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177.こんなに盛大にやるなんて聞いてない!

田舎暮らしを始めて159日目。




「っ…………」


「あ、ああ……」


「ッス……」


「これは……」


その場にいた大半の者がドン引きしている中……

若干名だけ違う反応の者がいた。


言わずもがな!

ガーラントさんとユートくんだ!


「実に興味深い!実に興味深いぃぃいい!!」


「夢のようです……

自分の目で見る事が出来るなんて……

こんなにも幸せな事なんですね!」


「………………」


2人の尻尾の高速回転具合が尋常じゃないです!!


アドレナリン出まくりですか?


あー、まあ、そう言われればそうかもしれません。

ある意味パラダイスかも?


こんなにたくさんの種類の動植物や魔獣(危険じゃない個体)が

集まる事など滅多にないよね。


でもやっぱり何か違うと思うよ、この光景は、うん。


凛桜達の目の前では、夏の某音楽フェスの会場さながら

あらゆる種類の森の動植物達であろう生き物が

飲めや歌えと言わんばかり踊り狂っていた。



話は数時間前に遡る。


今日も朝から気持ちのいいくらいの快晴だ。


凛桜はきなこ達をつれて日課である

シュナッピーの観察に訪れていた。


「あれ?」


既に先客がいるみたいだ。


「よ、嬢ちゃん、元気だったか」


そこには見たことのある人影もとい魔獣影があった。


「ボルガさん!?

なんでこんなところに!?」


そこにはフリーゲントープのボスであるボルガさんが

一升瓶を片手に抱いて朝から晩酌をしていた。


「いやぁ、なに、嬢ちゃんのところのこいつが

今日出て来るって聞いたから祝ってやろうと

駆けつけたまでよ」


そう言って、お猪口の中の酒をグイッと飲みほした。


何ですと?

えっ?何処情報?え?ええええっ?


今日出ちゃうの!?

シュナッピーィイイイイイイイ!!


「目出度ぇじゃねぇか!

こういう事は盛大に祝わねぇと

江戸っ子が廃るってもんよ」


そう言って大きなお腹をパンと叩いた。


「…………」


いや、あなたは江戸っ子ではありません!

ゴリゴリの異世界っ子でしょうが!!


「ほら、アレだ。

火事と喧嘩は江戸の華ってな」


「いや、どういう意味だよ!

全く違う事柄でしょ今回の事とは!」


凛桜はジト目でボルガを見下ろした。


「だから、金さんも言ってたじゃねぇか!

男は粋じゃなくちゃいけねぇってな。

つまり男は心意気が大事ってことだ!」


なんでドヤ顔なのよ、まったく。


「もう、言っている事がめちゃくちゃなんだから」


本気で時代劇が好きなモグラだな、おい。

遠山の金さんが本当にそんな事いっていたのか、ん!?


嘘をついたらそれこそあなたがお白洲で

遠山の金さんの裁きを受けることになりますよ!


それくらいツッコミどころが満載ですけれども……

それよりももっと聞き捨てならないことがあります!


「えっと、今日シュナッピーが羽化するって本当?」


「ん?なんだ、嬢ちゃん初耳か?」


そう言いながらボルガさんはまた更にお猪口にお酒をついだ。


「はい、全く知りませんでした」


「カッー、相変わらず坊主は天邪鬼だな。

今日、奴はでてくるぜ。

本人が言っているんだから間違いねぇ。

ったっくよぉ……

本当は1番に嬢ちゃんに祝って欲しい癖に」


するとその言葉に反論するかのように

濃い霧が激しく七色に点滅した。


「クククック、一丁前に抗議してらぁ」


そう言うとまた酒をグイッと飲みほした。


これは大変だ!

直ぐにクロノスさんに知らせないと!


と、凛桜が踵を返えして家に戻ろうとした時だった。


「ギュワ!!」


森の奥からタヌちゃん率いるタヌフィテス達がやってきた。


どうやらうちの畑で一仕事終えた後のようだ。

全員が麦わら帽子に手ぬぐいというスタイルだった。


今日もお勤めご苦労様です!

こんなにも長く真面目に奉仕してくれるとは思わなかったわ。


それ以上に驚いたのは……

今日は何故か全員がイチゴーヌの実を手に持っていた事だ。


もしかしてシュナッピーにお供えするつもりかしら?


「タヌちゃん!」


「ギュワ!キューン!キューン」


凛桜の姿を見つけるとすぐに胸に飛び込んで来た。


「今日はどうしたの?

また血晶石を貰いにきたの?」


凛桜が抱きしめながら優しく聞くと首を横にふりながら

キュワキュワ何か訴えていた。


うん、今日も清々しいくらいに一言一句わかりません。


凛桜が助けを求めるようにボルガを見ると

苦笑しながら通訳をかってでてくれた。


「森の主の新たな誕生を群れで祝いに来たらしいぜ」


「えっ?」


シュナッピーって、この森の主だったの!?


凛桜が驚きのあまり固まっているとボルガは更に話を続けた。


「お嬢にとっちゃ、なんてことのないやつかも知れねぇが

あいつは腐ってもキングとクィーンの息子だぜ。

少なくてもこの森の中じゃ最強クラスだ」


「本気ですか……」


「まあ、俺からしたらまだまだひよっこだがな」


そう言って悪い顔でニヤリと笑った。


あのシュナッピーがねぇ……。


私の中では、ただの甘ったれ小僧で食いしん坊!

かと思えば以外に寂しがり屋の子という認識しかないわ。


ぱくぱくフラワー種が植物のヒエラルキーでは

頂点に近い事は知っている。


そう考えたら今回の事ってシュナッピーにとって

成人式でもあり森の主になるかもしれません的な

お披露目の儀式という事か。


あのヤンチャなシュナッピーが大人の階段をのぼるのね。


少しジーンとした気持ちでいたら……

森の奥から次々と動物たちが集まって来た。


皆、シュナッピーを取り囲むように陣取りを始めている。


ちゃっかり者のタヌフィテスはいつのまにか

アリーナ席を確保している模様。


他の動物達も我先にいい席で見物したい!

と言わんばかりいそいそと場所取りを始めている。


でもそこはやはり弱肉強食の世界なのだろう。

1番いい席はボルガさんが陣取っている模様。


あとは大きめの肉食獣?肉食魔獣達が続き……

小さな小動物・植物達は、木の上や遠巻きにスタンバイしている。


木の上と言えば、これもまた最前列と言ってもいいのだろうか。

シュナッピーの真上の木の枝には……

グリュック達がびっしりとまっていた。


うん、相変わらずビジュアルは怖い。


しかしこんなにたくさんの数が来てくれれば

祝福的には大いにご利益があるだろう。


まあ、どうやらその前に友達っぽいもんな

シュナッピーとグリュック達って。


「…………」


しかしこの盛況ぶりはなんなの?


花見なのか?夏の花火大会の会場か!?

もしくは夏フェス?


出来るだけ早く行っていい席をとらねば!

感がぬぐえないんだけれども。


この勢いだと周りに出店などが出ちゃいそうな感じよ。


そんな中、微妙にど真ん中があいているのは何故?

何故に誰もあそこに座らないの?


そんな凛桜の疑問が顔に出ていたのだろう。


軽く酔っ払い始めているボルガさんが

ニヤニヤしながらこう言った。


「嬢ちゃんと騎士団長のあんちゃん達の場所に

決まっているだろうが」


えっ!?

そうなの!?


すると何故かそこにいた全ての動植物や魔獣達が

その言葉に同意するかのように一斉に頷いた。


「…………」


あー、なんか気をつかって頂きありがとうございます。

家族席なのですねぇ……。


息子が初舞台なので観に来ちゃいました的な?


だとしたら、普通もっと後ろの目立たない席だと

思うのですが……。


あんな齧り付きの席じゃなくても……。


すべての動植物・魔獣達の視線が凛桜に注がれた。


「………………」


いいから四の五の言わずにそこに座れ!

的な圧はご遠慮ください。


凛桜は顔を引きつらせながら軽く一礼すると

とりあえずダッシュで家に戻り……

一筆したためるとカードを空にぶん投げた。



そして1時間後……

その連絡を受けて急いでクロノスさん達がやってきた。



で、話は冒頭に戻る。


凛桜達が急いでシュナッピーの元へ向かうと

さらに動物・魔獣・植物達が増えていた。


しかも音楽などは流れていないはずなのに

何故かみんな謎の踊りを繰り広げていた。


怖っ!!

何か大物を召喚しようとしています?


よく観察するとシュナッピーの霧が不規則に

七色の光を出しながら点滅している。


それに合わせて飛んだり跳ねたり鳴いたり

している模様。


時には客席で起こるウェーブのようなものが発生している。


某歌姫のコンサートのように……


“アリーナ!!盛り上がっているか!!”


“うぉおおおおおおおおおお!!”


“2階席はどうだ!!”


“イェエエエエエエエエエエ!!”


そんな幻想が見えるよ、うん……。


きっと誰しもこんな光景が広がっているとは

思ってもみなかったのだろう。


口をあんぐりとあけてただただ固まっていた。


「なんか思っていたのと違うよね」


「そうだな……」


クロノスさんの顔の引きつりがとまらない。


「凄い盛り上がりかたッスね」


ノアムさんは参加する気満々のようだ。

相変わらずニャンコは適応能力が高い模様。


カロスさんは石のように固まっていた。


「っ……!!」


何故なら足元にはウサギのようなモフモフの魔獣が

飛び跳ねており1歩も動けない状況らしい。


そんな中ガーラントさんとユートくんは

来ている魔獣と動物たちの数と種類をカウントしていた。


もちろん目はバキバキだ。


しかもユートくんはここぞとばかりに物怖じせずに

積極的にボルガさんに話かけている。


見たことのない知らない魔獣の名前を尋ねている模様。


ユートくんは将来大物になるわね。


ガーラントさんはシュナッピーの霧の成分を

魔道具を用いて検査している……。


いつのまにか小さい機材ブースが出来ているし……。


見ようによっちゃ……

DJブースみたくなっていますから!


なまじイケメンだからガーラントさん……

DJやったら凄くモテそう。


って!違うから!!

しっかりしろ凛桜!


もう、なにこの空間。


なんでもありかよ!


「とりあえず立っているのもなんですし……

私達もあの輪の中に入ります?」


凛桜が困ったようにクロノスを見上げた。


「えっ?」


「一応私達の席も確保されているみたいなんです」


そう言って凛桜が齧り付きの場所を指さした。


「…………。

あのど真ん中に入れと?」


「らしいです……」


「まいったな……」


クロノスさんが本気で困っている!!


ですよね、祭りの中心部といっても過言じゃない場所です。

いやぁ、私も入る勇気ないわぁ……。


しばらくの間、凛桜達は立ちつくしていた。


が、やはりあの中にいますぐ入る勇気はなく……

周りの雰囲気にいたたまれなくなってしまい

ついにやけくそでこう告げた。


「まだ、時間あるよね?

羽化した後はお腹がすいているだろうから

私急いでシュナッピーの大好物“ドーナツ”作ってきます!」


ごめん!

一旦離脱させて。

冷静になれる時間をください、プリーズ!


するとそれにあわせるかのようにクロノスさんも同意した。


「1人だと準備が大変だろう、俺も行く」


それを聞いたカロスさんも“自分も!”と言いかけたが

ノアムさんが頗るいい笑顔で言葉を遮った。


「じゃあ、俺と副団長で席確保しておくッス。

それに何かあったらすぐ連絡するッスから!」


「えっ!!」


思わず大きな声をあげるカロスさん。


「お前……なんでそんな勝手な事を!」


あの温厚なカロスさんが若干キレていたかもしれない。


「いや、だって副団長……。

今の状況じゃ無理ッスよね……」


お前は何を言っているのだ!くらいの呆れ顔で

ノアムさんはカロスさんの全身を下から上までみた。


それもそのはず……

カロスさんの両肩には数匹の鳥たちが(グリュックも含む)

腕の中にはリスやキツネのようなモフモフが数匹おり

足元にはウサギや犬っぽい何かが纏わりついていた。


羨ましいくらい凄く懐かれている!


「キューン……」


その子達が甘えるようにカロスさんに頬ずりしていた。


確かにこの状態では家には来られないと思うよ。


因みに、ノアムさんの肩にもオコジョのようなものや

モモンガ的な可愛らしい小動物がのっている。

腕には小さな鹿を抱いていた。


2人とも動物まみれだな……。


すると後ろの方からボルガさんの揶揄うような声が聞こえた。


「熊のあんちゃんのところにいる個体は全てメスだぜ。

いやぁ、モテる男はつらいねぇ」


「はぁ……」


カロスさんは困ったように眉尻をさげた。


「さすが副団長っスね。

こう見えて副団長は昔から小さいレディにめちゃくちゃモテるッス」


それってどうなの?

いや、いいことだとは思うけれども。


ほら、凄い複雑な表情しているじゃない、カロスさん。


できれば年相応なレディにモテたいよねぇ……。


「因みに、猫のあんちゃんのところの個体はすべて

ヤロウだけどな、クククク」


「へっ!そうなの!

お前たちすべて男か……。

くぅ~俺もハーレムしたかったッス」


そう言って泣きまねしながら落ち込むふりをしたノアムさん。


でもあの笑顔をみちゃうと本心ではないことがわかる。

そう言いながら動物達をみる目が優しいから。


「では、ちゃちゃっと作って来るので

席の番人をよろしくお願いいたします」


「はい!」


ノアムはおどけながら敬礼した。




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