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181.元あった場所に返してらっしゃい

田舎暮らしを始めて162日目。




「………………」


「ギュ…………」


「「キューン」」


凛桜はシュナッピーときなこ達を見下ろしながらため息をついた。


「ハア……だからね……」


「ギュ……」


「ヒ~ン、キューン」


2匹と1体は直も懇願するように凛桜を見つめた。


うっ……

モフモフ達のその目に私が弱いのを知っていて

フルにその技を使ってきてやがる!!


でも……やっぱり何度考えても駄目だよ、これは。


最大級のお願いでも……

無理なものは無理でしょう。


「そんな目をしても駄目だからね!」


「ギュロォォオオオ……」


2匹と1体が凛桜の顔色を伺うようにチラチラと

見上げてきます、がっ!


「元あった場所に返してらっしゃい!!

うちでは、飼えません!!」


凛桜は歯を食いしばってそう告げた。



話は1時間程前に遡る。


「相変わらずいつ来ても圧巻ね……」


凛桜とシュナッピー達は秘密の果樹園に来ていた。


恐らくだが定期的にあらゆる森の動物達やボルガさん達が

果物を食べているのだとは思うのだが……

それでもここはいつ来ても豊作のようだった。


本当に家の中庭ってどうなっているのさ……。


1人苦笑しながらも胸いっぱいに空気を吸った。


「よしっ!まずは柑橘類かな。

あ、りんごも忘れずに採っておかないと……」


凛桜が目についた果物を片っ端から収穫していると

何やら奥の方から黒豆の吠える声が聞こえた。


「ん?」


「ワンワン!!」


あまりにも吼えるので籠をその場に置き向かうと

なんとそこにはまた新たな果物が生っていた。


「本気かよ……」


目の前にはあの南国の果物がど~んとぶら下っていましたよ。


ええ、あの“バナナ”です。


ついに我が家の果樹園に常夏エリアが出現したようです。


「バナナ……だとっ!?」


凛桜が慄いていると横でシュナッピーが……。


「バ……ナ……、バナ……、バッナーナ」


「…………」


「バッネェアナ!!」


うん、驚くから大きな声はやめようね。


シュナッピーは、何故かめちゃくちゃ発音のいい

バナナ=バッネェアナという言葉を習得した。


いいたい事は色々あるけれども!

とにかく3房くらいは収穫しましょうか。


バナナチップスでも作っちゃおうかな。

以外に簡単に作れるのよ。


それよりも何故にリンゴの木とさしてあまり距離のない所に

バナナの木が生えるのかな?


土地の温度管理はどうなっているのかね?ん?


そのうち、パイナップルとかマンゴーとかココナッツも

発見されてしまうのではないかとヒヤヒヤしちゃうわ。


そんなこんなで果物狩りを楽しみ

籠いっぱいになりました。


今日はフルーツ祭りじゃ!!


「きなこー、くろまめ、シュナッピー帰るよ」


すると遠くの方で遊んでいた2匹と1体は

一旦は近くまで来たがもう少し遊びたいと言った。


「わかった、お昼になったら帰って来てね」


「「ワン!ワン」」


「オヒル!オヒル!カエル!」



そう言って別れたのが先ほどの事。


で、これは一体なんですか?


What is this?


Τι είναι αυτό ティ イネ アフト?(ギリシャ語)


Was bedeutet das? (ドイツ語)


这是什么? (中国語)


多数の言語の“これは何ですか?”が頭に浮かんだわ。


そうとう精神的にやられているらしい……。


凛桜はシュナッピー達が果樹園の奥で拾ったであろう

物体を目の前に困惑の色を隠せなかった。



と、言うのも……

シュナッピー達と分かれてひとりで先に家に帰って来た

凛桜は早速果物を使って調理を開始していた。


「よし、バナナチップスを作りますか」


この料理の為に1房だけ青いバナナを採ってきました。


完熟したバナナより青いバナナの方が美味しく揚がります。


1つの大きさはだいたい1㎝くらいの厚さかな?

切ったら少し水にさらします。


その後、しっかりと水気を拭いてから中火で揚げます。


油に入れて白っぽくなったら出来上がり!


仕上げに塩を振るのもよし!

シナモンパウダーや砂糖をかけるのもよし!


ココナッツオイルで仕上げたい場合は……

揚げるよりもオーブンで焼くのがいいらしいよ。


「やっぱりなんでも揚げたては最高ね」


1人でつまみ食いをしながら

次々とバナナチップスを揚げていると……

中庭からとても大きな鈍い音がした。


ズシンンンンンンンッ!!


「何事!?」


家全体がちょっぴり揺れたぞ!?


急いで火を消して中庭に駆けつけると

縁側に巨大な何かが転がっていた……。



「で、これは何かな?

んん、いや、こちらはどなたかな?」


凛桜がそう聞くと2匹と1体はサッと目を逸らした。


どうやら凛桜が怒っているのを察したらしい。


「…………」


「黙っていたらわからないんだけど」


額に青筋が浮かんでいたかもしれない。


「ギュ……」


「………………」


「…………」


静かな見つめあいの時間が流れました。


が、しかし……

その沈黙と凛桜の圧に堪えられなくなったのだろう。


シュナッピーが意を決したのか口を開いた。


片言だったので、事態を把握するまで時間を要したが

何とか言いたいことは伝わった。


「そう……拾ったの……」


「ヒロッタ……」


いや、本気で何?これ?


どういうこと?


え、これが落ちていたの?

うちの果樹園の奥に?


凛桜の目の前には2m以上の青い物体が

いや、人かな?


人らしきものが縁側に横たわっていた。


一言で言うとかなりのイケオジだ。


目を閉じているし……

若干至るところが汚れているが。


それを抜きにしてもゴリゴリマッチョな

全体的に青い身体のイケオジが転がっていた。


確認の為に凛桜はそのイケオジを観察することにした。


雰囲気的に恐らく40代前半くらい?


髪の色はサラサラの銀髪で、肩の下くらいの長髪だ。

頭の左右にはお約束のように……

大きなとん〇りコーンのような黒い角が2本生えている。


目は閉じられているので瞳の色はわからない。


顔の右半分に入れ墨だろうか?

鮮やかな文様がかかれている。


耳は尖っており……

金の輪で出来たピアスや宝石がついたイヤーカフが

幾つも嵌っていた。


う……ん、魔族の方かしら?


上半身は、右の肩だけに黒光する肩当てらしき

防具以外は何も身に着けていなかった。


その防具はかなり緻密な模様が彫られており……

真ん中には大きなひし形の紫水晶がはめられている。


見るからに至極の一品だという事が見て取れる。


そのまま下へと視線をさげると……

鍛え抜かれた上半身にも顔と同じように

幾つもの入れ墨が入っている。


かなりいかついな……。


下半身は、皮のパンツの上に肩当てとお揃いの防具を来ていた。


これは……かなり高位の魔族さんかしら?

身に着けている物がエグイ。


人型だしね……。

かといって獣人さんではないと思う。


角はあるけれど、このビジュアルで

“ヤギ”もしくは“羊”とか“インパラ”?


その他の角のある草食動物の獣人とは考えにくいわ。


もし仮にそうだったらちょっと引くわ。

ビジュアル強すぎない?


「………………っ!!」


と、いきなりその魔族さんがビクッと身体を震わせて

仰向けの状態からゴロンと横になった。


「ふぇっ!」


目を覚ましちゃった?


一瞬こちらもビクついたが……

どうやら寝返りのようなものだったらしい。


「あ……」


そのおかげなのか、背中に漆黒の大きな羽のようなものが

ついていることがわかった。


ねえ、この方本当にうちに連れてきちゃって大丈夫なの?


見れば見るほど不安に駆られてしまうのですが……。


もう、君たちは本当に。


落ちているからと言って、なんでも拾ってきちゃ駄目だから。


メっ!!


凛桜が再びシュナッピー達を軽く叱っていると

後ろから何者かの気配を感じた。


へっ?


視線を感じて振り返ると……

その魔族さんがのっそりと起き上がってくるじゃなぁい!!


気だるそうに髪をかきあげながら魔族さんは

眠そうに目を擦りながら凛桜達をみた。


「ヒィ…………」


凛桜の喉が恐怖のあまりごくりと鳴った。


「…………」


その魔族さんは深紅の瞳をしておりました。


これはヤバい……。


シュナッピー達にも緊張が走った。


が、次の瞬間いきなり魔族さんは可愛く鳴いた。


「キュ!」


「…………」


キュ!だと?


あの顔で可愛い声で“キュ!”だとぉぉおおお!?


まさかの展開に凛桜は狼狽えた。


空耳かしら?


あまりの恐怖に私の脳がバグを起こしたのかしら?


あの凶悪フェイスからの“キュ!”は……

ないわ~本当にないわ~。


すると何を思ったのか……

その声を聞いた瞬間にきなこ達が嬉しそうに

その魔族さん目掛けて走り出した。


オォオオオオオ!!ノォオオオオオオ!!


きなこ達早まるなぁ!!


戦っても勝てる相手じゃないよ。

きっと瞬殺だよ!!


凛桜が真っ青になりながら止めようとすると

何者かが凛桜の腕をグイッと引っ張って止めた。


「ちょっと、もう、なによ!」


凛桜が焦りながら腕を見るとシュナッピーの蔦が

右腕に絡まっていた。


「シュナッピー、止めないでよ。

きなこ達を……」


半分キレ気味にシュナッピーに強く言うと

シュナッピーは片言でこう告げた。


「ラ……オウ、アレハ……ラ……オウノ……」


何だって?


ラオウって何よ?


あの麺類の?


いや、何処をどう見ても……

あの人は麺類のジャンルじゃないでしょ!


それとも何よ、あれですか?


“我が生涯に一片の悔いなし!”のあの方?


いや、違うでしょ、違う、違うから。

確かに同じくらいにごっついけれども!


この次元の方じゃない、はず……。


だから、なんなのよ“ラオウ”って!!


しかしシュナッピーの目は真剣そのものだ。


凛桜は軽いため息をつきながらシュナッピーを

諭そうとしたときに不意に後ろから声が聞こえて来た。


「久しいな……凛桜……」


えっ?


その聞き覚えのある声に振り返ると……

魔王様が降臨なさっておりました。


「魔王様……」


すると魔王は凛桜の顔を見て軽く口角をあげた後に

その後ろにいる人物に声をかけた。


「やはりここだったが、探したぞ」


そう言って、その者に近づいて行った。


えっ?えええええっ?


やっぱり魔族だったのね。


するときなこ達と戯れていたゴリゴリマッチョのイケオジは

また再び“キュ!”と鳴きながら

直ぐに魔王様の前で肩肘をついて頭を垂れた。


どういうこと?


「ええっっと?お知合いですか?」


「…………」


凛桜のその質問に魔王様とイケオジは不思議そうに首を傾げた。


「だから……」


「何をいっている、お前もよく知っているだろう」


そう言って魔王様はクスリと笑った。


はい?


そんなゴリゴリマッチョのイケオジ魔族の知り合いは

いませんけれども?


「…………」


どうも話がかみ合いませんが……。


困惑気味の凛桜をみてはたと気がついたのだろう

魔王様は珍しく声をあげて笑った。


「ククク……。

そう言えばこの姿を見るのは初めてかもしれんな。

こちらの方が、お前にはしっくりくるだろう」


そう言って、パチンと指を鳴らすと

ゴリゴリマッチョのイケオジは

いつもの可愛らしいコウモリへと姿を変えた……。


「えっ!!コウモリさん!?」


凛桜は絶句した。


あの可愛らしいコウモリさんの中身って

こんなにいかついイケオジ魔族だったのか!!


ギャップがありすぎじゃない?


「キュ!キュ!」


いつものように可愛らしい円らな瞳のコウモリさんが

してやったりといわんばかり……

嬉しそうに凛桜の周りを飛んでいた。


そう言えばユートくんが言っていたな。


魔王様の右腕は……

魔王軍最恐の暗黒騎士ジョルジュさんという魔族だと。


この方だったのねぇ……。


私はそんな方を肩にずっと乗せて過ごしていた時期があるのよね。

一緒に添い寝とかもしちゃっていたよ!


知らないって、怖いわ……。


フルーツ大好き!


可愛らしいモフモフ要素を備えたコウモリさんの中身が

ゴリゴリマッチョのイケオジという衝撃の事実を知って

遠い目になる凛桜だった……。



魔王様の話によると……

コウモリさんの本来の姿はゴリゴリマッチョのイケオジの方らしい。


だけれども普段は魔力の消費を抑える為に

あえて小さいコウモリの姿で過ごしているんだって。


それが本当の理由かは定かじゃないけれど……

とにかく驚いたわ。


今日はうちの果樹園にフルーツを食べにきていたところ

あまりにも桃が美味しかった為に……

つい油断して食べ過ぎた後に眠くなり

変身を解いてその場で寝てしまったのだとか。


あ……そうですか。


それは危機管理的にどうなのかい?


と、その前に……気になったのですが

いつから家の果樹園に通っています?


知らないうちに果樹園はフリーパス食べ放題エリアに

なったのかしら……。


持ち主の許可なしで食べ放題ってどうなんでしょうか?


いや、いいのですが……う、うん……。


そんな事をふと思ったが平和の為に口を噤んだ。


その後、凛桜が作ったフルーツパイでお茶をしてから

バナナチップスを大量にお土産に貰い

ほくほく顔でコウモリさんは魔王様と帰って行った。


真実を知らない方が、幸せな事もある、うん。




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