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155/219

155.可愛さとは一体……

田舎暮らしを始めて136日目。




久しぶりに平和な朝を迎えたわ。


最近はとにかく色々な意味で忙しかった。

怒涛のように日々が過ぎていっていた気がする。


カニからはじまりイチゴをへてトウモロコシへ

すべて食べ物繋がりだわ……。


私ったらそんなに食いしん坊な星の下に生まれたのかしら。


私が思うスローライフがどんどん遠ざかって

いるのは何故だろう?


スローライフというよりかワイルドライフだわ。


そんな事をひとりごちながら……

凛桜は庭をぼんやり眺めながら歯を磨いていた。


朝の澄んだ空気が気持ちいい。


上を見上げれば爽やかな青空が一面にひろがり

ふと庭の隅に視線を落とせば薄いピンクの花が

咲き誇り甘い香りを放っていた。


幸せ~!これよ、これ!

これこそスローライフの始まりにふさわしい朝。


それからどこからともなく聞こえてくる

可愛らしい鳥のさえずり……?


“ギュチュ!ギュチュチュ!ギュギュギュ!”


「………………」


“ギャース!ギュチュチュ!!”


バサバサバサバサ!!

何かの集団が目の前を羽ばたいて行った。


「…………」


前言撤回いたします。


またお前らか!!


数分前の幸せな時間を返して欲しいわまったく。


“ギチュチュユユ!!ギチュ!”


二度見をせずにはいられないビジュアルの小鳥達が

目の前の木の枝に群れでとまっているではないか。


1つの胴体に頭が3つあって足が6本ついており

魔王様のように深紅の瞳を宿した小鳥だ。


この前も思ったけれども本当に小鳥なのか?


大きさ的には雀くらいだけれども……

ビジュアルだけならばケルベロス級の魔物ですよ

あなた達……。


どうやらシュナッピーの友達?らしいのだが

いかんせん鳴き声が怖い。


目つきも鋭いしね……。


でもうちの庭に入って来られるという事は

悪しきものではないという事なのよ。


例えビジュアルがアレでも、うん。


そんな凛桜の視線に気がついたのだろう

一斉に鳥たちがぐるんと頭だけを動かし凛桜の方を向いた。


ヒィイイイイイ!!


怖い、やっぱり無理……。


凛桜はさっと目をそらすとそそくさと家の中へ入った。


「…………」


心臓をばくばくいわせながら洗面所の前まで来ると

深く息を吸った。


本気で怖かったよ。

今日は中庭に降りるのをやめようかな……。



そんなこともありましたが……

気を取り直して朝食作りにとりかかる事にした。


久しぶりに“肉まん”が食べたいのよね。


もちろんこの世界にはコンビニなどというものはないので

皮から手作りしなければならない。


材料は多分あったはずだから作れるかな。


いつも思うのだけれども……

コンビニのレジの横のホットスナックコーナーって

ある意味トラップよね。


素通りできないというか……

お腹が空いてなくてもついチェックしちゃうのよね。

そこの代表格の1つが“肉まん”だ。


その他には……

コロッケ、メンチカツ、唐揚げ、フライドポテト。


最近ではカレーパンとかささみ揚げに蒸しパンとか

変わり種も多数ラインナップされるようになったし。


それに忘れてはならないのがアメリカンドッグだ。


一時期妙に嵌ってしまって……

毎日のように会社帰りに買って食べていた事を思い出したわ。


本体を食べ終わった後の串についている

カリカリの部分でさえ美味しいのよね。


よし!アメリカンドッグを作るか!

ホットケーキミックスもあるし……。


あ~でもソーセージがないのよねぇ。

流石にソーセージは即席では作れないわ。


肝心な羊腸がないもの。


ソーセージのあの皮が羊の腸で作られている事を

初めて知った時は衝撃だったわ。


羊の腸ってどうやって手に入れているのだろうとか

何処で売っているのさ?とかね。


気になって調べてみたら……

以外に普通にデパ地下やスーパーで売っているらしい。


それで2度びっくりよ。


話が逸れてしまったけれども!

やはり初志貫徹ということで……

肉まんを作りましょうか。


まずは、生地作りからかな。


薄力粉の中央に窪みを作ってからドライイースト

ベーキングパウダーにお砂糖を少々入れます。


水を何回かに分けて加えながら……

適度な硬さになるまでしっかりと捏ねます。


一所懸命に捏ねていると下の方から声が聞こえてきた。


「ワワン、ワン」


「キューン」


おっ、黒豆達も起きて来たわね。

シュナッピーも縁側から興味津々で見ている様子。


出来たらあげるからね~

今日のお昼は“肉まんパーリィー”だよ。


って、えぇぇぇぇぇぇ!!


声にならない叫び声を上げながら

凛桜はシュナッピーを思わず2度見した。


何故ならば……

シュナッピーの頭や少し太めの茎などに

先ほどの小鳥達がシレっととまっていたからだ。


体中にびっしりととまられているけれども

それはかまわないのかい?


黒豆達は黒豆達で特にそれに対して威嚇もなく

なんなら数匹がきなこに背中に乗っていたりもする。


えっ?きなこたちとも仲良しさんなの?


「「「「「ギチュ……チュチュ」」」」」


何故か急に鳥たちが一斉に鳴きだした。


それに答えるかのようにシュナッピーも

何か言葉を交わしているではないか。


「ギャロ!ギューンギャロギャロ」


「ギチュ?チュギギギギ?チュ」


「ギャロ!」


そして何やらドヤ顔で凛桜の事を紹介するように

蔦を上下に動かしながらこちらを指さした。


と、同時にまたもや鳥たちが一斉に凛桜を凝視した。


ヒィイィイイイ!!


シュナッピー!!

何て言ったの?


こういう時って意思疎通ができない事が悔やまれる。


めちゃくちゃ見られていますけど!!

頭のてっぺんからつま先まで全て見られていますけど!!


凛桜、ここは平常心よ、うん。


相手は小鳥さんなのだから……

怖い事は何もないよ、うん……。


訳の分からない状況で気持ちを正常に保つために

自分で自分を鼓舞するという不思議な時間の中

そのまま凛桜はもくもくと作業を続けた。


「よし、あとは濡れ雑巾をかけて数分間寝かせます」


「ワフ」


「ギュロ!」


「ギチュ!ギチュ!」


独り言のつもりだったのだが……

何故か全ての個体から返事が返って来た。


ありがとうございます?


その間も黒豆達&シュナッピーWith怪鳥達は総料理長か?

くらいの勢いで作業を黙ってじぃ~と見つめてくるから

やりにくいったらこの上ないけどね!!


でもここまできたら作り続けるしかない。



生地を寝かせている間に肉まんの餡を作りましょうか。


どうしようかな~。


豚のひき肉もといビッグサングリアの肉で

いちから作ってもいいのだが……。


時短にもなるしゴロゴロ肉の肉まんという事で

作り置きをしていたビッグサングリアのチャーシューを

入れるのもありだな。


よし、ゴロゴロ肉の肉まんにしよう。


あとは……玉ねぎと筍と干しシイタケを入れようかな。


肉まんに入れる中身の餡の具材も毎回悩むのよね。

何を入れても美味しいというか。


白菜やネギを入れる人もいるし

春雨なんか入っていることもあるよね。


とりあえず今回は王道の具材を使用します。


あとはごま油をひいたフライパンに

刻んだ野菜と生姜の汁を入れて炒めます。


そこに酒、砂糖、塩、醤油を入れてから

私はほんの少しオイスターソースと紹興酒を入れて

味を調えます。


大きめに切ったビッグサングリアのチャーシューを

入れて軽く炒めたら餡の出来上がり!


「キューン」


「キューン、キューン」


はいはい、君たちはいつもそうだよね。


きなこ達とシュナッピーが瞳を輝かせながら

凛桜に猛烈アピールをしてきているのだ。


ビッグサングリアのチャーシューの切れ端のおねだりだ。


「毎度の事とはいえしょうがない子達ね」


と、凛桜があきれながらも

残りのビッグサングリアのチャーシューを

小さく切り始めたら怪鳥達も一斉に騒ぎだした。


「「「「「ギチュ!チュ!」」」」」


こころなしか可愛く鳴いているような気がする。

あくまでも当社比です、はい。


そして深紅の瞳でこちらを上目遣いなのか?

なのか?う、うん……。


よくわからないが必死で見上げているのは確かだ。


「………………」


まさかとは思いますが……

あなた達もビッグサングリアのチャーシューを

おねだりなんかしちゃってます?


「チュ!チュ!」


凛桜が軽く恐怖と驚きで固まっている事なんかには

おかまいなしにさらに怪鳥達はおねだりするように

一斉に3つの頭をこてんと可愛く横に傾げた。


ヒィィイイイイイイ!!


何狙いなの?


1ミリも可愛くないからね!!


大事な事だから2回言いますよ!


誰に教わったか知りませんけれども

1ミリも可愛くありませんから。


むしろ首を傾げたせいで赤い瞳が余計に鋭くみえる

角度となっておりますので……

もっと凶悪な面構えになっていますからね。


「ギチュ?」


更にもっと傾けない!!


可愛さのおかわりとか要求してないからね。

今後は自分たちのビジュアルと相談してやりましょうね。


その後も凛桜が手を震わせながら

ビッグサングリアのチャーシューの欠片をあげるまで

その謎の可愛さアピール攻撃は続いた。






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