190.語尾の威力が半端ない!
田舎暮らしを始めて169日目。
「という訳なんや……。
これはかなりやっかいな案件やで……」
ごま団子を頬張りながらルナルドさんが深いため息をついた。
「ヤツラテゴワイ」
「ヒトスジナワジャイカナイ!!」
キング達もごま団子を掲げながら叫んだ。
あ、うん、貴重なご意見ありがとう……。
ますます語彙力が上がったね、キング達。
「ゴマダンゲ?
ゴマ……ダン……。
ゴマダン……ゴーマダン?ウマシ!!」
美味しくて嬉しいのはわかったけれども
シュナッピーさんや……。
君はしばらくお口ミッ〇ィーしておいてね。
なんか、ややこしくなるから。
どうやらポップコーンの原材料になりそうな
トゥールコの仕入れ先がみつかったらしい。
が、その仕入れ先がやっかいだった。
どうやら険しい山中でしか育たない品種らしく
かなり高級品らしい。
まあ、相手が皇室なのでお金の心配はしなくても
いいのだそうだが……。
問題はそれを独占販売している相手だった。
いいように言えばやりて……
悪く言えば気分屋の守銭奴らしい。
あ、うん、面倒くさい輩だね。
何度かルナルドさんが交渉に行ったのだが
のらりくらりかわされてしまったそうだ。
挙句の果てに……
そんなに欲しいのなら魔族の姫が直々に俺に
挨拶にくるのが筋ってもんじゃねぇのか?
と、言われたそうだ。
あああああん?
えっ?そんなことをおっしゃるなんて一体
どこのどいつ様なのかしら。
随分強気でいらっしゃること、オホホホホホ。
「本気ですまん……。
わいの落ち度や。
先代は気前のええおっちゃんやったんやけどな。
代替わりしててん」
「はあ……」
「魔族の姫様を出せの一点張りなんや」
「へえ……」
意味がわからないんだけど?
凛桜の困った顔を見たからだろうか
「リオ、イヤナラ……
ケシズミニスルカ?」
「チリ二シテ、ヤミニホウムサロウカ?」
ごま団子を口いっぱいに頬張りながら
キング達がキラキラの瞳でそう言ってきた。
いやいやいやいや……
表情と言葉の温度差がエグイから。
「それはあかんというたやろうが」
ルナルドさんが慌ててとりなすもキング達は
ツーンとそっぽを向いてまたもや恐ろしい事を言った。
「アイツ、バカムスコ」
「カンチガイヤロウ」
ねぇ、どこからそんな罵詈雑言覚えて来るの?
悪口の言葉のラインナップがヤバいんだけど。
「確かにバカ息子なんやけど……
いやいや、あかん、つい心の声がでてもうた」
ルナルドさんは慌てて口を噤んだ。
「なんかよくわからないんですけど……
そこ以外から仕入れる事はできないのですか?」
「んん、色々あたったんやけど……
ポップコーンになりそうな品種はやつのとこ以外
今のところは見つかってないんや」
「そうですか……」
「わいとしてはやつに凛桜さんを会わせたくないんや」
ルナルドさんは困ったように眉尻をさげた。
「えっ?どうしてですか?
もしどうしてもそれが条件なら私は全然かまいませんよ」
「いや、あかん、ぜったいにあかん。
とにかくあかん。
わいはまだ死にとうない」
ルナルドさんは何かを思い出したかのように青い顔で
首をよこにふって完全拒否の態度を示していた。
そう言われてもな……
多少リスクがあっても手に入れない事には
話が進まないじゃないか。
いや、どうしよう本気で。
と、思っていたのが午前中のこと……。
「ほんまにすまん凛桜さん……」
ルナルドさんが直角90度に頭をさげて謝ってきた。
「うん、大丈夫だから、顔をあげてください」
ガチ過ぎて怖いから。
と、いうか本気で大丈夫なんかトゥールコ業者の人。
ルナルドさんがここまで心配する人って何?
もはやそもそも人なのかしら……。
トウモロコシの化身とかじゃないよね?
「お前たち、何があっても凛桜さんを守るんやで」
ルナルドさんがしっかりとキングの蔦を握って
真剣にそう伝えると……。
「マカセテオケ!
オレヲダレダトオモッテイル!」
と声高高にキングが叫ぶとすかさずクイーンが
黄色い声援を送った。
「キング!キング!ワレラノキング!」
「ホレルナヨ」
「キャァー」
クイーンはわざとらしく蔦と葉っぱを震わせた。
「………………」
あー、うん、私は一体何を見せられているのでしょうか。
え、今そういう場面でしたっけ?
すると申し訳なさそうに獣耳をさげたルナルドさんに
そっと耳打ちをされた。
「凛桜さんすまん、最近キング達は恋愛活劇に嵌ってるんや」
「はい?」
「今帝都で一番人気のある劇団の作品でな。
その公演映像をお袋たちと毎日みてるんや」
「…………」
「デロデロの甘々の恋愛もんや。
いけすかん美男子とごっつい可愛い美女の物語や」
「あ~」
「その主人公がなんやクロノス閣下似ていると
もっぱらの評判で人気の演者なのも気にくわんのや……」
そう言ってルナルドさんは顔を顰めた。
本気か?
それをきいたら俄然見たいんだけどその恋愛活劇。
「おかんもその俳優にメロメロや……。
わいの方がいけてるっちゅうねん」
ルナルドさんの心の声がエグイ。
と、いうか声に出ちゃって駄々洩れですよ。
「…………」
ルナルドさんVSクロノスさんがここでも勃発しているもよう。
どこの世界でも恋愛ドラマてきなものが流行っているのね。
まあ、女子は大好物よね恋愛ドラマ。
ルナルドさんのお母様がはまっているのか……。
まあこれもお約束という事で。
「キング達にあまり日常で使わないであろう
言語が増えてくるのが不安です」
「わいもそう思ってん……
おかんやめてくれへんかな」
「それな、うちの子にも影響がでそうで怖いです」
すでにシュナッピーがドヤ顔で……
“ホレルナヨ”をマスターしそうでなんか嫌です。
あなたはそういうキャラではありませんから!
大事な事だから2回いいますが……
あなたはイケメン枠ではありませんよ!
「とにかく!くれぐれもやつには気をつけてな」
そう言って本気ですまなそうに一足先にルナルドさんは
王都へ帰って行った。
と、言うのも……
あのあと全員でかつ丼をお昼ご飯として食べている時に
緊急のカードがルナルドさんに届いた。
内容はというと……。
「例の件、今日中に返事を聞かせてくれ。
さもないとトゥールコはすべて隣国に売るぜ」
というような強気な内容だった。
「あの!くそバカ息子が!!」
ルナルドさんがそのカードを忌々しそうに
ぐしゃぐしゃに握り潰していた。
「ヤッパリハイニシヨウ」
頬にご飯粒をいっぱいつけながら
クイーンが悪い顔で微笑みながらぽつりと呟いた。
と、いう訳で急遽トゥールコの仕入れに向かう事になりました。
しかもお供はキング達だけなのです。
なんでもルナルドさんは王室から呼ばれている用事がある為に
どうしても同伴できないとの事だった。
え、本当に大丈夫なの?
うちらだけですか?
お互いに初対面VS初対面ってハードル高くない?
私そんなにコミュ能力高くないわよ……。
キング達がいれば身体の安全は大丈夫って言っていますけど。
そもそも身体の安全って……。
いや、そこはデフォルトで大丈夫の部分であって欲しいのですが。
もう、なんなのこのおつかい。
本気でわからん……。
黒豆たちはウキウキ(死語)しているし。
遠足じゃないのだよ、君達。
キング達は相変わらず恋愛活劇ごっこを続行中だし。
「ネンレイヤミブンサナド、カンケイナイ!」
「ウレシイ……」
2体はそう言いながらお互いの蔦を絡ませて踊っていた。
どうやら2人は身分違いの恋に落ちているようです、はい。
最高上位種のキングとクイーンですよね、君達……。
本当に意味がわかって言っていますか?
「♪アナタガイレバナニモイラナイ~」
「キング~♪」
えっ?急にミュージカル調になるのは何故?
以外に演技派の2体すぎて半笑いしかできないわ。
なんかすごくベタな展開なのはわかっているが
ここまで見せられると本気で観たくなるじゃないか!
まあ、そんなことよりも今はトゥールコの仕入れに
集中しないとだよね!
と、言っても……
そもそもヘロリっとしか場所の説明が描いていない
適当な地図を渡された上に……。
兎とアライグマを足して2で割ったような不思議な
生物が先導をしてくれていますが。
うん、その子が絶妙に可愛くないのも残念なのよ。
耳が兎で顔の上半分がアライグマなのかしら
そして下の半分がまたうさぎ……。
身体の左右がぱっきりウサギとアライグマに分かれていて
しっぽがうさぎか……。
どういう進化を辿ったんだい?君たちは。
可愛い×可愛い=最強に可愛い!!
という方程式が崩壊しております。
でもいい子なのよね……。
その子が気遣うようにチラリチラリと何度も振り返りながら
道案内をしてくれています。
この辺りでは道案内を生業としている種族なんだって。
しかも彼はベテランポーターらしい……。
まあ、ルナルドさんのお墨付きなら間違いはないだろう。
そんなことを思いながら歩いていると急に道が
二股に分かれた場所にでた。
と、その時に兎アライグマもどきが初めて言葉を発した。
「あ、姫様こっちでゲス」
「…………!!」
語尾が“ゲス”だとぉおおお!!
盗賊の下っ端感がはんぱないんですけどぉ。
なんか、思っていたのとは違うけれど……
妙にしっくりくるのは何故だろう。
「あ、はい」
「これからだんだん道が険しくなるでゲス。
足元に注意してついてくるゲスよ」
わかったゲス。
そうひっそりと心の中で返事をして
神妙な顔でこくりと頷くしかなかったわ…。