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197/219

197.知らない所で何かがはじまっているらしい

田舎暮らしを始めて172日目の続きの続きの続き。




「………………」


いやぁ……あれから一言も喋らなくなっちゃったよ……。


イタチ獣人の少年ことリュートくんは……

騎士団の詰所に来た瞬間から貝のように口を閉じてしまった。


どうしたもんかな……。


詰所ってたしかに雰囲気が警察署っぽいもんね。


そう言えば昔、私も全く悪いことをしていないのに

警察署に行ったときの妙な緊張感を思い出したわ。


「…………っ、うま……!」


凛桜が作った紅茶のアップルティーにはかろうじて

ちびちびと口をつけて飲んでいるようだが。


完全にここにいる大人達全員を警戒しているみたい。


その中でも特にクロノスさんを警戒している様子。


「…………」


これには流石のクロノスさんも苦笑を浮かべるしかなかった。


俺、何かやったかな?

くらい密かにちょっぴり凹んでいるようです。


不自然なくらい目を合わさないからね!


だが、このままでは埒があかないと思ったのだろう……。


クロノスさんは無言でノアムさんの肩を叩きながら

目くばせをして部屋を出て行こうとした時に

狼獣人の青年が入ってきた。


「団長……あ、他の皆さんもお揃いでしたか

ちょうどよかったです。実は先ほどの件なのですが……

って、凛桜さん!?なぜここにいらっしゃるのですか?」


まさかの人物の登場に少し驚いた表情をしていたが

すぐに笑顔になり軽く会釈をしてくれた。


ふぁああああ!!


この方は一発で私とわかってくれた!

嬉しい!!


先程の2人はさっぱりだったもんな。


違いは何なの?


やっぱり狼はイヌ科だからなのか?

鼻が利くのか?


ちょっと軽く感動を覚えていたのだが

今はそんな事を思っている場合じゃない。


リュートくんは新たな肉食獣人の登場でますます身体を強張らせた。


狼獣人の青年は新たな報告事項を持ってきたのだろうか

なにやら声を潜めてこっそりクロノスさん達と話をしだした。


よくわからないけれども何かが起きているのは確かだ。


「………か、………アン……で、…………」


と、いきなりリュートくんがガバッとソファーから立ち上がった。


「狼の兄ちゃん!!

今、アンナって言ったか!」


えっ?急に何?


あの距離からクロノスさん達の会話が聞こえたの!?


すごく耳がよくない?

あんなに小さな可愛らしい獣耳なのにぃ?


そう言えばイタチって聴覚が敏感だって聞いた事がある。


だから超音波を使って駆除することもあるって

何かの本で読んだきがする。


「えっ……」


そう言われた狼獣人の青年も一瞬固まった。


しかしそんなことはお構いなしにリュートくんは

必死な表情でつかつかと狼獣人の青年に歩み寄ると

再度またきいた。


「アンナって言ったよな。

アンナ見つかったのかっ!?」


そう言って更に詰め寄った。


「えっ、なんですかこの少年は」


「狼の兄ちゃん、教えてくれよ!!」


急に現れたイタチ少年に狼獣人の青年が戸惑っていると……。


「は~い、そこまで。

それに大人と話すときは敬語で話さないと駄目っスよ」


そう言ってノアムさんが優しくリュートくんを狼青年から引きはがした。


「だってよ」


「おまえ、アンナと知り合いなのか?」


クロノスさんがそう問うとリュートくんはぎゅっと口を噤んだ。


「団長がきいていらっしゃるだろう」


カロスさんがそう言うとリュートくんはその迫力に

ビクついてから直ぐに目を逸らしまたもや口を真一文字に結んだ。


「なあ、お前が話さないと何も話は進まないっスよ」


ノアムがそう諭すもリュートくんは頑なに口を開こうとしない。


両手をぎゅっと握って何かを必死に堪えているようすも見える。


「……………」


すると狼獣人の青年はリュートくんの目の高さまで屈むと

しっかりと視線をあわせて優しく言った。


「詳しい事は捜査中で話せないんだ、ごめんな。

でも俺達、いや団長が必ず全力で善処するからな。

そこは安心していいぞ、約束する。

だからお前ももう少し大人になれ」


そう言ってリュートくんの頭を軽く撫でてから部屋を出て行った。


その言葉が心に響いたのだろうか……

リュートくんはみるみるうちに目に涙をいっぱいためた。


それから縋るような表情でクロノスさん達をみまわしたの。


「そんなこと言って……また俺達を……騙すんだろ。

子供だと思ってバカにしてんだろ!」


「は?」


そんな事を言われるとは思っていなかったので

正直言って面を食らった。


「大人は汚い……。

俺達が何もしらないと思ってる……ちくしょう……。

特に、クロノス閣下はその親玉じゃないか!

貴族なんか嫌いだ!」


「あ?」


まさかの暴言&発言に全員固まった。


クロノスさんが悪の親玉!?


「おまえ、何を言っているんだ。

失礼にも程があるだろうが!!」


カロスさんが吼えた。


「子供だからって言っていい事と悪いことがあるッスよ!

団長だったからよかったッスけれど!

これが他の貴族だったらお前……

今すぐに首が飛んでいてもおかしくないっ状況スよ!!」


あのノアムさんが珍しく本気で焦っていた。


「…………」


言われたクロノスさんはかなり複雑な顔をしていた。


なんか、これは凄い事情がありそうだな……。


リュートくんは口が悪くて傍若無人なところがあるけれど

けっしてバカじゃない。


きっとこの行動には何か理由があるだろうし……

若い少年が大きな力と必死に戦っている気がしてならないの。


「ねえ、どうしてクロノスさんを信じられないの?

それはクロノスさんがあなたの住んでいる領土の領主様だから?」


凛桜がそう聞くとリュートくんは困ったように

眉尻を下げたが、やがて素直にこくりと頷いた。


「そう……。

そしてそう思う根拠には……

あなたの出身の孤児院と何か関係がある?」


そう言うとリュートくんは目を見開きヒュッと空気を飲んだ。


この質問は確信をついたものだったのだろう。


狼狽えながらどう答えようかと考えあぐねている様子だった。


まあ、このキョドリ方からして“YES”と言っているようなものだけどね。


それをみたクロノスさんはカロスさんにそっと目くばせをした。


カロスさんはそれを受けて静かに部屋を出て行った。


「なあ、何があったか話してくれないッスか。

俺達は決して他言しないっスよ。

ここで会ったのも何かの縁じゃないッスか」


人懐っこいノアムさんの笑顔と優しい口調に

少しずつだがリュートくんの表情が和らいだ。


よし、ここは援護射撃だ。


「そうだよ、確かに悪い大人がいるのも事実だよ。

でもこの第一騎士団には悪い大人は1人もいないからね。

何故ならこの騎士団を率いているクロノス閣下が

とても正義感の強い頼れる男だからだよ。

それは私が保証するよ」


凛桜がそう言うとリュートくんは泣き笑いを浮かべながら

生意気な口調でこう言った。


「それはおば……いや……

お姉さんがクロノス閣下の事が好みだからだろ。

調子いいこというなよ。

さすがのお姉さんでも閣下を狙うのは

ちと高嶺の花じゃねぇか」


「「ブハッ……」」


なんとも憎らしいませた発言に思わずクロノスさん達が吹いた。


「ああん?

あんたね、さっきからこっちが下手に出ていれば

生意気だな!もう、許さないわよ。

さっき買ったアプルンの代金全部払わせるからね!」


凛桜が半分本気で怒りながら軽くリュートの肩を小突くと


「横暴だな!いい大人のする事かよ……暴力反対!」


そういいながら大げさに痛がるふりをしてケタケタと笑った。


「元気が出たみたいッスね」


「ああ……」


「で、何があった」


と、仕切りなおすようにクロノスは真剣な眼差しで聞いた。


そんなクロノスの顔をじっとみていたリュートくんだったが

腹を括ったのだろう。


重い口をひらいてくれた。


「実は……」



そして数十分後……


「と、いう訳なんです」


ふぁあああ、これは闇が深いわ。


クロノスもこめかみを押さえながらため息をついた。


「それが本当ならかなり深刻ッスね。

特にもし本当に仮に貴族が絡んでいるとなると

本当にやっかいッスねぇ……」


ノアムさんも絶句していた。


「俺の知らない所でそんな事が起きていたのか……。

まあ、まだ裏どりも証拠も確証もなにもかもないから

なんとも言えないが……」


そういうとリュートくんはやっぱり駄目かというかのように

がっかりした表情でシュンと獣耳を後ろに下げた。


「が、お前が嘘をついているとは思ってないからな。

俺はお前を信じるぞ。

だからもう安心していい」


クロノスさんが力強くそう言うと……

リュートくんは、ぱあああと笑顔になったが……。


次の瞬間堰を切ったように大声で鳴き始めた。


「うぁあああああああんん……」


「お、おい……」


「うあああああああん!!」


ちょっとびっくりしたが、きっとずっと今日まで緊張して

生きてきたんだと思う。


「辛かったな……頑張ったんだな」


そう言ってクロノスさんがそんなリュートくんをぎゅっと優しく

抱きしめてあげたのよ。


やだ……

なんかその姿にキュンときちゃったわ&もらい泣きした。


ノアムさんもこっそり涙が零れないように上を向いていたわ。


しかし、これから大変だな。


どうするの?


まずは証拠集めよね。


あ、その前に何がおきているのかと言いますとね、はい。


ざっくり言うと……。


孤児院の院長&側近の不正というところかな。


それこそ、公金横領はもちろんのこと……

不正な人身斡旋……

もしかしたら売買とかまでいっているかも?


最近ではろくにご飯も食べさせないで子供たちを孤児院内で

働かせたりもしているらしいのよ。


でもそのような事が起き始めたのはつい半年前くらいからなんだって。


先程話にでたアンナさんはリュートくんよりも一足先に

成人したので通例にならって孤児院を巣立つことになったのね。


獣人は16歳になったらもう大人として認められるとの事だった。

以外に早いのね……。


で、彼女はかなり奇麗なシャムネコ獣人の少女だったらしく

幾つもの紹介先からお声がかかる様な状況だったんだって。


そして院長の独断と偏見で大きな商店に見習いとして

働くようにと斡旋されたんだけど……。


働き出して2週間たったある日……

おつかいから帰ってこなくなりそれっきり音信不通になったらしい。


リュートくんいわく、アンナさんは凄く真面目な性格で

いきなりいなくなったりするなんて考えられないとの事だった。


それまでは3日とあけず弟や妹たちに会いにきていたというから

まあ、確かにおかしいよね。


その他にも成人して巣立った兄弟たちが斡旋先から次々と

姿を消しているらしい……。


中には斡旋先事体が嘘だった人もいるらしく

文句を言おうと孤児院を再び尋ねたけれど……

院長はおろか立場のある職員が誰も会ってくれなかったらしい。


そんな兄弟達の姿をみて何かがおかしいと思った

リュートくんはある夜こっそり院長室に忍び込んだ。


そこで裏帳簿を見つけたが……

見回りが厳しくて中身をチラッと見る事しかできなかったんだって。


何やら人の名前と金額がびっしりと書かれていたらしい。


しかも運が悪いことに逃げるときに姿を院長の側近に見られてしまって

それからというもの目をつけられて辛く当たられているらしい。


おそらく内容を喋ったらどうなるかわかるよな?

くらいの勢いで脅されているのかもしれない。


そんな事があったからだろうか……

院長はその日以来、裏帳簿を隠してある金庫のカギを

肌身離さず持っているとの事だった。


いや、本気でどうなってるの?


ドラマかよ、っていう展開なんですけど。


それまでは、かなり待遇のいい孤児院だったらしい。


そうだよね、クロノスさんの領土にある孤児院だもの。


ヤバイところのわけないじゃない。


ならどうしてこんな事になったのだろう?


クロノスさんも訳がわからなくて首を傾げていたわ。


まあ、どちらかというと孤児院事業は……

クロノスさんの管轄というよりか。


クロノスさんのお母様が力を入れている事業らしい。


クロノスさんは専属の執事さんより

(専属の執事とかいるんだっ!)

たまに定期報告をうけるくらいの勢いだったから

正直詳しい内情はしらないんだって。


それこそノアムさんが先ほど言っていたように

前に訪問した時はそんなようすは微塵もなく

経営もクリーンで孤児たちも生き生きとしていた

印象しかなかったらしい。


中で何かあったのかな?


院長が知らないうちに世代交代した、とか!?


「ところで、お前は孤児院がおかしくなった以降

院長の姿をみたか?」


クロノスさんがそう聞くとリュートくんはしばらく考え込んだ後に


「そう言えば、直接はありません……」


と、絞り出すような声で答えた。


「たしか……

あそこの院長ってヤギ獣人のおじいちゃんでしたよね。

ちょっと太めの感じのいいおじいちゃん」


ノアムがそう言うとリュートくんも嬉しそうに答えた。


「そうなんだ、あのデブじじい……

いや、院長は本当に優しい俺達のお父さんだったんだ。

前はよく遊んでくれていたのに……

それなのに……確かに最近は……」


「うん……」


クロノスさんは窓の外の景色を眺めながら何かを考えているようだった。


「何かしっくりこないっスよね」


「そうだな……

それにこの事件、いま王都でおこっているもう一つの事件と

関係しているかもしれんな」


「そうッスね……」


「なんにしろ、今日はもうやれることはないだろう。

きっと詳しい事は明日カロスが持ち帰るとおもうからな」


「そうっスね、俺もこいつを部屋に届けるついでに

街で色々聞いて来るッスよ」


「頼むぞ」


「さあ、今日は美味しいものを食べてゆっくりと休むッス」


そう言ってノアムはリュートについて来るように目で促した。


「えっ?おれ、留置場に入るんですか?」


「いや、違うが……。

入りたいのならそちらにするが」


クロノスが揶揄うかのようにそう言うと……。


「いえ、その……普通の部屋でお願いいたします」


多少不満げに頬を膨らませていたがしぶしぶ頭を下げた。


そうね、もしかしたら秘密を知っているリュートくんが命を

狙われる可能性もあるかもしれないもんね。


騎士団の寄宿舎なら安全ね。


「じゃあ、またね」


そう言って軽やかに手をふって見送る凛桜をみて

リュートくんは少し頬を赤らめながらぶっきらぼうにこう言った。


「色々ありがとう……。

あんたみたいなお人好しな貴族も珍しいよ。

大人にも悪くないやつがいるんだな。

それにあんた、き……奇麗だしな」


「えっ?」


何、最後の最後で急にデレたなこのイタチ少年。


どうした?

ツン9:デレの1を急に発揮してくるなんて。


デレ1の威力はんぱないな。

可愛いじゃないか。


おば……、んんん、いや、お姉さんキュンとしちゃうわ。


「…………」


すると横に立っていたクロノスが徐に尻尾を凛桜の腰に巻きつけ

見せつけるように肩を抱きながらドヤ顔でこう言い放った。


「そうそう、少年、言い忘れていたが……

俺が高嶺の花じゃないんだぜ。

どちらかと言うと……

俺からしたらこの人の方が高嶺の花なんだ。

凛桜さんはな、この第一騎士団およびこの俺にとっての姫だ」


ヒィイイイイイイイイイイイ!!


このひと、急に何恥ずかしい事をいいだすんだ!

このやろう。


ほら、驚きのあまりリュートくんが固まっているじゃなぁい。


しかしリュートくんも負けてはいなかった。


何を思ったのか!

すぐに生意気な笑顔を浮かべてこういった。


「へえ、奇遇じゃないですか。

クロノス閣下と俺って好みが似ているんですね。

意外と趣味がいいんですね、貴族のくせに。

今回は俺が引きますけど、次は負けませんから」


あああ、横でノアムさんが全てを諦めたかのような

軽く死んだみたいな瞳でリュートくんをみている。


「は……、生意気いうじゃねぇか。

嫌いじゃないぜ、そういうの。

ま、せいぜい俺と同じ土俵で戦えるようになってから

もう一回その軽口を叩けるといいな、少年」


そう言ってクロノスさんは不敵に笑った。


「望むところです」


あ~あ…………

ノアムさんがついにム〇クの叫びのような顔になっちゃったよ。


「だぁぁぁぁ、ほら、もう、行くッスよ。

では、団長、凛桜さん失礼します」


ノアムさんはリュートくんを半ば強制的に

引きずるようにして慌てて部屋を出て行った。


「クククク……口のへらないイタチだ」


「…………」


ねえ、なんの戦いのなの?


なんでそんなに楽しそうなの。


本当に大人気ないんだから。

子供のいう事にいちいち真に受けないでよ、全く。


「さ、凛桜さん、そろそろ時間だ……

さあ、晩餐会へと繰り出そうか」


「えっ?もう、そんな時間!?

いそいで戻って着替えないと!」


ああ、今度は違う意味で戦いだわ。


胃が痛くなってきた。


いや、私の身が持つかなぁ……。


大人の女性は違う意味で怖いからなぁ……。


そんな事を思いながら凛桜達は急いで皇宮へと帰った。




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