165.馴染みすぎじゃない?
田舎暮らしを始めて150日目の続きの続きの続き。
「フンフフ~ン」
いやぁ……今日の式は素敵だったな。
恵のウエディング姿がとっても綺麗だったし!
旦那様も優しそうな方で本当に幸せそうだった。
料理のメニュー表がめちゃくちゃお洒落!
肉球のシーリングスタンプが押してあったの。
きっと2人ともがイッヌが好きで……
その縁で知り合いになったのがきっかけで
結婚まで至ったからかな。
その思い出と絡ませたくて作ったのかな?
とっても可愛かったわ。
それに何と言ってもお料理が美味しかったのよ。
フランス料理のコースでした。
どの料理も美味しかったんだけれども……
お口直しのグラニテが絶品だった。
勿論メインの宮崎牛も美味しかったよ、うん。
でもあのみずみずしくて……
甘みが少なく氷に近いシャリシャリ感が美味しすぎた。
可能ならばおかわりしたかったよ。
いや、もちろんグッと堪えたよ。
大人ですから!
今回はシャンパンと白桃のグラニテだったんじゃないかな。
家に帰ったらさっそく作ってみたいな。
それから2次会も楽しかった!
ビンゴ大会では特産品の詰め合わせを当てたのだ!
今日は本当にツイてる私!
そんな事を思いながら千鳥足でホテルまで
帰って来た数分前の私を叱りたい。
「なにこれ……こわっ!」
シャワーを浴びてベッドに寝っ転がって
携帯の画面を見たときに息が止まった。
尋常じゃない程の鬼電とL〇NEの嵐……。
一体何事?
何か家族にあった?
はたまた悪戯?
おそるおそる画面を開くとすべて兄からだった。
「えっ?何?意味がわからないんだけど」
着信履歴が兄で埋まっていた……。
すべて兄からでした、はい。
それはそれで狂気の沙汰なんだけど……。
兄じゃなかったら通報レベルですよ!
いや、兄でもアウトかな。
おかしい……。
お昼間と夕方に見たときは何もなかった。
でも不思議な事に時間をみると午前中から
つい小1時間くらい前までの間にかけてきているようだった。
このタイムラグは何?
L〇NEもしかり……。
“頼む連絡くれ”の嵐!
ここまで来ると恐怖しか感じないよ、兄……。
とりあえず最後まで見ようとL〇NEの画面を
スクロールしながら紅茶を飲んでいたのだが
ある写真をみて思わず吹いた。
「…………ブハッ!!」
マジかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
そりゃあこれだけの鬼電になるわ。
兄の必死さを要約受け入れることが出来た。
えっ!ええええええええええっ!!
これはあの方ですよね?
このモフモフの獣耳と尻尾のイケメン……。
なんでクロノスさんがいるの!?
“騎士団長こっちに来ているぞ。
気がついたら中庭に佇んでいたから
俺が保護しておいたから“
という文言と共に何故か腰にタオルを巻いて
コーヒー牛乳を飲んでいる写真が送られてきていた。
文言と写真の内容が全く一致しませんよ、兄!
「しかし……なにこのご褒美……
いやいやいや危険な写真は!!」
ノアムさんが言っていたようにけしからん身体!!
畜生かっこいいわ……。
まるでギリシャ彫刻の様だ。
場所は菊次郎さんの銭湯かしら……。
何故に村の銭湯にクロノスさん出没?
えっ?家から村に出られたの?
と言うよりもそもそもどうしてこっちの世界に?
疑問やツッコミ処はたくさんあったがとりあえず
凛桜はそっとその写真を永久保存用ホルダーに入れた。
兄よ、グッジョブ!!
そして更に画面をスクロールすると……。
“菊次郎じいちゃんに気に入られた模様”
という文言と共に着流し姿のクロノスさんの写真が
送られてきていた。
「何故に着流し……。
でも悔しいかな無駄に男前……似合いすぎる」
ちょっとドヤ顔だし。
本人も気に入っているのか?この格好。
かなりノリノリで撮られているよね。
このままSSRカードにしてもいいくらいのイケメン。
いや、もうこれはSSRカードと言っても
過言じゃないでしょう。
凛桜はまたもやそっと永久保存用ホルダーに写真を収納した。
その後も村のばあちゃん達とお茶している様子や
駄菓子屋さんで目をキラキラさせて買い物している
写真などが送られてきていた。
馴染みすぎでしょう……。
“う〇い某のコンポタ味がお気に召したようだ。
ノアムとカロスに買って帰りたいと言われ……
金貨的な物を渡される。
これって本物の金だよな……“
兄の困惑した様子が伝えられてきたが
その後すぐに籠いっぱいのう〇い某を抱きかかえて
嬉しそうなクロノスさんの写真が!
“陛下にも捧げるって言って
ポ〇モンのウエハースチョコ1箱をせがまれたが
買ってもいいのか?これ……
陛下ってなんだ?“
あー、うん……
陛下はかなりのピ〇チュウ好きだからな。
こんなお宝のお菓子を陛下が貰ったら
今度あった時にまた質問攻めになるだろうな。
だってウエハースチョコのおまけって確か
キャラのシールがついているでしょ?
見たことのない子達のオンパレードよね……。
どうしよう、またお気に入りのキャラが増えて
陛下がリアルポ〇モンの人形を
一流の人形師の方に製作依頼したら……。
ありえそうで怖い。
「…………」
やっぱり阻止しようかな……。
エライことになりそうで心臓が持たないわ。
でも、こうなったらもう止められないよね。
後から兄から聞いた話によると……
駄菓子屋のおっちゃんの好意で金貨1枚と交換で
目当てのお菓子はすべて買えたみたいです。
異世界に駄菓子ブームが来ませんように!!
祈るばかりです。
そう思いながら画面をスクロールしていくと
「………………っ!」
予想だにしていない最大の爆弾写真が控えていた。
“何故か親父とおふくろと一緒に飯を食べる事になった”
着流し姿のクロノスさんを囲んで……
何故か我が家で鍋パーティーが開催されていた。
黒豆も写っているところをみると
きなこが寂しがると思い家に連れてきた時に
クロノスさんと遭遇したのかもしれない。
「ちょ……何やってんの!?
家主がいない所で親睦を深めるのはやめてよ!!」
もはや酔いなんて一気に冷めていた。
父とにこやかに酒を酌み交わしている写真や
母にご飯を大盛りによそわれて笑顔の写真など
家族団らんの写真が数枚写っていた。
蒼月家で相当盛り上がっていたのだろう
母からもL〇NEがきていた。
“クロノスさんすてきね。
爽やかだしイケメンだし……
お話していて楽しいわ“
ガッツリ貴族Verのクロノスさんが降臨している模様。
本当はもっとヘタレで女心がわからない人ですよ。
母よ、イケメンに騙されてはいけない。
“お仕事も騎士団長というお堅い仕事のようですね。
生活の基盤もしっかりしているみたいで安心だわ“
なにが?どう安心なのさ……。
魔獣と戦うとても危険な仕事の長ですよ、母よ。
“今だから正直にいうと……
お母さん、祠堂さんよりクロノスさんの方が
凛桜ちゃんにあっていると思うわ。
だって今の凛桜ちゃんとっても楽しそうに
日々生きているもの“
母よ、元彼の事さりげなく貶すのやめい。
もはや私にとって終わった事ですからいいけれども
彼は彼なりに素敵な方でしたよ、うん。
だけど母よ、あの時は表には出さなかったけれども
私が一方的な別れを切り出されたことを実は怒っていたのね。
祠堂さんは静かで月のような冷静な人だとすると
クロノスさんは陽で太陽なような人だからな。
私としては正反対すぎて比べようがないという感じ?
比べるのも失礼だしね。
まあ母も色々思うところがあったのかもしれない。
それゆえの発言として捉えよう。
“じゃーん、これは母が縫いました”
どうやら着流しのお尻の部分から尻尾を出せるように
母が繕ってくれたようです。
少し照れくさそうなクロノスさんの写真が一緒に
送られてきていた。
随分楽しそうだな、母よ。
あー、父からもL〇NEきてるよ……。
“最初は驚いたが話しをしてみたら
なかなかの好青年じゃないか“
まあ、そうよね。
クロノスさん男性人気も凄いからな。
“凛桜がいいのなら父は何もいうことはありません。
2人で幸せになりなさい“
ん?どういう事。
幸せになれって何?
クロノスさん、父と何を話したの!?
少しは反対とかないの?
“どこの馬の骨ともわからん男に娘はやらん!!”
的な展開は皆無ですか……。
父親ってこのセリフを1回は言ってみたいんじゃないの?
相手は異世界の人だよ。
しかも種族だって違うのですよ!父よ。
決して差別ではないですよ!
だけれども……
娘の旦那に獣耳と尻尾がついていていいの?
娘が異世界にお嫁にいってもいいのかい。
というか、その前につきあってもいませんから!
何よ……感じ……
この外堀から埋められていっている感がヤバイ!
項垂れながら兄のL〇NEの画面に戻ると
とどめの文言が……。
“とりあえずこういうことだから直ぐに連絡をくれ。
因みに村中ですんなり受け入れられたと同時に
騎士団長はお前の彼氏認定されているからな
覚悟しておけよ!“
という文言の後に悪い顔をした柴犬のスタンプが
送られてきていた。
「なんだってっぇえええええええええ!!」
どういう事なんだよ!
彼氏認定も今すぐ速攻で取り消したいのですが
なぜに村中であの姿が認定されちゃうの?
獣耳と尻尾が生えた外国人青年ですよ!!
ヤバイやつでしかなくない?
あまり外部から人が来ないと言えども
その認識はどうなの?
まあ、じいちゃんをはじめあの村のご老人達は
普通じゃないからな。
スーパーじいちゃんとばあちゃんの宝庫だ。
些細な違いなんかどうでもいいのかも知れないけれども。
それにしても村人も父も母もウェルカムすぎだから。
あまりの出来事に受け入れるまで
数分間意識があちらの世界に行っていたが……
なんとか気を取り戻して急いで兄に電話した。
が、お約束の空しいメッセージが流れた。
“おかけになった電話は電波が届かない場所にあるか
電源が入っていないためかかりません“
「なんでだよ!」
兄!!どういう事よ!!
全く連絡がつかないじゃなぁい。
その後何度も電話したが何故かつながらない。
挙句の果てにL〇INEも何故か送れない。
これはもう不思議な力が働いているとしか思えませんな。
まあ時間も時間だから……
すでに飛行機も電車も利用するのは無理だし……。
明日朝一で速攻帰るしかない。
あー、もう不安でしかないよ。
凛桜は一気に脱力したまま布団に突っ伏した。
「…………どうしよう……」
が、やはり疲れと酔いもあったのだろう。
ものの5分もしないうちに深い眠りに落ちていった。