、互いに目くばせをして無言のざわめきがありましたが……。
「知らない方が幸せッスよ」
というノアムさんの真剣な一言に……
部下の方達がごくりと唾を飲み込んで頷きました。
そんな様子を目を細めながらみている魔王様は
なんだかちょっぴり楽しそうだった。
「本当は我が凛桜の従者として馳せ参じたかったんだがな。
今回はこやつにまかせるとしよう」
という爆弾発言を残したまま魔王様はその後直ぐに
モナコ20個とフルーツジャム3瓶を片手にもったまま
闇の中へととけて消えて行った。
「……………………!!」
まあ、それはそれでまた部下の皆さん達が慄いていたわよ。
あまりにも空気が重くなったので……
気を取り直す意味も込めて一回皆で軽食を挟みました。
焼うどんを作りました。
冷凍うどんが大量にあったからね……。
野菜もお肉もあるからちょうどいいかなって。
皆さんたくさんおかわりして食べてくれたわ。
最初は見たことがない料理に少し戸惑っていたけどね。
美味しかったみたい。
人間はお腹が満たされると気分も落ち着くからね。
よし、作成会議を再開するわよ!
って、ノアムさん、残りのプリン1個をめぐって
本気で騎士団の皆様と喧嘩をするのはやめて……。
大人気ないですよ。
クロノスさんも笑ってないで止めてよ。
じゃんけんできめなさいよと思ったけれども
そもそもじゃんけんがこの世界にあるのかわからないから
黙っていたわ、うん。
説明するのも難しい……
いや、面相臭いんです、はい。
この理論も永遠に答えが出ないだろうから言いたくないけれど。
グーが石で、チョキがはさみで、パーが紙なんですよ。
チョキはハサミ=刃物だから石に弱いから負け。
うん、これはわかる。
でもパーの紙は、グーの石を包み込めるから勝ち。
はい?どういう事?
と、なりそうじゃない。
所説は色々あるかもしれないけれど……
私もこれは未だにわからない。
しかしそういうものという位置づけで今まできちゃったからな。
どうするんだろうと思っていたら
結局腕相撲トーナメントで勝負をつけることになり
なぜかカロスさんが優勝いたしました。
「……………いただきます」
特にそこまで食べたくはないのですが感が凄い……。
あんこものじゃないとここまでテンション低いのねぇ。
そんな事を思いながらも更に話を詰めていくうえで
私と孤児院へ潜入するメンバーを誰にするのかという
議題があがった。
流石にコウモリさんだけじゃ視覚的におかしいから……
ノアムさんの親友兼クロノスさんの部下のリス獣人の青年が
おつきの従者として来てくれることになりました。
あまり高位の部下さん達だとやはり顔を知られているようで
ちょうど中間くらいの方がいいらしい。
「チッタと申します。
なんか変な感じですね、何回もお会いしているのに」
そう言ってリス獣人の青年はハニカミながら挨拶してくれたわ。
今まで何度もお会いしているのにようやく名前を知りました。
チッって言われた時に某ディズニーのリスキャラクターが
頭の隅をよぎったわ。
やっぱりリスだから?リスだから!?
同じ名前だったらどうしようとドキドキしちゃった。
「こちらこそよろしくお願いします」
「こう見えてチッタは俺達の部隊で隠密部隊所属なので
なんにも心配いらないッスよ」
そう言ってノアムさんはモナコを頬張りながら
いい笑顔で親指を立てていた。
「死ぬ気で凛桜さんをサポートしろよ。
くれぐれも危険な目にあわせるな、いいな」
クロノスさんの圧が強すぎて……
壊れた人形のように首を縦にふるチッタさんがそこにいた。
「おそらく院長室が怪しいと思うので……
凛桜さんが孤児院を案内して貰っているうちにすばやく
行動するのですよ。これが見取り図です。
明日までに頭に叩き込んでおくように」
「はっ!」
カロスさん、セリフはカッコいいんだけれども
目の前のおはぎの山をみて緩む口元を必死に隠しながらの
発言はどうなんでしょうか?
大丈夫なのか、本当に?
そんな事があったきのうの夕方の出来事の一部始終です。
「は~い、マドレーヌが焼けましたよ。
みんな1つずつだからね」
いやっふぅ~と言わんばかり動物達+植物が歓喜に沸いていた。
「まだ熱いから気をつけるのよ。
あっ!グリュック達は1つを皆で分けて食べてね」
と、言うと……。
“えっ?1羽で1個じゃないんですか!?”
的な顔をやめぃ。
そんな訳がないでしょうが!
あなた達……20羽以上いますよね……。
そもそも体と同じくらいのマドレーヌを1羽で
食べるつもりだったのかい?
今までだって1つの物を数匹で食べていたじゃない。
えっ?もしかして不満でした?
「…………」
「………………」
数秒謎の見つめあいの時間が発生いたしました。
「ギチュ?」
はい、可愛く?首を傾げても駄目ですよ。
“食べきれない分は持ち帰るから~”は駄目です。
うちのお店はそういうのはやっていません!!
「チュ……」
そっとキラキラ光る宝石の花を差し出すのやめぃ。
お金にものを言わすんじゃありません!!
全く君たちは!幸運の使者じゃろがいっ!
そんなにマドレーヌが食べたいのかい。
村で待っている子供たちに食べさせたいのです!
じゃないんですよ、全く……。
きなこ達も援護射撃やめて……。
イッヌのその目に弱いのよ、私……。
「あ~もう、お土産に数個持って帰っていいから
大人しく食べなさい」
「ギチュチュチュ!!」
はい、歓喜の舞とかいりませんから。
見たことのない踊りの編成とかくまないで!
一体どうなっているんだうちの庭のルールは!!
頼むからタヌちゃん達まで来ないでよ!
いま来られたら確実に終わる……。
マドレーヌがなくなってしまうわ。
激しく天に祈りをささげたのは言うまでもない……。