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18.くるみフィーバー

田舎暮らしを始めて15日目。



凛桜は縁側で紅茶を飲みながら中庭を眺めていた。


ふと横を見上げると、先週クロノスと作った干し柿が目に入った。

今のところ順調に仕上がっているようだ。


(カビも生えてないし、いい色に色づいていて嬉しい。

このままいけば来週……いや再来週には食べられるかな)


黒豆ときなこもその横で伏せの体制で寛いでいる。


(こちらにきてはや2週間か……)


ゆっくりしたくて来たハズなのに……

かなり目まぐるしい日々をおくっている自分に苦笑した。


でも不思議と嫌じゃない。

かなり個性的なメンツ揃いだけれども何故か心地いい。


でもますますうちの家は定食屋と化していっている気がする。

違うって言っているのになぁ……。


そんな事を思いつつ、黒豆ときなこの間に割って入り

自分も縁側に寝そべって目を閉じた。



それからどれくらい時間がたったのだろう。


頭の上できなこが吼える声と数人の人の声がする……。


「本当にここなのか?」


「うん、そうだよ。森のパン屋さん……じゃなくて

お料理の美味しいお姉さんのお家」


「勝手に入ってもいいのかしら?」


(ん……この声は……)


眠気まなこをこすりながら、凛桜はむくりと起きた。


そこに二人の子供が飛び込んできた。


「お姉さん!!」


「君たちは……!!」


先日ここにやってきたリス獣人の兄妹だった。


「元気にしてた?」


「はい、あの時はお世話になりました」


二人は嬉しそうに獣耳と尻尾を揺らしていた。


「今日はどうしたの?」


そこに遠慮がちに声をかけてくる人達がいた。


「こんにちは、先日は子供たちがお世話になりました」


顔を上げると、そこには若い夫婦と思われる

リス獣人が立っていた。




あの後すっかり病気もよくなったので

お礼がてら家に遊びに来てくれたらしい。


ひとまず縁側でお茶でもどうですかとお誘いした。

因みに今日のお菓子は、木の実がたっぷりと入った

パウンドケーキだ。



「本当にありがとうございました」


ケーキを遠慮しつつ食べながら

ご夫婦はまた改めて丁寧に凛桜に頭を下げた。


「いえ……そんな大したことは……」


しきりに恐縮している凛桜に対して、旦那様は神妙な顔をして

改めて頭をさげて言った。


「今だから言えますが、妻の病気はかなり悪いものでした。

お医者さまからもあまり長くはもたないかもしれません。

とはっきり言われていた程でした」


(マジか……。

白蛇さんの鱗の効力半端ないな……)


「それなのに、頂いたスープを飲んだところ……

見る見るうちに妻が元気になり……。

いまではほとんど完治いたしました」


「あ…………」


凛桜はもう半笑いを浮かべるしかなかった。


そこに黒豆達が遊ぼうとリス獣人の兄妹を誘いにやってきた。

二人は言ってもいい?と凛桜と両親をみた。


「いいわよ、ついでに畑の様子も見てきてくれる?」


そう言うと嬉しそうに二匹と庭に飛び出して行った。


「フフフ……賢いワンちゃん達ですね」


そう言って奥さんはふんわりと笑った。


「本当に賢い犬たちだ。

まるで空気をよんでくれたようだな……」


旦那さんも駆けて行った子供たちの背中を見ながら呟いた。


奥さんは凛桜の顔を見ながら、そっと手を取って言った。


「いまこうしていられるのもあなたのお陰です。

どんな魔法を使って下さったのかはお聞きしません」


(魔法……たしかに一種の魔法かもしれないな)


「それに凛桜さんの事とこの森のパン屋さんの場所も

けっして人には言いません」


旦那さんは至極まじめな顔でそう言った。


「…………」


(定食屋の次は、森のパン屋かぁ……

いいかげん食べ物屋さんシリーズから解放してくれ)


「私は何もしていませんよ。

あの子たちの頑張りが何かに通じたんだと思います」


そう言うと驚いたように目を見開いていたが

お互いに目で見つめあってから頷いていった。


「そうかもしれませんね……。

それでも私たちはあなたに感謝しています」


二人は目を潤ませながら何度も頷いた。


「今日は、お礼にこちらを持ってきました」


そう言って奥さんは籠いっぱいのクルミをくれた。


「ありがとうございます。

こんなにたくさんいいのですか?」


凛桜は嬉しそうに目を輝かせた。


「こんなものしかお礼に差し上げられませんが」


申し訳なさそうにご主人は頭を掻いた。


「いいえ、こんなに立派なクルミを頂けるなんて嬉しいです。

早速何を作ろうか考えてワクワクしてしまいます」


そこにリスの兄妹達が帰って来た。


「お姉さん、畑にたくさんのトウモロコシが実っていたよ」


二人は得意げにそう答えた。


「えっ!本当?

やだ、収穫するのをすっかり忘れていたわ」


すると旦那さんが遠慮がちに申し出てくれた。


「よかったら、俺が収穫してきましょうか?」


「いいのですか?助かります」


「じゃぁ、僕たちもお手伝いしてくる」


「お願いします」


3人を見送ってから、凛桜は奥さんに言った。


「それでは、私たちはこのクルミを使って何か作りましょうか」


「いいですね、私にもぜひお手伝いさせてください」



二人は早速調理にとりかかった。


「くるみのキャラメリーゼを作りたいと思います」


「キャラメリーゼ……ですか?」


聞きなじみがないのであろう、奥さんは首を傾げた。


「簡単ですが、とても美味しいお菓子なんですよ」


そう言って、凛桜はフライパンを取り出した。


「まずは、砂糖と水を煮詰めます。

そうですね、ぶくぶくと煮立つ泡に粘度がでて、ゆっくりと割れる

ようになるまで煮詰めてください」


「はい」


リス獣人の奥さんも隣で見よう見まねで作り始めた。


「次は、クルミを加えます。

白く結晶化するまで木べらで混ぜてください」


二人で一所懸命クルミをまぜた。


「いい感じです。

結晶化したので、一度火を止めます。

あとはまんべんなく白くなるまで混ぜ続けてください」


「それから、再び火にかけます。

今度は結晶化した砂糖がキャラメルになるまで混ぜます」


「キャラメルとはなんですか?」


「このように茶色くねっとりしてくる状態です。

ここが難しくて、あまりやりすぎると焦げてしまいます。

なのである程度色づいたら、余熱で仕上げましょう」


「こんな感じでどうでしょうか?」


「いいですね、いい感じです」


「あとは冷まして、瓶につめたら出来上がりです。

まだ少し熱いですが、一つ食べてみてください」


奥さんは一つ摘んで出来立てのキャラメリーゼしたクルミを食べた。


「…………!! 凄く美味しいです」


「でしょう。美味しいですよね」


その後も3人が戻ってくるまで、クルミを使った料理をいくつも

二人で一緒に作った。



「今日は本当にありがとうございました。

お礼に来たはずなのに、またこんなにも頂いてしまって」


お約束のように、収穫した野菜と共に

クルミ料理を半分持ち帰ってもらった。


「いいえ、こちらこそわざわざありがとうございました」


「お姉さん、また遊びにきてもいいですか?」


「お前達……」


両親がたしなめようとしていたが、凛桜はにっこりと笑って言った。


「いいわよ、いつでも遊びに来て。

でも来るときは必ずご両親の許可をもらってからにしてね。

お二人もよかったらまた遊びに来てください」


「ありがとうございます!」


「ワンワン」


黒豆達も嬉しそうに吠えた。


リス獣人の一家が遊びにきてくれた。

お母さんが良くなって本当によかった……。




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