表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

189/219

189.ど~んと大船にのったつもりでいいぜ!

田舎暮らしを始めて168日目の続き。




こうなると思ったよ……。


目の前で繰り広げられているどんちゃん騒ぎを見ながら

凛桜は呆れた溜息をついた。


どう収拾をつけていいかわからないわ。


むしろ、もう好きにしてくださいな……とさえ思った。



「やっぱり異界の酒は最高だな!」


「サケ、サイコウ!」


「ツクネ、ウマイ、ツクネ、セイギ」


ああ、クイーンまで目がバキバキにきまっちゃているよ。

そんなにつくねが気に入ったかい?


「…………」


「もう一度みんなで乾杯しようや」


親方、それ何回目の乾杯ですか?


全員目が据わったまま無言で盃を高く掲げないで!


あああああ!

この酔っ払いどもが!


ウェ~イィィィイイイイイイ!!

くらいのノリはやめて頂けませんか……。


某ガード下の飲み屋のサラリーマンかっ!


くらい出来上がっている面々をみて更に凛桜はため息をついた。


「嬢ちゃん、焼き鳥を10本追加で頼む」


まだ食べるのか?

その小さい身体の何処に収納されているのさ。


「………………」


「俺の分は塩で頼むぜ」


「タレ、スキ」


「おっ、キングはタレ派か!

じゃぁ、もう10本追加しようか」


「はい、よろこんで……。

と、でも言うとかと思ったか!

この万年セクハラモグラがぁぁぁぁぁ!!」


凛桜は傍にあった座布団らしき物体を思いっきり

ボルガさんの顔面目掛けて投げた。



あれから無事にドワーフの親方の工房にたどり着いた。


で、開口一番ボルガさんがやらかしてくれた訳で……。


「じじい!くたばってねぇか?

相変わらず飲んだくれているんだろ。

ちっとは、働け、働け、カカカカカッ。

と、いう訳で今日は俺様が上客を連れてきてやったぜ」


などと失礼な事を言いながらノックもせずに

木戸を開けてしまいました。


人様の家を訪ねる態度ではないな……。


そうなると何処からともなく……

ゴングが鳴る音が聞こえちゃうよね、うん。


「あああああ?」


部屋の奥から心底怒っている低い声が聞こえたかと思ったら

ボルガさんの顔面スレスレに大きな斧が飛んできた。


少しボルガさんの顔の毛がはらりと辺りを舞っていたわよ!


本気で殺る気だったよねぇ。


「ったく、相変わらず血の気の多い奴だぜ」


しれっとしたり顔でそう言うと……

ボルガさんは顔色1つ代えずにそのままずんずんと

部屋の中に入っていった。


えっ?どういう状況?


ハート強すぎない?


完全に入るタイミングを失った私達はただただ扉の前で

佇んでいるとやっとその存在に気が付いたのだろう。


親方がひょいと顔を覗かせて言った。


「おお!嬢ちゃんも来てたのか!

んん?他にもたくさん仲間がいるじゃねぇか。

今日はどうした?」


「あ……お久しぶりです。

お元気でしたか?」


「なんだよ、改まって!

ガッハハハハハ……いいから入れ入れ」


嬉しそうに手招きされ凛桜達もようやく中に入ることができた。


部屋の中は予想以上に広い空間が広がっている事にも驚いたし

壁という壁にあらゆる武器が飾ってあるのも目をひいた。


きっと1つ1つが親方の手で作られた名工の作品なんだろう。


あのクロノスさんでさえ密かに目を輝かせて見入っているくらいだ。


男子ってこういう武器系が好きよね。


「なんか気に入ったものでもあったか?」


大ぶりの剣の前で食い入るように見つめていた

クロノスさんに親方が声をかけている。


「あ、いや、噂には聞いておりましたが圧巻ですね。

素晴らしい大剣ですね……」


「そうかい」


手放しでクロノスに褒められ親方も満更じゃなさそうだ。


「おっと、これは失礼いたしました。

私は第一騎士団で……」


と、クロノスさんが自己紹介しようとしたが親方は

ニヤリといい顔で笑いながら言葉を遮って言った。


「ああ、よ~く知っているぜ。

あんた、オーガストのところの坊だろう?

大きくなったな」


「………!!

爺様とお知合いですか?」


「おうよ、酒飲み仲間だ……。

昔はあんたをおぶってよくこの店にも

顔をだしていたからな。

相変わらずフラフラ放浪してんのか?」


「あ、はい……おそらく」


「いい、ご身分なこった、ガッハハハハハ」


クロノスさんのおじい様……

子守のついでにこの店に寄っていたのかな?

ワイルドすぎる。


けっこう世間って狭いのねぇ。


異種族交流会のレベルが凄いな……。


ま、そういうこの場もかなりカオス状態だけどね。


フリーゲントープにドワーフ、獣人、フラワー種

それに異世界人の私と柴犬……。


なんの集まりなんだよというくらい不思議なメンツだ。


「で、今日は何の用なんだ」


あ、あまりにも濃い再会だったので

すっかり目的を忘れていたわ。


親方が椅子に座れと目で促してきたので

クロノスさんとそのまま可愛らしい切り株に座った。


「実はですね……」


凛桜はだいたいのあらましを親方に話始めた。


そして数十分後……。


「つまりなんだ……

そのポップコーンとやらを大量に作れる魔道具を

作って欲しいということか?」


親方は難しい表情を浮かべて腕をくみながら唸っていた。


「そうなんです……。

しかも近日中にお願いできないかと……」


凛桜は申し訳なさそうな表情で親方の顔色をチラチラと

見ながら大きな包みを切り株のテーブルの上に

ど~んとおいた。


「これは前金です」


クロノスさんに担いでもらって持ってきた

日本酒5本とつまみセットだ。


それをみた親方は一瞬目を輝かせたがすぐに表情を曇らせた。


「嬢ちゃんの気持ちはわかるんだが……

いかんせんそのポップコーンとやらがどんなものか

わからねぇしな。

工程を見ねぇと魔道具をつくるのは難しい」


「そう言われると思ったので見本を持ってきました。

あの、料理ができる竈はありますか?」


「えっ?ああ、奥の部屋にあるぜ」


「実際に作って見せますのでお借りしてもいいですか?」


「ああ、いいぜ」


そして凛桜はみんなの目の前でポップコーンを作ることにした。


なんてことのない所謂スーパーとかで売っている

火にかけて簡単に作れるポップコーンの商品だ。


初めて見るであろうその物体にみんなくぎづけだ。


「こんな平べったい物から出来るのか?

それにこの銀色の素材はなんだ?

シルバーかそれともアダマンタイト?

それともアイアン?」


いやいやいや、普通のアルミホイルですけど……

多分、いや確実にそんな伝説級の素材ではありません。


とは説明できない。


「えっと、異界の素材です。

わりと安価な物で出来ています」


「それはここでは手に入る素材なのか?」


「おそらく無理かと……」


「そうか、じゃあ他のもので代用するしかねぇか」


「そうして頂けるとありがたいです」


そんな話をしている最中にもどんどん目の前で

膨らんでくるわけで!


「凛桜さん大丈夫か?

尋常じゃないくらい膨らんできているが……」


あのクロノスさんでさえ若干獣耳が後ろに下がってきている。


「ああ、こういうものだから

きっともうすぐ出来上がると思うよ」


「お……おう……」


クロノスさんの顔の引きつりがヤバいな。


「バローネみたいだな。

急に破裂して種とか飛ばしそうだぜ」


そういってボルガさんはニヤリと悪い顔を浮かべた。


「バローネ!!」


その単語を聞いた途端……

キング達がポップコーンに向かって威嚇のポーズをとった。


それを見ていたシュナッピーも慌てて同じようなポーズをとり

ポップコーンを取り囲んだ。


「バ……ロネ?」


シュナッピーさんやバローネの事知らないなら

無理に参加しなくてもいいのだよ、うん。


「ハイ二スルカ?」


いやいやいやいや、キングやめて。


ポップコーンはそんな物騒なものではありません。


「いや、大丈夫だから。

中には美味しい物がたくさん詰まっているから

ほら、前に家で食べたでしょう?

ポップコーンだよ」


「マエニ?タベタ?

ポップコーン?」


「ほら、今も甘くて香ばしい香りがしてきているでしょう?」


そう言われてキング達はグッと膨らんだ物体に

顔を近づけていっているので……

もしかしたら香りを嗅ごうとしているのかな?


って、君達鼻らしきものが顔についていませんが

匂いはどこで感知しているのかしら?


「アマイカオリ……」


キング達は必死で思い出そうとしているけれど

どうしてもあのポップコーンと目の前のものが

結びつかない様子だった。


「オイシイモノ?

シロイモコモコ?」


クイーンが不思議そうに首を傾げた。


「そうよ、とっても美味しい……」


と、凛桜が言いかけた瞬間ポップコーンが


パンァァァァァァァンン!!


と盛大に弾けた。


「「「「「……………………!!」」」」」


全員が驚きのあまり飛び上がった事は言うまでもない。


あのボルガさんでさえ面喰って立ち尽くしていたからね。


そして何故か私は家の外にいました。


何故ならばその瞬間にクロノスさんが凛桜を横抱きにして

抱えながらダッシュで外に避難したからである。


「…………」


「あ……クロノスさん、もう大丈夫ですから」


未だにぎゅっと凛桜を抱きしめたまま離さないクロノスに

若干半笑いのまま凛桜は優しく問いかけた。


「あの破裂音はポップコーンが弾けて出来ましたっていう

合図のようなものだから……」


「凛桜さん、あれは駄目だ。

いくら調理工程とはいえ危険すぎる」


そう言って獣耳をピルピルと上下に高速で動かしていた。


凛桜を抱きしめられている手が若干震えているのは

気のせいじゃない気がするくらいだ。


まさかと思うけれど怖かったのかな?


そんな中、唯一全く動じなかったのはきなこ達である。


なぜならもう何回もこの工程を見ているし

破裂音にも慣れていたからである。


むしろ、この後に美味しいポップコーンが食べられる

喜びに沸いているくらいだった。


凛桜達が部屋に戻ると……。


キング達を始め皆がポップコーンを取り囲んで

恐る恐る突いているところだった。


「嬢ちゃん、これはいけねぇ。

こんな危険なもの作れねぇよ」


親方は困ったように首を横に振った。


「いや、この音は危険じゃないのよ。

まあ、今日はたまたまスゴイ破裂音がしちゃったけれど

危険なものじゃないのよ」


「しかしだな……」


親方は危険な何かと勘違いしているもよう。


今日に限ってポップコーンさんよ

どうしてこんなにも派手に弾けてくれちゃったのかな?


いつもはポフ~くらいの腑抜けた音ですよねぇ……。


「でもよ、これ凄く美味いな。

エールとよく合いそうだぜ」


そう言いながらボルガさんが口いっぱいに頬張って

すでに半分以上食べちゃっている……。


「おま、何やってんだ。

危険じゃないのか、それ」


親方は目を零れんばかり見開いて驚いている様子だった。


「いや、すげぇ美味いぞ」


それをきいた誰かの喉がごくりとなった。


うん、今のはクイーンだな……。


ちょっと恥ずかしそうに目を伏せて赤くなっているから。


「まあ、騙されたと思って食べてみて」


凛桜は親方にもポップコーンを手渡した。


そしてクロノスさん、キング、クイーンにも手渡すと

食べてみて?と目で促した。


最初みんなは戸惑っていたけれど……

意を決したのか口の中に入れてくれた。


無言のもぐもぐタイムが発生しているらしい。


が、急にキングが叫んだ。


「ポップコーン、ヤッパリウマイ!!」


「ショッカンサイコウ!!

オツマミ!オツマミ!」


続けてクイーンが叫んでくれた。


リアクションが上手すぎるんですけど

CMか何か狙っていますか?


「確かに美味いな……ポップコーン……

そう言えばこの前も食べたな、これ。

それがまさかこのような危険な工程で作られていたのだな」


クロノスさんはそうしみじみ呟くと労わる様な視線を

凛桜に投げかけて来た。


「…………」


いや、だからね、危険はないっていっているでしょうが。


「これがトゥールコから出来ているなんて

信じられねぇな、確かにウマイ。

酒が進みそうな味だぜ」


親方も気に入ってくれたもよう。


「しかしこれは一体どういう仕組みだ?」


親方はしげしげと膨らんだ物体を色々な角度から観察していた。


「詳しい原理はわからないのですが……

この底に乾いたトゥールコがたくさん

敷き詰められていまして……

それらが加熱されると水分が水蒸気になって膨らもうと

するらしいんです」


「ほう、それで?」


「その水蒸気になろうとする圧力が高まると限界に達して

乾いたトゥールコのデンプン層を破り弾ける事で

ポップコーンとなるらしいんです」


「なるほどな」


親方は理解したのか何度も頷いていた。


「ああ?お前本当に理解できたのか?

俺はさっぱりだったぞ、なあ、あんちゃん」


「えっ?あ、はい……?」


急にボルガから話を振られたクロノスは動揺して

なんとも曖昧な返事しか返せない様子だったが……。


「ようはその硬いトゥールコを火力で爆発させればいいんだろう?」


「ざっくり言えばそうです」


「それがわかればなんとか出来そうだが……

流石に今日の今日は無理だ。

早くて2日はかかると思ってくれ」


えっ?それって間に合うのかしら?

そんな思いを込めてクロノスさんを見上げると。


「ギリギリの期限だが仕方がない。

それでお願いできるだろうか」


「おうよ、さっそく取り掛かるぜ」


「ありがとうございます」


凛桜は深々と頭をさげた。


「今回のはかなり厄介な案件だから嬢ちゃん。

出来上がったら異界の酒10本追加だからな」


はう!?

日本酒10本だと?


家にストックあったかしら?


でもいまさら断れないからな……。


「わかりました」


「まあ、この俺に作れねぇものはないからな。

ど~んと大船にでも乗ったつもりで待っていてくれや」


そう言ってドヤ顔をきめていた親方だったのに

数分もしないうちに覚醒してしまったのだろう。


私達は有無を言わさず親方の工房から追い出されてしまった。


え、感情の起伏が激しすぎやしませんか?


あのキング達でさえポカーン顔だよ。


ほんの数分前までみんなで楽しく飲んでいたよね?


そんな中……

急にポップコーン製造機の見取り図が頭に浮かんだらしい。


そうなるといてもたってもいられなくなったのね。


「あの状態になったらあいつは梃でも動かねぇよ。

しゃーない、帰るか」


そう言ってボルガさんは頭を搔きながら来た道を

戻り始めていた。


「帰りますか……」


「だな……」


とりあえずポップコーン製造機は無事に手に入りそうです。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ