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154.奉仕活動に勤しんでおります?

田舎暮らしを始めて135日目。



畑の至る所からタヌフィテス達の声が聞こえる。


「キュ!キュ!」


「キュワーン」


どこも見渡してもタヌフィテス達だ。

50匹以上はいるだろう。


何故か朝早くから……

凛桜の家の敷地内の畑にタヌフィテス達が全員集合していた。


「キュワ!キュワ!」


いまはご機嫌な鼻歌を歌いながら

流れ作業でトウモロコシをもいでいた。



本当にタヌちゃん達って器用よね……。

イチゴーヌ狩りの時もそう持ったけれども。


やはり二足歩行というのが強みなのかしら?

見た目はタヌキなのにねぇ……。


凛桜はBBQコンロでトウモロコシを焼きながら

タヌフィテス達の収穫作業を見守っていた。


軽く焦げたお醤油の香りが堪らない!


「キュ!キュキューン」


必死に背を伸ばしながら足をプルプルさせて

高いところの実をもいでいるのも可愛い!!


幼体も成獣もすべて一緒にいくつかのチームに分かれて

せっせと農作業をこなしていた。


大物のトウモロコシが取れて嬉しいのだろう。

それを掲げながら踊っている。


「キュワ!キュワ!」


ちょっとした収穫祭が行われている模様。


本当に動くぬいぐるみだわ……うん。


と、心の中で密かに可愛さに悶えているところに

不意に何かがスカートの端をくいっと引っ張った。


「キューン」


目線を落とすと首をあざとく傾げながら

瞳をうるうるさせて自分を見上げるタヌちゃんがいた。


「な~にその可愛い顔は……フフフ……

君はここで何をしているのかな?」


「キュ!キュ!」


“自分はここで監督をしております!”


とでもいうかのように胸をどんと叩いてドヤ顔を決めていた。


「もう……君は相変わらず俺様だねぇ」


「キュワ!キュワ!」


それから鼻をひくひくさせながら焼きトウモロコシを

物欲しそうに見つめているではないか。


食べたいな~くれるよね?ね?ね?


無言のおねだり攻撃を受けております……はい。


「そんな目をしても駄目よ……。

ほら皆はまだ一所懸命作業しているでしょう。

お昼になったらたくさんたべられるから、ね」


「キューン、キューン」


それでも負けじと凛桜の足にすり寄りながら

可愛い声でくれと甘えてきた。


う……こやつ……

自分の可愛さをフルに発揮して攻撃してきている!!


こういうモフモフの生物に弱いのよ私。


凛桜が必死に理性と戦っているとその後ろから

ドスの聞いた声と共に右手がにゅっと出てきて

首根っこを掴みタヌちゃんを締め上げた。


「いいご身分だなぁ……タヌ公……

自分だけサボって凛桜さんに甘えるなんて

1億年早いんだよ……」


禍々しい怒りの黒いオーラを背負いながら

とても悪い顔をしたクロノスさんが降臨していた。


「ギューワ!!」


負けじとタヌちゃんも吠えるがまったく歯が立たない様子。


「相変わらずですねぇ」


カロスも苦笑しながら背中に背負っていた籠をその場におろした。


「はあ……いい匂いッス……。

確かにこれは堪らないっス」


ノアムもタヌちゃん同様に鼻をひくひくさせながら

物欲しそうにトウモロコシをみた。


「ギューギューワ」


その様子をみたタヌちゃんは不満げにクロノスに

抗議の声をあげた。


何を言っているのかはわからないが……。


なんとなく声のニュアンスからすると

“お前の部下だって同じようなものじゃねぇか、ケッ!”

という吹き出しが見えた。


するとさらにクロノスさんの黒いオーラが増したかと思ったら

牙を剥きだしながら楽しそうに言い放った。


「カロス……タヌキの丸焼きは好きか?」


「フィァ!」


その言葉に慄いたタヌちゃんが息を飲んだ。


「丸焼きよりもその毛皮が欲しいですねぇ。

もうすぐ母の誕生日なので……

ハンドバックでも作りましょうか。

きっと喜んでくれるかと」


あの温厚なカロスさんには珍しく辛辣な言葉が

その口から紡がれた。


「ヒィィィイイイ」


そんな冗談とも本気ともとれる発言に

タヌちゃんよりも先にノアムさんが恐怖に震えていた。


「怖いッス……あんな副団長見たのは久しぶりっス。

フェリテウスの戦い以来っス……」


獣耳と尻尾が最大限に下がってプルプルと震えていた。


フェリテウスの戦いってなによ。


どんな戦いぶりを見せたのさカロスさん……。

ノアムさんのきょどり方が尋常じゃない!


その武勇伝は気になるが……。

とても口を挟める雰囲気じゃないわ。


「毛皮な……それもありだな……

タヌフィテスの毛皮は人気あるからなぁ」


クロノスさんも更に悪い顔で微笑んだ。


「………………!!」


いまじゃすっかりタヌちゃんは借りてきた猫のように

大人しく萎れていた。


もうやめたげて……。

可哀そすぎる……。


そんなタヌちゃんの情けない姿を見られたので

クロノスさんの溜飲も下がったのだろう。


「冗談はさておき……

これは陛下やカロス……

ひいては凛桜さんの温情によるものだという事を

もはや忘れてはいまいな?」


「ギュ……」


タヌちゃんは思いっきり不満ですという表情を

浮かべながらも渋々と頷いていた。



そもそも何故にタヌちゃんの群れが我が家で農作業に

勤しんでいるのかというと……。


それは少し時が遡る。


タヌちゃん達を捕獲したまではいいが……

結局言葉がわからないままだ。


そこにボルガさん登場。

結局どうにもならず橋渡しをしてもらい事情聴取を行った所

状況が見えてきた。


どうやらタヌちゃん達がこのような暴挙に出たのには

ちゃんとした理由があったのだ。


もともとタヌちゃん達の群れは森の奥深くで

自給自足の生活をしていたらしい。


そこには植物も小動物も豊富にいて生活に困る事は

なかったのだという。


小さいながらも自分たちで代々畑を耕して

生活している種族なのだとか。


だからあんなに手際がよかったのね。

なんだか納得したわ。


ある意味筋金入りの農家さんだったのね、タヌちゃん達。


それが去年あたりから状況が一変したのだ。


何者かがタヌちゃん達のなわばりやその付近の土地に

ある物を捨てにくるようになったのだ。


そうするとその物の影響なのか土地が枯れ……

それに伴い小動物もいなくなり水も汚染された。


食べるものと水がなくなれば死につながる。


ボスであるタヌちゃんは群れを守る為に

一番近くにあったカロスさんの領地のトウモロコシを

盗みに入ったという訳だった。


きっと生きる為に必死だったのだろう。


だからといって窃盗は許されることではない。

どんな理由があっても罪は罪なのだ。


自分たちが農業に携わっているが故に

作物を育てる大変さは身に染みてわかっているはず。


しかし手段を選んでいる猶予はなかったのだ。

それほど状況は切羽詰まったものだったのだろう。


大変申し訳ないことをしたと……。

タヌちゃんは反省の弁を述べた。


それでもボスとして群れを守る為に

手を汚したのだとも言った。


群れの仲間には罪はない。


裁くのなら自分だけにしてくれないかとさえ

タヌちゃんはカロスに懇願したのだった。


そうはいっても50匹以上の魔獣が畑を食い荒らしたのだ。

カロスさんの領土ではかなりの被害が出ているのは

言うまでもないだろう。


しかも悪いことに……

カロスさんの領地で栽培しているトウモロコシが

ゴールドラッシュという種類の特別品種だった。


これは主に宮廷に卸すためだけのトウモロコシなのだ。

つまり皇帝陛下専用のトウモロコシだ。


よって普通のトウモロコシ泥棒よりも更に罪が重いのだ。


よくて群れごと寒くて厳しい炭坑などに送られて

かなりの年月の強制労働に従事させられるのが定石だ。


もっとも重い裁きは……死だ。

字のごとくその身をもって罪を償うのだ。


人を殺めた訳でもないのに罪が重すぎないか?

と思う人がいるかもしれないが……。


トウモロコシ1つといっても……

その裏にはたくさんの人の人生が乗っかっているのだ。


作る人・売る人・買う人などあらゆるところに

影響が出るという事を忘れてはいけないのだ。


それにこの世界では貴族の力は大きい。

その貴族の持ち物に手を出すという事はとんでもない

力が働いてしまうという事なのだ。


ましてや皇帝の物を盗んだと言われてもおかしくない状況だ。

かなりの重罪にあたるらしい。


タヌちゃん達がそれをわかっていて盗んだのかどうかは

定かではないが……。


タヌちゃん達曰く……

尋常じゃないくらい甘くて美味しいトウモロコシだったらしい。


えっ?食べてみたいんだけれども

ゴールドラッシュ!!


カロスさんもとい陛下に頼んでみようかな

と、思った事は内緒だ。

不謹慎過ぎるしね……。


そんな状況の中でクロノスさん達が調査した結果

タヌちゃん達の言う通り何者かがとんでもない物を

不法投棄していることが判明したのだ。


それは“魔素の屑”だ。


どうやら魔道具を作成するときに発生するもので

毒物性が非常に高い危険なものらしい。


通常なら然るべき施設で処理されてきちんと分解して

消滅させるとのことだった。


しかしそのためには大規模な処理施設とその作業を行える

特別な資格を持った魔術師を雇わなければならないらしい。


毒物危険処理の資格かしら?

異世界でも必要な資格なのね……。


だからなのか……

中にはそれを施さない闇の業者もいるとの事だった。


今回そのような悪徳業者がタヌちゃん達の土地に無断で

魔素の屑を不法投棄した為に起こった事だ。


あまり人が入らない森の奥深くだからバレないとでも

思ったのかしら!


そういう意味ではタヌちゃん達は被害者よねぇ。


まさか異世界で不法投棄問題に直面するとは思わなかったわ。

世界が変わっても問題ってさほど変わらないものなのね。


なんか複雑な気分に陥ったわ。


証拠を掴むためにさっそくクロノスさん達が動いた結果

どうやらカロスさんの領地に隣接している領地の業者の

仕業らしいという事も判明した。


もともと隣接している領地は色々と問題のある領主だったので

これ幸いということで……。


陛下の()()()()()が行われて……

なんとその結果隣の領地がカロスさんの家の

領地に吸収される事になったんだって!!


なのでまあ……

カロスさんのお家にとっては棚からぼた餅的な?

領地が増えてしまいましたよ。


そういう経緯もあった為にタヌちゃん達には

情状酌量の余地があるという裁きになりました。


後にクロノスさんの働きかけもあり……

全ての権限はカロスさんに一任された。


カロスさんも凄く悩んだみたいだけれども

まあ……罪は罪なのでやはり償ってもらわないと

周りに示しがつかないという事で……。


家の畑で強制労働……ん、んん!

奉仕活動を当面行うという事で決着がつきました。


はい?

何故に?うちの畑なのさ!


カロスさんの所の農地でよくないか?

迷惑をかけたところで奉仕してくださいよ。

意味が分からないんだけれども!


と、言ったらクロノスさん達が申し訳なさそうに

獣耳を下げながらお願いしてきたのだ。


「凛桜さんすまない……。

カロスの領地の農業従事者たちがタヌフィテス達を

怖がっている為に一緒に作業できない」


どうやらカロスさんちの農業者VSタヌフィテス達で

壮絶なトウモロコシ争奪戦が繰り広げられた模様。


かなり手をやいたらしい。


タヌフィテス達は見た目と違って狡賢いからな……。


「…………」


「それに凛桜さんの畑ならばあいつらも真面目に働くだろう。

俺達も監視しやすいし……な……」


無茶を言っている自覚はあるのだろう。

クロノスさんの声がだんだん小さくなっていっている。


「………………」


んー、それもどうかと思うけれども。


万年人手不足の家の畑。

確かに定期的に収穫して貰えると助かるのも事実。


「キューン」


“俺達真面目に働くぜ!

農業についてはかなり自信あるしな“


というタヌちゃんの謎の甘え&ドヤ顔に絆されて

現在に至ります、はい。


この日以降……

定期的に我が家の畑にはタヌフィテス達が

出没することになるのであった。


ありがたいのか?



「きなこ!タヌフィテス達と喧嘩しないの」


「グルルルルルル!!」


こちらはこちらで根深い模様……。

食べ物の恨みって怖いねぇ……。


いや、ほんとうに勘弁してほしい。

平和な日常をプリーズ!!



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