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159/219

159.初めての……

田舎暮らしを始めて138日目。




「………………」


「…………」



ちょっといいなと思っている(恋愛的要素も含む)

男性から出会い頭に己の顔を見た瞬間に後に飛び退かれ!


が、直ぐにしげしげと顔を見つめられたのち

挙句の果てに思いっきり顔を顰められたら……。


あなたならどうする?



その1:自分の顔に何か異なものがついてないか確かめる。


今朝の朝食は何を食べたかしら?

ベタだけど歯に何かつく様な海苔的な物を食したか?


はたまた匂いの強いものがメニューにあったかな?


いや……特にないな。


今朝の朝食はうどんだったし。

具材はわかめ、ねぎ、油揚げと至ってシンプルだ。


これが原因ではないな。



その2:悲しくて落ち込んでしまう。


かりにも女子に対して……

していい顔じゃないと思うのよ、あの顔は。


私が鋼の心臓を宿してもいてもあの反応は傷つくわ。


軽く涙目で感情に訴えてやろうかしら。


「………………」


いやいやいや……

私はそんな乙女の武器を効果的に使える女ではない。


普段やり慣れないことをすると火傷する。


却下だな、うん。



その3:あまりにも失礼過ぎるという事で……

    容赦なくグーで腹パンをきめるという事で。


基本的には暴力は駄目よ。


でもね……でもね……ここは一言申させて!


あまり言いたくないが……

クロノスさんの表情がとにかく酷すぎる!!


だから私としてはこの案を採用いたします!


だってね……本当にあるまじき顔だから。


何と表現したらいいのだろう。


悲しいけれどもはっきり言うわよ!


あれは声には出してないけれども確実に……


“くさっ!!マジかよっ!!”


と、顔が物語っているのよ。


例えるならば……

猫ちゃんが臭いものを嗅いだ時にする顔というのか?


フレーメン反応=変顔といっても過言じゃない。


口や目を半開きにして……

くわぁって何度もなっているのよ。


やっぱりユキヒョウはネコ科だからなの?

種族からくる反応なのか!?


だとしてもよ!

朝早くから勝手に来た挙句に人の顔をみてこの反応は

人としてないと思うのよ。


その癖に何かその事について言葉を発する訳でもなく

無言でフレーメン反応ループ!


そんなに私はバットスメルですかっ!?


どういうことなのよ一体。


許さないわ……やっぱり!!

女子としての尊厳を守りたいです、はい。


ここは一発腹パンだな。


凛桜はそう思いまさにクロノスに詰め寄ろうとした時に

いつもの如く元気のいい声が響いた。


「ちわッス!」


「朝早くからすみません……

団長はここにきていませんでしょうか?」


お約束の登場!

副官のノアムさんとカロスさんが中庭の奥からやってきた。


が、次の瞬間ノアムさんの絶叫が辺りに響いた。


「くっさ!!

何っスか……この匂いは……くさっ!!」


ノアムさんまでがフレーメン反応顔を何度も連発していた。


「うっ……」


カロスさんまでが顔を顰めながら鼻と口を覆った。


えっ?2人もそうなっちゃう感じ?


凛桜が驚きのあまり目を白黒させていると

更にノアムさんから衝撃発言が飛び出した。


「まじッスか……

匂いの元凶は凛桜さんっスか!?

何処をどうやったらこんなにマーキングされるんですか」


凛桜の顔を気の毒そうに見ながらも……

ノアムさんのフレーメン反応顔は止まらない。


何ですと?

匂いの元凶はやっぱり私なの?


えぇえええええええ!!


だからですか?


昨日は珍しくきなこ達が寝室にやってこなかったのよね。


いつもは私より先に寝室に入って……

お気に入りのクッションの上で寝そべるくせに。


油断するとベッドの上にまで上がろうとする子達よ?


それなのに何故か白蛇ちゃん達が帰ってから

私と一定の距離を保っている気はしていたけれど……。


まさか私が臭かったの!?


自分では全く気がつかないのですが?

私の鼻がつまっているのか?


それとも人間にはわからない特殊な匂いを

発しているのかしら!?


その事実に呆然としながらも……

何故か釈然としない感も否めないのよね。


「マジないっス……。

誰なんスか?頭くらくらするッス……

これは団長……いや全オスに対する宣戦布告?」


などと物騒な事を呟いているノアムさんに

おそるおそる聞いてみた。


「あの……。

私ってそんなに異臭がするのかな?」


若干涙目で声が震えていたせいかもしれない。


そんな凛桜の態度に3人ともハッとした顔をしてから

直ぐに取り繕うように獣耳を下げながら言った。


「いや……そういう身体的な不快な匂いじゃないんだ。

ただ……俺達獣人の男にとっては不快で……」


不自然なくらい目を逸らしながらクロノスさんが

そう答えながらも更に話を続けた。


「凛桜さん……昨日()()()が来たよな」


あいつ……白蛇ちゃんの事かしら?


「えっと、白蛇ちゃん親子とボルガさんが来たかな」


白蛇ちゃんの名前を聞いた途端

クロノスさんの肩眉がピクッと上がったのが見えた。


クロノスさん怒っているのかな?

急にクロノスさんの周りに冷気が漂ってきた!


そして地の這うような声でこう聞いて来た。


「その時にやつに何かされてないか……

たとえば……その……キ……キ……」


「キ?」


何故かクロノスさんは何度もキ……キ……と

言いながら悔しそうに唇を噛んでいた。


さっぱりわからない凛桜は首を傾げた。


「そのな……やつに……キ……」


「…………?」


最初はそのクロノスさんの挙動不審な態度に

ノアムさん達も同じように首を傾げていたが……。


じっと凛桜の口元をみたカロスさんの表情が凍り付いた。


そしてそのままそっとノアムさんに耳打ちすると

お約束のように空気をよまない彼は……

聞いたままの一言一句をそのまま口出した。


「白蛇が凛桜さんの唇にキスマークをつけたんッスか!!

あいつまじでえげつないッスね。

蛇族の唾液にはかなり強力なマーキング成分が入って

いると聞いた事あるッス……」


「はうっ……!?」


凛桜は衝撃のあまり息を詰まらせた。


「ばか、お前!

声にだしていうやつがあるか!!」


カロスさんの盛大なツッコミがノアムさんに入った。


えっ?私白蛇ちゃんにキスマークつけられていたの?

何処で?いつの間に?


んん?


最初は思い当たる節がなくて凛桜は考え込むように

視線に宙を彷徨わせていたが……。


やがてあの事を思い出して一気にボンと顔を真っ赤にした。


あのときか!!

口の端についたマヨネーズを舐めとられ時か!


それとも指先を舐められたとき?

そう言えば昨日は結構スキンシップ過多だったな。

でもあんな一瞬の出来事がこんな大事になるの?


ペロっとかるく口の端や指を舐められただけよ。

それがどう繋がってキスマークに?


はたまたマーキングになるの!?


「えっ?その顔……

やっぱりしちゃったんスか?キス!?」


今度は驚きのあまり目を見開いて口をあんぐりとあけて

ノアムさんが固まっていた。


「言い方!!」


またもや強烈なカロスさんの愛の鞭がノアムさんの

後頭部にクリティカルヒットした。


一方違う意味で心にクリティカルヒットを食らった

クロノスさんはシュンと一瞬落ち込んで獣耳としっぽが

これでもかとだらりと下がったが……。


「ち……違うよ……してないから!!

ちょっと口の端についたマヨネーズを舐められただけ!」


凛桜が必死になって否定するが……

その発言にクロノスの目がカッと見開いた。


「唇を舐められただと!?」


そのまま強引に腕を掴まれて引き寄せられた。


「ちょっ……クロノスさん……痛い」


珍しく強引なクロノスに凛桜は戸惑いを隠せなかった。


かなり距離を詰められたせいで……

いつも優しいクロノスさんの琥珀色の瞳が

悲しみと憎しみが混ざり合った色に染まっているのが見えた。


「あなたって人は全く……

舐められただけなどと軽く考えないでくれ……」


そう言いながらギリッと歯を噛み締めていた。


「誰にでも優しいのは凛桜さんの美徳だが……

今回は少し油断が過ぎやしないか?」


「へ?」


凛桜は何をそんなにクロノスが怒っているのかが

わからずきょとんとした顔で見上げていた。


その様子にますますカチンときたクロノスは

軽いため息と共に更に話を続けた。


「あいつはもう幼子ではないのだぞ。

凛桜さんにとっては可愛い相手だったのかもしれないが

いまのあいつは()()()()()()()()()()()()だ」


「ん?」


何その生々しい言い方……。


「その証拠にこんなにもマーキングされているのだぞ。

あいつは凛桜さんをそういう対象で捉えているという

意味なんだ、わかるか?

つまり、男の下心には気をつけろということだ」


そう言ってクロノスさんは厳しい顔で凛桜を見つめていた。


はい?


急になんなの?

なんでそんな事を言われないといけないわけ?


あんたは私の父親か?


仮に白蛇ちゃんが私にそんな思いを抱いているとしても

あの唇ペロリは不可抗力だし……。


そもそも親兄弟でもない!

ましては彼氏でもないクロノスさんに

なんでそんな事を言われないといけない訳?


凛桜は悲しさと怒りも相まって思わずクロノスを

睨み上げずにはいられなかった。


「………………」


凛桜は必死にこみあげてくる感情をぐっと飲み込もうと

頑張ったがクロノスの責めるような視線を受けて

ついに思いを口に出してしまった。


「たとえ白蛇ちゃんと私がそういう事をしても

クロノスさんには関係ないよね……」


「えっ?」


その言葉にクロノスがこくりと唾をのんだ。


「いや、だから俺は心配してだな……」


まさかそのような反撃を凛桜から食らうとは

思ってもみなかったのだろう。


クロノスは面食らった後にしどろもどろになりながら

必死に凛桜に言葉をかけていたが……。


凛桜のクロノスを見る目は冷たくなるばかりだった。


ただならぬ2人の緊張した空気感に……

固唾を飲んで見守るしかできないノアムさん達。


「だからそういう心配は……

クロノスさんにはして欲しくないから……」


「凛桜さん!」


凛桜のはっきりした拒絶に……

ついにクロノスもおれた。


だってそうでしょ。


あなたこそいつも優しいけれども……

()()()()()はくれない。


確かに最初はお互いにそういう感情はなかったけれども

今はそうでしょ?


ね、クロノスさん……。


言葉にしてくれないと先には進めないよね。

と、言っても私も人の事はいえないんだけれど。


まーお互いに越えられないのよね。

だからその琴線には触れないで欲しい。


私はただできればずっと……

皆と楽しくこの世界で穏やかに暮らしたいだけなの。


そんな気持ちが凛桜の瞳から伝わったのか……

クロノスは急に手を離すと伏し目がちで呟いた。


「そうだよな……俺がいうこと……ではないな。

踏み込み過ぎたな……すまない……。

出直す……お前ら帰るぞ」


そう言って視線も合わせずに踵を返した。


「えっ?団長?」


「いいんッスか?」


ノアムさん達もどういう顔をしていいのか

わからなかったのだろう……。


とりあえずぺこりと頭をさげてから

あわててクロノスの後を追って中庭の奥へと消えた。



クロノスさんって本当にヘタレよねぇ……。

お前もな!だけど。


悔しいけれどボルガさんが言っていた事が

本当になっちゃったな……。

身をもって知ったよ。


私とクロノスさんの関係を……。



異世界に来て初めてクロノスさんと本気の喧嘩をした……。





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