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160.すれ違う気持ち

田舎暮らしを始めて139日目。




「おーい、いつまで寝ているの!

いい加減に起きなさい!」


そんな声が頭上から降ってきた。


へぇあ?


眠気眼の目を擦りながら……

渋々上半身を起こすとそこにいた人物はなんと……。


「久しぶり~」


ベッドの脇にエプロン姿で立っていたのは

現実世界の親友だった。


「えっ?んん?んん?なんで?」


寝起きのせいもあるっちゃあるが……

それ以上に目に映る情報に頭がついていかない。


思わず下から上まで舐め回すように見ちゃったわ!


うん、やっぱりどこをどうみても親友だ。


「えっと……。

なんでここにいるの?」


我ながらアホな質問だと思うよ、うん。


「なんで?って……

会いたかったからだよ。

凛桜ったらちっとも連絡くれないんだもん。

だからこっちから押し掛けちゃいました」


そう言って親友はちょっぴり拗ねたそぶりをみせながらも

優しくふんわりと笑った。


えっ?ついに我が親友は世界を超えた?

私に会いたいが為に?


愛されているな……私……キャ!


いやいやいやいや!それはナイ。


幻なのか?

はたまたまだ夢の中かもしれないと思い

やんわりと右手の甲を抓ってみた。


ん、しっかりと痛い……。

と、いう事はですよ、奥様!


私は寝ている間に現実世界に戻ってきてしまった

ようですよ、はい……。


いつも突然だな、おい。

こっちの事情は完全無視ですか異世界さん?


「とにかくもうお昼すぎだからね!

早く顔を洗ってきてね!

朝ご飯?いやお昼ごはんになるのかな?

作っておいたから一緒に食べようね」


そう言って親友はお布団を有無も言わせず剝ぎ取った。


「…………」


相変わらずやんわり口調なのに行動は大胆な所は

変わらないわね……。


凛桜は久しぶりに会う親友を見上げながら

こっそり苦笑した。



で、数分後……。


「はーい!

凛桜の好きな物をど~んと作っておいたよ。

おかわりもあるからたくさん食べてね」


そういって山盛りのご飯を渡す親友の笑顔は眩しかった。


あーうん、そうね。

確かにこれは私の好きな“手羽先の甘辛揚げ”だよ。


あなたが作る料理の中で私が一番好きなやつ。


よく親友の家に泊まりに行ったときは

作ってくれとせがんでいた料理で間違いありません。


が、しかし寝起きに食べられるメニューじゃないよね。


部活動まっしぐらの男子高校生か!

朝から丼3杯はいけます!みたいな……。


作って頂いておいてなんですが……

もう寝起きに肉をガッツリいける歳じゃないんっスよ。


たまにこういう天然をぶちかましてくるよね。


そんな凛桜をしりめに黒豆達は……

湯がいた手羽先を解したものを貰ったらしく

一心不乱に食べていた……。


なんなら……

“それ!いらないならくれぃ”くらいの視線を

投げかけてきています。


いや、手羽先はあげないよ。

鳥の骨はそのままイッヌにあげるのは危険だからね。


なんでも骨がうまくかみ砕けないと……

喉に刺さったりして大惨事になるらしいのよ。


だから却下です。


「ささ、揚げたてが一番おいしいから」


「うん……」


こうなった和葉は止められないから

大人しく頂くことにした。


あ、紹介が遅れましたが……

小学校からの親友の和葉さんです。


見かけはおっとり癒し系美女だが

実は案外しっかりもので言う時は言う!

やる時はやるという頼りになる女性なのだ。


しかも人妻属性ですよ!

優しい旦那さんとの間に可愛らしい娘さんが1人!


かえでちゃん3歳!

めちゃっめちゃ可愛いのよ。


和葉の目線に促されて手羽先を一口齧った。


ん、やっぱりいつ食べても美味しい……。


少しずつだが箸を進めていくと案外食べられるみたいだ。

私の胃袋まだ元気です!


そんな凛桜の事をニコニコと見つめていた和葉だったが

ふと急に真顔でこう切り出してきた。


「どうしたの?らしくないじゃん

朝起きられない程飲むなんて……

珍しくない?」


「ん……」


思わず後ろめたくて生返事しか返せなかった。


確かにクロノスさんと喧嘩して昨晩は

珍しくよろしくないお酒の飲み方をしたよ、うん。


今日はゴリゴリの二日酔いですわ!


そんな私に朝からこんなごってりしたものを

たべさせたがるあなたは鬼ですか!


今更ながらちょっと怒りが湧きそうになったが……。


「なに?その返事。

あ~わかった!

どこぞの王子様と喧嘩でもした?んん?」


そのにやけ顔、やめぃ!


が、その反面……

的を得た和葉の発言に動揺してしまい

手羽先を喉に詰まらせちゃったのよ!


「ん、くっ!けほっ!!」


「やだ、ちょっと大丈夫!!」


和葉が急いで麦茶を手渡してきた。


「くっ……だ……だいじょうぶ……」


直ぐに飲み干したので事なきを得たけれども

ちょっと図星過ぎてあからさまに目を逸らしてしまった。


そんな挙動不審な凛桜をみて和葉はフッと微笑むと

ポテトサラダを手渡しながら言った。


「言いたくなければ言わなくてもいいんだよ」


そう、いつもそうだ。


和葉は決して無理強いはしない。


でも何かあったら……

真剣に向き合ってくれて味方になってくれる。


これだけ長く付き合っているので……

お互いの黒歴史もすべて知っているし

楽しい事も嬉しい事も2人で分かち合ってきた。


だからいまさら隠し事はないけれども……

まあ、今回は初めてのレアケースかな。


ちょっと複雑すぎていきなり本当の事は

直ぐに言えないのが現実かな……。

ごめんね……。


凛桜は1つ深呼吸をすると箸をおいて和葉に向き合った。


「じつはね……」


そしてざっくりとクロノスとの事を打ち明けた。



「ほえ……本当にそんな事があるんだね。

こんな田舎にお忍びで侯爵様だっけ?

その息子さんが農業研修になんか来るんだ!」


そう言って和葉は瞳をキラキラさせていた。


「あ……うん」


だってそう言うしかなかったんだもん。


流石に異世界の獣人で騎士団長が~

なんて言ったら中二病発言だと思われちゃうわ!!


「ヨーロッパにある聞いたことない国で

あまり詳しい事はわからないんだけれどさ。

とにかく貴族らしいのよ」


「へぇ……で、イケメンなの?」


和葉がにやけ顔で聞いてきた。


「うん……かなりのイケメンで高身長」


「最高じゃない!

そんなイケメン侯爵と出会える事なんか

そうそう人生でないことだよ」


「そうだよね……」


「で、凛桜は何に悩んでいるの?」


「え?」


「だってあんな無茶なお酒の飲み方するくらい

落ち込んだんでしょ、振られたの?

それかそのイケメン侯爵のヤバいくらいの美女の婚約者が

いきなりのり込んできてバトルでもした?」


「いや……婚約者はたぶんいないと思うけれども

相手とは振られるどころか始まってもない」


ハーレムはあるかも知れないという言葉は

グッと飲み込んだ。


しかしそんな凛桜の発言に対して

和葉は腑に落ちない顔をしながら首をかしげた。


「どういうこと?

落ち込みポイントがみつからないんだけど

えっ?まさか凛桜のぶっちぎりの片思い的な?」


「どうだろう?

私自身はいいなとは思っているのは確かで」


「うん、で、相手は凛桜の事をどう思っているの?」


「うん……

たぶんだけど好意は持ってくれているとは思う」


そう言いながら凛桜は恥ずかしそうに目をふせた。


「はい?ならば何にも問題ないじゃない?

これからガンガンアタックすればいいんじゃない?」


和葉さんはこう見えて肉食女子です。

狙った獲物は逃しません。


ますます意味がわからないというように眉尻をさげた。


「その……ね……いや……

なんと言ったらいいのかな」


私は反対に草食女子です。

ヘタレ中のヘタレですわ。


そんな煮え切らない凛桜の様子に和葉がズバリ切り込んだ。


「凛桜はさ、その侯爵様とどうなりたいわけ?

恋人になりたいの?」


「…………」


しばらく無言の時間が流れたが……

やがて凛桜は自分にいいきかせるように呟いた。


「無理だよ……恋人になるなんて……

国や身分だって違うし……

それに相手からだって何も言われてないし」


それ以上に異世界だし……種族も違う……

しかもあちらは国宝級の顔面偏差値だよ。

つりあう訳ないじゃない。


凛桜はため息と共に目をふせた。


「それは言い訳だな。

本当に好きならそんな事超越しちゃうからね。

私は旦那と娘の為なら何でもするわ。

うん、世界だって超えちゃうかもね」


そう言って和葉は悪い笑顔を浮かべていた。


「フフフ……和葉ならやりかねないわね。

私はそんな勇気はないわ。

本当に私なんかが手の届くような人じゃないのよ」


そう言った凛桜の顔を見た和葉は息を飲んだ。


「どうしたの?和葉?」


和葉の表情の意味が分からずにそうきいた凛桜に

顔を曇らせながらそっと自分の方に抱き寄せた。


「本当に凛桜は昔から意地っ張りね。

本当は泣くほどその人が好きなのね。

元彼の時はあんなにあっさり別れたくせに

今回は本気ですか」


「えっ?」


そこではじめて凛桜は自分が泣いてる事に気がついた。


いやぁあああああああ。

本気か私……恥ずかしい。

今なら恥ずかしさで死ねるわぁぁぁ。


その癖に認めてしまうと涙を

止めることが出来なくなっていた。


が、そのまま何も言わず和葉は凛桜が泣き止むまで

ずっと優しく背中をさすってくれていた。


ありがとう和葉……。


私ももう一度ちゃんと自分の気持ちと向き合ってみるよ。


そう思いを込めてぎゅっと和葉を抱きしめ返した。



一方その頃……


「今日の団長……

いつにまして機嫌悪くないか?」


「ああ……

かと思えば死んだように落ち込んでいるしな。

おれあんなに尻尾が項垂れている団長見たの初めてだぜ」


団員達に遠巻きに見られヒソヒソと噂されるくらい

クロノスは絶不調だった。


「これはまずいッスね」


「ああ……」


事態を重くみたカロス達は早々に訓練を引き上げ

団員達を解散させた。


そこにかなり凶悪顔のクロノスがやってきた。


「なんだ、もう訓練は終了したのか?」


「いえ、今日は早めに上がらせました」


「なぜだ?」


クロノスは怪訝そうに眉尻をあげた。


「団長、今朝ご自分の顔を鏡でみられましたか?」


「は?」


なんでカロスがそんな質問をするのかわからないクロノスは

苛立たしげに尻尾を左右に振っていた。


その横から少し疲れたような表情のノアムがおそるおそる

クロノスに話かけた。


「あの……団長……お願いですから……

その殺気をひっこめて頂けないッスかね。

身が持たないっス」


「あ?そんなものが出ているか?」


カロス達は“死ぬほど出ていますから”

と言わんばかりに首が捥げるんじゃないか

くらいに縦に首を振った。


「………………」


そこで初めて自分でも気が付かない程不機嫌MAXオーラを

まき散らしていることに気がついたクロノスだった。


「なんか……すまない……」


書類をもってきたねずみ獣人の方が扉の前で

失神していましたよ。


と、密かに心の中でツッコミを入れたカロスであった。



そしてそのまま3人で団長室に戻り……

カロスが念のために部屋に遮断の結界を張った。


「ふう……」


クロノスはソファーへどかりと座ると

少し投げやりに足を投げ出した。


すると無言でカロスとノアムはアイコンタクトとった。


「団長……失礼を承知で伺いますが

団長は凛桜さんの事をどうするおつもりですか?」


「あ?」


藪から棒の質問にクロノスの獣耳がピコピコと揺れた。


「団長のお気持ちは察しております。

そして凛桜さんもおそらく団長に対して

好印象をお持ちだと思います」


「…………」


「だから団長があのような行動を取ってしまうのも

同じ男として致し方がない事だと思いますが……」


そこでカロスは大きく息を吸った。

そして真剣な眼差しで真正面からクロノスをみて

きっぱりと告げた。


「現実問題として凛桜さんを番にするのは

団長のお立場上難しいかと存じますが……」


「っ……」


その言葉にクロノスは目を見開いた。


「団長が身分とか地位とか関係ないと考えている事は

重々俺達も理解しているッス。

そして団員全員が団長と凛桜さんの事を応援しているッス。

でも……それももうそろそろ厳しいと聞いているッス」


そう告げたノアムは苦しそうだった。


「そうか……お前たちも聞いているのか」


「はい……」


クロノスは何かを考えるかのように窓の外を見つめていたが。


「親父の調子が良くなくてな。

そろそろ本気で侯爵を継がないといけなくなりそうだ。

そうすると自然とな……」


そう言って苦笑しながら頬をかいた。


「団長の家柄とつり合いがとれそうなのは

あの侯爵家かさらに王族に連なるあのお方の家ですか」


「そうだろうな……。

ま、俺にとっちゃどちらでも変わらねぇがな」


「…………」


団長にとって凛桜さん以外の女はすべて

どうでもいいのだろう……。


基本我が国は自由恋愛だ。

たまに運命の番に出会って結婚する人もいるが……

それは稀な幸運だ。


しかしそれは普通の国民が大半の事で

貴族は未だに柵が大きい。


しかも高位になればなるほど同じ種族で

純血の相手を選ぶ傾向にある。


つまりクロノスは高位貴族のユキヒョウもしくは

ヒョウ種族のお嬢様と婚姻を結ばなくてはいけないのだ。



凛桜さんを怒らせて傷つけてしまったしな。

ここらが潮時かもしれねぇな……。


クロノスは苛立たし気に髪をかきむしった。


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