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198/219

198.返り討ちにしてもいいかしら?

田舎暮らしを始めて172日目の続きの続きの続きの続き。




「あらん……ごめんあそばせ。

あまりにも小さくて貧相なので見えませんでしたわ」


「…………」


うわぁ……。

こんなド直球な悪口を面と向かって言われたのは初めてだわ。


クロノスさんがお偉方様とお話があるみたいだから

1人で豪華なお食事を楽しんでいたのよね。


もう何食べても美味しいの。

見た目も美しいしね!


虎のおじさまが率いる宮廷料理人のおじさま達は

やはり凄い人達なのね。


目でも楽しいし、口でも大満足よ!」


皆さんほとんど手をつけていらっしゃらないけれども

私は食べます!


そんな事を思いながら生ハムらしきものを銀のお皿から

取ろうとした時に隣の人が急にぶつかってきたの。


あぶないじゃない!

生ハムもどきのお皿に頭ごとツッコむとこだったわよ!!


かなり強めに当たられたからこれは完全にわざとだと思ったわ。


なんとか踏ん張ってそいつの顔をみたら……

目の覚めるような赤い髪が美しい豹獣人のお嬢様だったよ。


しかもそいつ……

んん、んんん……その方。


私が転ばなかったのが気にくわなかったのだろう。


周りには聞こえないように“チッ”って舌打ちしたからね。


はい、完全にクロですね。


これがいわゆる“悪役令嬢”という方なのかしら?


たしかこの方……

私とクロノスさんが会場に入ってきた時から

かなり鋭い視線で私たちの事を睨んでいたのよね。


その目が猛獣のハンターのようだったから

かなり強烈に印象に残っていたわ。


本気で怖かったもの。


あまりにもこのお嬢様があからさまだったから

クロノスさん自身もちょっと苦笑いしていたくらいよ。


恋をするのは自由だけれども……

人様に迷惑をかけるのはいかがなものでしょうか?


それにね……

御多分にももれずに取り巻きのお嬢様方も姦しい。


「ケリー様のおっしゃる通りですわ。

本当に小さすぎて私……

どこかの幼子でも紛れ込んでしまったのかと思いましたわ」


取り巻きその1のネコ科のお嬢様がそう言いうと

全員がクスクスと嘲り笑うように凛桜をみた。


「本当にクロノス閣下はどうかしていらっしゃるわ。

なぜこの方なんかと一緒に登壇なさったのかしら」


取り巻きその2の虎獣人のお嬢様も意地悪そうに目を細めた。


初めはなんだこの人達&カチンと頭にきたんだけど

かなり鼻息荒いしドヤ顔で見下してくるし。


THE悪役なセリフのオンパレードなんだもん。


途中からなんかある意味楽しくなってきちゃったわ。


こんなテンプレな悪役令嬢集団いるんだ……。


「ちょっと、あなた聞いていらっしゃるの?」


「あ?はい?」


あまりにも凛桜に嫌味が響かないので豹獣人の悪役令嬢は

かなりご立腹の様子。


どうしたもんかな~。


クロノスさんはかなり遠くにいるし……。


多分お話している豹獣人のおじさまがかなり大きな方なので

死角になって私のこの状況が見えないのかもしれない。


こういう時に限ってカロスさん達も近くにいないし。


レオナさんは他国の賓客をもてなす為に別会場だし……。


あまり騒ぎも大きくしたくないんだよね。


と、いうか面倒くさいなこういう女子のいざこざ。


きっと何を言っても話が通じない人達だろうしなぁ……。


「本当に教養のない方は嫌ね」


豹獣人の悪役令嬢はわざとらしく大きくため息をつくと

軽蔑した視線で凛桜を見下ろした。


はあ?


こういうことしているあなた達の方がよっぽど教養が

ないと思いますが!?


と、心の中で反撃はしております、一応。


「どうやってクロノス閣下にとりいったのかは知りませんが

あまりにもお門違いという事を自覚してくださいませ」


取り巻きその1が意地悪そうな顔でそう告げると

続けて取り巻きその2が愉快そうにこう言った。


「ま、少なくてもその貧相な身体ではない事はたしかですわね」


その発言を聞いた豹獣人の悪役令嬢は自分のスタイルの良さを

見せつけるように凛桜の顔をみた。


ああ?


本気でどつきまわしてやろうか?ああん?


思わずブラック凛桜が飛び出しそうになっちゃったわ。


外的要素で人の悪口を言ってはいけないって

習わなかったのかい?


そりゃ、あなた達のようなボン、キュ、ボン(死語)の

体型じゃない事はたしかだよ、うん。


でも人の評価ってそれだけじゃないから。


内面の方がはるかに大事だとおもいますよ、私は!


ああ、もう本気でウザいんですけど。


早くクロノスさん戻って来てくれないかな。


ここから逃げ出したくてもこんなに大きな獣人達3人に

囲まれたらそれすら難しいのよ。


そんな凛桜の焦った表情を見て楽しくなったのだろう。


豹獣人の悪役令嬢は何を思ったのかこう言い放った。


「図星のようですわね。

そんなあなたに私が相応しい殿方をご紹介させて頂くわ」


そう言うと取り巻きの2人が左右から凛桜の腕を強引につかんだ。


「ちょっと、何、放して!」


凛桜が抵抗しようとすると……

取り巻き1が鋭い爪を凛桜の頬に軽くつきたてた。


「怪我をしたくなければ静かにしてくださいませ」


え、えええええええっ!?


いやぁ……すがすがしいほどベタな展開なんですけど。


このままいったら私……。


どこぞかの部屋に押し込まれ……

待ち構えていたバカ獣人の貴族の令息にあ~んなことや

こ~んな事をされてしまうがな!!


ここはもう一発かますしかないかな。


返り討ちにしてもいいよね、ここまでされたら。


凛桜が反撃を開始しようとした時だった。


「あらん……楽しそうなお話ですこと。

私も混ぜてくださいます?」


ふうわっ!


これまた美しいユキヒョウのお嬢様が降臨した!!


可憐と言う言葉はこの人の為にあるんじゃないだろうか。


まさかの登場人物に悪役令嬢達はピシッと音がするくらい

唖然とした顔で固まっていた。


「ウフフフフ……」


可憐にユキヒョウ獣人のお嬢様が全員の顔を見渡して

にっこりと微笑むと……

何故か悪役令嬢たちは一気に覚醒して青ざめた。


「相変わらずおいたが過ぎるようですわね」


何故なのだろう?


顔も口調も穏やかなのに底知れない圧が降り注いでくる。


「あ……その……」


悪役令嬢達は目をしろくろさせてキョドリまくっていた。


この可憐なお嬢様……

悪役令嬢達よりも高位の方なのかな?


狼狽え方が尋常じゃないもの。


「ウフフフフ……いけない子達ねぇ」


そう言ってユキヒョウ獣人のお嬢様があまりにも

美しく微笑むものだから!


凛桜は口をぽかんとあけて見惚れていると

いつの間にかシュッとしたイケメンのドーベルマン獣人が

取り巻きの令嬢達から凛桜を助けてくれた。


「大丈夫ですか?お嬢様」


「えっ?はい?

あ……助けて頂きありがとうございます」


「いえ、私は何も……

お礼なら我が主に」


そう言って軽くハニカミながら礼をした。


と、そこに焦った顔でクロノスさんが飛び込んで来た。


「凛桜さん!!」


不思議な事にその瞬間なぜかスローモーションのように

時が止まってみえた。


そうしたら少し強引に腕を引っ張られていて気がついたら

クロノスさんの腕の中に閉じ込められていたのよ!


「あなた方は一体……

俺のパートナーに何をした」


あくまでも声は冷静だったがそこにいた全員を見回して

威嚇するように放たれた言葉だった。


あとで聞いたところによるとこのセリフを言った時の

クロノスさんの顔は100体の魔獣を退治した時くらい

怖い顔だったらしい。


う……うん、なんかいまいちよくわかないけれど

とても怖い顔をしていたんだろうねぇ。


「ヒィ……」


その迫力に取り巻き1が引きつった声をあげた。


悪役令嬢も胸の前で腕を組んだまま軽く震えているみたいだ。


このままでは血の雨が降ると思ったのだろう。


「クロノス閣下……。

陛下の御前ですわよ。

押さえてくださいませ」


ユキヒョウ獣人のお嬢様がそう告げるとクロノスさんは

少し冷静になったのだろう。


「あ、ああ……、えっ?カトリーヌ嬢……。

いらしたのですか?」


えええええええええぅ?


もしかして今この方の存在に初めて気がつきました?


私を助けてくださったのは!

この白百合のようなユキヒョウ獣人のこの方なんですけれど。


凛桜が驚いた顔でクロノスを見上げるとクロノスさんは

何を勘違いしたのか更に庇う様にぎゅっと凛桜を抱きしめた。


あ~もう、これは本気で駄目なやつ!


私はクロノスさんの胸を叩いて解放してもらった後に

ビシッと言ってやったわ。


「いや、違うから!!

悪役令嬢はこっち!」


人を指さしてはいけません!

と、言われましたが知るもんか!


思いっきり豹獣人のお嬢様方を指さししてやったわ。


悪役令嬢ってなんぞや?

的な顔をしていたけどそこはあえてスルーします。


「そしてこの可憐なお嬢様は正義の味方だから!

私を悪の手先から救ってくれたのよ。

このイケメンの従者さんと共に!

その節は本当にありがとうございました」


そう言って丁寧に2人には頭を下げたわ。


「そう……なのか……?

すまん……」


そう言ってクロノスさんはバツの悪そうな顔をした。


「謝る相手が違うでしょうが!」


凛桜がそう言って促すとクロノスさんは困ったように

眉尻をさげて獣耳と尻尾をへにゃっと下げてから。


2人に向かって軽く礼をしながら言った。


「勘違いをして申し訳ございません。

そして彼女を守ってくださり……

ありがとうございます」


“これでいいんだよな、凛桜さん!”


くらいの勢いで子犬のような瞳のクロノスさんが見つめてくるから。


“うん、よくできました。いいこ”


くらいの優しい瞳で見つめ返すと……。


まさかそんなクロノスさんの姿を見る日がくるとは

思わなかったのだろう。


カトリーヌ様は感動していた。


獣耳をこれでもかとピルピルと激しく前後にうごかしながら

両手を口にもっていかれて……


「あららら……

ウフフフフフ……あのクロノス様がねぇ……

愛されているわね……凛桜様……ウフフフフ……」


と、意味深な表情を浮かべて微笑んでいらっしゃったわ。


そう言われたクロノスさんは耳を真っ赤に染めながら

拗ねたようにそっぽをむいていたのが可愛かった事は内緒だ。


と、その時急に悪役令嬢達が叫んだ。


「今、凛桜様とおっしゃいましたか!?」


「はい?」


「えっ、この女が……いや、この方が?」


取り巻き1よ……

この女と言った事は聞き逃しませんよ!


「そうですが何か?」


カトリーヌ様が怪訝そうに首をかしげると

悪役令嬢達はますます騒ぎ出した。


「ま、まさか……この小さき魔族の女が……

あの“モナコ”を生み出した方だったなんて……」


そう言って膝から崩れ落ちた。


まだ、その設定が継続しているんだ……。


もう私はこの世界では“魔族”として生きていくしかないのかい?


と、それ以上になんでこの人達は絶望しているんだろう。


モナコ?


何故にここでモナコ?


と、後ろから楽しそうな声が聞こえて来た。


「今頃気がついたッスか?

この方こそがあの“モナコ”を筆頭に我が国の食を発展させた

魔族の姫こと“凛桜”さんっスよ」


えっ、なんか恥ずかしいから本当にその感じやめてぇ。


そしてその場でカロスさん共々小声でそっと謝られた。


急に招待した他国の要人にトラブルが発生した為に

急遽駆り出されてしまって……

私の傍から少し離れてしまったらしい。


ノアムさん達的にも何かあったらいけないと思い

部下の人達を代わりにおいていったのだが……。


その間にこの事件が発生しちゃったという訳。


部下の方達の話では……

相手が高位貴族すぎて助けにはいれなかったんだって。


でもいよいよ雲行きがあやしくなり

意を決して助けに入ろうとした時に……

カトリーヌ様が仲裁にはいってくれたとの事だった。


貴族の柵って根深いのねぇ。


本当に女神だよ、カトリーヌ様!


「あ~あ、ケリー様……残念っスね。

今後いっさいケリー様およびお嬢様方のお家は

モナコを始め凛桜さんが開発したものは食べられないでしょうね」


そう言ったノアムさんはかなり悪い顔をしていた。


えっ?そなの?


凛桜が不思議そうクロノスを見上げると……

クロノスさんは無言で頷いた。


「そんな……そんな事って……」


悪役令嬢達は泣き崩れていた。


ん?えっ?モナコってそこまでの影響力ある?


いや、えっ?


意味がわからないんだけれど。


べつによくない?

モナコやホットケーキが食べられなくても……。


他にも美味しい食べ物はごまんとあるでしょうが。


しかしあのカトリーヌ様さえ


「まあ……お気の毒に……」


って、本気で気の毒そうな声と表情なんですけどぉ。


はい?


いつのまにか集まった周りの人達も口々に

“お気の毒に……”といっているじゃなぁい?


あれ?こんなに周りに人がいましたっけ?


そしてそこに悪役令嬢のパパさんだろうか

人ごみをかき分けて焦ったように駆け寄ってきたかと思ったら

人目を憚らずに娘を叱咤した。


「お前はなんて事をしてくれたんだ。

この副宰相の私の顔に泥を塗ったのだぞ!

あれほど言ったではないか!

今日は大人しくするといったから連れて来たのにこんな事を!

よりによって魔族の姫君に喧嘩を売るなんて……」


「ごめんなさい……父上。

私知らなかったんですの……

それに……どうしてもクロノスさまを……」


「ええい、もう勘当だ」


「父上、父上~」


あ~ああ、もう修羅場じゃん。


「フン……自業自得ですね」


カロスさんや、それを言ったらおしまいですよ。


すると悪役令嬢は凛桜のドレスの足元に縋るように

抱き着いて懇願した。


「魔族の姫様……

どうか……どうかお慈悲を……」


えええええええええっ?


いや、あんたさっきまでえげつない悪魔っぷりでしたよ。


「どうか……どうか……」


困るぅ。


「見苦しいぞ」


クロノスさんが一喝するも悪役令嬢はひかないようす。


「どうか……どうか……」


「…………」


「どうか……どうか……」


そんな悲痛な声をだされてもなぁ……


「どうか……どうか……モナコだけは……」


えっ?そっち?


怖っ……。


罪をゆるして欲しいじゃなくて?


モナコ懇願の方ですか?


凛桜が激しく遠い目になったのは言うまでもないだろう。




「いや~あの気持ちわかる気がするっスよ。

この先一生モナコを食べられないなんて……。

実質……死刑宣告されたようなもんッスよ」


と、ノアムさんがしみじみ言っていたわ。


「考えただけでも恐怖で震えます」


カロスさんまで真顔でやめて。


「モナコにはなかなか抗えないからな……」


クロノスさんまでぇ!?


「本当に罪な女よねぇ、あんた」


レオナさんにだけは言われたくないセリフデス。


余談だが……

あの悪役令嬢達はあのあと修道院に送られたもよう。


あくまでもあれは脅し文句だけだったようで

実際はただ控室に一晩閉じ込めて困らせたかったんだって。


それをきいてちょっぴりほっとしたわ。


もし、私が想像した通りの危険な展開だったら

確実に死を免れなかっただろう。


それほどクロノスさんが怒り心頭だったからね。


と、いうか陛下もかなり怒っていたよ、うん。


「大抵の事は許す余地を与えるのだが……

余にも許せないことはあるのだ。

凛桜を困らせる事は断じて許さないが……」


どうする?ん?


といった時の美しすぎる残酷な瞳が忘れられないわ。


あの方は1番怒らせちゃいけない人だ、うん。


まあ、若気の至りで恋する乙女の暴走だから

大目に見てくださいとだけお伝えしておいたわ。


「そうか……。

フッ……凛桜らしい……」


そう言ってふわっと優しく微笑む陛下が好きだ。


国民の皆さん!


頼むから陛下だけは本気で怒らせないで

と、心の底から願ったわ。


そして改めて“モナコ”最強!

という事を知った1日でした。




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