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170/219

170.動乱再び……

田舎暮らしを始めて153日目。




「………………」


「……」


私の目の前には……

不機嫌ですと言わんばかりの仏頂面のクロノスさんと……

かなり困った様子で苦笑しているルナルドさんが座っていた。


「お茶が冷めてしまうのでよかったらどうぞ」


そう言いながら緑茶と餡蜜を勧める凛桜だったが

内心は穏やかではなかった。


何故に混ぜたら危険の2人が家に伴ってやってきたのかしら?


ありえないよね?

仲良く……ではないけれど一緒に来たのよ!


しかもキングパパとクイーンも一緒に来ているし……。


そのキングパパ達はというと……

中庭でシュナッピーとなにやら真剣に話し合っている様子だ。


今後の脱皮?変身?の講義でも受けているのかしら?


「………………」


そして今現在も一向に事態が動く様子もなく。

ただ無言で餡蜜を皆で食べているこの状況。


一体この時間は何待ちなの?


凛桜は人知れずため息をついた。



昨日の夕方に時間は遡る。


その時クロノスはやっとの事で書類の山を片付けたので

一息つく為に思いっきり椅子に座ったまま

伸びをしようとしていた。


そんな様子をみたカロスが労う為に果実水を注ごうと

部屋の隅にあるデキャンタに手を掛けた時だった。


何やら鍛錬場の方から騒がしい声が聞こえてくるではないか。


「ん?」


「えらく今日の鍛錬は気合いが入っているな?」


クロノスがそう言うとカロスは不思議そうに首を傾げた。


「おかしいですね。

本日はこの時間帯に鍛錬の予定などはないはずなのですが……」


「そうなのか?」


「はい……」


そんな話の最中でさえそうとは思えない程何かが戦うような音や

声が鳴り響いているのだ。


これはいよいよおかしいと2人が思い始めた矢先……

部下の1人が騎士団長室に転がり込んできた。


「な!!」


「ノックも……せずに……申し訳ございません……」


そう言った狼獣人の青年は満身創痍になりながらも

必死で言葉を紡いだ。


「また……また……あいつが……」


「あいつ?」


「凛桜さんの所の……」


と、言いかけた瞬間クロノスは脱兎のごとく

部屋を飛び出していった。


「シュナッピーが……暴れて……」


そう言った狼獣人の青年はそこで気を失った。


「おい、しっかりしろ、おい!!」


カロスもクロノスの後を直ぐに追いたかったが

この青年をほっとく訳にも行かずため息をつきながら

介抱することにした。


またですか……。

何故穏便にやってこられないのでしょうね……。


カロスは窓の外を見ながら遠い目になった。



クロノスが鍛錬場に着いた時には……

死屍累々といっても過言じゃないくらい

床に部下たちが何人も転がっていた。


辛うじて隊長クラスの部下数人がシュナッピーと

睨みあっている所だった。


「何があった?」


「「「「団長!!」」」」


「ギューロ!!」


全員が一斉にクロノスの方を向いて叫ぶと

そのまま各自が現状を訴え始めた。


「いきなりシュナッピーがやって来ました!」


「ギャロ!ギャローギュ!!」


「有無も言わさず暴れたんですよ」


「ギャ!ギュロロロオ!」


「そこで俺達が全員で止めにかかると……こいつ」


「ギュ!!ギャロ!ギャロロロ!」


あー本気で煩せぇ!

このままじゃ埒があかねぇ!!


クロノスは苛立たしげに頭をかいた。


「わかったから一旦全員黙れ!!」


クロノスが放つ強烈な殺気と心の底から発せられる

冷たい声に一喝され全員が一瞬にして黙った。


「シュナッピー」


名前を呼ばれてビクッと全身の葉っぱを揺らした。


「今日は何故ここに来た。

こいつらと一戦やる為か?ああ?」


獰猛な顔でそう凄まれてシュナッピーは

気まずそうに目を逸らした。


「ギュロ……」


申し訳なさそうに一声発してから

ペコリとクロノスに頭を下げた後に蔦で風呂敷を取れと訴えた。


「謝る相手が違うだろうが……。

まあそれは後にするとして、これを取ればいいのだな」


クロノスが優しくシュナッピーの幹から風呂敷を

解いて中身を確認しようとしている所に

カロスとノアムが丁度やって来た。


「団長、何があったのですか?」


「ニシシシシ!!

またシュナッピーが暴れたッて本当ッスか?」


「ああ、見ての通りだ」


「あちゃ……また相変わらず派手にやったッスね」


そう言ってわざと親し気にシュナッピーの肩?幹を組んだ。


「ギュロゥ!」


今回ばかりはノアムに嫌味を言われても

バツが悪そうに目をしろくろさせているシュナッピーがいた。


「それはそうと団長、なんですかその包みは?」


「さあ?わからん」


クロノスが恐る恐る風呂敷を開くと中から大量の

くるみのフィナンシェが現れた。


「凛桜さんの手作りお菓子ですかね?」


「そのようだな」


何故にお菓子?

まさかそれを届ける為だけにこんな騒動に?


そこにいた全員がスンと真顔になった。


と、同時にテンションが上がった事も言うまでもない。


凛桜さんの手作りお菓子!!

俺達も頂けるのだろうか……。


ボロボロにやられながらも全員が密かに尻尾を振っていた。


と、そんな中やはりこの男がやらかした。


「やりぃ!めちゃめちゃ美味しそうじゃないっスか

1ついただき~」


ノアムがサッと1つ取って食べようとしたが

いち早くカロスに叩かれた。


「バカ猫、まずは状況を確認してからです!!

それに外から帰ってきたばかりで手を洗ってないでしょう。

お菓子は手を洗ってからです!」


「ええ!」


ノアムは不満そうに頬をふくらました。


怒られる所ってそこ?

カロス様はお母さん属性……。


部下全員が心の中で密かにツッコんだ。


「一体どういうことだ?」


この不可解な状況にクロノスも首をひねっていた。


どういうことだ凛桜さん!?


「ああ!!」


急に大きな声で叫んだかと思ったら……

また再びノアムがお菓子の中に手を突っ込んだ。


「ノアム!いい加減に」


カロスの額に青筋が浮かんで握り拳が握られたが


「違うッス!ほら、これッス!!

何か紙のようなものが挟まっているッス!!」


そう言いながらノアムは1枚の封筒を取り出した。


「え?」


「確かにこれは手紙ですね」


カロスが受け取り表題を見ると……


“クロノスさんへ”と書かれていた。


「どうやら凛桜さんから団長へのお手紙みたいですね」


「えっ?」


それをきいた途端周りから冷やかすような声が

一斉に上がったのは言うまでもない。


「こら、お前らやめろ!」


そう口では言いながらもクロノスも満更ではなさそうだった。


まさか本当に俺への恋文なのか!?


一瞬顔がニヤケたが、そのような事でわざわざシュナッピーを

ここまで来させるような人ではない。


クロノスは気持ちを落ち着かせて封筒の中身を取り出した。



そして数分後……。


読み終わるとクロノスは静かに息を吐いた。


その様子に今度は違うざわめきが辺りに広がった。


“まさか別れの手紙!?”


“みたかあの団長の渋い顔手……”


“いや、まさか凛桜さんがそんな事を手紙で……”


「あの……団長」


無言で部下たちを睨みつけながらもカロスは

クロノスにそっと声をかけた。


しかし何かを考え込んでいる様子だった。


「団長!」


「あ、ああ、すまん」


「いえ、それで……」


「お前ら、この菓子は凛桜さんからの差し入れだ。

今ここにいるもので食べていいぞ」


「え?」


まさかの発言に一瞬あたりが静まり返ったが

次の瞬間大いに沸いた。


「本気か!!」


「やった!!」


「お前たち1人1個ずつですよ。

レオン、責任もって全員に行き渡るように配りなさい」


「はっ!」


そう言ってカロスはライオン獣人の青年にフィナンシェを託した。


「お前らは直ぐに団長室に来い」


「「はい」」


勿論自分たちの分はちゃっかり確保していたノアム

やはり抜け目のない男である。



そして団長室に戻るとクロノスは2人に手紙をみせた。


「え?俺達が読んでもいいのですか?」


カロスは恐縮していたが、そんなことは気にもせずに

ノアムが横からひょいと紙を手に取ると声にだして

内容をよみだした。


「えっと、何々……。

クロノスさん、いきなりごめんなさい。

緊急事態が発生しました。

連絡の方法がわからなかったので

シュナッピーをおつかいに出します」


「…………」


そして最後まで読み終わると今度は3人が渋い顔になった。


「これは難問ですねぇ……」


「そうだな」


「とりあえず、俺は陛下にご報告してくる。

カロスはあの植物バカに連絡を取ってくれ」


「はい……」


「ノアムはキツネ野郎の所に……」


「ええ?俺がッスか……」


「いいから行ってこい」


「……ッス」


俺苦手なんッスよあの人……。

あの人()()()()()()()()()ッス……。


ノアムはげんなりした顔で団長室を後にした。



その頃シュナッピーは鍛錬場で佇んでいた。


「ギュロロロオ……(俺、家に帰ってもいいのか?)」


目の前では凛桜のお菓子を食べて狂喜乱舞している

クロノスの部下たち。


さっきの動乱が嘘だったかのようにどいつもこいつも

浮かれていた。


その結果……

シュナッピーの存在は忘れられているらしい。


「ギュロ……ロロ(もう1回暴れるか?)」


蔦をしならせようとした時に不意に後ろから声を掛けられた。


「あれ?まだいたんッスか?」


「ギュオ!」


「まだ何かあるッスか?」


ないと言わんばかりシュナッピーは葉っぱを揺らした。


「そうだ!

これからちょっと俺につきあってくれないッスか?

頼むッス」


ノアムはシュナッピーに向かって拝む様な仕草をしてきた。


「ギュアロ?」


最初はそんなノアムに対して訝しんでいたシュナッピーだったが

あまりにノアムが必死に頼みこむので最後は折れた。


「いや、助かったッス。

やっぱり持つべきものは友ッスね」


「ギュアロ!ギュ!(友達なんかじゃねぇし)」


「相変わらず素直じゃないッスね」


「ギュ……(ネコウザい)」



決して言葉として通じていない2人のはずなのに

何故か会話が成立してしまうという不思議な現象がおきていた。


しかしノアムが余りのフィナンシェがないか確かめる為に

立ち寄らなければシュナッピーは……

ずっとそこに佇んでいたに違いない。


結界オーライとはまさにこの事なのかもしれない。


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