表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

195/219

195.お持ち帰りはご遠慮ください

田舎暮らしを始めて172日目の続き。




ふぁああああああ……。


思っていた以上に皇宮は何かもスケールがでかかったよ!


まず門から尋常じゃなかったからね。


大きさもさることながら……

双璧にほどこされている色とりどりの龍の彫刻がまた

エグイくらい精密で目を見張るものがあるわ。


一級の芸術作品だよ。


この門だけで美術館レベルなんですが!


タイルなの?

それとも石を切り出して掘り出したものなのか?


はたまた宝石で作られているのかしら?


鱗の1枚1枚が艶々しているし!

目に嵌っているのは宝石だとおもう。


眼光鋭いし、なんならビームでも出ちゃいそうだよ!


お約束のように手には宝珠を持っていらっしゃいます。

あんなに大きい水晶みたことないよ。


あ!しかも爪が5本ある。


なんでも私の世界の某国の言い伝えでは……

爪の数が5つなのは皇帝を表すんだって。


皇帝を表す龍だけにしか5本爪を使用することは

許されなかったらしい。


4つは諸侯で3つは位の高い官僚というように

爪をみれば位がわかるとの事だった。


階級制度がはっきりし過ぎじゃない?


もしかしたらこの異世界でもそうなのかもしれない。


ひゃぁ!


青い龍と目がバッチリとあった気がする。


「…………」


本当に生きているみたい。


「今にも動き出しそう……」


思わずそう呟いたらクロノスさんが真顔で答えてくれた。


「確か……150年前に1回動いたらしいぞ」


「えっ!?」


やっぱりあれ動くの!?


えっ?動くの?本当に?

ただの装飾じゃないんだ!


ちょっと想像したらワクワク(死語)しちゃったわ。


凛桜が驚きのあまりクロノスの顔をじっと見返すと

少し困ったように頭を掻きながら答えてくれた。


「俺も爺様に聞いた話だから……

事実なのかわからないんだけどな」


そんな前置きを言いながらクロノスさんは話を続けた。


「魔王……、あ、今のあの魔王じゃなくてその前のやつな。

昔は今とちがって、頻繁に魔族と衝突していた時代があったんだ」


そう言えばチラッと今の魔王様が言っていたな。


前の魔王はかなりやんちゃだったと。


それで最終的に勇者様に倒されちゃったんだよね。


勇者ってなに?

と、いうツッコミはこの際おいておこう。


ちがう物語が始まっちゃいそうだからね。


今の魔王様しかりコウモリさん共々かなり穏健派だから

つい忘れちゃうけど。


本当は魔族ってゴリゴリの戦闘種族だからねぇ。


自分たち以外の弱い者は虫けら同然らしいよ。


「で、その右腕といわれる邪悪な魔族が軍団を率いて

この門まで攻め入ってきたことがあってな」


「うん」


「その時に皇宮を守る為にここにいる9匹の龍が

一斉に動き出して勇敢に戦ったと言われているんだ」


「凄いね……」


「ほら、その証拠だと言われているのがあれだ」


クロノスさんは凛桜の肩をそっと抱き寄せると

馬車の窓越しから黄金に輝く1匹の龍を指さした。


「あの龍の髭の先が折れているだろう?」


そう言われて見てみると確かに折れている。


「その時にできた名誉の傷と言われている。

その偉業を忘れないためにわざとそのままにしているらしい」


「なんかすごいね」


「だな」


そんな事を話しているとある大きな館の前で馬車は止まった。


クロノスさんに先導されて馬車を降りると……

なんと皇帝自らお出迎えをしてくれているじゃなぁい。


いやいやいやいや!

VIP待遇が過ぎるから!


今日も笑顔が眩しい!


凛桜1人が慄いている中……

全く空気を読まなかったきなこ達が嬉しそうに

甘えた声を出しながら馬車から飛び降りた。


そして2匹は一目散に皇帝に向かって走りだすと

そのまま飛びついちゃったのよぉ!


おぅいいいい!!


待て待てぇ、きなこさん達や!


相手をよくみてくれぃ!!

皇帝やぞ!!


久しぶりだな!

元気だったか!遊ぼうぜぇ~。


くらいのノリでツッコむのはやめぃ!


「あはははは、熱烈な歓迎だな!

きなこ、黒豆、会いたかったぞ」


「キューン、キューン」


「くすぐったいぞ、あははははは」


ひぃぃいいいいい!!


ベロンベロンにあの国宝級イケメンの顔を

舐めまくる柴犬‘S。


えっ?ええええええええっ!


我が犬ながら怖いんだけど。


この状況でよくできるな、おい!


「キューン、くぅーん」


ああ、あんなに何度も飛び掛かって

高級なお召し物が汚れちゃうじゃないか。


陛下が破顔して喜んでいるからいいものの。


えっ?大丈夫、これ。

不敬にならない。


ほら、おつきの人が何とも言えない顔してるじゃん。


無礼者!

と、言われてばっさり切られてもおかしくない状況よ。


護衛の方達のキョドリかたが半端ないから。


「…………」


きっとこんなはしゃいでいる陛下をご覧になる事は

滅多にないんだろうな……。


鷹のおじさまは慣れているのかニコニコ顔だけど

明らかにその他の人は驚きのあまり……

ドン引きなんだけど。


凛桜がオロオロしながらクロノスさんを見上げると

苦笑しながらも目線だけで大丈夫だと言ってくれた。


陛下はひとしきりきなこ達との再会を堪能すると

急にハッと我に返ったのだろう。


わざとらしい咳を1つしてから……

真顔に戻るとこうおっしゃった。


「凛桜殿、今日は我の為に馳せ参じてくれてありがとう。

心からの感謝をおくろう」


ふぁああああああ。


相変わらず思わず見とれちゃう笑顔とイケボイス。


しかも腕にしっかりときなこ達を抱いているのも

可愛さがプラスアップしていますから!


これよね!これ、これ。


これが正解の方程式よね。


“国宝級イケメン+可愛い物体=尊い&キュンです”


って、見惚れている場合じゃない。


私は一瞬にして頭をフル回転して今朝レオナさんから習った

カーテシーを行いながら言葉を述べた。


「凛桜でございます。

陛下にお目にかかれて光栄です。

それにこのような過分なお言葉とお出迎えをして頂き

感謝に堪えません」


あああ、こういう挨拶って何と言っていいかわからん。


きっとまだ何か正式に言わないといけない文言とか

あるんだろうけど……。


言葉につまって出てこない!


元気にしてた?

あいかわらずイケちらかしてんなおい。


もう何を食べたらそんなにお肌プルプルなんだい。


あ~大好きじゃ。

もう本当にその笑顔が好き!

イケメン万歳!


くらいの気持ちなんだよ、本当は!


そんな凛桜の気持ちを汲んでくれたのだろう

陛下はふわりと優しく微笑むと……。


「ん、我と凛桜の仲ではないかみずくさい。

堅苦しい挨拶なんかはよい。

私も凛桜達にあえてとても嬉しい。

さあ、一緒にお茶にしよう」


「はい」


クロノスさんと共に屋敷の中に招待された。


それからの時間は本当に夢のようだったよ。


たくさん今までの事をお話したよ。


ボルガさん達との珍道中の話や

タヌちゃん達のポップコーン作りの話などを

目を輝かせてお聞きになっていたよ。


うん、可愛い。

こんなに可愛い青年がいるだろうか。


それに出されたお菓子とお茶は見たこともないものばかりで

美味しかったし。


焼き菓子なのかな?


ホロホロとした食感がたまらないわ。


夜に晩餐会が控えているのに……

たくさんおかわりしてしまった。


あとで料理長の虎のおじさまにレシピを

教えてもらおうと思ったくらいよ。


陛下は終始ニコニコ顔できなこ達を膝にのせて

撫でまくって寛いでいたわよ。


それに私がお土産に持参した“レーズンサンド”を

陛下&鷹のおじさまがいたく気に入り……。


見本用と味見用の5つを残して!

陛下がすべてその場で食べてしまったのよ。


30個近くはあったよねぇ……。


あの細マッチョの身体の何処に入ったのかしら?

凄い食べっぷりだったわよ。


これはきっとまた宮廷の料理人達が家に通ってきそうで怖いわ。


レーズンとかこの世界にあるのかしら。

ブドウがある事は確認しているのだけれど。


いやーもうラム酒の製造から教えてとか言われたら無理よ。


確かサトウキビから作られるんだよね。


サトウキビから砂糖を精製する際の副産物である

廃糖蜜や搾り汁が原料になるときいたことがあるわ。


それを発酵させて蒸留して、樽とかで貯蔵して熟成させる

という気の遠くなる工程があるのよ。


その前に、この世界にサトウキビはあるのかしら?


いや、あったとしても一から作るのは至難の業じゃないか?


んんん~、結論!

ラム酒製造は無理だな、うん。


とりあえず一旦乗り切る為に……

レーズンを使いますって何食わぬ顔でレシピを書いて

この場で渡しちゃおうかしら。


そんなこんなで時間としては小一時間位だったかな。


パンダ獣人の武官の方がやってきてそっと陛下に耳打ちをした。


「もうそんな時間が……

凛桜達といると時間が経つのが早いな。

では、また後でな」


そう言うと陛下は、名残惜しそうに退席されたわ。


きっと本当は秒単位で忙しい方だもんね。


こんなにも長い時間つきあってくれた事だけでも奇跡だわ。


で、そんな陛下が何を思ったのか……。


さりげなく離席した際にきなこをシレっと抱いて

持って帰ろうとしていたのよ!


まあ、すぐにあっさり見つかって……

おつきの人に軽く怒られている陛下が可愛かった。


あまりに自然すぎて私達も気がつかなかったわ。


「やはりバレたか」


そう言ってペロリと舌を出して悪戯っ子のような笑顔を

浮かべた陛下に心を射抜かれたのはいうまでもない。


おちゃめすぎるやろ!


きなこも少しは抵抗して!


いや、私的にはきなこで休まるならいくらでお貸ししますよ

くらいの勢いはあるんですけどね。


でもきっとこれから諸国の方々が続々と陛下に挨拶に

来られるだろうから。


王座に座った陛下が何故か真顔で柴犬片手に抱いていたら

みなさんポカーン顔しちゃうよ。


あの動物はなんだ?


もしや聖獣な……の……か?

あれがか?的ないらぬ憶測を呼びそうで怖い。


ツッコみたくてもツッコめないだろうし……

威厳も何もなくなっちゃうしね。


そう考えると本当に皇帝って

気が休まらない地位だな……。


このお茶の時間が陛下にとって少しでも安らぐ

時間だったらいいな。


そう思いながら陛下に手を振ったわ。



さて、晩餐会までまだ時間がかなりあるのでどうしよう

という話になって。


皇宮の庭園や宝物庫などをみるというプランもあったのだが

なんだか窮屈そうなので……

一旦、城下町に降りることに決めました。


ついでにルルちゃん達にも会いたかったからね。


こんな機会でもないとなかなか城下町には来られないし。


可愛い雑貨屋さんとかお菓子屋さんや市場を見てみたい

という願望は前からあったし。


今日はずっとクロノスさんが傍にいてくれるから

全ての意味で安全だからね。


これも見越していたのかな?


出かける前に大人しめの貴族服をレオナさんが

もう1着用意してくれてもたせてくれていたのだ。


恐るべし、レオナさん。


この服なら城下町に居ても浮かないわ。


クロノスさんも私にあわせてラフな服装になってくれた。


うん、こんななんてことなのない服を着ていても

カッコいいのが憎い。


私たちの世界で言う、Tシャツにジーパン的な格好だと思う。


こういうシンプルな服装が似合うのはイケメンの特権よね。


「じゃあ、行こうか」


「うん」


あ、手つなぎは健在ですか……。


「クロノスさん」


「ん?」


「腕をくんでもいいですか?」


そう言うと何故かクロノスさんは一瞬固まった後に

視線を宙に彷徨わせた。


え、もしかしてNGだった?


手つなぎもとい恋人繋ぎはOKなのに……

腕くみは駄目なの?


地雷がわからん……。


が、すぐに無言ですっと右腕を出された。


恥ずかしいのか顔はそっぽを向いているが

獣耳がピルピル高速で動いているし……

尻尾は左右にブンブン振られている。


嫌では、ないらしい……?


「おじゃまします」


訳のわからない掛け声と共に凛桜はクロノスの右腕に

自分の腕を絡ませた。


うん、手つなぎよりもこっちの方が落ち着く。


「…………」


その一方でクロノスは感動に震えていた。


凛桜さんが潤んだ瞳で俺を見上げて恥じらいながら

腕を組みたいだとぉおおおおお!!


※注 クロノス氏の独断と偏見の妄想にて

   勝手に脳内変換された凛桜の姿でお送りしております。


凛桜さん可愛すぎるだろうがぁあああ!


俺を殺す気か!!


俺と腕を組んで街を歩きたいなんて言われる日がくるとは!

くぅうううう、生きててよかった。


俺の腕ならいくらでも貸すぞ。


理性と戦って悶えているユキヒョウが1匹降臨した。


それに反して凛桜はというと……。


またクロノスさんが猫みたいにゴロゴロ低い声で

喉を鳴らしているけど大丈夫かな……。


嫌じゃないんだよね?


「…………」


なんとなくぎこちないまま2人は歩き出した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ