145.仲直りしましょう!
田舎暮らしを始めて131日目の続きの続きの続きの続き。
2体は黙って見つめあっていた。
お互いにかなりよそよそしい感じだ……。
「………………」
「…………」
重苦しい沈黙の時間だけが過ぎてゆく。
あ!1体がそっと距離をつめた!!
が、それを見たもう1体が何も言わず
スッとまた横にずれたので……
2体の距離はまた元の状態に戻ってしまった。
しかし負けじとまた距離をつめた。
スッと横にずれる、つめる、よける、つめる、よける。
これを数回繰り返したところで詰め寄られていた1体がキレた。
おうっ……
蔦の鞭で思いっきりしばかれているわ……。
なのに……しばかれている方は若干嬉しそうだ。
どんな状況であれ自分の方を見てくれたことが
嬉しいらしい……。
いじらし姿に泣きそうになるわ。
「ついにクイーンがキレたっスね」
「そうだな……」
「キングパパ泣きながらもニヤニヤしているし……」
「…………」
「やっぱりまだあかんかったか……」
そう私達はキングとクイーンを仲直りさせるべく
家の中庭に場所を設けた。
そしてそれをそっと覗き見……
いや……さりげなく遠巻きに見守っていたのだが。
2体の距離は全くうまらないらしい……。
「………………」
これって正解なの?
最初から思っていましたが!
私たちは何を見せられているのだ一体!!
凛桜は遠い目になっていた。
ようやくキングパパの緊張も解け
ノアムさんと少しずつだが会話が交わされているところに
ルナルドさんが真っ青な顔で飛び込んで来た。
今回の事件は……
ルナルドさんにとっても寝耳に水の事だったらしく
かなり焦っているのが見て取れた。
例えフラワー種の頂点で能力が高いキングとクイーンが
言葉を話せると言っても片言だ。
しかも圧倒的に語彙数が少ないのだ。
そんな中で状況を聞きとって把握するという事は
実はかなり困難で難易度の高い作業なのだ。
それを自分なりにかみ砕いて慎重に解釈をして
なんとかノアムさんが頑張って翻訳して状況把握に
つとめていたのだが……。
実際の所かなり困難を極めていた。
そんなところにルナルドさんが来てくれた事は吉報であった。
クイーンママ、キングパパ……ルナルドさん。
この3つのピースが揃って初めて今回の“浮気騒動”の
真相が見えてきたのだ。
ルナルドさん曰く……
「普段ならキングに会わせろなんて依頼は断るんやけど。
今回はどうしても断れない相手やったんや。
おとんの恩人の方の息子さんでな。
その上……商売の方でも大口の取引先なんや」
そう言って苛立たしげに髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜて唸った。
「それがまさかこんなことになるやなんて……」
ルナルドさんは未だに揉めているキングパパ達をみながら
苦しそうな表情を浮かべていた。
「しかもそこの当主は、有名なフラワー種の収集家でな。
業界では知らん人がおらんくらい名の通った方なんや。
かなりの数のフラワー種と契約しているで」
フラワー種の収集家。
そんな人がいるんだ……。
性格も荒いし……
決して可愛いビジュアルでもないのにな。
何が彼をそんなに夢中にさせたのだろうか……。
世の中には色々な人がいるのねぇ。
しかもあれが何体も家にいるって怖くないか?
まあでもな、どんな見た目だろうか
うちの子が一番可愛い!!
という定義は飼い主さんあるあるだからな。
飼い主という言い方があっているかどうかわからない
種族だけれどもさ。
凛桜はそっとシュナッピーをチラリと横目でみながら
密かに苦笑していた。
「そんなフラワー種の専門家で身分の高いお貴族様から
どうしてもキングにあわせて欲しいと再三お願いされてな。
ついにおとんがおれたんや」
「そうせざる得ないっスね……」
同情するかのようにノアムがぽつりと言った。
「その方は何が目的なんだ?
まさかフラワー種で金儲けをしているわけじゃないよな」
クロノスさんの厳しい言葉にルナルドさんは慌てて取り繕った。
「ちゃう!!
フラワー種の保存と保護に力を注いでいる立派な方や」
「じゃあなんでそんなにキングに会いたいと熱望
しているんッスか?」
「なにやら去年の春に生まれた適齢期の
もぐもぐゴックンフラワーのブロンズ種がいるらしく
その相手を探しているらしいんや。
しかもその個体がキングに興味を示しているらしくてな」
「そういうことか……。
強い個体程上位の者に惹かれるときくからな」
クロノスさん達は納得しているようだった。
待て待て待てい!!
皆で普通に納得しないで……
そもそもどこでキングの事を知るのさ。
「出会いはやっぱり植物大会議ですか?」
凛桜の気持ちをくんでくれたかのように
カロスがいい質問を投げかけてくれた。
「そうやそこで見かけて惹かれたらしい。
ひとめ惚れっちゅうやつやな。
だからこそ駄目もとで会わせてやりたいという
親心が働いたんやな……」
またもや植物大会議かいっ!
本気でなんなのよその会議は!!
しかもひとめ惚れってなによ。
わからん……本気でわからん……。
凛桜は心底げんなりしていた。
「それにしたってキングと婚姻を結びたいなんて
なかなか言える事じゃないっスよね」
ノアムも驚いて目を丸く見開いていた。
えっ?そうなの?
そんなに非常識な申し出なの?
凛桜が不思議そうに首を傾げていたからであろう
ルナルドさんが苦笑いしながら答えてくれた。
「普通はありえへんな。
いくら金を詰まれようと王族命令だとしても
受け入れられへん事や」
「そうなんだ……」
「というよりかフラワー種の独特な婚姻制度の事も
あるんやけれど……。
それ以上にキングとクイーンだけは特別なんや」
そう言えば言っていたな。
1年に1回、婚期という時期があり
その中で受粉して、だいたい1~2個あたりの種をつける
かなり繊細な植物だったよな。
そう簡単には、受粉しないとも言っていたっけ。
「その中でもこの2体だけは……
本人の意思で相手を決めるんや。
もちろんかなり好みにはうるさいで」
思い当たることがあったのだろう。
ルナルドさんは懐かしそうに目を細めていた。
「それこそ無理強いなんかしようものなら枯れてまう。
もしくは怒り狂って暴れて街1つくらいは
平気で焼け野原にかえてしまうで」
怖っ!!
フラワー種の頂点ヤバイな……。
「まあそれでも例外はある。
キング自身がクイーン以外の株を望むことはある」
えっ?
「3代前のキングには5体の嫁さんがいたらしいんや」
ルナルドさんは気まずそうに頬をかいていた。
植物界にもハーレムが存在していましたか。
いやはやキングたる由縁なのかしら。
そんな凛桜の生暖かい視線を受けたからだろうか
ルナルドはわざとらしくコホンと咳をしてから言った。
「うちのキングはクイーン一筋やで!
だから無駄骨になると言ったんやけど
それでもいいからと押し切られてしまったんや」
大人の事情ってやつかしらね。
まあ、わからないこともないけれども
まさかこんなことになるとはね。
凛桜はそんな事を考えながら中庭に視線をおとした。
「ギョロロロ……」
キングがか細い声で何か必死にクイーンに話しかけているが
相変わらずクイーンはそっぽむいている。
キング……頑張れ……。
そんな中まさかの発言が飛び出した。
「それでもお前ならば断われただろ。
それなのになぜこのような事になったんだ?」
「それは……」
「許可したという事は身元も人柄的にも
問題ないやつだったからじゃないのか?
それなのに蓋をあけてみたらこんな低落か?
以外にお前の目は節穴だったんだな」
うわぁ……ブラッククロノスさんが降臨してる!!
容赦ないクロノスさんの言いように少し空気が
ピリっとしたのは気のせいじゃないはず……。
ルナルドさんが一瞬ぐっとクロノスを睨みあげたが
すぐに深く息を吸い込んで言った。
「そうやな……。
今回は完全にわいの落ち度や。
いい訳になってまうけどな……
今思えばあの日は最初から何もかもおかしかったんや」
そしてルナルドさんは静かな口調で語りだした。