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175.束の間の休息

田舎暮らしを始めて156日目。




シュナッピーが毛糸のパンツに進化したまま

全く動かなくなりました。


しかも今朝起きたら何故かシュナッピーの周り一帯だけ

濃い霧がかかっている……。


全く先が見えません!

それどころか近づくこともできない有様。


恐らくこの後の進化の過程は見る事はできないだろう。


そんな様子を見たガーラントさんが信じられないくらい

シュナッピーの前で項垂れている。


かと思ったら次の瞬間……

この世の終わりかくらいの勢いで天を仰いで

咽び泣いているし!


世界の中心で何か叫んでいらっしゃる感じ?


それをユートくんが優しく慰めるという奇妙な図式が

出来上がっているのはどういう訳だい?


ベソベソ泣くのはやめい!

どちらが大人かわからないよ、まったく。


しかし急にシャットダウンしたなシュナッピーさん。


あそこからこの先どうやって進化するのか私もちょっと

興味があったわ。


何とか見る方法はないのかしら?


ハッ!もしかして続きはWEBで?

もしくは有料サイト的な?

課金か?課金が必要なのか?


「……ドーナツ何個分払えばいいのだろう」


いやいいや、そう言う事じゃない、うん。


冗談はさておき……

ここからが本当に進化の肝なのだろう。


本来ならば毛糸のパンツまでの進化だって

みる事ができない過程だった事を考えれば……

御の字だろう。


その点からしてもきっとユートくんの加点は

約束されたものだと思う。


何故ならばユートくんの協力がなければ今回の観察は

そもそもできなかったからね。


そこのところ宜しくね、ガーラントさん!


まあ、毛糸のパンツまでの進化が今後の研究に

どう役立つのだろう……

という素朴な疑問が残るが素人の私が口出す話ではない。


あの繊維から信じられないくらい素敵な商品が

うまれる日がくるかもしれないし。


よって、今朝早くガーラントさんとユートくんは

一旦家に帰ることになりました。


今後は私が定期的に様子をみて何か変化があったら

直ぐにそれをクロノスさん経由で伝える事で

話が合意されました。


確か“恋人カード”だったかしら?


秘密のやりとりが2人きりで出来るカード

であった記憶があります。


それをノアムさんから半ば強引に

カードの束をど~んと手渡されました。


こんな大量に頂いても困りますが……。

これを使い切るくらい報告する事が果たしてあるかな?


そんな私の微妙な空気をよんだノアムさん。


受け取りますよね?ね?ね?ねっ!

の圧が強いから……。


ちょっと色々な意味で重めのカードのくせに

美しい花の透かし模様がとてもすてき!

ノアムさん曰く、紙も上質なものらしい。


秘匿性に関しても最大の魔法がかかっているんだって!


逆に怖いんだけど……。


こんなに素敵なカードなのに

“シュナッピーの殻に亀裂が入っています”

的な事を書いてクロノスさんに送るの?


しかも日本語で?


何かが激しく違う気がする。

カードの本来の目的からかなりズレていますよね?


クロノスさんへの送り方すらわからないのだけれども……。


密かに森にポストが設置されているのか?


はたまた可愛らしいモフモフ獣人の郵便屋さんとかが

受け取りに来てくれたら嬉しいな!

などを期待していたのだが……。


文章を書いた後に相手の事を思い浮かべながら

空へ思いっきりぶん投げればいいらしい……。


名前の割に豪快な送り方じゃなぁい?


王国中の恋人たちは毎日空に向かって

カードをぶん投げているのかい!?


どちらかというと私ノーコンよ……。

明後日の方向へ飛ばないか心配。


「もし油断しちゃってレオナさんの事を思い浮かべたら

レオナさんに届いちゃうの?」


と、ノアムさんに聞いたら……

そんな事は万が一にもないらしい。


何故ならばカード自体にクロノスさんの魔法が

掛かっている為に何があってもクロノスさんの元に

届くとの事だった。


「…………」


「それならば投げる前に心に思い浮かべる必要性ある?」


「ようは気持ちの問題ッス。

相手の事をキュンキュンしながらなげるッス。

それが恋人カードの醍醐味ッス」


ノアムさんはそう言って頗るいい笑顔を浮かべながら

ドヤと言わんばかり親指を立てた。


ちょっと何を言っているのかわからない……。


もっと普通の通信方法はないでしょうか?

凄くやりにくい、恋人カード……。


スマホ的なものはないのかな?


ノアムさん曰く……

魔道具や魔法を使った便利な通信方法は

あると言えばあるらしいのだが。


そもそも論だが私が全く魔法が使えないので

魔道具を使用する事は難しいだろうという見解だった。


それを言われるとぐうの音も出ないわ。


ちくしょう!

異世界に転移しているのに魔法が使えないなんて

今更ながら悲しすぎる!!


チートで無双したかったわ。


その上にいかんせん家の敷地自体の地場が

めちゃくちゃ荒れているから魔道具の暴走も

起こりうるかもしれないんだって。


この土地は時空が歪んでいるのかしら?


不安定と言ったらいいのか……

とにかく不確定要素が大きいエリアなんだって。


おそらく異世界と元の世界の狭間的な位置づけなのだろう。


だから1番シンプルな通信手段の“恋人カード”が

ベストな方法だそうだ。


しかしながら何故にクロノスさん経由なの?

そんなまどろっこしい事をする必要があるのだろうか?


ガーラントさん直通でよくない?


と、思った&言ったのだが!

ノアムさん曰く、独身の貴族は恋人もしくは婚約者

以外の者と親密にやり取りすることはよくない事なんだって。


まあ、言いたいことはわかりますが

それを言ったら私とクロノスさんの関係だってそうじゃない?


とは言わせてもらえなかったよ。

ノアムさんの目がそれを許さなかったからね。


本気の猛獣にゃんこの瞳だったからね。

結構怖かったよ、うん。


そもそもそんな心配は必要ないでしょう。


相手はガーラントさんだよ。

確かに黙っていればヤバイくらいのイケメンなのは認める。


が、しかし業務連絡の一環と思えばよくないですか?


24時間植物の事を考えている方だし。


むしろ“恋人は植物です”と公言していると言っても

いいくらいの変態……。


ん、んんん!

りっぱな植物学者さんですよ、はい。


だからそういった間違いや恋心なんて生まれない気が

するんだけれどな。


と激しく思ったがいつになく真剣な顔でノアムさんに

再度諭されたので黙って頷きました。


そんなこんなで3人は朝食をしっかりと食べた後に

王都へと帰っていきました。



いきなり静かな日常が戻って来ちゃったよ。

何しようかしら。


急に手持ち無沙汰になってとまどうわ。


きなこ達は、早速縁側で寝そべる事にしたらしい。


「…………」


ひとまず久しぶりに畑の様子でも見に行こうかな~。

最近はまったくほったらかしだったからな。


農作業着に着替え大きな籠を担いで畑に

向かったのだが……

すべて収穫された後だったよ。


おそらく私の知らない間にタヌフィテス達が

収穫作業をしてくれていたらしい。


またこれが奇麗に収穫してくれているのよね。


新芽や花芽などを傷つけないことは当たり前の事で

小さい実などはそのまま実らせてくれて様子をみながら

収穫時期を決めているようだ。


時間に余裕があるときは水撒きとかもしてくれている。


本当に農協とかにお勤めじゃないですよね!?

農業スキルが異常に高すぎるのよ!


前から家の畑で収穫した農作物(主に野菜)が

食べる量をはるかに超えて実る為に駄目にして

しまう事が多くて悩んでいたのね。


その事をクロノスさんに相談したら

それならば王都に出荷したらどうだと進められて

畑の横に専用の魔法の収穫箱を作ってもらったのよ。


それを理解しているタヌフィテス達は

その箱の中に大きさ別に寸分たがわずきっちりと

奇麗に分別して野菜達を入れてくれているのが憎い。


タヌフィテス達全員がベテランさんの域なのよ。


これはもう少し報酬をあげてもいいのかな?


一応名目は無料奉仕なのだけれども……。

それじゃあまりにも酷だし……。


まだ群れの中には幼体がたくさんいたからね。


耐えきれずカロスさん達に陳情した結果

王国に出荷した後の残りの半分を私とタヌフィテス達が

食べる分として分けることで合意したのよ。


これならば十分な量があるし

群れが飢えることもなくなるから

もう悪さはしないだろうという背景もある。


果物はボルガさん達や森の動物たちが密かに食べに

来ているからあえて収穫は行わずそのままにしています。


そんな背景があるのだけれども

まだ奉仕活動期間中だったのか……。


と、いうかいつまでうちの畑で農作業するのかしら?


私的には助かるけれども……

無期限奉仕はちょっとな……。


そんな事を思いながら……

りんごを籠いっぱい採ってその日は終わった。



田舎暮らしを始めて157日目。




朝起きて1番にシュナッピーの様子を見に行ったが

特に変化はなかったわ。


しいて言えば……

シュナッピーの周りを取り囲むようにグリュック達が

集会を開いていた事かな。


相変わらずギチュギチュ鳴いていたわ……。


それに合わせてシュナッピーを取り囲む濃い霧が

モールス信号のように点滅していた。


もしかして会話をしていたりします?


「ギチュ!!」


が、しかし凛桜が現れたことで急に全て

何もなかったかのように辺りが静かになった。


あ、もしかしてお邪魔でした?


「…………」


これは変化なのか?

報告するべき事柄なのかしら?


凛桜がどうしようかと考えあぐねていたら

グリュック達が一斉にこっちをむいた。


ヒィ……。

やっぱり慣れないわ……。


鳥なのに顔が3つあるという事実が慣れないのよね……。


そんな鋭い視線で見上げられましても

どうしたらいいのでしょうか?


「えっと……お…はよう」


「…………」


朝の挨拶は大事。


何とも言えない張り詰めた空気が流れたが

直ぐにグリュック達は口々にギチュギチュいいながら

凛桜に向かって飛んできた。


ヒィイイイイイ。


慄く凛桜などに構わずに頭や肩などにガッツリ乗ってきた。

乗れなかった個体も周りを飛んでいる。


そして優しく頬や腕を突いてきた。


「ギチュ!チュ!チュ!」


あー、これは何かくれという合図だな。


とりあえず中庭に連れ帰って……

昨日の夕飯の残りの紫蘇入り鳥つくねをあげた。


「チュ!チュ!」


みんな美味しそうに舌鼓をうっている。


ある意味共食いなのか?

と思った事は内緒だ。


決して悪意はないのよ。

数がある食材がこれしかなかったのよ。


100個近くあった紫蘇入り鳥つくねを全て食べ尽くして

満足したのであろう。


グリュック達はそのまま中庭の奥へと飛んで帰った。


後で気がついたのだけれども紫蘇入り鳥つくねの

お礼なのだろうか?


うずらくらいの大きさの金の卵が3つほど縁側に

ポツンとおいてあった。


「…………!!」


まさかグリュックの卵とかじゃないよね!!

孵化したりしないよね。


とりあえずティーカップの中に綿を敷き詰めて

そっとその中に入れておくことにした。


クロノスさんがきたら聞いてみよう。


その後は、いつもの如く朝ご飯を簡単にすませて

掃除・洗濯を行った。


お昼前にもう1度シュナッピーの所へいったけれど

特に変化はなかった。


しいて言えば……

シュナッピーの周りを取り囲むように様々な野菜が供えられていた。


「何これ……」


凛桜が目を見開いて驚いているとタヌフィテスが1匹現れた。


手にはトウモロコシを持っている。


「タヌちゃん?」


「キュワ!?」


そのタヌフィテスは凛桜の顔を見ると嬉しそうに

胸に飛び込んで来た。


「キューン、キューン」


甘えた声を出しながら凛桜に頬ずりをしてくるではないか。


あいかわらずあざとい子だわ。

でも可愛い……。


凛桜も嬉しそうにぎゅっと抱きしめた。

言わずもがなタヌフィテス達のボスのタヌちゃんだった。


「ところでこれは何?」


感動の再会はさておきこの謎の行動について

凛桜はタヌちゃんに問いただした。


「キュワ!キュ!キューワ!!

キューキュー、キュワーン、キュキュ!」


うん……熱のこもった説明をどうもありがとう。


どうしよう1ミリも理解ができないのだけれども。


「キュワ!キュ!」


その後タヌちゃんはドヤ顔で最後のトウモロコシを

シュナッピーに捧げると丁寧に頭をさげた。


するとその捧げられた野菜達が一気に濃い霧の中へと

吸い込まれていくではないか!


えっ?

シュナッピーまさか食事を取っているの?


殻の状態なのに?


しかも野菜を生食で?

今まで1回も生で与えたことはないわよ!?


いや、ツッコミ所はそこじゃないな。


変化中にもかかわらずお腹がすくの?


凛桜の頭の中が?でいっぱいになっていたところに

まさかの光景が飛び込んできた。


その後に濃い霧の中から血晶石が2つほど飛び出してきた。


確かこれはぱくぱくパックンフラワーが

成長過程で、自分の中にあるいらない魔力の塊を

外に排出する時に作り出す石だったと思う。


凄く貴重な石なんだよね。


するとそれをタヌちゃんがスッと拾ったかと思ったら

パクっと飲み込んでしまった。


えぇええええええ!!


食して大丈夫なの!?


衝撃のあまり目を見開いて固まってしまった凛桜だった。


が、タヌちゃんは満足そうに尻尾をふると

そのまま“キュ!”と可愛らしい声で一言鳴くと

中庭の奥へと消えて言った。


一体なんだったの、今の時間は。


凛桜は何とも釈然としない気持ちのまま家へと戻った。





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