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169.夏休みの……

田舎暮らしを始めて152日目の続き。




「美味しい!!」


「盛り付けもさることながら……

このくるみダレが絶品ですね」


「やっぱりくるみは最強ね」


ルルちゃんも嬉しそうに尻尾を揺らした。


「それにまさかこんな新鮮なシュリンピオンまで

食べられるとは思ってもみませんでした」


「この赤いやつもグランキオみたいな味がする!!」


ルルちゃん!グランキオを食べた事あるのかい?

まあ、かにかまはなんちゃってカニ味だから。


むしろ普通のカニより旨いんじゃないか?

とさえ、思う事もあるよ、うん。


「夢みたいな食べ物ですね!」


リス獣人兄妹のキラキラした瞳が凛桜に注がれた。


「ありがとう……」


そんなに手放しで褒められると照れるわ。


なんてことのない普通の“冷やし中華”なんだけど

えらくリス獣人兄妹の舌に響いたらしい。


まあ、2人の為にゴマダレではなくて

くるみダレにしたのが功を奏したのかも知れないが。


2人は夢中で食べていた。


冷やし中華は見た目も美しいもんね。


錦糸卵の黄色に、キュウリの緑でしょ。

それにハムの桃色に、かにかま&トマトの赤!

そしててっぺんには海老よ!


そもそもこの世界では麺料理は珍しいらしい。


きくと少しはあるみたいだが……

高級店にチラッとあるくらいなのだとか。


しかも素うどん的な感じ?

それって美味しいのかしら?


ならばラーメン店など出店したら

億万長者になれるんじゃないかなんて……

よろしくない考えが脳裏をよぎったりなんかもしたが。


「凛桜おねえさん!おっかわり!」


ルルちゃんの穢れなきニコニコ顔をみたら

そんな自分が少し恥ずかしくなったわ。


ユートくんはさすが商売人の息子だと思ったわ……

食べ終わった瞬間に凛桜に深々と頭を下げて

“くるみダレ”のレシピを教えてくださいと言ったわ。


お店に帰ったら見様見真似で作って両親に食べさせて

あげたいらしい!


まあ、言わずもがな……

美味しかったらそのままお店のランチメニューに

追加されるに違いない。


麺はどうするのだろう……。


流石に私も冷やし中華に使う麺は作れないわよ。


そんなこんなんでガッツリとお昼ご飯も取った事なので

デザートを食べながら再び本題に入ることにした。


因みに今日のデザートは“ゆずシャーベット”です。


これも2人とも大絶賛してくれた!


ちょっと大人味かな?と思ったけれども

いい香りがして甘酸っぱくてシャリシャリするところが

美味しいらしい。


シュナッピーでさえ美味しそうにゴリゴリ

いって食べていたの。


本当に何度も思うのだけれども……

シャーベットを食べているのに

ゴリゴリっていう擬音はなんなのさ!


何度聞いても慣れないわ……。


「ところでさっきの話の続きなのだけれども

もう1回最初から説明してくれる?」


凛桜がそう言うとルルちゃん達は一瞬2人で

顔を見合わせてからどうしようかと

考えあぐねている様子だった。


が、意を決したのか……

ユートくんが語りだした。


「実は僕今度……

プリミネラへ進学したいと思っているんです」


プリミネラって何だろう?

よくわからないが学校よね……。


学年があがるのかしら?

小学校から中学校へあがるみたいな?


話の腰を折ったらいけないのでひとまず

最後まで聞こうと思った。


「その為には試験があります。

自分が行きたい分野の事を調べて研究発表をするのです」


ふわ……

筆記テストとかじゃなくて研究発表なんだ。

まるで大学の特別入試みたいだな。


「僕は将来……魔獣や幻獣など希少生物を研究する

機関に勤めたいと思っています。

そこはとても狭き門なんです」


あー確かにユートくんはやたらそっち方面に

詳しかったな……怖いくらいに……。


過去の出来事が凛桜の頭の中を駆け巡った。


「本来プリミネラには貴族しか通えないのですが

毎年ほんの数名ですが庶民枠もあるのです。

しかも成績優秀者は学費も免除になります」


なるほど、その狭き門に挑戦したいと!

いいじゃないか少年!!


「それにお店はルルが継いでくれるそうで」


「うん、そうだよ。

将来は働き者の凛々しい旦那さんとお店をもっと

大きくするのが夢なんだ。

ノアム様みたいな素敵な人だといいな……きゃ」


ルルちゃんはハミカミながらそう答えてくれた。


相変わらずルルちゃんはしっかりものだな。


「両親も納得してくれたのであとはその試験の為の

課題研究文章を提出するだけなのですが……」


そう言ってユートくんはチラッとシュナッピーの事をみた。


「うん、それで?」


凛桜が更に話を進めるように相づちをうつと

ユートくんは一瞬緊張した面持ちで深く息を吸った。


「そこでなんですが……

高位種のぱくぱくパックンフラワーというか

シュナッピーを研究課題にしようと考えました」


「へ?」


「試験は本当にかなり狭き門なんです。

だからありきたりな植物や幻獣の研究発表じゃ

とても受かりません。

しかも僕は庶民ですから……」


ユートくんは悲痛な面持ちでそう告げた。


「そんな悩んでいる時に……

偶然森でシュナッピーに会いました。

そこで閃いたのです!

研究対象はぱくぱくパックンフラワーしかないと!

僕とシュナッピーの仲だからこそ研究したいというか!」


急にユートくんが覚醒した。

もう選挙応援演説みたいになっているよぉ!


ぱくぱくパックンフラワーに清き1票を!!

なんて幻聴まで聞こえてきそうだ……。


「あ、もちろんシュナッピー自身にも許可を得ています。

それに2~3日中に最終形態への変身期間が始まるみたいで

それなら是非観察して研究したいけれどもいいかな?

いいよ!という話になって」


なんだってぇぇええええええ!!


聞いていませんけど!!


あんた!!

なんでそんな大事な事を家族である私より先に

他の人に話しちゃうのさ!!


それに許可しちゃうかな……。

そんな軽いノリでOKする話じゃないでしょうが!


変なところで男気みせないでよ全く!

もうちょっと自分の存在価値を大事にしてほしいわ!


凛桜はおもいっきりシュナッピーを睨んだ。


その視線の鋭さにシュナッピーは

気まずそうに目を逸らしたが……

なにやら小声でギュロギュロ言っていた。


“だって言ったって伝わらないだろ”


と言わんばかりの拗ねた目をするんじゃありません。


まあ、確かに言われても伝わらないけれども

衝撃が大きいって!!


えっ?本当にいいの?

そんな事見せちゃって?


って、どういう状態になるのかも知らんけど。


そんな2人の険悪ムードを察したのか

慌てて取り繕うようにユートくんが話だした。


「シュナッピーは凛桜さんがいいと言ったら

協力すると言っていました。

決定権は凛桜さんにあると……

僕も無理強いするつもりはありません……」


そういうとユートくんを始め

ルルちゃん、シュナッピー、きなこ達まで

縋るような目で凛桜を見つめて来た。


いやーこの視線は辛い。


そんなうるうる瞳で見つめるのやめてよぉ。


“うん、いいよ”と言ってあげたいが……

これはもはや私が許可うんぬんの問題じゃないんじゃないか。


普段があれだから本当に忘れちゃうけれども

シュナッピーはああ見えて貴重種中の貴重種だからね。


何と言ってもキングとクイーンの息子!

そうよ“プリンス”だもの。


しかも原種よ!


その最終形態の観察日記を許して下さいって

あまつさえそれを大勢の前で発表するなんて……。


夏休みの自由研究じゃないんだから!


朝顔の観察日記とは訳がちがうのよ。


いや、言い方が失礼だったな。


朝顔の観察日記も大事よ。


まあ本音を言えば地味だったし……

毎日の水やりもだるかった。

同じ絵と文章が続いた日もあった。


こんな代わり映えもしない観察日記を

クラス全員の分を本当に先生は見るのだろうか?


なんて可愛くない事を思ったりなんかもした、うん。


が、しかし朝顔が咲いた時はちょっと嬉しかったわ。

幼心にも植物の神秘に触れた気がしたし……。


研究の大小で価値を図ってはいけないけれども

これは話が別だわ。


そもそも国の最高機関はどこまで

ぱくぱくパックンフラワーの研究が進んでいるのかしら?


いきなり確信に迫る様な発表をユートくんが行ったら

大惨事にならない?


あー、もうどうしよう。


凛桜がかなりの時間黙っているので

ユートくんがにわかに心配そうな顔で見上げてきた。


「……………」


そうして凛桜はようやく口を開いた。


「ユートくんの気持ちはわかった。

私もできるだけ協力したいとは思っている」


そういうとホッとしたのか胸をなでおろしていた。


「でもね……。

これはとても大事な決断だと思うの。

だから直ぐに返事はできないわ」


凛桜がそういうと再び不安そうに獣耳と尻尾が

ぺしょりと下がった。


「何故駄目なのですか?」


少し責めるような顔で凛桜を再び見上げた。


「私も現状はよくわからないけれども……

きっと国の偉い学者さんたちとかが何年も

ぱくぱくパックンフラワーを研究していると思うの。

そういう人達を飛び越えていきなりユートくんが

試験の為だけに研究発表を行うとどうなるかな?」


凛桜が優しくそう問うとユートくんは

一瞬考え込んだが直ぐにハッとした顔になり……

その後凛桜が言わんとしている事を悟ったのか

消え入る声で答えた。


「子供の僕がもし何か新事実を大発見してしまい

それを前触れもなく試験でいきなり発表をしてしまったら

学者さん達がひいては国の研究機関が混乱してしまいます」


「そうだね……

それに新事実がぱくぱくパックンフラワーにとって大事な事で

それが公開されたが為にその情報を使って悪い人達が

ぱくぱくパックンフラワー達を危険にさらす事だって

ありうるかもしれない」


「………………!!」


ユートくんはその言葉に衝撃を受けていた。


少し言いすぎちゃったかなと思ったけれども

大事な事だからな。


本当は誰が発見して発表をしてもいいのだと思う。

ある意味早い者がちな所もあるというか……

本来研究ってそういうものでしょ?


でも大人の世界ってそう単純にはいかないじゃない。


ましてはニッチな研究分野だとしても!

ぱくぱくパックンフラワーはある意味金のなる木だ。


その情報が吉と出るか凶とでるかはまさにギャンブルだ。


そう考えるとやはりユートくんの将来を考えて

学者や国の研究機関を敵に回すのはよくないと思うのよ。


むしろ悪人やよろしくない大人から守ってもらう為に

然るべき後ろ盾があったほうがいい。


「それくらいぱくぱくパックンフラワーは

謎が多い神秘的な植物だと私は聞いているよ。

だからこそ情報の取り扱いには注意が必要なんじゃないかな?

ましてはユートくんとシュナッピーは友達でしょ?」


「その……通りです……」


「だからここは一旦クロノスさんに聞いてみるから

少しだけ時間をくれないかな?」


そう言うとユートくんは何か言いたげに口を開いたが

直ぐに噤んだ後にこくりと頷いた。


少し落ち込んではいたが……

ユートくん達はその後シュナッピー達と少し遊んでから

凛桜の作ったくるみ入りフィナンシェをお土産に貰って

そのまま家へと帰って行った。


「さて、シュナッピーさんや。

少しお使いにいってきてくれない?」


「ギュロ?」


凛桜はクルミ入りフィナンシェが詰まった袋に

手紙を入れて風呂敷に包むと……

そのままシュナッピーの幹に結び付けた。


「クロノスさんの元までひとっ走り行ってくれる?」


「ギュルーロ……」


マジかと言わんばかり戸惑っていたが

凛桜の真剣な眼差しを受けてそのままこくりと頷いた。


そして中庭の奥へと消えて行った。


手紙……日本語で書いちゃったけれど読めるかしら?

そんな事を思いながら見送った。



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