192.取り扱いにはご注意を!
田舎暮らしを始めて170日目。
「………………」
凛桜はその装置を見つめながらなんとも言えない表情を浮かべていた。
なんか、違う……。
思っていた方向と全く違う物が出来上がってきた。
これって本当に正解なの!?
最初にあなたが言ったんですよね!?
“危ねぇものは作れねぇ”……と。
それなのにこのポップコーン製造機らしき物体ですが!
何処をどう見ても“バズーカー”にしか見えないんですけどぉ!?
そう、軍人さんが肩に担いで敵めがけて発射する
あのバズーカーですよ!皆さん!
もうはっきり言って武器ですよね、これ。
いつからあなたは武器商人になったんだい?
微妙に塗装が迷彩柄なのも気になる……。
えっ?ジャングル仕様ですか?
何から忍ばないといけないの?
せめてもう少しポップな色で作って頂きたかった。
「………………」
いや、ポップな色のバズーカーって何?
それはそれで狂気の沙汰か。
本気で何故にこうなった……。
調理器具なんですよね?これ……。
私発注ミスったかな?
そんなモヤモヤとした気持ちを持ちながらも
凛桜は試しにそのバズーカーを肩に掲げてみた。
「………………」
はい、そうですね。
いや、もうこれ完全に武器だわ!
あ、でも思ったより軽い……。
凛桜の雄姿をみたシュナッピーはカッコいいと囃子たてるし
きなこ達もテンションMAXで周りをくるくるまわっている。
「…………」
確かに敵を一瞬で殲滅できそうな気分よ。
「リオ!カッコイイ!!
イケテン!!イケ……テン!!」
あ、うん、ありがとう。
イケテンって何よ……。
もしかしてイケメンって言いたかったのかしら。
それはそれで使い方間違っているから。
いや、それともイケテル天使の略か!?
略して“イケテン”。
いやいやいやいや……
いけてる天使ってなによ。
本当にすぐに言葉を吸収してしまうのよね。
しかしながらそんなに頻繁に言葉に出して……
クロノスさん達の事をイケメンって言っているのかな私?
「はあ…………」
いや、やっぱりかなり違う気がする。
どうしても納得がいかなくて……
改めてバズーカーを隅々まで観察したのだが。
何度見ても何処をみても……
バズーカーなんだよね。
これはもはやポップコーン製造機ではありません!
私自身がこれをぶっ放してポップコーンを作るのが怖いです。
「……ですね、ここの部分に手を当てて魔力をこめてから
思いっきり放って頂ければポップコーンでしたっけ?
それが一瞬でつくれるらしいゲス」
「はあ……」
「簡単に作れるように軽量化したみたいでゲスよ」
「そうなんだ……」
「破裂音もかなり小さいでゲスよ」
「ほう……」
「因みにトゥールコを入れる装置はこれでゲス」
そう言って渡された物体はまさしくあれでした。
うん、思いっきり大きな弾薬だね……。
ここにトゥールコの粒をいれるのか……。
えっ?
ドワーフの親方!
本気でミリタリー雑誌とか購読していませんか?
くらいの出来栄えなんだけれど!
「それに出来上がったポップコーンが散らばらないように
大きなバブルに包まれて出てくるので衛生的にも大丈夫でゲス」
「ほう……」
「初めて見た形の装置ですけど美しいでゲス!
いやぁ……本当に匠の仕事ゲスねぇ」
「そうだね……至れり尽くせりだね……」
そうか、異世界にはバズーカーはないのか。
もし本当にそうだとしたら親方の武器センスエグイな。
「いやぁ……本当にすごいでゲス」
「はあ……」
目の前で一所懸命に使い方を説明してくれているであろう
あの道案内ポーターことウサギアライグマMIXもどきの彼。
説明されればされる程乾いた笑いしか出てこないのは
気のせいかしら?ん?
そういう仕様はいらないからもう少し見た目をなんとか
して欲しかったわ。
それ以前に私……魔力を保持してないんですがぁ!
魔力で動くんか?このバズーカー。
と、密かに困惑していたのだが……
魔力の注ぎ口の横についている小さな穴に魔石を
入れて使用する方法もあるらしい。
ほっとしたのも束の間
魔石ってなに?
どんなものかと一瞬考え込んだが……。
今回は特別におまけとして10個の火力魔石が
最初からオプションとしてついているとの事だった。
ルビーのような六角形の小さな石だったよ。
さすが親方ぬかりはないわね。
おまけにウィスキーをもう1本つけてお支払いしよう。
という訳で、ポップコーン製造機らしき物が届きました。
彼が今朝一番でうちに届けてくれました。
どうやら宅急便的な依頼も引き受けているらしい。
だけれども今回の依頼は着払いだったらしく……
料金として生肉を頂けたら幸いでゲスと言われました。
着払いシステムがあるんだ。
以外にしっかりとした宅急便システムが構築されているのね。
それよりも……
えっ?生肉……!?
料金って現物支払いなの?
あ、うん、それはかまわないんだけれども。
生肉とな?
流石に生肉よりも調理した方がいいのではないかと尋ねたのだが
彼曰く、生肉と果物しか食さない種族なんだって。
しかも生肉は腐りかけな状態が1番好きらしい……。
おう……。
確かに肉は腐る寸前がいちばんおいしいとは聞くが。
ここでも2度裏切られた気分になったわ。
やっぱりウサギアライグマもどきは可愛いから
程遠い存在だという事が更に証明されました。
せめて食べ物くらいは可愛いものを所望してほしかった。
因みに甘い果物はあまり好きじゃないんだって
果物は匂いの強い癖のある物が好きらしい。
ドリアン的なものかしら?
まあ、そんなものは所持しておりませんので
取りあえずビッグサングリアの塊肉1キロをお支払い致しました。
「これはいい肉でゲスね!」
彼は肉を見た途端目を輝かせたかと思ったら……
顔に似合わず豪快にその場で貪り始めました。
「ギュルウウ……ゥゥ、うまっ、ギュウウウ」
と唸りながらワイルドに食べるなんて。
なんか、うん、本当に見た目って当てにならないんだな。
凄く美味しいのだろう……
目がバキバキにきまっているし唸り方も凄い。
見てはいけないものを見ているような気分なのは何故?
ちょっと怖いくらいだ。
きなこ達も軽く引いていますがな……。
急に肉食獣感がはんぱないんですが!
んん……、本当に可愛さって一体なんなんだろう。
顔の上半分だけをみると凄く可愛いのに……
円らな瞳が可愛いキュートなアライグマだよ。
顔の下半分は……
いや、今は何も語りますまい。
いや、いいのよ。
食事の趣味嗜好は自由だから、うん。
そしてあっという間に肉を食べ終わり
口の周りを綺麗に毛繕いして整えた彼は……。
「また何かあったらよろしくでゲス」
「は~い、ありがとう」
今までの事が嘘だったかのように急に穏やかな表情と
口調に戻りそのまま凛桜達に一礼をして帰って行った。
はう……。
何だか朝からどっと疲れたきがした。
それなのにシュナッピーが横から
「リオ……オレサマモナマニク!」
と、上から目線でのたまわったので
思いっきり両頬をムギュっと挟んで言ってやりました。
「生肉はだめよ、お・う・じ・さ・ま!
お腹をこわすからね。
その代わりに今日のお昼はヒューナフライシュの唐揚げを
作ってあげるからいい子で待てるよね?ん?」
凛桜の怖い声色に目をしろくろさせていた
シュナッピーだったが……。
唐揚げという単語を聞いた途端覚醒した。
瞳が輝き、首が捥げるのではないかというくらい頷くと
歓喜の舞を舞い出した。
「アゲ!アゲ!カラアゲ!オレ、アゲ!」
急にHIP HOP口調になるのやめぃ。
「アゲ!カラカラ! アゲカラ……」
が、急に何を思ったのかふと真面目な顔になった。
えっ?何?どうしたの?
急に我に返ったか?
「シュナッピー?」
そして何かを決意したのだろう。
凛桜の顔をじっと見つめた後に……。
「シンセンナヤツホシイ!」
そう宣言すると脱兎のごとく中庭の奥へと駆け出した。
「え、シュナッピーちょ……え?何?」
あ、行ってしまった。
まだ、業務用冷蔵庫に肉のストックが
これでもかとあるんですけれど!
頑張って消費している最中なんですよぉ!
頼むからキングヒューナフライシュとか狩ってこないでよ。
「…………」
そんな凛桜の切実な心の声など伝わるはずもないわけで。
狩ってきちゃうんだろうな……うん……。
確実にやつは狩ってくるよ。
しかも大物をね。
「あああ……空気が美味しいな……」
私はしばらく現実逃避の為に澄んだ青空を見つめていたよ。
穏やかな田舎暮らしって一体……
どこにあるのでしょう。