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19.前兆……

田舎暮らしを始めて16日目。



気持ちがいいくらい晴天だったので……

盛大に洗濯をすることにした。


きなこ達の愛用の毛布の切れ端も格闘の末に手に入れ

無事に洗濯する事も出来たし……。


あとはお布団とタオルケットを干すだけかな……。


そのきなこ達はお気に入りの毛布を洗われて

少しご機嫌斜めのままふて寝していた。


「黒豆……きなこ……

そんなに怒らないでよ……」


そんな凛桜に対して二匹はプイっと横をむいた。


(もう完全に拗ねちゃっているじゃん。

気持ちはわかるよ!

自分たちの匂いが消えちゃうのが嫌なんでしょう。

でもね……もうそろそろ限界だと思ったのよ)


犬と飼い主の認識ズレあるあるだと思う。

可哀そうだけどここは飼い主特権を発動したいと思います。


あとはお布団を日に干すだけかな……。

これが地味に重いのよね……。


比較的ちびっこの凛桜にとって、大物の洗濯を干すのは

かなりの重労働であった。


「よしっ!えいやっ!」


女子にあるまじき声を出しながら物干し竿に布団を

掛けようとした時の事だった。


無情にも強い風が吹きつけてきた。


(いやぁぁぁぁ……なぜにこのタイミング!!

やばい、このままだと布団ごと後ろに倒れる)


それだけはなんとか避けたいと必死に抵抗しようと

したが風の方が強かった。


駄目だと思った瞬間何か大きいものに抱き留められていた。


「大丈夫か?」


「へっ?」


そのまま見上げるとクロノスが布団ごと凛桜を背中から

抱きとめてくれていた。


「クロノスさん……」


「これをここにかけたいのか?」


そういうといとも簡単にひょいと布団をかけてくれた。


「ありがとうございます……」


頬を染めながら凛桜はお礼を言った。


(背が高いって羨ましい……。

それに胸板が凄くたくましかった……。

腕もしっかりとしていて、さすが騎士団長だな)


今まで自分の周りにいなかった男らしい体の持ち主に

思わずきゅんときてしまった凛桜だった。


「お……おう」


クロノスもつられて赤くなって獣耳がへにゃりと横に倒れていた。


「これも干すのだろう。かしてみろ」


そう言って他の布団などもすべて干してくれた。


「フフフ……ありがとう。

こんなことを騎士団長様にさせて怒られないかしら」


「なに、凛桜さんの為ならこんなことはお安い御用だ」


そう言って照れ臭そうな顔で頬を掻いていた。




今日もクロノスは相変わらずいい食べっぷりだ。


ちょうどお昼ご飯の時間になっていたので

そのままランチタイムになだれ込んだ。


「旨いな……。

凛桜さんのご飯が一番うまい……」


そう言いながらバクバクとご飯を頬張っていた。


(なんやかんや美味しいって言ってもらえるのは

やっぱり嬉しい)


凛桜は相変わらずの展開に苦笑しながらも

ちょっぴりこの時間を楽しんでいる自分に驚いていた。


今日のメニューは、鶏むね肉のマーマレードソースだ。

いや、鶏むね肉ではなく……

ビッグサングリアの胸肉のマーマレードソースだ。


つけあわせは、ジャーマンポテト風チーズ焼きに

ワカメときのこのスープだ。


「ねぇ、クロノスさん……」


「なんだ?」


既に3皿目を食べている時の事だ……


「クロノスさんも食べ物から魔力を摂取しているの?」


凛桜の唐突な質問にご飯を食べる手が止まった。


「どこでその情報を……」


クロノスは一瞬厳しい顔をしたが……

ふと視線をローチェストの上の物へと注いだ。


そこには魔王様から頂いた紫水晶のピアスが置いてあった。


「はぁ……まったく次から次へとあなたの周りには

大物ばかり集まってくるな……」


大きなため息をつきながら箸をおいた。


「これ以上強力なライバルは勘弁だぜ……」


凛桜に聞こえないようにクロノスは独り言ちた。


「えっ?」


「あのピアスの持ち主は、そうとうヤバいやつだろう。

そいつからの情報か?」


「…………」


隠さずに話すよな?ん?

と琥珀色の瞳が凛桜を深くとらえていた……。


「どうやら祖父の古い友人の方のようで……」


「ほう……」


目が続きを促すように催促をしていた。


「ま……魔王様とおっしゃる方で」


「…………」


驚きのあまりクロノスは椅子から立ち上がった。

獣耳と尻尾もピンとたちあがっている。


「今なんと言った……魔王だと……!!」


凛桜は先日起こったことをクロノスに話してきかせた。


「そうか……そんな事があったのか。

確かに今の魔王は穏健派だときく……。

その裏でそんな事情があったのだな」


それは獣人達も知らない情報だった。


「それにしてもお前の爺様は大物だな」


「そうよね……。

他にもまだ色々と何か出てきそうで怖いの」


凛桜はおどけたように笑った。


「この世界は広いからな……。

でも何が来ても俺は凛桜さんを守るから……」


そう言って真剣な眼差しで見つめてきた。


(やだ……今日のクロノスさんなんか変……。

いつもよりストレートというか……ぐいぐいくるな)


ご飯の為なのか、はたまた口説かれているのか

よくわからないけれど、なにか違和感がある。


「クロノスさん……何かありました?」


「えっ?」


その言葉に動揺したのかビッグサングリアの肉を落とした。


しばらく間があいて返事があった。


「夢をみたんだ……。

凛桜さんが()()()()()()()()()()()()()()()()()夢を」


泣きそうな顔をしながら獣耳をペタリとたれさげていた。


「あっ…………」


(確かにそれはありえるかも……

私はこの世界の住人ではない。

今この瞬間にだって元の世界にもどるかもしれないし)


「凛桜さん、急に俺の前からいなくなったりしないよな」


いざそう聞かれると凛桜は狼狽を隠せなかった。


「俺の夢はよくあたるんだ……。

そのおかげで仲間の命をすくった事もあるくらいだ。

でも今回はあたって欲しくない」


「あー……」


(そんな子犬のような目をしないで……

約束はできないわ……)


凛桜は露骨にクロノスから目を逸らした。


その日は微妙な空気になってしまったので

そのままクロノスは黙って帰っていった。


しかもお弁当も持たずに帰ったのだ。



そして予感は見事に的中した……。


その日の夜中の事だった。

こちらに来た時のように大きな揺れを感じた。


(あーこれはもしかしたら、もしかするかもな)


クロノスさんが干してくれたおかげで

ふかふかになったお布団にくるまれながら凛桜は遠い目になった。




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