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152/219

152.人は見かけによらないというけれど……

田舎暮らしを始めて134日目の続きの続き。




「キェエエエエエエエエィイイ!!」


奇声をあげながらそいつは凛桜とキングスーシェリの間に

いきなり滑り込んできた。


そのままキングスーシェリの横っ腹に蹴りを一発

おみまいしたかと思った瞬間……

今度はそのまま流れるように上へと高く蹴り上げた。


この時点でキングスーシェリは失神している模様。


そして天高く舞ったキングスーシェリが落下してきた所に

とどめとばかりすかさず右へ左へと交互にパンチを繰り出し

そのまま場外へと吹っ飛ばした。


えっ……なに?


一体何が起こったの?


凛桜は口をあんぐりとあけてその光景をただ見つめていた。


ひとまず全身の青痣からは回避されたので

ほっとして思わずその場に膝をついたくらいだ。


しかし凄い攻撃だった!!


誰かコマンド入力でもしましたか?


→ ↑ ↑ → ← → ← △ 〇 × 


的なものが視えましたけどぉ!!


ストリー〇ファイ〇―的な爆裂拳が決まりましたよ、ええ。


一発KOでしたよ、うん……。


クロノスさん達も同様だったようで……

3人とも呆気に取られていた。


その華麗な技を決めた本人はというと……

一仕事終えたぜと言わんばかりドヤ顔を決めた後に

嬉しそうに凛桜の胸の中へと飛び込んで来た。


「君は……あのときのタヌちゃん!?」


「キュ……ギューン、ギューン」


凛桜の庭に出没した餌の食い逃げ犯のメンバーで

ただ1匹逃げ遅れた為にきなこ達から追われていた幼体。


あまりにも小さくて可愛らしい幼体だったので

不憫に思い凛桜が助けた1匹が腕の中におさまっていた。


大丈夫だった?

と言わんばかりのうるうるの瞳で凛桜を見上げて

いるではないか。


か……かわいい……。


凛桜は思わずぎゅっと抱きしめた。


「ギュ!ギュワーン」


思いっきりモフモフを堪能させて頂いた。


が、そんな様子をみて急に覚醒した男が1人。


そう、クロノス=アイオーンその人である。


人は予想できない物事に直面すると固まってしまう傾向があり

そこからはなかなか復活できないものではあるが

この男は違った。


いや……凛桜に関する事だけにそうなのかも知れない。


目の前で愛しい人に甘えまくっている雄の獣体が1匹。

例え幼体だとしても気にくわない。


()()()()()()なのに……。


しかもそいつは凛桜からは見えない角度で

チラチラとクロノスの方を見ては勝ち誇ったような

あくどい笑顔で牽制してきている。


完全に確信犯である。


クロノスが眉を顰めれば顰めるほど……

わざとらしく凛桜の胸に顔を埋めて甘えて見せるのだ。


「………………」


この時点でクロノスにとってこのタヌフィテスは

敵として認識されたのである。


そんなやり取りを密かに見守っていたカロスとノアムは

目を見合わせながら苦笑していた。


頼むからこれ以上団長を刺激しないでくれ。


団長から尋常じゃない怒りのオーラが立ち上っているッス。

何っスかあの幼体……空気よんで欲しいッス。


そんな周りがピリピリしてとは露知らず

凛桜は呑気に腕の中のタヌフィテスに優しく声をかけていた。


「凄く驚いたよ、きみは見かけによらず強いんだね」


「ギュッ!」


「助けてくれてありがとう」


「ギュ!ギュギューン!」


2人の間だけにはほっこりとした空気が流れていた。



と、そこに先ほどの独眼竜のタヌフィテスがやってきた。


そして凛桜の目の前に恐る恐る近づくと

腕の中にいる幼体に向かって弱弱しく一声鳴いた。


「ギュ……」


するとその鳴き声に答えるかのように腕の中の幼体が

先ほどとは打って変わって低い鋭い声で鳴いた。


「ギュワルルル!!」


すると独眼竜のタヌフィテスは震えながら何度も

幼体に向かって頭をさげているではないか。


それでもなお幼体のタヌフィテスは

何度も鋭い声で鳴いていた。


どうやら独眼竜のタヌフィテスはこの幼体に

怒られているらしい……。


どういうこと?

イマイチ関係性がわからないんだけれども。


俺を庭に置き去りにしたまま迎えに来るのが

遅いじゃないか!的な怒りかしら?


幼体ちゃんかなりご立腹よ。

もしかしてタヌキ一族の王子様かしらこの子……。


どうみてもこのタヌちゃんの方が偉そうよね……。


そんな事を思いながら2匹のやり取りをみていると

どこからともなく草むらからタヌフィテス達が現れた。


そしてその子達は何故か一目散に凛桜の元に駆け付けると

腕の中のタヌフィテスに向かって一斉に頭をさげた。


えっ?

いつのまにかタヌフィテスに囲まれている!!


しかも何この崇められ感は……。


凛桜を中心にタヌフィテスの輪が出来上がっている。


と、またもや腕の中の幼体が鋭く鳴いた。


「ギュル!ギュ!」


その一声を聞くと数十匹のタヌフィテスは一斉に

失神して転がっているキングスーシェリの元へと走った。


そしてそのままいくつかの班らしきものに分かれると

丁寧な手つきでイチゴーヌを収穫し始めるではないか。


しかもどこに隠し持っていたのか……

たくさんの籠を持参している様子。


粒の大きさ別に分けて収穫しているところもにくい。


ゴールデンイチゴーヌに関しては何やら

宝箱のような物の中に恭しく仕舞っているではないか!


まさに農協のベテランお姉さま達のような手際の良さ。


もしかしてタヌフィテスの着ぐるみを着ていますか?

中に農協関係の方が入っていますよね!?


朝摘み採れたてイチゴーヌです的な?

道の駅にこのまま出荷しちゃう感じ?


なんてきいてしまいそうになるわ。


と、そんな中よこでぽつりとクロノスさんが呟いた。


「そうか……

俺達はとんだ勘違いをしていたのだな」


「ですね」


「やられたッスね」


ノアムさん達も気まずそうに顔を見合わせた。


そしてそのまま黙ってつかつかと凛桜の前まで来ると


「この群れのボスはお前だな」


そう言いながらクロノスは凛桜の腕の中にいる

幼体のタヌフィテスの首根っこを掴んで持ち上げた。


「ギュワ!!」


掴まれたままじたばたともがきながら

牙を剥きだしてクロノスに威嚇をおこなうも

やはり力の差は歴然だ。


何度も逃げ出そうともがき吼えて

抵抗を試みるがクロノスは涼しい顔だ。


このままではかなわないと思ったのだろう

たぬきの幼体は事もあろうかクロノスの手首を狙って

蹴りを繰り出そうとした。


が、それ以上の速さで足首をぎゅっと掴まれて

そのまま逆さづりにされた。


そして顔の高さまで持ち上げられると

それはいい笑顔でこう告げられた。


「細胞の一片まで消し炭にされたいか?ん?」


ヒィィイイイイイイ


その笑顔と声を聞いた途端……

凛桜を除くそこにいた全員が獣耳と尻尾を震わせた。


しかもタヌフィテスを掴んでいないもう一方の手の中には

何やら炎の渦のような球体が現れており……。


その炎の球はイチゴーヌ摘みを行っている

タヌフィテス達に向けられていた。


おまえだけでなく仲間も同じ運命になるぞ

と無言で言っているようなものだった。


団長エグイっス。

心臓とまりそうッス。


タヌフィテス……

噂と違ってかなり好戦的な種族だな。

命知らずにも程があるぞ。


カロスとノアムも息を飲んでその様子を伺っていると

少し離れた所で何かが倒れる音が聞こえた。


ドザリ、パタ、パタパタパタ……。


振り返ってみると……

農協のベテランお姉さま方……いや……

イチゴーヌ摘みに精をだしていた数匹の

タヌフィテスが恐怖のあまり白目をむいて倒れていた。


「さあどうする」


クロノスさんが獰猛な顔をして幼体のタヌフィテスをみていた。





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