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15.波乱のご飯会

ぐつぐつとカレーを煮込む音だけが響いていた。


「…………」


カレーVS三人の野獣……。




カロスさん達……

団長の暴走を止めに来たんじゃないのかい……。

君たちまでそっち側にまわってどうする……。


いまにもはらぺこタイガーWithにゃんことくまが

が暴れそうです。


ごくり……

誰かの喉が鳴った。



「食べていっていいですよ……」


凛桜が呆れながらもそう言うと……

クロノス達は尻尾をはち切れんばかりに振って

満面の笑みを浮かべた。


「やりぃぃぃ~」


嬉しさのあまりノアムはバク転宙返りを決めてみせる。

さすがにゃんこ……身体能力が半端ないな……。


「落ち着きなさい……このばか猫」


そう窘めながらもカロスの獣耳もピコピコ揺れていた。


クロノスはいそいそとお皿の準備など始めている。

いつの間にうちの食器の位置を把握していたの!?


(ご飯足りるかな……

5合炊きをセットしておいたけど……追加でもう一度炊くか)


そんな事を考えながらカレーをかき混ぜていると

ハタと気がついた。


「ところで……訓練の途中って言っていたよね」


そう言うと三人もハッとした顔をした。


「他の部下の人達は今どうしてるの?

上官たちが揃いも揃っていなくなるってありなの?」


カロスが一瞬息を飲んだ。


「んー大丈夫じゃねぇか……。

訓練自体は終わってるし、今日は森がざわついてないから

危険な魔獣もでないだろうし」


クロノスは呑気にそう言うと、冷蔵庫から麦茶をだして

コップに注いでいた。


だーかーらー。

なんで自分ちのように勝手に寛ぐかな……。


人様のうちの冷蔵庫を勝手に開けて、あまつさえ飲み物を

飲むなんて言語道断だよ!!


他の二人はバツが悪そうに目を逸らしている。


「腹減ったら……

その辺の何かを仕留めて食えばいいしな。

それもまた訓練のひとつだ」


そう言ってクロノスはいい笑顔で親指を立てた。


「そんな薄情な上官にはカレーはあげません。

団長さんだけ今すぐお帰り下さい」


「えぇ……」


死刑宣告をされたかの如くしょんぼりするクロノス。

かなり残念な顔になっていた。


「腹が減っては戦ができぬと言うでしょう。

ご飯が美味しくない部隊は強くなりませんよ……」


クロノスは本格的にいじけてしまい……

部屋の隅で三角座りをして小さくなって燃え尽きている。


(そんなにカレーが食べたかったかな……)


「因みに部下の方達は何人くらいいるのですか?」


「今日は12人です……。

一応うちの部隊の精鋭達が訓練しています」


カロスが至極まじめな顔でそう答えた。


(それくらいの人数ならなんとかいけるかな……)


凛桜は瞬時に作り置きやその他の材料を頭の中に

思い浮かべ計算していた。


「全員ここによんでいいですよ。

カレーたくさん作りましたし、なんとかなるでしょう」


「えっ?」


凛桜のまさかの発言に、三人が驚いたように目を剥いた。


「いいのか?

あいつら死ぬほど食うぞ」


「ビッグサングリアのお肉も消費したいし

足りない分はからあげ祭りをしましょう」


三人は目をキラキラと輝かせていた。



数分後……

中庭にはたくさんの獣人で溢れかえっていた。


(うわぁ……たくさんの種族がいるんだな……)


軽々とガーデンテーブルを運んでいるのは

おそらくサイの獣人だ。


その横で一気に椅子を4つ持っているのがライオン獣人だ。


他にも犬獣人やキツネ獣人……トラ獣人……

アライグマ獣人……あっ!リス獣人もいる……。


なんか可愛いなぁ……。

凛桜はから揚げを揚げながら、獣耳や尻尾をチラ見していた。


「なんだ……なんか珍しい者でもいたか?」


そういいながらクロノスは揚げたてのから揚げを一つ

口に放りこんだ。


「あっ!つまみ食いは駄目ですよ!」


「一個くらいいいじゃねぇか……」


そう言いつつ、またもや一個食べた。


「もう……言ってる傍から……」


そんな二人のやりとりに隊員達は驚いていた。


(あの鬼の団長があんなにデレた顔を見せるなんて……)


(あの人凄いな……団長のいい(ひと)なのかな?)


そこにいた全員が興味津々に二人を見つめていた。


「ん?」


そんな視線に気づいたのだろう……

クロノスが顔を引き締めて周りを見渡しながら言った。


「準備は出来たか?

今日は特別に凛桜さんがお前らに飯をご馳走してくださる。

心して食べるように」


「はい!!」


全員が綺麗に凛桜にむかって敬礼した。


(おう!凄い綺麗に揃っている……。

さすがエリート軍団……)


「たくさんあるから、遠慮しないで食べてね」


そう言って微笑むとかなりの獣人達がその笑顔に頬を染めた。


「…………」


その様子に面白くなさそうな表情のクロノスがいた。

尻尾も機嫌悪そうに左右にビシビシゆれている。


「お前達、順番にお皿を持って並んでください」


これ以上団長の機嫌がわるくならないように

カロスは号令をかけた。


(早くこいつらに飯を食わせて解散させよう)


ナンチームとご飯チームに分かれてもらって……

カレーは無事に全員にいきわたったようだ。


「それでは、どうぞ召し上がれ」


「いただきます」


初めてみるカレーに恐る恐るスプーンを入れているのが伺える。


それを口に運び……ぱくり……

途端……あらゆるところから声が上がった。


「うめぇ!!」


「なんだこれ、食べたことがない味だが旨い!」


「から揚げも旨いぞ!」


かなりの勢いで大皿に盛られたから揚げもなくなっている。


「みんな凄い食べっぷりね。

見ていて気持ちがいいわ」


そう言いながら、次々とから揚げを揚げる凛桜だった。


「凛桜さん、カレー凄く旨い。

おかわりはあるのだろうか……」


クロノスはペロリと一皿食べ終わるとそう言った。


「カレーの方はあるけど……

おそらくご飯とナンがないと思うわ」


と言っているそばからノアムがお皿いっぱいにから揚げを

盛りながら言い放った。


「団長、甘いですね。

カレーはもうどちらともないですよ。

あいつらが食べつくしています」


見ると隊員たちが我先にとおかわりをしていた。


「あいつら~

遠慮というものがないのか!!

まて、俺にもよこせ!」


クロノスはカレーの列に突っ込んで行っていた。


(お前がいうな、お前が!)


凛桜は苦笑した。


1時間後……

ご飯粒が一粒も残らない程、すべて綺麗に食べてくれた。


「ごちそうさまでした!」


全員がまた綺麗に敬礼してくれた。



その後クロノス指揮の元、庭掃除や畑の水やり

屋根の修理や庭木の剪定、家畜小屋の掃除まで……

隊員総出でやってくれました。


きなこと黒豆もたくさん遊んでもらったようです。


そしてあっという間に日も暮れた。


「今日は本当にありがとう」


クロノスが代表して凛桜にお礼を言った。


「こちらこそ、ありがとう。

高い所とか細かい所はなかなか一人じゃできないのよね。

皆さんがやってくれたので助かったわ」


そういって凛桜が頭を下げるとまたもやざわついた。


(可愛い上に謙虚……)


(料理も旨いし可愛い……)


「…………」


そんな若者たちの色めき立つ視線にまたもやクロノスの

尻尾が苛立ちげにゆれた。


「さっ……帰りますよ。

あまり長居してはご迷惑になりますからね、団長」


またもやカロスが焦ったようにそう促した。


「あっ……じゃあこれ、帰り道に皆さんで食べて。

夜勤の方もいらっしゃるってきいたから」


そう言って凛桜は、たくさんのお握りをカロスに渡した。


もう一つのお重にはから揚げと卵焼きと野菜の肉巻きを

これでもかと詰めておいた。


「やったぁぁぁ!!噂のお弁当!!」


あらゆるところから歓声があがった。


「おにぎりの中身は食べるまでわからないけど……

それはそれでおもしろいでしょう?」


凛桜は楽しそうにそう言って笑った。


「凛桜さん……」


そんな凛桜の笑顔にやられたのだろうか……

感極まったようにクロノスは凛桜を抱きしめた。


「おぉ…………」


ざわめきが辺り一面に広がった。


「ちょ……団長!!」


焦るカロス……


「ニシシシ……やるぅ……団長」


楽しそうなノアム。


一方抱きしめられている凛桜は……

ただただ真っ赤に染まり固まっていた。


無意識に自分の縄張りやものを主張してしまうのが

獣人のサガであった。


気がついていないのは本人ばかり……。



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