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194.訪問は突然に

田舎暮らしを始めて171日目。




流石に疲れたわ……。


久しぶりに手が腱鞘炎気味でもある。


ポップコーン作りってこんなにもハードでしたっけ?


ああ……もうベットから出たくない。


今日1日くらいダラダラと過ごしちゃ駄目かしら。


頑張ったからいいよね?


珍しくきなこ達もまだ寝ているし……。


あのシュナッピーでさえ!

いつもの定位置に植わっており鼻ちょうちんで寝ているもよう。


ちょうど寝室の窓から見える位置なのよね。


密かに見守られているのか?


気がついたらいつのまにかここで寝るようになったのよね。


「…………」


ピープー、ピープー言ってるし。


漫画じゃないんだから……

鼻ちょうちんって何よ……。


きなこ達でさえ、ないわよその現象。


こういう所があるからどんどん植物から離れていくのよね。


たまに鼾とかもかくからね。


その上最近では寝言とかも言うようになったのよ。


日々成長してくれるのは嬉しいのだけど

ちょっと戸惑う事もあるっちゃ、ある。


ある時私が中庭で玄関マットを干していたのよ。

そうしたら急に後ろ方から……


「ホシイモジャ、アリマセンカ!?」


と、いう謎の問いかけを頂きました。


はい?


私は断じて干し芋ではありません……はい。


あれ以来今でもたまに森の魔獣達に“ドーナツ”

と密かに呼ばれることはあっても

干し芋と呼ばれることはございませんが……。


えっ?

私の知らない所で私ドーナツから干し芋に進化したの?


いや、進化なのそれ?


じゃあないでしょ、そういう事じゃないし!!


と、ひとしきり一人問答を繰り返した後に思いっきり

後ろを振り返って声の主を探したのだけれども

そこには誰もいなかったのよ。


いるのはシュナッピーただ1体のみ。


しかも爆睡しているもよう。


「…………」


空耳だと思いそのまま作業に戻ろうとしたら

また聞こえてきたのよ。


「アナタ、ホシイモ……オウァ、ドーナツ?」


完全にシュナッピーから聞こえて来たよ!


まさかとは存じますが寝言ですか!?


「…………」


まさか起きて?

いや……かなり熟睡しているよ。


コクリコクリと頭は揺れているけれど……。


何その問いかけ。


どちらでもありませんし……

今現在両方とも所有しておりませんがぁ?


まるで海外行きの飛行機内で客室乗務員の方達から聞かれる

“ビーフORチキン”くらいの勢いだったよ。


どんな夢をみているのさ。


“ドーナツ、プリーズ”とはならないからな!


言葉のチョイスが相変わらず食いしん坊。


本当に植物なのかい?君は……。


そんな思い出し笑いをしながらも相変わらず

布団の中でゴロゴロしていたのよ。


ふう、でもよかった。

一時は本当にどうなることかと思ったよ。


他国の貴族にお土産にするお菓子が

本当にポップコーンとモナコで

よかったのだろうかという疑問は残るけれども……。


ドワーフの親方にも改めてお礼にいかないとね。


代金の日本酒とウィスキーはというと

兎アライグマもどきの彼が取りに来てくれました。


早く1杯やりたかったらしい。


きっと今頃ボルガさん達と飲んだくれているんじゃないかな。


あれがなかったら本当に手がイカレていたわ。


でもね、まさかバズーカー形状で出来上がるとは

思わなかったな。


ポップコーンっていうとほら……

あの可愛いメルヘンでポップな車?台車機械?


ポップコーンワゴンって言うんだっけ?


某夢の国とか、大きなスーパーの駐車場とかで

見かけるあの大型のポップコーン製造機ですよ。


正式名称はわからないけれども可愛らしい車体を

想像していたから完成品を渡された時はかなり衝撃だったわ。


あのワゴンをイラストで描いて持っていったら

ドワーフの親方がまた作ってくれたりして。


なんて想像したのが始まりだったのかしら……。


まさかあんな展開になるなんて!

この時の私はまだ知る由もなかった。


そしてこの日は本当に1日中全員でダレたまま終わった……。




田舎暮らしを始めて172日目。




うって変わって今日は……

朝早くからレオナさんのお宅へ来ております。


もちろんクロノスさんも一緒です。


本当に突撃訪問はご遠慮していただけないかしら。


原因は鷹のおじさまなんですけどね!


なんでも今日は陛下の誕生日祭のクライマックスらしく

晩餐会に来てほしいとの旨の書状と共に……

クロノスさん率いる騎士団がうちの中庭に降臨。


もちろん何やら色々な物を積んだ荷馬車も

今ならもれなく付いてきます的な?


いや、もうそういうのいいですから。


それじゃなくてもキングヒューナフライシュ祭りで

業務用冷蔵庫がパンパンになろうとしているのにぃ。


この仕打ち……どうしてくれよう。


得体の知れない豪華な食材いらない。


調理の方法がわからないし、保存法もわからん

食べるのに勇気がいる素材が多いのよね。


見た目もおうぃ!ってやつもあるしね。


稲妻模様が入った光る卵とか……

いや、これもう何かレアモンスター誕生しちゃうでしょう。


食べる前に割るのも怖いわ!


ヘロリっと寿命延びちゃうとか……

若返るとかのバフ効果はご遠慮ください。


平穏な田舎暮らしがしたいのだよ、私は!


ふつう田舎の中庭に騎士団は現れないの!


不思議な効果つきの食材とかは取れないし

簡単に手に入らないものなんですよ!!


と、いうか今何時よ……。


朝の6時ってレディの家に訪問していい時間じゃないから!!


異世界の時間軸はバグっているのか?

ああん?


そんな時間に来てもいいのは新聞配達の方だけだからね!

それもひっそり来るものなのよ、うん。


君達は一応騎士道精神の元従事している方々ですよね?


たまたま今日は起きていたからよかったものの。


そうじゃなかったらとんでもない姿をさらす所だったよ。


事案ですよ、全く。


本気で“帰れっ!”と思ったよ、うん。


まあ、そんなことがまかり通る訳もなく……。


こちらの意思意見はまるっと無視で

そのままきなこ達と一緒にレオナさんのお宅へ連行されました。


えっ?それって大丈夫?


と、密かに心配していたのですが……

今日1日ずっとクロノスさんが傍にいてくれるらしい。


正式に今日は私の護衛が仕事みたい。


あ、はい……。


それは安心だね?


クロノスさんが半径5m以内に居ればきっと

家に強制送還される力は発動しないとは思うけれど。


ん?それはそれでどうなんだろう。


今もしっかりと馬車の中でシレって手を握られているし。


しかも恋人つなぎよ!


えっ?そういうキャラでしたか?あなた。


これ?いる?


馬車に乗る前の騎士団の面々の皆さんの半笑いを浮かべた

生暖かい視線をみましたか?


顔から火が出そうだったわ。


が、クロノスさんは終始ご機嫌なのか尻尾が無意識に

パタパタ揺れていて可愛い。


あまりにも嬉しそうなので手を離してとも言えない。


違う意味で地獄だな、おい。


なんの試練なんだよ、これ。


あ、因みに……

シュナッピーはお留守番です。


流石に連れて行くのは無理だろうという判断が下された。


皇宮だしね、晩餐会もしかり……。


いくらシュナッピーがぱくぱくパックンフラワーの高位種

といってもやはり無理があるよね。


晩餐会に植物種がうろついていたらビビるわ。


なんとか説得して了承は得たんだけれども……

かなり拗ねていたから数人の騎士団が八つ当たりに

巻き込まれたもよう……。


本当にごめん。


モナコをお配りして謝りました。


逆にめっちゃくちゃ喜んでいたけれどもね。

モナコ人気は相変わらずエグイな。


モナコの為なら多少やられてもいいとさえ

言っている方もいたくらいだから。


それはちがうぞ、青年達よ。


クロノスさんもそれには苦笑いを隠せない様子だったわ。


それに反してきなこ達がヌルっと連れていかれたのは

ただただ陛下が会いたかっただけなんだと思う。


初めから気に入っていたもんね。


きっとまたきなこをぎゅっと抱きしめて離さないんだろうな。



そして今私はピカピカの艶々に身体を磨かれた後に

これまたキラキラのドレスを身に纏い。


足が小鹿のようにプルプルになるピンヒールをはかされ……。


総額いくらするの?

と、いうティアラと装飾品をつけられて

鏡の前に立たされております。


何故かサイズはすべてジャストフィットだったけどね。


いつ私のスリーサイズ図られたのかしら。


考えようによっちゃ、少し怖いが深く考えるのはやめよう。


確かにドレスは大人可愛いデザインだし……

ちびっこの私でも見栄えのする出来栄えだけれども。


気分は豪華な七五三ですわぁ……。


「うわぁ……さすが魔族の姫様です。

凄くお似合いですぅ~」


「本当に素敵ですわぁ~」


お支度を手伝ってくれているタヌキ獣人のメイドさんたちが

キャッキャと褒めちぎってくれている。


「はあ……」


いや、どうみても馬子にも衣裳だろう。


普段こんな豪華なドレスを着る機会なんて

ほぼないからね。


着られちゃってる感この上ないんだけれど。


「フン……なかなかいいじゃない。

まあ、私が見立てたんだから当然よね。

そうは言っても、私には到底およばないけれども……

似合っているわよ、凛桜」


そう言って不敵に微笑むのはレオナさんだ。


一言よけいじゃありませんか?お嬢様。


「ありがとうございます?」


なんとも言えない微妙な返事を返してしまったわ。


だって、そうでしょうよ。


あなたの美貌に敵う人はこの世界でも少ないと思うよ。


ふだんの倍以上に奇麗に化けているよ、今の私。


しかしそんな空気を打開しようと奮闘したのか……


「いえ、またお嬢様とは違う美しさがありますから。

そのような物言いは無粋でございますよ、お嬢様。

凛桜様、本当によくお似合いですよ。

可愛らしさが際立っております。」


と、真顔でお世辞をいうレオナさんの最強執事のベルドランさん。


「ありがとうございます……」


いや、あなたのような美しい男性にニコリともせず

そう言われると返って傷つくから……。


いいから、自分の事は1番自分がわかっているから。


うん、悪気はないと思うのよ。


もともとベルドランさんは氷の微笑の人だから

表情が乏しいのはデフォルトだ。


まあ、贔屓目にみても合格点には達したから

よしとしますか。


皇帝陛下の晩餐会だもんね。


これくらいの装いは必要か……。


「ふう………………」


今さらながらなんだけど……

私参加するってお返事しましたっけ?


何故こんなコスプレ大会になっているのだろう。


あぅ~、いまから胃が痛いのだけどぉ。


しかもエスコート役はクロノスさんだよ!


これはこれでまた色々な意味で心臓が痛いわ。


レオナさんからも忠告があったからね。


“どんなこと言われてもニコニコと優雅に微笑んでいなさい。

きっと四方八方から視線と言葉の刃が飛んでくるわよ“


“今のあなたなら十分立ち向かえるから!

相手の鼻を目線だけでへし折るのよ!“


って、怖いんですけど。


クロノスさん無駄にモテるからな……。


ああ、あらゆる種族の貴婦人を敵に回しそうな予感がするよ。


“それでも駄目だった牙で黙らせるか……。

尻尾でアタック、いや爪で攻撃?

優雅にかわすのって案外難しいのよねぇ……“


そう言ってレオナさんはやれやれと言わんばかりに

軽く眉間に皺を寄せて軽く唸った。


ん?何をおっしゃっているのかしらレオナさん。


私めにその全ての装備はございませんのよ。


見えない何かをみていらっしゃいます?


「本当に女のああいうのウザいよな」


急に雄みを出すのやめてくださいません!?


声もドスが効いちゃっていますよ。

案外地声は低い方なのかしら?


私が驚いて目を見開いて固まっているのが見えたのだろう。


「あら、私ったら、つい、オホホホホ……」


「…………」


絶対に晩餐会で何か起こるじゃん、これ……。


もう、なんだったらエスコートいらないよ。


「あ、そうだ!エスコート役なんだけど

むしろベルドランさんでよくない?」


と、言ったらあのベルドランさんが珍しく焦った顔をして

高速で首を横に振って拒否をしめした。


「いえ、誠に申し訳ありませんが……

辞退させていただけないでしょうか。

私も命は惜しいですから」


と、信じられないくらい深々とお辞儀されちゃったのよ。


えっ?

そんなに私の隣は危険地帯なのかい?


私の設定が魔族の姫だからなのかい?


凛桜があさっての方向で慄いているのをチラリと

横目でみたレオナは人知れずため息をついた。


“凛桜は鈍感だし、クロノスはヘタレだし……

本当にお似合いの二人だよ、あんたたちは

そういうことじゃないのよ、全く“


「駄目よ、凛桜の隣は()()()()()()なんだから」


「ええっ?なんで?ふぇ?」


あんた、皇宮を吹っ飛ばす気?


あの男があなたの隣に他の男を並ばす訳ないでしょうが!


はあ、本気で疲れるわ。


お嬢様、ご心境お察しいたします……。


目だけで会話しながら……

ある意味ぐったりしているお嬢様と執事がいたそうな。



その後……。


着飾った凛桜の美しさに目を捕らわれて

真っ赤になり数分固まるクロノスを盛大に皆で揶揄ったあと

全員で後宮へと向かうのだった。


”手汗がきになるのし……

周りの視線が半端ないから……”


「そろそろ手を離してください

クロノスさん……」


「嫌だ、何か問題でもあるか?」


「…………」


なんだろう凄い笑顔なのに尋常じゃない圧を感じるのは

気のせいでしょうか?


「ん?」


更にぎゅっと手を握られた。


甘い声の裏にある恐怖を私は感じ取りました。


「…………」


諦めました。





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