表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

157/219

157.美しすぎるのも罪なのです

田舎暮らしを始めて137日目。




「あっ…………」


凛桜は冷蔵庫の扉をあけた途端声をあげた。


マヨネーズがきれている……。


あると思っていたマヨネーズが……

冷蔵庫の横の扉の棚の中でほとんど空の状態で

倒れかかっているのが見えた。


どうしよう。


もう後はマヨネーズを入れるだけの状態で

“ポテトサラダ”がスタンバっていますけれどぉ!!


「うぅ…………」


確認しなかった私が悪いのだけれども。

完全にやってしまったわ……。


「…………」


正直言って私的にはマヨネーズなしでもいいのよ。


本音を言ったらあまりマヨネーズは好んで食べないのよね。


食べられないとかではないのよ、うん。

マヨラーな方がいらっしゃったらすみません。


むしろ学生時代は、母に頼んで私の分のポテサラだけ

マヨネーズなしで食卓に出して貰っていたくらいだ。


味付けは塩と胡椒だけで食していましたよ、えぇ。

それをポテサラと呼んでいいのかわかりませんが。


ポテトサラダと言えば……

缶詰のみかんを具材に入れるか問題もあるよね。


私の母はというと……

みかんを入れる派でして!

さらにりんごまでいれてしまうという兵でした。


酢豚のパイナップル問題もしかり……

あれって正解なのかしら?


うん……これは不毛な議論になるのであえて触れませんが

私はどちらも“入れない派”でございます。


話は逸れてしまいましたが……

こうなったら自分でマヨネーズ作るしかないかな。


なぜなら調子こいてマカロニサラダも作ってしまったのよね。


ポテサラだけならばマヨネーズはなくてもいけるけれども

マカロニサラダに関しては……

流石にマヨなしはきついかな。


完全に私の匙加減問題ではありますが。


今日はうちの鶏さん達がたくさん卵を産んでくれているし

作りますか!自家製マヨネーズ。


そんな事を思っていたら何やら中庭が騒がしくなった。


何事?


と、思う暇もなく目の前の縁側にシュナッピーが

吹っ飛ばされてきた。


「…………!!」


えええええええええっ?


思いっきり縁側に顔を打ち付けた後に……

ワンバウンドして庭に落ちたよね。


首?いや茎?折れてない!?


えっ?どうした?何が起きたの?


一瞬たじろいだがすぐにシュナッピーに駆け寄った。


「大丈夫?シュナッピー」


「キューン……」


情けない顔で凛桜を見上げながらシュナッピーは

か細い声で泣いていた。


どうやら茎や蔦などは無事らしい。


あの衝撃で折れないって……

それはそれでどんな強度をほこっているのさ

問題があるっちゃあるが……。


んん?


よく見ると顔中に何やら噛み跡が数か所ついている。


この2つの牙の噛み跡はもしかして……


「キュ……キューン……」


慰めるようにシュナッピーの頭を撫でていると

ふと視線を感じたので顔を上げると凛桜の目の前に

誰かが立っていた。


丁度逆光になっていてよく顔はわからないが恐らく彼だろう。


「凛桜!!」


その青年はふにゃっと柔らかい笑顔を浮かべながら

瞳を蕩けさせて嬉しそうに凛桜の名前を呼んだ。


「白蛇ちゃん!久しぶり」


相変わらず美しい青年だ。

この前会った時よりもさらに大人になった気がした。


恐らく数秒前には信じられないくらい激しい戦いを

シュナッピーと繰り広げ制してきたはずなのに!


それを微塵にも感じさせない程……

この柔和な雰囲気を醸し出せるのは何故?


やっている事との本人のギャップがエグイ……。


何処にあのような強力な力が宿っているのだろう?

本当に不思議な魅力がある青年だ。


「ギャロロロ……」


そんな2人のほんわかしたやり取りの下で

密かに悔しそうにシュナッピーが歯ぎしりをしていた。


どうやら今日も戦いに挑んだがあっけなく負けたらしい。


でも顔を齧り取られていないだけでも成長したのかしら?

前回はがっつり顔の一部を食されていたからなぁ……。


そんなシュナッピーを冷たい視線でチラッと一瞥した後

白蛇ちゃんは直ぐに甘えるように凛桜の肩口に顔を埋めた。


「会いたかったよ……凛桜」


どうやらシュナッピーの事は見えていないようだ。


むしろいつのまにかシュナッピーを横に払いのけて

からの凛桜に抱き着き攻撃!


「フフフ……あいかわらず白蛇ちゃんは甘えん坊だね」


凛桜も白蛇ちゃんの髪をそっと撫でながら抱きしめ返した。


一方その横でこの状況をどうしたらいいのかわからず

きなこ達がスンと真顔でお座りをして待機していたのは

ちょっとシュールで可愛かったわ。


まあ、一悶着ありましたが……

ひとまず仲直りも含めてみんなでお茶をすることに。


「今日のおやつは“サクサク卵ボーロ”だよ」


「卵ボーロ?」


白蛇ちゃんは初めて見るお菓子に興味深々だ。


小さくて丸くて口の中に入れるとシュワっと

溶けてしまう可愛い焼き菓子だ。


主に赤ちゃんが食べるイメージがありますが

昔から大好きなので見かけるとつい買ってしまう

魅惑なお菓子なのだ。


「卵で出来たサクサクの甘いお菓子だよ。

どうぞ食べてみて」


「うん、頂きます」


白蛇ちゃんはそっと1粒を摘まむとそのまま

口の中へポイっと入れた。


「…………!!

直ぐに溶けてなくなっちゃったよ!!

凄く美味しいよ、凛桜」


興奮しているのか目の瞳孔が開いちゃってるのが

ちょっと鋭くて怖かったが喜んでくれているようだ。


その次からは手が止まらないらしく……

あっという間に山盛りの卵ボーロを完食してしまった。


「ごめん……凛桜……全部1人で食べちゃった」


今度は捨てられた子犬のような目で凛桜を見つめてきた。


ああ……もうなんて可愛いの白蛇ちゃん。

大人になってもこの可愛さはもはや罪よ!


「全然かまわないよ。

むしろそんなに喜んで食べてくれたのが嬉しいよ。

おかわりもたくさんあるからね」


「ありがとう。

凛桜の卵料理はいつでも最高だよ」


「白蛇ちゃん!」


凛桜は赤面しながら嬉しそうに表情をほころばせた。


一方白蛇ちゃんはというとニコニコ顔の下では……。


フフフ……相変わらず可愛いな凛桜。

食べてしまいたいくらいだ。


えっ?どっちの意味で?

どちらにしろ怖いのですが:天の声談より


無意識なのか二股の舌で舌なめずりしていたらしく

シュナッピーと黒豆達が慄いていた事は凛桜には内緒だ。


キュンキュンしている凛桜には申し訳ないが

白蛇ちゃんの可愛さは凛桜のみに発動される

計算されたパフォーマンスだという事を

そろそろ気づくべきではないか?


と、きなこ姉さんが申しております。



「そういえば今日は1人で来たの?

巨大白蛇さんは元気かな?」


その問いに白蛇ちゃんは……

湯呑の中の緑茶を数秒じぃーと見つめた後に

ぽつりと話し出した。


「実は今日凛桜の元に来たのはお願いがあってきたんだ。

ここだけの話なんだけれども……

父上の容体があまりよくないんだ」


「えっ?」


「数日前から穴に籠り出てこない……。

大丈夫かと聞いても大丈夫だとの一点張りで

何も召し上がらないんだ……」


そう言って白蛇ちゃんは悲しそうに目を伏せた。


「病気を患っているとか……

それとも何処か怪我をしている状態とかではない感じ?」


「うん……怪我ではない事は確かなんだけれども

病に関してはわからない……」


そう言ってぎゅっと湯呑を握ったまま瞳を潤ませた。


「それは心配だね」


凛桜も白蛇ちゃんの悲しそうな言葉に胸を詰まらせた。


「どうにか食べてもらおうと片っ端から色々狩っては

父の元に届けたのだけれども……

ほとんど手をつけてくれないんだ」


「…………」


何を?とは聞いちゃいけないよね。


凛桜の頭の中で何か巨大な魔獣達が数頭横切っていった。


「だから凛桜が作った卵料理なら食べてくれるかと思って

頼みにきたんだ……。

父上の立場上、このことが外部に知られたら問題だし

一秒でも早く回復してほしくて」


そうだよね……。


そもそも白蛇ちゃん達との出会いは

大きな鳥族?カラス族?との覇権争い的な事だったし。


種族のトップが弱っているなんて周囲に知られたら

恰好の餌食になっちゃう案件だわ。


まあ、それ以上に家族の身体の事だもの……

心配でしょうがないよね。


「凛桜おねがい……

父上の為に卵料理を作ってくれない?」


ふぅわ……!!


美青年の渾身のお願いは心臓にくるな……。

そうじゃなくても溢れんばかりの美貌の凶器だというのに。


叫ばなかった私を褒めてあげたい。


「凛桜?」


凛桜が何も答えないで固まっていた為に断られたのかと思い

更に悲しそうな懇願する声で名前を呼ばれて我に返った。


「えっ?ああ?うん!

もちろん作るよ!なんでも作るよ!

巨大白蛇さんの為にたくさん卵料理つくるよ。

いっぱい食べて元気になってもらおうね」


危ない……

あまりにも尊すぎて一瞬別次元にいってしまっていたわ。


「本当に?

ああ……凛桜……ありがとう……。

嬉しいよ、やっぱり()()()()は最高だ……」


感極まって震えた声でそう呟くと白蛇ちゃんは

そのまま凛桜の手を優しく引き寄せると

自分の胸の中に閉じ込めてぎゅっと抱きしめた。


「凛桜……」


「大丈夫だよ……」


そんな縋るような白蛇ちゃんの背中を

凛桜は優しくあやすように軽く何度も叩いた。



「……ギャロ……ッ……ロ……」


その様子を縁側からみていたシュナッピーは

不満げに蔦を上下に揺らしながら密かに吼えた。


“どさくさに紛れて何をぬかしてんだお前!

間違っても凛桜はお前のものじゃねぇからな!“


きっと話せたらそう言ったであろうくらい

シュナッピーはやさぐれていた。


“団長呼んでこようかな……。

あいつとどちらが強いのかな……“


シュナッピーはそう思いながら遠くの空を見つめていた。



のだが……


“いいかげん凛桜を離せよ、コラ”


“敗者は黙ってなよ”


次の瞬間、凛桜を挟みながら……

2人が密かに冷戦を再開したのは言うまでもなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ