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167/219

167.気になる事だらけなのですが……

田舎暮らしを始めて151日目の続き。




団員達に私の作り置きおかずをお土産に持たせた上

ひとまず先に王都に帰ってもらったらしい。


何故なら陛下へのクロノスさん発見報告はもちろんの事

各部署への連絡などやることは多岐にわたるからだ。


早く連絡しないといよいよ大掛かりな捜索作戦が

鷹のおじさま指揮の元で決行されてしまう!


すでに飛竜部隊と隠密部隊は陛下の許可待ちの段階で

スタンバっているとの事だった。


あぶない……

ぎりぎり異世界に帰ってこられてよかった。


大捜索網が広げられちゃうところだった……。



改めて4人+2匹になったところで

無事に再会できたことを再び喜んだ。


「本当に心配したっス」


相変わらず泣きながらノアムさんはひとしきり

クロノスさんに会えた喜びを噛み締めていた……。


が、そんな中やはりこの男だけは冷静だった。


「それで団長……

一体今まで何処に行っていらしたのですか?

こんなにも大勢に心配をかけるなんてあなたらしくありません」


「あ……そのな」


「うん…………」


その言葉にクロノスと凛桜は少しきまり悪そうに

目を逸らしていたが……

いつまでも隠し通せるわけもなく……。


カロスさんの無言の圧力にも耐えがたく……

ついにクロノスさんは折れた。


「凛桜さんの世界に転移していた」


「は?」


そんな言葉を返されるとは思ってもみなかったのだろう。


ノアムさんとカロスさんはぽかんと目を見開いたまま

しばらく無言だった。


「………………」


「はい?」


どうやらまだうまく呑み込めていない様子だった。


「だから凛桜さんの世界に……」


すると急にノアムさんが下を向いて震え出したかと思ったら

次の瞬間突如大声で叫んだ。


「すっげぇぇええええ!! 本気ッスか!!

団長……凛桜さんの世界に行ってたんスか!!」


今度はうって変わってぱっと表情を輝かせながら

尻尾をぶんぶんと左右に振りながらその場で

何度も飛び上がっていた。


「なるほど……異世界転移していたという訳ですか。

だからいくら気配を探っても見つけられなかったのですね」


カロスもクロノスの失踪原因に納得がいったのか

ようやくホッと一息をつけた様子だった。


あまりにも忽然と姿を消したので

全てに嫌気をさして……

まさか命を?とまで心配したのも事実だ。


「本当にすまん……

俺にとっても急な出来事だったからな。

どうすることもできなかったというのが正直なところだ

心配をかけたな……」


クロノスさんはそう言って2人に向かって

心底真面目な顔で頭を下げた。


「困ります……団長……頭を上げてください」


カロスさんは慌てて取り成すがノアムさんは

やはりいつも通りというか……。


「そうッスよ、みずくさいっスよ団長。

無事に帰って来てくれさえすれば問題ないッス」


「お前は……全く」


そんな能天気なノアムはどうしても先ほどの発言が

きになるのだろう。


更にクロノスに詰め寄って質問攻めにした。


「羨ましいッス!!

異世界ってどんな所ッスか?

ヤバイ魔獣と遭遇しました?

とんでもなくうまい食い物とかあったっスか?

くううううううう……

俺も凛桜さんの世界行きたかったッス!!」


目をらんらんと輝かせてノアムはクロノスの周りを

嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねているではないか。


うん……やっぱりノアムさんは正真正銘のニャンコだ。

行動が可愛すぎる……。


が、やはりどこまで言っても

相変わらずカロスさんは冷静なクマさんだった。


「ノアム、落ち着け!

団長は遊びに行った訳じゃないんだぞ!

そもそも異世界転移とはとても危険な行為で……」


カロスさんの眉間に青筋が浮かび始め

長い説教が始まりそうだったので……

凛桜は徐に話をぶった切った。


「まあまあ無事に帰ってきたことだし……

旅先で美味しいあんこのお菓子を

買ってきたから食べよう」


凛桜がそう言いながらお饅頭とお茶をカロス達に振舞った。


少々不満そうなカロスさんだったが……

無言で軽く頭を下げながら凛桜から黒糖饅頭を受け取ると

パクっとそれを一口で食べた。


「…………!!」


美味しかったのだろう。


絶対零度から一気に常夏へと浮上したらしい。

カロスさんの獣耳が嬉しそうにピルピルと高速で動いていた。


あんこ効果恐るべし……。

怒りを抑える効果もあるらしい。


黒糖饅頭を頬張りながらノアムさんが言った。


「団長、凛桜さんの世界の話が聞きたいッス!!」


「とても長閑でいいところだったぞ。

村の方々がとても親切で優しくてな。

珍しい食べ物もいっぱいあってな!

どれも美味しかったぞ」


「うわあ……俺も食いたかったッス」


「お前ならそう言うと思ってな……。

()()から紹介して貰った雑貨店で

お前たちの土産を買ってきたぞ」


「「えっ?」」


またもやノアム達が目を見開いて固まった。


土産だと?


2人は目を剥いていた。


「確か……う〇い棒という名の菓子だ。

安かったのでたくさん買ってきたぞ!

味はコンポタと言っていたな」


「兄貴?」


「う〇い棒……コンポタ……」


ノアムとカロスはどこからツッコんでいいかわからず

2人で目をあわせながら苦笑した。


その後そっと目くばせをして凛桜に助けを求めた。


「そうなるよね……フフフ。

実はね……」


凛桜は異世界でクロノスの身に起こった出来事を

兄が撮ったであろう写真をみせながら

掻い摘んで話し始めた。


勿論、兄貴との出会いはクロノスが意気揚々と語ってくれた。


「えっ?団長、凛桜さんのご家族と会われたのですか?」


次々と飛び出す衝撃の事実にカロスの目が点になっていたが

クロノスの饒舌は止まらない……。


「ああ、とても素敵なご家族だったぞ。

とても楽しい晩餐会を俺の為に開いてくれてな!」


鍋パーティー = 晩餐会なのか!?


「母上の料理は美味しかったし……

父上とはさしでかなり遅くまで飲んでしまったくらいだ。

それに兄貴には本当にお世話になったからな。

また会う事を約束してわかれた程だ」


その時の情景を思い出しているのだろう

本当に嬉しそうに微笑んでいた。


が、部下2人は複雑そうな表情を浮かべていた。


「「…………」」


異世界転移だけでも精神的にアレなのに……

本人抜きで好きな女性のご家族とご対面なんて

厳しすぎないか?


まさかいきなりすっとばして“番宣言”とか

してないですよね、団長。


確か凛桜さんの世界って獣人はいないはずだよな……。

騒ぎにならなかったのか?


団長の距離のつめ方もさることながら……

凛桜さんの住んでいる村の人達やご家族のゆるさが

かえって恐怖なんですけど……。


“俺だったら多分出来ないわ……”


ノアムとカロスはひっそりとそう思ったとか……。



「そう言えば団長の来ているその服!

かなりカッコいいッスね。

履物もなんッスかそれ!」


「これか、これは凛桜さんの国の民族衣装だ。

“着流し”と“草履”というそうだ。

菊次郎殿という湯殿のご主人に頂いてな。

とても涼しいし着心地がよくて俺も気に入っている」


ちょっとドヤ顔でクロノスさんはそう説明していた。


確かに着物の一種だから民族衣装と言えば

そうなのかもしれないけれど。


着流しって……

男性の着物の着こなしの1つで羽織や袴を着用しないで

着物に帯を締めただけのラフな着こなしの事なのよね。


詳しくはわからないけれども……

正式な着物の着かたは着物の上に羽織を羽織ったり

袴を履いたりするらしい。


「確かにとても素敵な服ですね。

特にその腰に巻いている巻物の文様が

見たことのない柄で素敵です」


カロスさんは帯に興味深々のようだ。


「俺も着てみたいっス。

団長他に予備はないッスか?」


「あ……すまん。

これはお前たちの分はないんだ」


「そうッスか……」


あからさまにシュンとするノアムさん。


「もう1着あると言えばあるのだが……

お前と俺じゃ体格が違い過ぎるからな。

大きすぎて着られないと思うぞ。

まあカロスなら着こなせるかもしれんが……」


「えっ?」


そんなクロノスの発言に一瞬嬉しそうに

獣耳と尻尾かピルピルと高速で動いたカロスさん。


確かにノアムさんは細身だからな。


きっと程よく筋肉とはついているとは思うけれども

クロノスさん達に比べれば細いよね。


それに身長だってけっして低くないのよ。

でもクロノスさん達に比べたらやはり10㎝位は低いと思う。


そうすると着物の丈が合わないだろうな……。


「ずるいっス!!

俺も着たいっス」


今度は駄々っ子モードになるにゃんこノアムさん。


「そう言われてもだな……」


「副団長ばかりずるいッス……」


よほど着たかったのだろう……

部屋の隅でいじけながらきなこに何か愚痴っていた。


「ワフ……」


きなこも困っているじゃないの。


そんな可哀そ可愛いノアムさんの姿をみて

傍と気がついた。


あっ!

そう言えばじいちゃんの着物があったかも。


「ノアムさん、少し待っていて」


そう言って凛桜は蔵の方へと歩き出した。



数十分後……。


蔵からじいちゃんの着物を引っ張り出してきて

なんとかノアムさんとカロスさんに着物を着せることができた。


尻尾問題や着丈問題があるけれども

それはこちらの世界の裁縫職人の方に頑張ってもらう事にした。


「本当に頂いていいのですか?」


「いいわよ。

蔵にねむらせておくのも勿体ないし。

それならカロスさん達に着てもらう方が着物も喜ぶと思う」


「やりぃぃ!!

凛桜さん、ありがとう」


カロスさんはかなり恐縮していたが……

ノアムさんはすっかりご機嫌になり

これは俺のもんッス!返さないッス!と言わんばかり

嬉しそうに何度も自分の姿を鏡に映してご満悦の様子だった。


クロノスさんも新たな帯を2本程持って帰るみたいだ。


男性の着物姿っていいよね。

三者三様似合っていて凄く目の保養になったわ。


惜しいかな……

こちらの世界では携帯が全く機能しないのよね。


カロスさん達の着物姿の写真も永久保存用ファイルに

入れたかったわ。


挙句の果てにはノアムさんが……

王都まで着物を着て帰りたいと言い出し

クロノスさん達に強烈なダメ出しを食らっていた。


確かに騒ぎになりそうだから、やめて……。


ノアムさんは泣く泣く着物を諦めて

いつもの如く騎士団の服で帰っていったわ。



後日……

鷹のおじさまと近衛騎士団が家にやってきた。


また例の如く……

未知の食べ物が積まれた荷馬車が1台。


RPGのダンジョンでしか見かけませんよ?

的な宝箱を1箱持参。


中身は怖くてまだ空けてない。


おそらく箱の中身は……

ミ〇ックのような魔物ではないのは確かだ。


とにかくとんでもなく高価な物が入っているに

決まっている!!


きっとこれらは……

クロノスさんが私の世界から持ち帰った陛下へのお土産

ポ〇モンのウエハースチョコ1箱のお礼の品かな?


等値交換という言葉を知っていますか?

1度話し合う必要がありますよねぇ……。


と思って話を聞いていたら……

勿論お礼もあるのだが、それプラスお願いがあるらしい。


お願いだと……ごくり。

嫌な予感しかしないよ……。


まさか……

ポ〇モンのウエハースチョコのおまけシールが

コンプリート出来なかったからまた買ってきて欲しい?

とか?とか?


なんてドキドキしていたら……

まさかの“我も着流しが欲しい”発言が飛び出してきた。


どうやらあの3バ……

いや3人が盛大に陛下の前で着物を自慢したらしく。


陛下の心に火をつけてしまったのだとか……。


何してくれてんだ、オイ。


陛下は奥ゆかしい方なので……

口に出しては欲しい!とは言わないそうなのだが。


明らかにその日からため息の数が増え!


普段は全く興味を示さない商人を宮殿に呼んで

あらゆる地方の布を見せて貰ったのだとか。


はい、これはもう決定ですね。

陛下は反物を探しております!!


この世界にはないのかな?


おそらく、クロノスさんが着ていた着物って

西陣織の正絹製だったと思う。


絹ってこの世界にないのかな?


どちらにせよ、あとであの3人には厳しく指導だな。

家を出禁にするぞ、おい。


そう簡単に自分の世界に戻れないからね、私。

調達できないよ、着物!!


陛下は更にノアムさんより小さいし……

着物がある程度自由がきくといってもなぁ……。


もう少し箪笥とかを漁れば……

兄貴の小さい頃の着物とか見つかるかな?


いっそうの事、反物とかが出てくれるとありがたいのだけど。


そう思いながらひとまず時間を下さいといって

鷹獣人のおじさま達にはお引き取りを願った。


その後直ぐに異世界さんが空気をよんだのか

1日だけ自分の世界に帰る事が出来たのよね。


だから速攻で某着物の老舗に反物と帯と草履を

買いに走ったわよ。


かなり高額出費だったよ!!


とりあえず直ぐに着られる甚平も1セット買いました。


おまけにポ〇モン柄の巾着も買ったのだけれども

これが思いのほか陛下の心を掴んだらしい。


何処に行く時でも愛用しているのだとか。


大事な会議とかにもっていくのだけはやめて欲しいと

密かに思った事は内緒だ。







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