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17.魔力がつまっています

家出中のコウモリさんがうちの果樹園でブドウを貪り食べていた……。


それをブドウと一緒に収穫してしまった私。

そして今……。



「もうそろそろ許してはくれまいか……」


魔王様は無表情ながらも精一杯コウモリさんに許しを乞うていた。


「…………」


コウモリさんは相変わらず拗ねたようにそっぽをむいている。


(このまま放っておいたら平行線のままだ……)


マーマレードジャムも無事に出来上がったようなので

凛桜は作業の手を止めて二人に言った。


「お茶にしませんか?」




二人と一匹は凛桜の作った出来立てほやほやのマーマレードジャムを

つけながらスコーンを食べていた。


「相変わらず旨いな……」


魔王様は興味深そうにスコーンを手に取りながら

クロテッドクリームとマーマレードをたっぷりとつけて口に運んだ。


コウモリさんはマーマレードを嬉しそうに舐めていた。


「ところでお二人の喧嘩の原因はなんですか?」


凛桜がふいに魔王様に聞くと……

軽くスコーンを喉に詰まらせそうになった。


「グッ…………ッ」


「大丈夫ですか?」


凛桜が慌てて水を差しだそうとしたが、やんわりと手で止められた。


魔王様は慌てず……

優雅に目の前の紅茶をコクリと一口飲んで事なきを得た。


それからため息を一つ軽くついてからきりだした。


「実はな……」



要は、魔王様は働きすぎです!

今日こそは休みを取って、また凛桜さんの所に美味しいものを

食べに行きましょうね!


と、コウモリさんと約束をしていたのらしいのだが……

忙しさの為に何度もその約束を反故にした。


うちでご飯を食べた後になぜか魔王様の魔力の調子が

すこぶる上がったらしいのだ。


故にどうしてもうちでご飯を食べてもらいたいという

コウモリさんの思いもつよかった。


それなのに繰り返される約束の延長につぐ延長……。


そして3日前、ついにコウモリさんがキレて家出。

で、今に至るとの事だった。


(まさかうちのご飯を食べさせたいが故のケンカ!?

魔王様ってそんなに忙しいポジションだったのか……)


凛桜は何と言っていいのかわからなかった。


コウモリさん曰く……

魔王様は放っておくと何日もご飯を食べないらしい。


別にそれでも生きては生けるのらしいが魔力の安定の為には

外から食べ物を摂取するのが一番との事だった。


この国の作物の全てには魔力が少なからず宿っており

それを食べることで体に取り込めるのだ。


その個体が強ければ強い程、魔力も豊富に蓄えているらしい。

しかも魔力が豊富なほど、味も美味しくなっていくのだとか。


(そう考えるとビッグサングリアはかなり魔力の豊富な

食材だったと言えるのか……)


初めて家に来た時に、魔王様に振舞ったビーフシチューの事を

思い出していた。


「魔王様のお身体を心配しての事だったのですね」


「わかっている……」


魔王様は申し訳なさそうな声を発していた。


「キュゥ……」


コウモリさんも同調するようにすまなそうな声をあげていた。


その間も黙々とスコーンを食べ続けていた魔王様。


「このジャムは旨いな……。

果物なのに魔力も豊富だ……珍しいな……」


(じいちゃんの秘密の果樹園で生った物だからかな?

もしかして特別な果実なのかもしれないな)


その後も魔王様は3回ほどスコーンをおかわりした。


「今は忙しい時期なのですか?」


「あぁ……毎年この季節がくると()()()()


「騒ぎ出す?」


「あぁ……この世界の魔獣達が荒ぶるのだ。

その中でたちの悪い者を殲滅する」


凛桜が新たに出したおやつ“ミカンゼリー”を食べながら

至極まじめな表情で魔王様は言った。


(この人今さらっと殲滅するって言ったよね)


凛桜がその言葉に慄いていると更に続けた。


「今でもこの地位を脅かそうとするやつらが

後を絶たないからな……ククク……。

そういうやつらと少し遊んでやっているだけだ……」


他者を圧倒するような黒いオーラを放ちながら……

ニヤリと悪い顔で楽しそうに口元を歪めた。


(怖い……この人やっぱり魔王様だ!!)


凛桜の顔は思いっきり引きつっていた。

軽く恐怖が支配していたといってもいいくらいだ。


絶対的な強さを前に、本能が怯えたのだ。


その様子を感じ取ったからだろうか

コウモリさんが何やら必死で鳴いて何か訴えている。


凛桜の手にとまりぎゅっと指を握りしめながら見上げている。

言葉が理解できない凛桜は、困ったように魔王様をみた。


その言葉をきいた魔王様は、目を大きく開けて何度か瞬きをしていた。


その後に困ったように……

でも少し嬉しそうに眉尻をさげてコウモリをみていた。


「コウモリさんは今なんと?」


「ふっ……。

あくまでもこやつの言葉だと思って聞いて欲しい」


「はい」


「この平和な時間が続いているのは……

魔王様がその者達を殲滅しているおかげなのです。

そのことをわかって欲しいと言っている」


「…………!!」


「もし魔王様が倒されたら、またこの世はその座を巡って

魔獣達の争いがおこるでしょう。

そうすれば、獣人をはじめたくさんの人達も巻き込まれる。

そんな事をさせない為に、魔王様が人知れず戦っているおかげで

今の世があることを凛桜さんだけでも知って欲しいと言っている」


まさかの言葉に凛桜は固まった。

そして一瞬でも魔王様を怖いと思った自分を恥じた。


「魔王様……」


凛桜はバツの悪そうな顔をしていた。


「そんな綺麗ごとではない。

我は面倒くさい事が嫌いなだけだ……

故に降りかかってきた火の粉を払っているまでの事……」


そういって魔王様は目を細めた。


「以外に大変なポジションなんですね。

もっと……“フハハハハハ!我は魔王だ!ひれ伏すがよい!”

くらい最強な地位だと思っていました」


「ふっ……先代がそんなやつだったらしい。

お陰で勇者なんぞ召喚されるはめになり倒されたがな」


そういって魔王様は微かに微笑んだ。


(ふぁ……めったに笑わない人が微笑むと威力があるな。

あまりに妖艶な微笑みにクラっときたわ。

ある意味心臓に悪い……)


凛桜は思わず自分の心臓をつかんだ。


「この地位に興味はなかったが……このお陰で

ブルームーンと出会い、そしてお前とも出会う事ができた」


更に柔らかく微笑んで凛桜をみた。


(ひぃぃぃやぁぁぁぁ……惚れてまうやろ。

流し目やめて……)


「それにお前がつくるご飯が旨い。

魔力も豊富な上に、力が漲ってくる……。

いっそ城に連れて帰って閉じ込めてしまいたい……」


(えっ!今かなり物騒な文言がおりこまれていましたが)


凛桜は一瞬にして現実に引き戻された。


物凄い顔をしていたのだろう……。

ついに魔王様は声を上げて笑った。


「ククククク……。

なんという顔をしているのだ……。

あくまでも例え話だ。

お前は自由であってこそ美しい……」


あからさまにほっとする凛桜をみて更に笑った。


「今日もまた世話になった。

これに懲りずまたこやつと共々寄ってもいいだろうか」


「はい、お待ちしております」


「そうだ、これをお前にやろう」


そう言って魔王様は耳につけている紫水晶のピアスを外して

凛桜の掌にのせた。


「我の魔力がつまっている。

もし何か強い魔獣がでたらこれをなげろ。

大抵のものは倒せるはずだ」


(えっ!そんな強力な武器だったのこれ?)


「あ……ありがとうございます」


凛桜はまじまじとそのピアスをみた。


「では、そろそろお暇しよう」


「あっ、これお土産です」


いつもの如くお土産セットを籠につめて渡した。


中身は今日作ったマーマレードのジャム。

そのジャムを使って煮込んだスペアリブ。

赤ワイン2本と各種チーズの詰め合わせだ。


そして果樹園でとれたブドウを2房入れておいた。


「ほう……旨そうだ。いつもすまない」


コウモリもペコっとお辞儀をした。


「ではまたな……」


そういうと風が一瞬強くふいた。

と、同時に姿が消えた。


こうしてコウモリさんプチ家出の事件は解決した。


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